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米国で深刻化する光熱費危機、トランプ支持率最低が招く中間選挙危機

by 長谷川 悠人
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光熱費高騰が中間選挙の争点となる米国家計

米国で電気・ガス料金の上昇が、単なる物価統計ではなく生活基盤を揺るがす問題になっています。2026年9月の電気料金は前年同月比4.4%上昇し、所得の低い世帯を中心に滞納やサービス停止への不安が広がりました。

同時に、ドナルド・トランプ大統領の支持率は複数の世論調査で就任後最低を更新しています。Reuters-Ipsosの10月中旬調査では支持31%、不支持66%となり、経済や生活費への評価は総合支持率をさらに下回りました。

ただし、光熱費の全責任を大統領一人に帰すことも、世界的な燃料価格だけで説明することもできません。猛暑、送配電網への投資、AIデータセンター、州規制、連邦政策が重なる料金構造と、その不満が中間選挙を動かす経路を整理します。

全国平均では隠れる電気料金危機の多層構造

単価上昇と猛暑が重なる家計負担

米エネルギー情報局の2026年10月時点の見通しでは、住宅向け電気料金の全国平均は2025年の1キロワット時17.30セントから、2026年には18.21セントへ上昇します。約5.3%の値上がりで、2027年も18.68セントへ上がる予測です。

労働統計局の消費者物価指数では、9月の電気料金が前年同月比4.4%、都市ガスが5.0%上昇しました。両者の数字が異なるのは、料金収入から計算する平均単価と、都市消費者が支払う価格変化を追う指数では対象や算出方法が違うためです。いずれも家計負担が前年より増えた方向性は一致しています。

請求額は単価と使用量の掛け算です。2026年夏は広い地域が高温に見舞われ、7~9月期の住宅部門の電力消費は前年同期比6%増えました。料金単価が数%上がる局面で冷房需要も膨らめば、請求書の増加率は物価指数より大きくなります。

地域差も無視できません。卸電力価格は全米11拠点の平均で2025年比11%高い1メガワット時52ドルとなる一方、中部大西洋岸を中心とするPJMでは41%の上昇が予測されました。燃料構成、発電所の余力、送電制約、州が認可する料金制度の違いが、同じ国の中に複数の光熱費危機を生んでいます。

AI需要と送配電投資の費用配分

料金を押し上げるのは、発電に使う天然ガスなどの燃料費だけではありません。老朽化した送配電設備の更新、山火事や暴風雨への防災投資、発電能力を確保する容量市場の費用も、州当局の審査を経て利用者に転嫁されます。卸価格が下がっても、家庭の請求額が直ちに下がらない理由です。

そこへAI向けデータセンターの急増が加わりました。ローレンス・バークレー国立研究所は、データセンターが2030年に全米電力消費の11.8%を占める可能性を示し、想定範囲を9.5~15.3%としています。大量需要に合わせて発電所や変電所を建てれば、誰が初期投資と余剰設備のリスクを負担するかが問題になります。

もっとも、データセンターの存在だけで住宅料金の上昇を断定するのは早計です。大口需要家が専用設備の費用を負担し、長期契約によって固定費を広く分担できれば、一般利用者の負担を抑えられる場合もあります。逆に計画が中止され、増強費だけが残れば、家庭や中小企業への転嫁につながります。

連邦エネルギー規制委員会は2026年6月、六つの地域系統運用機関に対し、データセンターなど大口需要家の接続料金を正当化するか改定するよう命じました。AI投資を速めながら既存利用者を守るには、最低利用期間、解約時の負担、専用料金区分をあらかじめ明確にする必要があります。

危機の深刻さは滞納にも表れています。全米エネルギー支援担当者協会によると、約2150万世帯、すなわち約6世帯に1世帯が光熱費を滞納しています。低所得世帯が光熱費に充てる割合は所得の8.6%で、その他の世帯の3.0%に比べて約3倍です。

別の消費者信用データ分析では、2026年3月の平均滞納残高が817ドルに達し、約1400万人が回収会社への移管対象となるほど深刻な債務を抱えていました。これは信用情報に記録された一部の口座だけを捉えた数字で、実際の困窮はさらに広い可能性があります。

冬の負担も一様ではありません。主に電気で暖房する4割超の住宅では、今冬の電気支出が前年より4%増える見通しです。天然ガス暖房の支出は多くの地域で減る一方、北東部に多い暖房油利用世帯では21%増が予測されており、居住地域と暖房方式で明暗が分かれます。

支持率31%が示すトランプ連合の亀裂

経済評価が総合支持率を下回る構図

Reuters-Ipsosが10月16~19日に成人1679人を対象に実施した調査では、トランプ氏の総合支持率は31%、不支持率は66%でした。調査誤差は全体でプラスマイナス2.4ポイントですが、同社の調査における最低水準であることに変わりはありません。

より重要なのは政策別評価です。経済運営を支持した人は23%、自身の生活費への対応は19%、インフレ対策は18%にとどまりました。共和党支持者でも生活費への対応を支持した人は49%で、総合支持の77%との間に大きな差があります。

