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巨額訴訟が変える米国ビッグテック、裁判所主導の新たな規制時代へ

by 長谷川 悠人
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巨額判決が始めた「訴訟による規制」

米国のビッグテック規制が新たな段階に入りました。Googleには検索データの共有や広告システムの相互運用、Metaには未成年の利用時間制限や年齢確認が求められています。いずれも罰金だけで終わらず、サービスの設計や取引条件そのものを変更させる内容です。

背景には、包括的な連邦法の成立を待たず、司法省、州司法長官、民間原告が既存の独占禁止法や消費者保護法を使ってきた経緯があります。政権交代をまたいで訴訟が継続し、裁判官や陪審が事実上の規制基準を形づくる構図です。この「訴訟による規制」が、企業と利用者に何をもたらすのかを検証します。

Google三市場を開く競争回復命令

検索と生成AIを束ねる排他的契約の制限

Googleをめぐる最大の変化は、検索サービスの入口を支えてきた契約に司法が介入したことです。米司法省が第1次トランプ政権下の2020年に提訴した事件では、連邦地裁が2024年、Googleによる検索と検索広告の独占維持をシャーマン法違反と判断しました。

その後の救済手続きでは、Google検索、Chrome、Google Assistant、Geminiの配布を束ねる排他的な条件が制限されました。端末メーカーなどに対し、複数の検索エンジンやブラウザー、生成AI製品を同時に扱うことを禁じられなくなります。司法省によると、米国内の検索に占めるGoogleの比率は約90%でした。

競争企業への検索インデックスや利用者行動データの提供に加え、検索結果と検索広告を供給する仕組みも命じられています。新規参入企業が十分な利用規模へ到達するまで、Googleの基盤を利用してサービスを改善できるようにする狙いです。救済対象にGeminiが含まれた点は、検索市場で築かれた優位性が生成AI市場へ転用される事態を先回りして防ぐ意味があります。

この事件には最終的に49州、二つの準州、コロンビア特別区も加わりました。2026年10月にも検索・広告供給契約の具体化をめぐる文書が提出されており、判決は一度きりの禁止命令ではなく、継続的な市場設計として機能しています。

広告技術に課された相互運用と監視

別の広告技術訴訟では、Googleがウェブ広告の売買を仲介する複数の市場を違法に独占したと認定されました。2026年9月の救済命令は、Googleの広告取引所AdXと広告管理サービスDFPを、オープンソースの入札技術Prebidや競合他社の広告サーバーと接続するよう求めています。

媒体社は自社データをGoogleのシステムから書き出せるようになり、別の事業者へ移行しやすくなります。広告主向けのAdWordsには、自社のAdXを優遇する入札や差別的な取り扱いをしない義務が課されました。広告オークションの仕組みに関する情報開示も拡大します。

履行状況は裁判所が選ぶ監視人と技術委員会が6年間確認します。違法行為をやめるだけでなく、競合製品と接続できる状態を構築し、利用者による乗り換えを可能にするところまでが救済の範囲となりました。

アプリ市場に及ぶ民間訴訟の圧力

政府だけでなく、Epic Gamesが起こした民間訴訟もGoogle Playを変えました。第9巡回区控訴裁判所は、競合アプリストアへの報酬妨害、Google Play Billingの強制、競合ストアによるアプリカタログへのアクセス制限などを是正する全国的な差止めを支持しました。

GoogleとEpicは2026年3月、米国を含む世界の紛争を解決する案を裁判所へ提出しました。代替決済、アプリ外の購入先への誘導、競合ストアの利用を広げる内容で、FortniteのGoogle Play復帰も示されています。検索、広告、アプリ流通という異なる市場で、同じ「囲い込みの解体」が進み始めた形です。

Metaの設計思想を変える未成年保護策

最大170億ドルと行動設計の改修

Metaは2026年8月、全米の州司法長官らとの間で、最大約170億ドルを支払う和解案に合意しました。FacebookとInstagramが未成年の長時間利用を促し、危険性について利用者や保護者を誤解させたという訴えを解決するものです。最終的な成立には裁判所の承認が必要です。

和解案では、18歳未満の利用時間を初期設定で1日2時間とし、午前0時から6時までの利用を原則として止めます。夜間と授業時間帯の通知も初期状態で無効になります。保護者が解除しない限り制限が維持され、他の主要事業者が同等の条件に加われば、利用時間や夜間制限はさらに厳しくなる仕組みです。

「いいね」などの反応数や美容整形を模した画像フィルターは未成年に表示できなくなります。時系列などの非パーソナライズ型フィードを選べる機能も必要です。未成年が通報した有害コンテンツの90%に6時間以内で対応する条件も盛り込まれました。

