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クラトム規制を揺らすトランプ政権人脈と7OH急拡大市場の攻防

by 長谷川 悠人
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7OH急拡大が政権中枢を巻き込む構図

米国で「クラトム」をめぐる政策論争が、単なる健康食品規制から政権中枢の利害問題へ広がっています。焦点は、東南アジア原産の植物クラトムそのものではなく、そこに微量に含まれる7-ヒドロキシミトラギニン、通称7-OHを濃縮した製品です。

FDAは7-OHを「新たな公衆衛生上の脅威」と位置づけ、DEAに規制物質化を勧告しました。一方で、トランプ政権内には「天然由来」「規制緩和」「オピオイド危機対策」という複数の政治言語が併存しています。そこへ業界献金、閣僚の投資、ロビイストの接近が重なり、クラトム政策はワシントンらしい利益配分の問題になっています。

天然クラトムと7OHを分ける規制線

FDAが問題視する濃縮派生品

FDAの公表資料によると、クラトムは米国内でオンライン、ガソリンスタンド、スモークショップ、小売店などを通じて流通しています。2021年には12歳以上の米国人で推計170万人がクラトムを使用したとされ、痛み、不安、うつ、オピオイド離脱症状の自己対処に使う人がいると説明されています。

ただしFDAは、クラトムまたはその主要アルカロイドを含む処方薬、市販薬、合法的な食品添加物、合法的なサプリメントは米国市場に存在しないという立場です。つまり、利用者の多さと制度上の承認は別問題です。ここが政治的に重要です。市場はすでに成立しているのに、連邦政府の公式な安全性評価と品質管理が追いついていません。

とくに7-OHは、天然クラトム葉の総アルカロイド中では2%未満の微量成分とされます。ところが近年は、ミトラギニンを加工して7-OH濃度を高めたタブレット、グミ、液体ショット、ドリンクミックスが販売されるようになりました。FDAは2025年7月、こうした濃縮7-OH製品を規制対象にするようDEAへ勧告し、天然クラトム葉製品そのものを主対象にしていないと強調しました。

この区別は業界にも都合がよい面があります。伝統的な葉、粉末、茶を扱う事業者は、7-OH濃縮品を「クラトムの評判を損なう別物」と位置づけられます。逆に7-OH事業者は、コーヒーからカフェインを取り出すようなものだと主張し、禁止ではなく成分表示、年齢制限、品質検査で対応すべきだと訴えています。規制線の引き方次第で、勝者と敗者が大きく変わる市場です。

毒性データが示す曖昧なリスク

公衆衛生上のリスクは存在しますが、数字の読み方には注意が必要です。CDCは、2010年から2015年に米国の毒物センターへクラトム曝露に関する660件の通報があったと報告しました。通報件数は2010年の26件から2015年の263件へ10倍に増え、頻脈、興奮、眠気、吐き気、高血圧などが報告されています。

2019年のCDC報告では、2016年7月から2017年12月までに27州の過量摂取死のうち152人でクラトムが検出され、そのうち91人について検視官などが死因への関与を認定しました。ただし、ほぼすべての死亡例で他の物質も検出され、フェンタニル類、ヘロイン、ベンゾジアゼピンなどとの併用が多いとされています。クラトム単独の危険性を過大にも過小にも評価しにくい構図です。

この曖昧さが、政策論争をさらに難しくしています。FDAとDEAは、未承認で濃度も表示も不明確な製品が子どもや若者に届くことを問題にします。研究者や一部利用者は、クラトムが慢性痛やオピオイド離脱の自己管理に使われている現実を指摘し、全面禁止はより危険な薬物への回帰を招くと警告します。科学的な不確実性が残るほど、ロビー活動と政治的価値観が判断を埋める余地は大きくなります。

トランプ政権人脈に集まる利害相反疑惑

RFKジュニアの公衆衛生路線

HHS長官ロバート・F・ケネディ・ジュニアは、食品、ワクチン、慢性疾患、製薬産業をめぐる既存制度への不信を背景に支持を広げた人物です。そのため、天然由来製品への寛容な姿勢を期待する層と、子ども向けに見える濃縮7-OH製品を取り締まる公衆衛生派の期待が同時に集まります。

FDAの2025年7月の発表では、ケネディ氏は7-OHへの対応を「オピオイド依存との闘い」の一部として位置づけました。FDA長官マーティ・マカリー氏も、ベイプ店やガソリンスタンドで入手できる濃縮7-OHを、次のオピオイド危機にしないための規制が必要だと説明しています。政権のメッセージは、天然物一般を敵視するのではなく、濃縮され、未承認で、若年層に届きやすい製品を標的にするというものです。

