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米中間選挙で後退したCISA、連邦選挙防護の空白と信頼再建課題

by 石田 真帆
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中間選挙直前に露呈した連邦防護の空白

11月3日の米中間選挙を前に、選挙インフラの防護を支えてきた米サイバーセキュリティ・インフラ安全保障局(CISA)の存在感が急速に薄れました。2025年から専任人員や脅威共有サービスが削られ、2026年の支援計画が公表されたのは投票日のわずか40日前でした。

問題は「投票機が直ちにハッキングされる」という単純な構図ではありません。州ごとに分散した選挙制度を支える早期警戒網、外国勢力に関する情報、現場訓練、州と連邦の信頼関係が同時に弱くなったことです。

各州は民間企業や州兵を動員して空白を埋めましたが、全国規模の脅威を俯瞰できる主体は限られます。CISAの後退が選挙防護に与えた影響を、人員、予算、連邦・州関係の三つの側面から検証します。

CISAが築いた分散型選挙防御の実像

連邦が担った全国規模の早期警戒網

米国の選挙は州と地方自治体が実施し、連邦政府が投票所や集計作業を直接指揮する制度ではありません。2016年大統領選を狙ったロシアのサイバー活動を受け、国土安全保障省は2017年1月、選挙システムを重要インフラの一部に指定しました。

2018年に発足したCISAの役割は、州の権限を代行することではなく、全米に分散する選挙機関を一つの警戒網として結ぶことでした。脅威情報の提供、ネットワークの脆弱性診断、侵入テスト、施設の物理的評価、机上演習、インシデント対応を、希望する自治体へ原則無償で提供してきました。

防護対象は投票機だけではありません。有権者登録データベース、投票所で本人確認に使う電子選挙人名簿、投票所検索サイト、非公式開票速報、職員のメール、集計施設などが含まれます。投票そのものが紙で保全されていても、周辺システムが止まれば長い待ち時間や結果公表の遅れが生じます。

CISAは2023年、全10地域に選挙安全保障アドバイザーを置きました。国土安全保障省監察総監の調査では、2024年前半までに全地域への配置が完了し、調査対象となった13州のうち12州がCISAの支援に満足していました。

同年6月までには、17州の選挙管理者2340人向けに401種類の個別資料も作成されています。小規模な郡には独力で専門家を雇えないところが多く、連邦の助言者がCISA内の技術部門やFBI、情報機関との窓口を担う意味は小さくありませんでした。

技術支援を危機対応へ変えた共有基盤

選挙インフラ情報共有・分析センター(EI-ISAC)は、州、自治体、選挙機器会社などが攻撃の兆候を共有する実務基盤でした。2024年2月時点の参加者は3759組織に達し、脅威情報、ネットワーク監視、フォレンジック、訓練を一体的に提供していました。

一つの州で見つかった不審なIPアドレスや偽メールを迅速に共有すれば、まだ攻撃を受けていない州が先回りして遮断できます。これは軍事同盟の早期警戒に近い機能であり、個々の自治体が強くなるだけでは再現できない「共通状況図」を形成していました。

2024年大統領選当日には、EI-ISACの状況把握室に1000人を超える関係者が参加しました。成功した選挙インフラ侵害は報告されなかった一方、パスワード攻撃、ネットワーク走査、フィッシング、爆破予告などが共有されています。

とりわけ、参加組織からの報告に占める脅迫関連事案の比率は、2020年の2%から2024年には14%へ上昇しました。爆破予告の多くは信憑性がないと判断されましたが、確認のために投票所や選挙事務所を一時閉鎖させるだけでも、攻撃者は混乱を生み出せます。

この実績は、CISAの価値が「投票結果の改ざん阻止」だけにないことを示します。技術的に投票数を変えられなくても、投票所の閉鎖や速報サイトの停止を偽情報と組み合わせれば、有権者に不正選挙との印象を与えられるためです。