Metaは18歳未満の利用者を検知し、13歳未満のアカウントを特定・削除するための年齢確認を強化します。独立監査人には社内情報への広範なアクセス権が与えられ、州司法長官への定期報告も行われます。和解契約が、利用時間、通知、画面表示、監査という製品仕様書に近い役割を担っている点が特徴です。

250億ドル判決が示す州法の破壊力

Metaへの圧力は未成年保護に限られません。ニューメキシコ州の陪審は2026年9月、Facebookが個人情報の共有、広告利用、コンテンツ管理について虚偽または誤解を招く説明をしたとして、州消費者保護法上の約4389万件の違反を認定しました。

州地裁は10月21日、Metaに250億ドルの支払いを命じました。Cambridge Analytica問題後の第三者アプリ調査や、データ管理に関する利用者向け説明も争点でした。Metaは表現活動に新たな規則を課す判決だとして控訴する方針であり、金額が確定したわけではありません。

同州ではこれに先立ち、子どもの安全性をめぐる別の事件でも、陪審がMetaに3億7500万ドルの制裁を命じています。全国的な和解に参加せず、独自に公判と評決を求めた州が巨額判決を引き出したことは、他州の交渉力も高めます。

州法を使った大型案件はMetaだけの問題でもありません。Googleは位置情報、シークレットモードでの検索、生体情報の収集をめぐるテキサス州との訴訟で、13億7500万ドルを支払うことで合意しました。連邦議会が統一的なプライバシー法を整備できなくても、州ごとの消費者保護法が強い制裁手段になっています。

通信品位法230条をめぐる責任境界

ソーシャルメディア企業は、第三者が投稿した内容について運営会社を発信者として扱わない通信品位法230条を防御に使ってきました。しかし現在の原告は、有害投稿そのものより、依存を促す通知、無限スクロール、年齢確認の不足といった製品設計を問題にしています。

第9巡回区控訴裁判所は2026年8月、230条は責任に対する抗弁であって、裁判を受けずに済む包括的な免責ではないと判断しました。この決定はMetaやTikTokの途中段階での控訴を退けたもので、最終的な賠償責任を確定した判決ではありません。それでも数千件規模の関連訴訟が審理を進められるため、企業側には和解を選ぶ強い動機が生まれます。

裁判所主導モデルに残る三つの不確実性

第一の不確実性は控訴です。Metaへの250億ドル判決は減額または破棄される可能性があり、未成年保護の和解案も裁判所の承認前です。Googleへの命令も履行方法をめぐる争いが続きます。FTCがMetaのInstagram、WhatsApp買収を問題にした独占訴訟では、連邦地裁が2025年にMeta側勝訴とし、FTCが控訴しました。政府が常に勝つわけではありません。

第二は州ごとの分断です。連邦上院では2026年8月、子どものオンライン安全法案が商務委員会を通過しましたが、全国一律の基準が完成するまでには政治的調整が残ります。その間、州法、和解、差止め命令が重なり、地域ごとに異なる年齢確認や利用制限が生じるおそれがあります。

第三は技術的な実効性です。年齢確認を厳しくすれば新たな個人情報の収集が必要になり、プライバシー侵害の危険が増します。データ共有や相互運用も、形式的な接続だけでは競争につながりません。独立監査人や技術委員会が、アルゴリズム、料金、応答速度まで継続して検証できるかが成否を分けます。

日本企業にも必要な訴訟リスクの再点検

今回の動きは、米国のビッグテック規制が「法律の成立後に行政機関が細則を作る」という一本道ではなくなったことを示します。司法省、州司法長官、民間企業、個人原告が異なる法律を使い、裁判所が契約や製品設計を直接修正する多層型の制度です。

日本企業も、米国向けサービスの説明表示、位置情報や生体情報の同意、未成年向け通知、推薦機能を点検する必要があります。広告やアプリ流通をGoogleに依存する事業者は、データ移行や代替決済が実際に利用可能になる時期も確認すべきです。

投資家や利用者が注視すべき指標は、控訴審の結論、監視人の報告、他社がMetaと同等の未成年保護策へ加わるかの三点です。巨額制裁そのものより、変更された初期設定と取引条件が競争や利用時間を本当に変えるかが、この新たな規制体制の評価基準になります。

参考資料:

長
長谷川 悠人

米国政治・外交

米国政治の内幕を、ホワイトハウスから議会まで多角的に分析。政策決定のプロセスと日本への影響を鋭く読み解く。

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