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ワクチン接種率低下で再燃する小児感染症と米病院現場の重い警鐘

by 坂本 亮
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米国小児医療に戻る予防可能感染症

米国の小児医療で、はしか、百日ぜき、Hib感染症、破傷風リスクといった「ワクチンで大きく抑え込める病気」が再び前景化しています。問題は単に感染者数が増えたことではありません。学校単位、郡単位、宗教・政治的なコミュニティ単位で免疫の穴が広がり、そこへ感染力の強い病原体が入ると、病院の隔離室、救急外来、乳児集中治療に一気に負荷がかかる構造が見え始めている点です。

CDCの学校接種率データでは、2024-25年度の幼稚園児のMMR接種率は92.5%に下がりました。はしかの集団免疫で目安とされる95%を下回る状態が続き、同年度にはMMR完了を確認できない幼稚園児が約28万6000人いたとされます。この記事では、接種率低下が病院現場にどう届くのかを、公開統計と医療団体の資料から読み解きます。

接種率低下が生む地域別の免疫の空白

95%を割った集団免疫ライン

はしかは感染力が非常に高く、CDCは地域の95%超が接種している状態を、集団免疫を維持する重要な水準と説明しています。全米平均で92.5%という数字は一見すると高く見えますが、平均値は地域差を隠します。州全体では高水準でも、特定の郡、学校、宗教共同体、ホームスクール集団で接種率が落ちると、感染拡大に必要な条件が局所的に整います。

CDCのSchoolVaxViewによると、2024-25年度は幼稚園児の報告対象ワクチンすべてで接種率が前年から低下しました。DTaPは92.1%、MMRとポリオは92.5%です。免除を持つ幼稚園児の割合は3.3%から3.6%へ上がり、少なくとも一つのワクチンを免除された子どもは約13万8000人に達しました。17州では免除率が5%を超えており、これは地域内で95%の防御線を達成する上限そのものを押し下げます。

非医療免除と政治化した信頼低下

接種率の低下は、単に予約を忘れた家庭が増えたという話ではありません。KFFの2025年1月調査では、保護者の約82%は子どもを推奨ワクチンに通常どおり追いつかせていると答えた一方、17%は一部の接種を遅らせる、または省いた経験があると答えました。2021年から2023年にかけては約9割が予定どおりと答えていたため、信頼の低下が行動に移り始めたと読めます。

同じKFFの別調査では、MMRワクチンと自閉症を結びつける誤情報を聞いたことがある成人は63%、保護者でも61%に上りました。さらに「はしかワクチンの方が感染より危険だ」という誤った主張を聞いたことがある成人は、2024年3月の18%から2025年4月には3人に1人へ増えています。こうした誤情報を一つでも信じる、または真実に近いと考える保護者では、ワクチンを遅らせたり省いたりした割合が24%で、三つの誤情報を否定する層の11%を大きく上回りました。

ここで重要なのは、ワクチン忌避が「個人の選択」にとどまらないことです。はしかや百日ぜきでは、まだ接種年齢に達していない乳児、免疫不全の子ども、抗がん剤治療中の患者が、周囲の接種率に依存して守られています。免疫の空白は、本人だけでなく医療的に脆弱な人へ移るリスクを増やします。

病院で再び見え始めた重症化の実像

はしか入院例が示す酸素投与の重さ

はしかは、発疹と発熱だけの病気ではありません。CDCは、ワクチン導入前の米国で毎年推定4万8000人が入院し、400-500人が死亡していたと説明しています。近年の再拡大は、その過去を完全に再現しているわけではありませんが、医療現場に入る負荷はすでに無視できない段階です。

AAP Newsは2026年5月22日、CDCデータとして同年の米国のはしか確定例が1,952件に達し、38州とワシントンDCに広がったと報じました。前年2025年通年の2,288件に対し、2026年は5月時点でその85%に近づいています。同報告では、患者のうち19歳以下が1,403件、未接種または接種状況不明が約92%でした。感染症の制御において、輸入例よりも国内の未接種集団での連鎖が大きな問題になっていることを示します。

2025年の西テキサスの流行を分析したCDCのMMWRは、病院負荷をより具体的に示しています。2025年1月20日から3月18日までに、同地域で325例のはしか確定例、60例の入院、1例の関連死亡が発生しました。初期流行期の入院率は約20%です。入院患者の医療記録を分析した部分では、小児が大多数を占め、肺炎、酸素投与、集中治療室管理が報告されています。これは、接種率低下が「外来で済む感染症の増加」ではなく、病院資源の消費に直結し得ることを意味します。