なお、偽情報対策とサイバー防御は区別が必要です。監察総監の報告によると、CISAはSNS企業との直接連絡を2022年選挙後に停止し、その後は選挙当局への教育支援を中心としていました。それでも過去の活動は政府による「検閲」だとの批判を招き、組織縮小を正当化する政治的背景になりました。

人員・予算・信頼を同時に失った転換

2025年の凍結から連鎖した能力低下

第2次トランプ政権発足後の2025年2月、CISAは選挙関連業務を内部点検の対象とし、選挙安全保障に携わる17人を行政休職としました。点検結果は公表されず、州側はどのサービスが継続されるのか分からない状態で中間選挙の準備を始めました。

縮小は選挙部門だけにとどまりません。2025年半ばまでに、解雇、退職、休職、契約終了などで約1000人がCISAの現場を離れ、稼働人員は約3400人から約2500人へ減少しました。全員が選挙担当だったわけではありませんが、脆弱性診断や地域連携など、選挙防護と共有する能力も細りました。

同年3月には、CISAがインターネット安全保障センターとの年間約1000万ドルの連携を削減し、EI-ISACへの連邦支援を終了しました。州・地方政府全般を支援するMS-ISACも無償提供を維持できなくなり、有料会員制へ移行しています。

政権側は、重複した業務を整理し、CISAを連邦ネットワークと重要インフラの技術防御という「中核任務」に戻す措置だと説明しました。州が選挙を管理する以上、CISAは常設の代行業者ではなく、求めに応じて使う技術資源であるべきだという考え方です。

実際、支援が全米で完全に消えたわけではありません。ウェストバージニア州は、公開ウェブサイトの無償診断などが継続したと説明しています。地方の自律性を守り、連邦の過度な関与を避けること自体にも合理性があります。

しかし、支援が「申請すれば利用できる」ことと、現場に専門家がいて平時から関係を築くことは同じではありません。攻撃発生後に連絡先を探す体制では、選挙前から兆候を共有し、訓練で弱点を潰す予防機能が失われます。

CISAの後退と並行して、FBIの外国影響工作タスクフォースや国家情報長官室の外国悪性影響センターも再編・縮小されました。選挙支援委員会も2026年夏までに現職委員が不在となり、外国情報、犯罪捜査、技術支援をつなぐ連邦全体の層が薄くなりました。

予算を戻しても戻らない専門性と関係

国土安全保障省の2026会計年度予算要求は、CISAの選挙安全保障計画について、14人分と3961万ドルを全額削除する内容でした。これには全10地域の専任アドバイザーとEI-ISACが含まれ、政権の優先順位が数字として明確に示されました。

議会はこれに反発し、成立した歳出法で3961万ドルを選挙安全保障に充て、アドバイザーとEI-ISACを継続するよう指定しました。ところが、予算を確保しても、離職した専門家、終了した契約、途切れた現場関係が自動的に戻るわけではありません。

アリゾナ州務長官室は2026年2月、従来のCISA担当者が異動または不在となり、2025年に起きた州内のサイバー事案でも具体的な連邦支援の経路が示されなかったと報告しました。同州で専任のサイバー助言者が不在になった状態は、2025年3月から続きました。

全米州務長官協会も2026年3月、ホワイトハウスに対し、連邦と州の安定した情報共有を求めました。新任の選挙責任者らに必要な機密取扱資格の手続きが止まり、外国勢力に関する定例説明の継続性にも支障が出ていたためです。

CISAが2026年9月24日に公表した13ページの新計画は、脅威情報共有、技術助言、脆弱性走査などの無償サービスを列挙しました。専任アドバイザーの代わりに10人の地域局長が選挙担当を兼ね、州の情報拠点であるフュージョンセンターを共有網に使う設計です。

ただし、実務を担う人数、応答期限、専任職の復活、EI-ISACの再構築方法は示されませんでした。さらに2027会計年度の政権案は専用予算の廃止方針を維持しており、新計画が一時的対応なのか恒久的再建なのかも不明確です。

