トランプ政権、妊娠労働者の職場保護縮小へ―PWFA改定の焦点
妊娠関連の職場保護を再定義するEEOC改定案
米雇用機会均等委員会(EEOC)が、妊娠労働者公正法(PWFA)の施行規則を改定する準備を進めています。連邦政府の規制予定表では、焦点を「妊娠、出産または関連する医学的状態」という文言の解釈に置き、規則案を2026年11月に公表する日程が示されました。
改定の核心は、妊娠中の休憩や軽作業といった基本的な配慮ではなく、中絶、不妊治療、避妊などを保護対象として明示するかです。法律本体、行政規則、裁判所の命令が重なるため、「保護がすべてなくなる」とも「現行規則がそのまま続く」とも言い切れない局面です。
妊娠労働者公正法が埋めた旧制度の空白
合理的配慮を独立した権利にした転換
1978年の妊娠差別禁止法は、妊娠を理由とする解雇や不利益な扱いを性差別として禁じました。しかし、妊娠した従業員が椅子の使用や重量物作業の免除を求めた際、会社に職場環境の変更を直接義務付ける仕組みとしては不十分でした。
従来は、負傷した従業員など、能力面で同じ状態にある非妊娠者が配慮を受けていることを示す必要がありました。連邦議会下院の報告書によると、連邦最高裁判決後に争われた妊娠配慮訴訟でも、労働者側が敗れた事例は3分の2を超え、その多くで比較対象となる従業員を示せないことが壁になっていました。
障害者差別禁止法による保護も存在しますが、通常の妊娠に伴う一時的な症状が「障害」の定義を満たすとは限りません。PWFAはこの隙間を埋め、妊娠、出産または関連する医学的状態から生じる既知の制約について、障害に該当しなくても合理的配慮を求められる制度へ転換しました。
同法は2023年6月に施行され、原則として従業員15人以上の雇用主に適用されます。事業運営に過度の負担を生じさせる場合を除き、雇用主は従業員との対話を通じて配慮を検討しなければなりません。別の合理的な方法があるのに休職を強制することや、配慮を求めたことへの報復も認められません。
現場で問われる小さな変更の実効性
具体的な配慮には、水分や食事を取るための休憩、座って働く許可、重量物の制限、出産前検診に合わせた勤務時間の変更、危険な化学物質への一時的な接触回避などがあります。出産後の回復や授乳に関する制約も、個々の事情に応じて対象になり得ます。
重要なのは、会社が従業員の希望を無条件で受け入れる制度ではなく、本人の制約と職務内容を踏まえた個別判断である点です。一方、雇用主が配慮を拒むには、費用、事業規模、人員配置などを基に、過度の負担が生じることを示す必要があります。
制度の実効性は、規則の文言だけでなく現場の運用にも左右されます。2026年には、元倉庫従業員が椅子の使用や休憩などを拒まれたとしてAmazonを提訴しました。同社は主張を否定し、妊娠関連の申請のほぼすべてを承認していると反論しています。双方の主張は司法手続きで検証されますが、基本的な配慮を巡る紛争がなお続いている実態を示しています。
今回の改定で生殖医療に関する例示が狭まっても、妊娠中の安全確保や出産後の回復というPWFAの中核が自動的に消えるわけではありません。行政規則の変更と連邦議会が制定した法律本体を分けて理解する必要があります。
EEOC改定案と司法判断にみる政策のねじれ
バイデン期規則が採用した広い定義
EEOCが2024年に制定した施行規則は、「関連する医学的状態」を広く解釈しました。潜在的または予定された妊娠、不妊と不妊治療、避妊、月経、子宮内膜症、流産、死産、授乳、中絶などを、対象になり得る事例として列挙しています。
ただし、列挙された状態が常に配慮義務を生じさせるわけではありません。従業員本人の妊娠または出産との関連、申告された身体的・精神的制約、求める配慮の内容を個別に検討する仕組みです。中絶について想定された主な配慮も、医療費や交通費の負担ではなく、受診や回復に必要な休暇や勤務調整でした。
EEOCは、妊娠差別禁止法でも同じ文言が長年使われてきたことを広い解釈の根拠としました。これに対し、当時共和党委員だったアンドレア・ルーカス氏は、妊娠・出産への配慮と女性の生殖機能全般への配慮を混同しており、法律の文言から離れた拡張だと反対しました。
ルーカス委員長が示す限定解釈
トランプ政権下でEEOC委員長となったルーカス氏の見解は、今回の改定方向を読み解く重要な手掛かりです。連邦政府の規制予定表は改定を「経済的に重要」と位置付け、2026年11月の規則案公表と2027年1月の意見募集終了を予定しています。
一方、予定表に示されているのは、問題の文言を見直すという方針までです。本稿執筆時点で確認できる公的記録には、削除する状態の確定リストや新しい条文案は示されていません。不妊治療や避妊を一律に除外するのか、妊娠を目指す本人との直接的な関係を条件に残すのかで、実務への影響は大きく変わります。
規則案が公表されても直ちに新制度へ切り替わるわけではありません。意見募集、寄せられた主張の検討、最終規則の公布と発効という手続きが必要です。最終規則が法律の委任範囲を超えるとして、新たな行政訴訟が起こされる可能性もあります。
