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イラン民間人被害で強まる民主党の国防総省追及と議会監視の焦点

by 長谷川 悠人
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民間人被害をめぐる国防総省監視の再浮上

民主党議員74人が国防総省に説明を求めた書簡は、イラン作戦をめぐる議会監視が新しい段階に入ったことを示しています。焦点は、単に何人が犠牲になったのかという集計ではありません。米軍が標的をどう選び、民間人被害をどう予測し、被害発生後に何を公表してきたのかという、軍事作戦の統治そのものです。

この問題が重いのは、米国が「精密攻撃」と「法の支配」を同盟外交の柱にしてきたからです。イランでの民間人被害が十分に検証されなければ、米軍の作戦能力だけでなく、同盟国に対する説明責任も傷つきます。日本にとっても、中東危機の話にとどまらず、米軍との作戦協力をどう支えるかという現実的な論点です。

ミナブ学校攻撃が変えた議会追及の重心

74人書簡に込められた監視権限の布石

今回の74人書簡は、2026年春から続く議会側の問題意識を引き継いでいます。3月には、サラ・ジェイコブス、ヤサミン・アンサリ、ジェイソン・クロウ各下院議員らが、イランでの「Operation Epic Fury」に関する詳細な質問状を国防総省に送りました。そこではミナブのシャジャレ・タイベ小学校攻撃について、米軍が実行したのか、標的は何だったのか、民間人被害リスクをどう評価したのかが問われています。

同じ書簡は、AIの使用にも踏み込んでいます。標的選定、情報評価、法的判断にAIが関与したのか、Maven Smart Systemのようなシステムが使われた場合に人間の確認はどこで入ったのか、という問いです。これは、イラン作戦の説明責任が「爆弾がどこに落ちたか」だけでなく、「どの情報処理が攻撃を可能にしたか」へ広がっていることを意味します。

上院側でも、クリス・バンホーレン、エリザベス・ウォーレン両議員らが、民間人被害の防止体制やCENTCOMの人員配置を問題にしました。議員側は、CHMRと呼ばれる民間人被害の軽減・対応制度が弱体化された状態で大規模作戦が行われたのではないかと疑っています。今回の74人書簡は、こうした春以降の追及を中間選挙後の公聴会や文書要求へ接続する政治的な布石です。

議会監視の実効性は、多数派をどちらの党が握るかで大きく変わります。委員会の議題設定、証人喚問、文書提出要求、予算条項への条件付けは、多数派の権限に左右されます。民主党が議会の主導権を得れば、イラン作戦の民間人被害は、単発の抗議ではなく制度的な調査案件になる可能性が高まります。

トマホーク疑惑と標的情報の古さ

ミナブの学校攻撃は、この問題を象徴する事件になりました。Human Rights Watchは、学校がIRGC海軍施設の敷地境界近くにあった一方で、壁で区切られ、別の出入口を持っていたと分析しています。同団体は、複数の建物への攻撃の形態から、無誘導の誤射ではなく、高精度誘導兵器による攻撃だった可能性を指摘しました。

ワシントン・ポストは、現場近くで米国製トマホークとみられるミサイルが着弾する映像を検証したと報じています。イラン当局は少なくとも175人が死亡したと発表しましたが、外部機関が全ての数字を独立確認できているわけではありません。それでも、学校という民用施設が攻撃結果に含まれた疑いは、米軍の標的データ、攻撃禁止リスト、現地状況の更新能力を問い直すには十分な重みを持ちます。

国防総省側は、米国は民間人を標的にしないと説明し、調査には時間がかかると述べています。ヘグセス国防長官も、米軍は民間人被害を避けるために極めて多くの措置を取っているという立場を示しました。この反論は重要です。戦時の情報は不完全であり、イラン側の発表にも宣伝の要素が入り得るからです。

しかし議会が問題にしているのは、米軍が意図的に学校を狙ったかどうかだけではありません。古い情報に基づく標的座標、現地民間施設の更新漏れ、攻撃直前の再確認不足、被害発生後の公表遅れが重なれば、意図がなくても重大な法的・戦略的問題になります。だからこそ、今回の追及は「戦争犯罪か否か」という一点だけでなく、米軍の意思決定過程全体へ向かっています。

CHMR削減が示す米軍改革の逆回転

民間人保護制度の積み上げ

CHMRは、Civilian Harm Mitigation and Responseの略称で、米軍が民間人被害を予測し、軽減し、発生後に調査・対応するための制度です。2021年のアフガニスタン撤収時に起きた誤爆などを受け、ロイド・オースティン国防長官時代に行動計画が整えられました。2023年には国防総省指令3000.17が出され、民間人と民用物の保護を作戦計画や標的選定に組み込む枠組みが明文化されました。

議会もこの流れを支えました。上院軍事委員会の報告では、CHMR行動計画の実施や各戦闘軍への専任資源のために追加予算を勧告しています。民間人保護センターは、単なる倫理部門ではなく、標的選定の精度を高め、作戦後の調査を改善し、同盟国や現地社会との信頼を保つための実務機能として位置づけられていました。