同じ調査で、中間選挙の投票先を決める最重要要因として「生活費」を挙げた人は49%でした。登録有権者の連邦議会選択では民主党候補51%、共和党候補40%となっています。光熱費はガソリンや食料品と違って毎月届く請求書であり、生活費への評価を継続的に更新させる性質があります。

調査会社による数値の違いにも注意が必要です。CNN調査は支持32%、ABC・Washington Post・Ipsosは33%、Fox Newsは登録有権者で36%でした。対象が成人か登録有権者か、質問方法や調査期間が異なるため、31%だけを絶対的な民意とみなすことはできません。

それでも方向性は明確です。CNN調査では経済運営の支持が27%、共和党支持層での総合支持も74%まで低下しました。Fox News調査でもインフレ対応の支持は22%にとどまり、生活費を最大の経済的不安とした登録有権者は6割に達しています。

共和党候補を縛る大統領との距離

ABC・Washington Post・Ipsos調査では、経済への信頼で民主党が37%、共和党が28%、生活費では民主党38%、共和党24%でした。米国経済を「良くない」または「悪い」と答えた人は75%に達し、2025年1月より家計が悪化したとの回答も48%でした。

これは、減税や規制緩和を経済政策の強みとしてきた共和党にとって厳しい変化です。中間選挙は大統領本人を選ぶ選挙ではありませんが、候補者はトランプ氏との距離を問われます。強く同調すれば生活費への不満を引き受け、距離を置けば大統領の支持基盤が投票所へ来ない危険があります。

AP-NORC調査では、物価高がトランプ政権の政策によるものだと答えた成人が65%に上りました。生活費への対応が期待より悪かったとの回答は69%で、共和党支持者でも52%を占めています。党派を越えた不満が、大統領への個人的な反感だけでは説明できない段階に入ったことを示します。

一方、料金決定の権限は分散しています。家庭向け電気・ガス料金は州の公益事業委員会が主に認可し、連邦政府は発電規制、税控除、燃料供給、送電網、国際紛争への対応を通じて間接的に影響します。大統領が全国の請求額を短期間で一律に下げられる制度ではありません。

トランプ政権は石炭や天然ガスなどの供給拡大が安定供給と値下げにつながると主張しています。これに対し、再生可能エネルギー事業の停止や税制支援の縮小は、需要が増える時期の新規電源を減らし、長期的な料金を上げるとの批判があります。

この因果関係は、選挙戦で最も誇張されやすい部分です。現在の請求額には前政権期に認可された設備投資や過去の燃料調達費も含まれます。その一方で、現政権の政策方向、イラン戦争による燃料市場の混乱、将来の電源計画が有権者の期待を変えるため、政治的責任を完全に切り離すこともできません。

AP-NORCの直近調査では、登録有権者の約8割が次期議会の最優先課題の一つに生活費の引き下げを挙げました。トランプ政権への調査や支持よりも暮らしの改善を優先する声が強く、候補者には大統領への賛否を超えた具体策が求められています。

投票日後も残る料金抑制策の難路

選挙後に卸電力価格が落ち着いても、送配電網や災害対策の費用は長期にわたって回収されます。EIAは2027年の卸価格平均が1メガワット時49ドルへ下がると予測する一方、住宅向け平均単価は18.68セントへ上がるとみています。卸市場の改善と家庭料金の低下は同義ではありません。

料金を急に凍結すれば家計には分かりやすいものの、電力会社の設備投資を遅らせ、停電リスクを高める恐れがあります。反対に、投資費用を無条件に家庭へ転嫁すれば、大口需要家のための設備を一般利用者が負担する不公平が生じます。

現実的な対応は、低所得者向けエネルギー支援の拡充、住宅断熱や高効率機器への投資、大口需要家専用料金の導入、送電許認可の迅速化を組み合わせることです。発電量だけでなく、費用を誰に、いつ、どの条件で負担させるかが政策の核心になります。

もう一つのリスクは、全国平均による問題の矮小化です。天然ガス暖房の支出が減る地域がある一方、暖房油、猛暑地域、老朽住宅では負担が増えます。政党が一つのエネルギー源を万能薬として提示すれば、地域ごとに異なる料金構造を見誤ることになります。

有権者と政策担当者が見極める三指標

光熱費危機を判断する際は、電気料金の単価だけでなく、使用量を含む月額請求、滞納・停止件数、大口需要家向け設備費の負担先を確認する必要があります。平均価格が鈍化しても、これらが改善しなければ家計の危機は続きます。

有権者は候補者の「増産」や「値下げ」という標語に加え、州規制当局との役割分担、低所得者支援、データセンターの費用負担まで見るべきです。家庭側も請求書の発電費と送配電費を分けて確認し、州の支援制度や料金プランを早めに調べることが有効です。

トランプ氏の支持率低下は、光熱費だけで生じたものではありません。しかし、生活費への低評価が総合支持率を大幅に下回り、共和党支持層にも広がっている事実は重いものです。2026年中間選挙は、エネルギー政策を抽象的な理念ではなく、毎月の請求額で評価する選挙になっています。

参考資料:

長
長谷川 悠人

米国政治・外交

米国政治の内幕を、ホワイトハウスから議会まで多角的に分析。政策決定のプロセスと日本への影響を鋭く読み解く。

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