裁判所とIVF支援策が生む政策矛盾
司法判断はすでに規則の一部を切り離しています。ルイジアナ州の連邦地裁は2025年、選択的中絶を「関連する医学的状態」に含めた部分をEEOCの権限超過として無効にしましたが、それ以外の規則は存続しました。ノースダコタ州の連邦地裁も、9,000を超えるカトリック系雇用主に対し、信仰に反する中絶や不妊治療の配慮規定を執行しないよう恒久的に命じています。
テネシー州など17州による訴訟では、第8巡回区控訴裁判所が各州の原告適格を認めましたが、規則の適法性そのものは判断していません。テキサス州は、コロナ禍の議会で代理投票を用いて成立したことを理由にPWFA全体を争っています。第5巡回区控訴裁判所は2026年1月、法律を有効とした小法廷判決を取り消して大法廷審理に移行しました。
政権内には別のねじれもあります。労働省などは2026年5月、企業が不妊治療給付を別建てで提供できる制度を提案し、給付上限を加入者と対象家族当たり生涯12万ドルとしました。IVFへの経済的アクセスを広げても、投薬、頻繁な検査、採卵などに伴う勤務調整が保障されなければ、治療を受けながら働くハードルは残ります。
民主党上院議員らは、IVFを支援する政権方針と職場での配慮縮小は整合しないと批判しています。保険給付と雇用上の配慮は別制度ですが、治療を実際に利用できる環境という点では密接です。政権の家族形成支援が費用面に限られるのか、働き方まで含むのかが問われています。
働く人と企業を待つ三層の法的不確実性
今後の実務では、連邦法本体、EEOC規則、州法という三つの層を分ける必要があります。連邦規則から不妊治療などの明示が消えても、PWFAの文言や妊娠差別禁止法に基づく主張まで否定されるとは限りません。州独自の妊娠配慮法や、企業が自主的に設けた制度が連邦基準より広い場合もあります。
企業が規則案の段階で既存の配慮を一律に廃止すれば、別の法令や州法に抵触するリスクがあります。現行規則と裁判所の命令を確認しつつ、申請を個別に検討した記録、代替案、過度の負担と判断した根拠を残す対応が重要です。
働く人は、必要な勤務変更とその理由をできるだけ具体的に伝え、申請や会社の回答を保存しておくことが有効です。中絶、不妊治療、流産後の回復では居住州や雇用主の性格によって扱いが異なるため、EEOCや州の労働当局、専門家への確認が欠かせません。
政治的には、超党派で成立した法律の射程を、政権交代後の行政機関がどこまで変更できるかという統治問題でもあります。規則を狭めすぎれば司法審査を受け、逆に広げすぎれば宗教の自由や行政権限を巡る訴訟が再燃する構図です。
今後の規則案で確認すべき三つの論点
規則案の公表後に確認すべき第一の論点は、不妊治療、避妊、月経、流産、中絶をどのように分類するかです。第二は、宗教上の反対を持つ雇用主への例外を個別判断とするのか、より広く認めるのかです。第三は、進行中の申請や過去の行為に対する執行方針と発効時期です。
企業は最終規則が成立するまで現行の中核的配慮を維持し、複数州で事業を行う場合は州別の基準を整理する必要があります。働く人も「保護が全面撤回された」と早合点せず、自身の制約が法律本体や他の差別禁止法で保護されるかを確認することが重要です。
今回の改定は、中絶政策だけの問題ではありません。米国が妊娠や生殖医療と就労の両立をどこまで公共的な権利として保障するのか、行政機関、裁判所、連邦議会の権限関係を映す政策転換です。
参考資料:
- Revisions to the Pregnant Workers Fairness Act Regulations
- Pregnant Workers Fairness Act
- Summary of Key Provisions of EEOC’s Final Rule to Implement the PWFA
- Implementation of the Pregnant Workers Fairness Act Final Rule
- Andrea R. Lucas Statement on the PWFA Final Rule
- House Report 117-27: Pregnant Workers Fairness Act
- Pregnancy and Labor: An Overview of Federal Laws Protecting Pregnant Workers
- EEOCの2026年規制予定表を巡る動向
- 連邦地裁によるPWFA中絶条項の無効判断
- カトリック系雇用主への恒久的差し止め判断
- 第5巡回区控訴裁判所の大法廷再審理命令
- State of Tennessee v. EEOC
- Proposed Rule on Excepted Fertility Benefits
- 上院議員らによるIVF職場保護維持の要請
- Amazon元従業員による妊娠配慮訴訟
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