この制度の発想は、米軍の「強さ」を制限するものではありません。むしろ、誤爆や過剰攻撃が反米感情、武装勢力の勧誘、同盟国の離反を招くことを防ぐためのものです。米軍幹部の議会証言でも、民間人被害の軽減は作戦効果、現地支持、情報収集、兵士の安全に関わると説明されています。

そのため、CHMRをめぐる論争は、リベラルな人権政策と保守的な軍事効率の対立には収まりません。むしろ、20年以上の対テロ戦争から得た教訓を、米軍が制度として保持できるかどうかの問題です。イラン作戦は、その制度が本当に定着していたのかを試す大きな検査になりました。

削減が標的選定に及ぼす実務リスク

問題は、ヘグセス長官の下でCHMR関連部門が縮小されたと複数の報道や議員発表が指摘している点です。APは、民間人保護センターが2023年時点で中核スタッフを抱えていた一方、その後に規模が削られ、攻撃禁止リストの更新作業が止まったとの元職員証言を報じました。CENTCOM側は、民間人被害対応の担当者が1人だけになったとの見方は否定していますが、詳細な人員構成は十分に示していません。

The Atlanticは、民間人被害軽減に携わる全軍の人員がピーク時から大幅に減ったと報じています。CENTCOMでも専任人員が削減され、攻撃計画を確認する標的セルや民間環境チームの機能が細ったとの指摘があります。こうした人員は、司令官の決定を拒否する権限を持つわけではありません。それでも、学校、病院、礼拝施設、避難経路、住民の生活パターンを攻撃計画に反映させるうえで重要です。

ウォーレン議員らは7月、国防総省監察総監の報告を受け、民間人保護改革が資金面・組織面で妨げられた可能性を問題視しました。発表によれば、監察総監は改革の実施が危うくなり、連邦法違反の可能性もあると見ています。議会がここに注目するのは、単なる政策変更ではなく、議会が義務づけた制度を行政府が骨抜きにした疑いがあるからです。

イラン作戦では、標的数の多さもリスクを増幅します。多数の施設を短時間で攻撃する場合、古い地図、旧式のデータベース、不完全な衛星情報、小さな翻訳ミスが連鎖しやすくなります。AIを使えば処理速度は上がりますが、入力データが古ければ、誤りも高速で拡散します。だからこそ、民間人保護担当者による人間の確認が必要になります。

Airwarsは、40日間のイラン戦争で中東全域の民間人被害事案を追跡し、イラン国内だけでも約300件の被害事案を記録したとしています。ミナブの学校攻撃は目立つ事件ですが、それだけを調べても全体像は見えません。議会が求めるべきは、特定の一撃の責任者探しに加え、被害を生みやすくした作戦テンポと制度劣化の検証です。

中間選挙後に広がる公聴会と外交リスク

中間選挙後に民主党が議会の一部または両院で主導権を握れば、まず想定されるのは軍事委員会、情報委員会、外交委員会での公聴会です。ヘグセス長官、CENTCOM幹部、統合参謀本部、国防情報局、法務担当者が証言を求められる可能性があります。争点は、標的承認の階層、AI利用の有無、攻撃禁止リストの更新、民間人被害調査の公開範囲です。

次に焦点となるのは予算です。議会は国防予算に、CHMR人員の復元、民間人被害報告の定期提出、第三者情報の照合、被害者への対応制度を条件として盛り込むことができます。民主党が追及を強めれば、国防総省は「機密」を理由に説明を限定するだけでは乗り切りにくくなります。

ただし、政権側にも反論の余地はあります。イランが民間区域に軍事施設や発射装置を置いた場合、米軍のリスク計算は複雑になります。作戦情報を公開しすぎれば、今後の攻撃手法や情報源が露出するという懸念もあります。公聴会は、透明性と軍事機密の境界をめぐる攻防になります。

外交面では、民間人被害の説明不足が米国の対イラン政策を弱めます。敵対国は米国の二重基準を宣伝し、同盟国は作戦協力への国内説明に苦しみます。CRSが整理したように、イラン戦争は米軍死傷者、作戦費、ホルムズ海峡の航行、エネルギー価格にも波及しました。民間人被害の問題は、人道上の争点であると同時に、戦争継続コストの問題でもあります。

日本が注視すべき同盟運用の説明責任

日本にとって重要なのは、米国内の党派対立としてこの問題を眺めないことです。米軍の標的選定、AI利用、民間人保護、議会承認のあり方は、将来のインド太平洋有事でも同盟運用に直結します。米国がどの程度まで被害を調査し、誤りを認め、制度を修復できるかは、日本の安全保障にも関わります。

読者が注視すべき指標は明確です。国防総省がミナブ攻撃の調査結果をどこまで公表するか、CHMR人員を復元するか、AI標的選定に人間の確認を義務づけるか、議会が予算で縛りをかけるかです。民間人保護は軍事力の周辺問題ではありません。米国の抑止力が、合法性と信頼性を保てるかを測る中心指標です。

参考資料:

長
長谷川 悠人

米国政治・外交

米国政治の内幕を、ホワイトハウスから議会まで多角的に分析。政策決定のプロセスと日本への影響を鋭く読み解く。

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