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東独AfD躍進に見る欧州極右、郷愁と失われた誇りの選挙政治化

by 石田 真帆
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欧州極右を押し上げる喪失感の現在地

欧州の極右伸長は、単なる移民反発や景気不満だけでは説明しきれません。ドイツのAfD、フランスの国民連合(RN)、英国の離脱運動に共通するのは、「かつて尊重されていた自分たちが、いまは政治から置き去りにされている」という感覚です。

2026年9月のドイツ州選挙では、メクレンブルク=フォアポンメルンでAfDが最強勢力となり、キリスト教民主同盟(CDU)は州議会入りの5%ラインを下回りました。これは一地方選の出来事にとどまらず、欧州政治の中心が抱える代表性の危機を示しています。

東ドイツでAfD支持が固まる構造

統一後の代表不足と地域の記憶

AfDの躍進を考える出発点は、2025年ドイツ連邦議会選挙です。連邦選挙管理官の確定結果では、AfDは第二票で20.8%を獲得し、2021年から10.4ポイント伸ばしました。議席数は152となり、ドイツ連邦議会で主要野党の地位を固めました。欧州議会選挙でも、AfDは2024年に15.9%を得て、2019年の11.0%から上積みしています。

とりわけ旧東独地域では、AfD支持が抗議票を超え、地域的な自己表現に近い意味を帯びています。ここで重要なのは、旧東独の有権者を「民主主義に不慣れ」と片づけないことです。Pew Research Centerの調査では、旧東独住民のAfD好感度は24%で、旧西独の12%の2倍でした。同時に、EUへの好感度や将来への楽観も西側より低く、政治制度が自分たちの声を十分に拾っていないという感覚が残っています。

この感覚は、経済指標だけでなく、社会的地位の問題でもあります。ドイツ政府の東部担当部局が示したエリートモニターでは、2024年時点で指導的地位に占める東独出身者の割合は12.1%でした。東独出身者は人口の約20%を占めるため、なお過小代表です。経済界ではその比率がさらに低く、政治的承認の不足が「統一後も中心に入れていない」という実感を補強しています。

移民争点を増幅する社会的孤立

AfDはこの代表不足に、移民、治安、気候政策、EU批判を重ねます。移民そのものの規模だけが支持拡大の原因ではありません。ARDドイツトレンドの2025年11月調査では、AfDが強い理由として最も多く挙げられたのは「他党政治への失望」で、全体の60%、AfD支持者の39%が選びました。また、政府が重要分野で成果を出せばAfDは弱まるという見方に、全体の69%、AfD支持者でも47%が同意しています。

つまり、AfD支持には固定的な極右思想だけでなく、統治能力への不信が混ざっています。日々の生活に届く行政サービス、医療、交通、雇用、住宅、治安が改善されないとき、有権者は「誰が自分たちを見ているのか」を問います。AfDはそこに、国民共同体の回復という単純で強い物語を差し出します。

ただし、その物語には危うさもあります。ドイツ連邦憲法擁護庁は2025年5月、AfD全体を「確定的な右翼過激主義的動向」と位置づける判断を示しました。その後、司法手続きに伴い当面はその呼称を公式に繰り返さない措置が取られ、現時点では法的争いが続いています。それでも、党内の民族的な国民観や反イスラム、反移民の言説が民主主義秩序との緊張を生んでいることは、ドイツ政治の重大な論点です。

フランスRNと欧州議会の右傾化

秩序回復を掲げるRNの国民物語

フランスでも、失われた誇りの政治化は明確です。2024年欧州議会選挙で、ジョルダン・バルデラ氏とマリーヌ・ルペン氏を掲げたRN系リストは31.37%を獲得し、フランス81議席中30議席を得ました。直後の国民議会選挙でも、内務省の集計でRNは125議席、極右連合は17議席を獲得しました。マクロン大統領の中道勢力が長く掲げてきた「親EU・改革・競争力」の言葉は、地方や労働者層の一部には、生活の不安を説明する言語として届きにくくなっています。

RNの強みは、複雑な社会変化を「秩序の喪失」として語る点にあります。移民、治安、物価、公共サービスの劣化、EU官僚制への反発を、ひとつの国民物語に束ねます。その物語では、かつてのフランスはより安全で、より統制され、より尊厳があった社会として描かれます。実際の過去がそれほど単純でなかったとしても、比較対象としての「よい過去」は強い政治資源になります。