百日ぜきと乳児を守る妊娠期接種

百日ぜきは、はしかとは異なる難しさを持つ病気です。ワクチンによる防御は強いものの、無細胞百日ぜきワクチンの免疫は時間とともに弱まります。CDCは、5回のDTaPを予定どおり受けた子どもでは、最終接種から1年以内の防御が約98%である一方、5年後には約71%になると説明しています。つまり、接種率低下だけでなく、ブースターの遅れや妊娠中Tdapの不足も流行の燃料になります。

CDCの2025年暫定百日ぜき監視報告では、同年の報告例は2万8783件、死亡は16件でした。6か月未満の乳児は2169例で、入院率は41.2%と高くなっています。乳児は自分のDTaPシリーズを完了できる前に重症化しやすいため、周囲の大人と妊娠中の母体接種が防壁になります。CDCは妊娠中のTdap接種について、生後2か月未満の乳児の百日ぜき症例を約78%、同年齢層の百日ぜき入院を約90%防ぐとしています。

Hibや肺炎球菌も、病院での「再学習」を迫る感染症です。Hibは髄膜炎、血流感染、肺炎、喉頭蓋炎などを起こし、CDCは5歳未満のすべての子どもにHib接種を推奨しています。2026年3月に公表されたCDCの2歳時点接種率分析では、2021-22年生まれの子どもで一部ワクチンの低下が確認され、インフルエンザ、B型肝炎出生時接種、ロタ、肺炎球菌、Hib一次シリーズに下げ幅がありました。百日ぜき、Hib、肺炎球菌はいずれも細菌感染で、抗菌薬だけで社会的負荷を吸収できる病気ではありません。

破傷風は人から人へ広がらないため、集団免疫ではなく個人防御の問題です。それでも救急外来では重要です。CDCの創傷管理指針は、接種歴不明、未接種、不完全接種の人には創傷の種類に関係なく破傷風ワクチンを推奨し、汚染創や重い創傷では破傷風免疫グロブリンが必要になる場合があると示しています。成人が接種を拒むと、医師は洗浄、デブリードマン、接種歴確認、免疫グロブリン判断を行いながら、予防可能な神経毒素疾患のリスクを抱えることになります。

制度の揺らぎが広げる医療現場の混乱

接種率低下の背景には、情報環境だけでなく制度の揺らぎもあります。AAPは2026年の小児・思春期予防接種スケジュールで、RSV、A型肝炎、B型肝炎、ロタ、インフルエンザ、髄膜炎菌を含む18疾患への定期的な予防を推奨し続けています。一方、米国では連邦の接種スケジュールをめぐる変更や法的判断が続き、家庭、薬局、保険者、学校がどの基準に従うべきか分かりにくい場面が増えています。

この混乱は、病院の診療にも波及します。小児科医は、はしかを疑えば空気感染対策を取り、曝露者を追跡し、未接種の兄弟姉妹や乳児への対応を急がなければなりません。百日ぜきでは、診断が遅れるほど乳児や妊婦、免疫不全者への曝露が増え、予防内服や検査の範囲が広がります。Hibや肺炎球菌では、重症細菌感染を見逃さないために、ワクチン普及後には頻度が低くなった鑑別診断を再び強く意識する必要があります。

科学的には、リスク評価は個人単位よりもネットワーク単位で見る必要があります。子ども一人の未接種がただちに流行を起こすわけではありません。しかし、同じ学校、同じ地域、同じ情報圏で未接種が重なると、感染症は飛び地ではなく連結した経路を得ます。接種政策の不明瞭さは、その経路を断つタイミングを遅らせる要因になります。

読者が確認すべき接種記録と地域リスク

読者がまず確認すべきなのは、子どもと同居家族の接種記録です。MMRは通常2回、DTaPは乳幼児期から就学前まで複数回、Tdapは思春期と妊娠期、成人の破傷風系ブースターは創傷リスクと接種歴に応じて評価されます。記憶ではなく、母子手帳、州の免疫登録、医療機関の記録で確認することが重要です。

次に見るべきなのは、全米平均ではなく地域の接種率と流行情報です。はしかは低接種率の地域へ入ると急速に広がり、百日ぜきは周期性と免疫低下が重なって学校や家庭内で広がります。接種を迷う場合も、SNS上の断片的な主張ではなく、小児科医や公衆衛生機関が示す疾患別の重症化リスクを確認する姿勢が求められます。ワクチン政策の論争は続いても、病院で重症児を診る負荷は現実に発生します。予防接種は、その負荷を家庭と地域の段階で下げるための最も実務的な手段です。

参考資料:

坂
坂本 亮

テクノロジー・サイエンス

宇宙開発・AI・バイオテクノロジーなど最先端の科学技術を、社会的インパクトの視点から読み解く。技術と倫理の交差点を追い続ける。

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