しかしこの線引きは、政治的に非常に繊細です。天然クラトムを守り、7-OH濃縮品だけを排除する政策は、消費者保護のようにも見えます。同時に、クラトム葉を使う既存ブランドに市場の正統性を与え、競合する7-OH企業を退場させる産業政策にもなり得ます。誰が「天然」側に入るのか、誰が「危険な加工品」側に押し出されるのかが、政策の核心になります。

マリンDHS長官と企業投資の接点

問題を政権倫理の次元へ押し上げているのが、マークウェイン・マリンDHS長官をめぐる報道です。WIREDは2026年6月、政府開示フォームに基づくとして、マリン氏がクラトム飲料「Feel Free」の親会社Botanic Tonicsに最大100万ドルの投資を保有していたと報じました。同記事は、Feel Free関連のLLCがMAHA PACへ50万ドルを拠出したとも伝えています。

この点は慎重に扱う必要があります。投資保有それ自体が違法行為を意味するわけではありません。DHS側は、マリン氏が倫理規則と利益相反規則を順守していると説明しています。ただ、DHSは税関・国境警備や輸入品の執行と深く関わる省庁です。FDAもクラトム製品対策で税関・司法省との連携を明記しています。したがって、クラトム企業に経済的利害を持つ閣僚が、規制環境に影響し得るポストにいることは、政治的な疑念を招きます。

Botanic TonicsのFeel Freeは、ウェルネス飲料、断酒の代替品、機能性ドリンクの文脈で広がってきました。GuardianやGQの取材では、製品を健康的な飲料と受け止めた消費者が、クラトムの依存リスクを十分理解しないまま利用を増やした事例が紹介されています。GQは、同社が2024年に購入年齢を21歳へ引き上げ、依存歴のある人への警告表示を追加したとも報じています。

つまり政権周辺の争点は、単に「危険な薬物を取り締まるか」ではありません。未承認サプリ市場で成功した企業が、どの規制カテゴリーに入るかをめぐる争いです。7-OH濃縮品を狙い撃ちする政策は、消費者保護として説明できますが、同時にクラトム飲料企業にとって競争上の追い風にもなります。米国政治で典型的な、政策目的と私的利益が重なって見える局面です。

全面禁止と緩い流通が生む二重リスク

クラトム政策で避けるべき失敗は二つあります。第一は、7-OH濃縮品と天然クラトム葉を同一視し、利用実態や研究可能性を無視して全面禁止へ傾くことです。DEAは2016年、ミトラギニンと7-OHを一時的にスケジュールIへ入れる方針を示しましたが、多数のパブリックコメントやFDA評価を受け、同年10月に通知を撤回しました。この経験は、拙速な禁止が政治的反発と研究阻害を招くことを示しています。

第二は、規制の空白を放置することです。FDAは2025年に7-OH製品を販売した7社へ警告書を出し、同年12月には司法省などと連携してミズーリ州の3社から約7万3000ユニット、約100万ドル相当の7-OH製品を押収したと発表しました。これは、連邦政府が市場の一部をすでに違法な食品・サプリ流通として扱っていることを意味します。

望ましいのは、禁止か放任かの二分法ではありません。成分量の上限、第三者検査、年齢制限、警告表示、医療用途を示唆する広告の禁止、有害事象報告の義務化を組み合わせる制度設計です。さらに、閣僚や政権関係者が関連企業に投資している場合は、政策決定からの除斥、資産処分、開示強化を明確にする必要があります。公衆衛生政策は、内容だけでなく決め方の信頼が問われるからです。

読者が注視すべき次の規制判断

今後の焦点は、DEAがFDA勧告を受けて7-OHをどの範囲で規制するかです。天然クラトム葉に含まれる微量成分まで実質的に巻き込むのか、濃縮・添加された7-OH製品に限定するのかで、市場への影響はまったく変わります。

もう一つの焦点は、トランプ政権が「自然由来の選択肢」を守る政治と「未承認オピオイド様製品」を取り締まる政治をどう両立させるかです。RFKジュニア氏のHHS、マリン氏のDHS、FDA、DEAの判断が食い違えば、業界はその隙間を突きます。読者が見るべきなのは、クラトムの是非だけではありません。誰が規制線を引き、その線で誰が利益を得るのかです。

参考資料:

長谷川 悠人

米国政治・外交

米国政治の内幕を、ホワイトハウスから議会まで多角的に分析。政策決定のプロセスと日本への影響を鋭く読み解く。

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