計画が出たのは投票40日前で、郵便投票や一部の期日前投票はすでに始まっていました。大規模な侵入テストや施設改修、机上演習は数カ月前に終える必要があり、ミネソタ州は民間企業による侵入テストに約25万ドルを投じる方針を示しました。

より深刻なのは信頼の毀損です。州から提供された2020年選挙時の生データが後に政権側から公開されたと報じられ、ホワイトハウスは情報共有上の合意違反を否定しました。どちらの説明を受け入れるにせよ、州が機密情報の扱いに疑念を抱けば、任意参加を前提とする早期警戒網は機能しません。

州主導の穴埋めが生む防御力の地域格差

各州は連邦支援の縮小を受け、州国土安全保障機関、警察、州兵、FBI、民間企業、非営利団体を組み合わせました。アリゾナ州は小規模郡へ監視ツールを提供し、選挙当日には州のサイバー部隊、州兵、FBI、CISA第9地域の担当者を集めています。

州同士の直接連携も強まりました。東部のニュージャージー州で先に確認された攻撃情報を、時差のあるアリゾナ州へ伝える仕組みは実用的です。分散型制度は一つの侵害で全米の投票が止まらないという強さを持ち、州側にも長年蓄積した知見があります。

一方、大規模州と小規模自治体では、専門家や予算の差が広がります。ロサンゼルス郡のように監視基盤を内製できる地域がある一方、小さな郡は連邦からの警告や無償診断への依存度が高く、民間サービスの有料化はそのまま防御格差につながります。

国家情報長官室の2026年脅威評価は、中国、ロシア、イラン、北朝鮮やランサムウェア集団が、米国の政府機関と重要インフラへの侵入を続けると分析しました。AIは脆弱性の探索、攻撃の自動化、精巧な偽情報の作成を速める可能性があります。

ただし、脆弱性の存在を「投票結果を変更できる証拠」と混同してはいけません。米国のほぼ全ての選挙では紙の記録を利用でき、選挙後の監査や再集計によって電子集計を検証できます。現実的なリスクは、登録システムや投票所検索、速報サイトの停止による混乱です。

最大の危険は、限定的な技術障害と政治的な偽情報が連鎖することです。爆破予告で施設が閉鎖され、速報が遅れた直後に「集計が操作された」とする偽動画が拡散すれば、投票用紙が無事でも制度への信頼は傷つきます。

州による穴埋めは選挙運営を継続させましたが、外国勢力の活動を全米規模で比較する「鳥瞰図」までは代替できません。CISAの後退は単なる行政サービスの削減ではなく、分散した防御主体を結ぶ安全保障ネットワークの縮小と捉える必要があります。

選挙防護再建で検証すべき五つの条件

CISA再建の第一条件は、各地域で選挙支援を担う専任者数と応答時間の公表です。第二は、議会が指定した3961万ドルを実際に執行し、小規模自治体も利用できる無償の脅威共有・監視基盤を複数年度で安定させることです。

第三は、州が提供した機密情報の利用目的、保存期間、公開条件を明文化し、独立監察機関が検証できる制度です。第四は、外国脅威に関する機密・非機密の定例説明と、サイバー攻撃、停電、爆破予告、偽情報を同時に扱う机上演習の再開です。

第五は、選挙後の超党派による事後検証です。サービスの申請件数だけでなく、警告が現場へ届くまでの時間、診断で見つかった欠陥の修正率、州・自治体間の利用格差を測らなければ、計画の実効性は判断できません。

読者も、速報の遅れやウェブサイト障害を直ちに投票改ざんと結び付けず、州・郡の公式発表、紙の記録、監査手続きの有無を確認する必要があります。CISAの信頼回復は組織名を再び前面に出すことではなく、現場が情報を預けられる中立性と、危機時に機能する専門能力を積み直せるかにかかっています。

参考資料:

石
石田 真帆

国際安全保障・欧州情勢

欧州・中東の安全保障問題を中心に、軍事と外交の接点から国際秩序の変動を伝える。

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