学術研究も、この構図を支えています。19カ国を対象にした「懐旧的剥奪感」の研究は、経済的、政治的、社会的地位が下がったという認識が、ポピュリズム支持と結びつくと指摘しています。別の研究では、移民に否定的な態度や右派ナショナル・ポピュリズム支持は、所得や失業だけでなく、社会的孤立、低い信頼、共同体からの疎外感とも深く関係すると分析されています。

主権回復が揺らすEUの結束

欧州極右の伸長は、国内政治だけの問題ではありません。EUの統合、対ロシア政策、ウクライナ支援、国境管理、NATO内の負担分担にも影響します。各党の立場は一枚岩ではありませんが、「ブリュッセルではなく国民国家へ」という主権回復の主張は、加盟国間の合意形成を難しくします。

移民をめぐる認識のずれも大きな問題です。Eurostatによると、2024年のEUでは域内人口の6.4%に当たる約2900万人が非EU市民でした。同年、EU諸国への初回の庇護申請は約91万3000件で、2023年から13%減少しました。ドイツ、スペイン、イタリア、フランスの4カ国で申請の74%を占めています。

一方、Frontexは2024年のEU外部国境での不規則越境が約23万9000件となり、前年比で大きく減少したと発表しました。ただし、東地中海や西アフリカなど一部ルートでは増加も見られます。数字が減っても、地域社会が感じる負荷や不安が消えるわけではありません。ここに、データ上の移民管理と、政治的に増幅される不安のずれがあります。

排除の政治が生む民主主義の脆弱性

極右政党が扱う郷愁には、二つの顔があります。ひとつは、共同体への帰属や尊厳を求める正当な欲求です。もうひとつは、誰が「本当の国民」なのかを狭く定義し、移民、少数派、都市部のリベラル層、EU機関を敵として描く排除の政治です。

安全保障の観点から見ると、後者は深刻です。欧州はロシアの軍事的圧力、サイバー攻撃、偽情報、エネルギー転換、難民保護という複合危機に直面しています。こうした局面では、国内の信頼と同盟内の結束が抑止力の一部になります。国民を内側と外側に分断する政治が強まれば、危機時の合意形成は遅れ、外部勢力による情報操作にも弱くなります。

また、極右の伸長は政権形成を難しくします。ドイツではAfDとの協力を避ける「防火壁」が主要政党の基本線ですが、AfDが3割前後に迫る地域では、連立の組み合わせが複雑化します。結果として、大連立や多党連立が増え、政策責任の所在が見えにくくなります。その不透明さがさらに「既成政党は同じ」という不満を生み、極右に有利な循環をつくります。

ただし、極右支持者をすべて過激派とみなす対応も逆効果です。調査が示すように、支持の一部は生活上の不満、政策成果への不信、社会的承認の不足から生まれています。民主主義を守るには、差別的な言説には明確に線を引きながら、代表されていない感覚そのものには政策で応える必要があります。

中道勢力が取り戻すべき信頼の基盤

欧州極右の燃料は、郷愁と失われた誇りだけではありません。それを放置してきた政治の鈍さです。東独の代表不足、地方の公共サービス低下、移民管理への不信、EU政策の説明不足が重なると、国民アイデンティティをめぐる強い言葉が支持を集めます。

中道勢力が取るべき道は、極右の争点を模倣することではありません。必要なのは、地域代表の回復、行政成果の可視化、移民政策の現実的な管理、社会的孤立を減らす地域投資です。特にドイツでは、東独出身者の指導層への登用や、地方インフラへの継続投資が象徴政策ではなく安全保障政策にもなります。

読者が今後注視すべき指標は、AfDの州選挙での得票率、RNの大統領選に向けた支持層拡大、EUの移民統計、そして主流政党が地方で信頼を回復できるかです。欧州極右の勢いは、過去への郷愁が未来への政策不信に変わったときに強まります。その流れを止める鍵は、国民を狭く囲い込む言葉ではなく、尊厳を再び公共制度の中に戻す政治です。

参考資料:

石
石田 真帆

国際安全保障・欧州情勢

欧州・中東の安全保障問題を中心に、軍事と外交の接点から国際秩序の変動を伝える。

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