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初の女性カンタベリー大主教マラリーが就任へ

by 黒田 奈々
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はじめに

2026年3月25日、カンタベリー大聖堂で歴史的な就任式が執り行われます。サラ・マラリー氏が第106代カンタベリー大主教として正式に着座するのです。英国国教会の1,400年を超える歴史において、女性がこの職に就くのは初めてのことです。

しかし、この歴史的任命は祝福だけで迎えられているわけではありません。世界8,500万人の信徒を擁する聖公会(アングリカン・コミュニオン)の一部からは、女性の主教職や同性婚の祝福をめぐって強い反発が起きています。本記事では、マラリー大主教の経歴と就任式の意義、そして聖公会が直面する分裂の現実を解説します。

がん看護師から大主教へ——異例のキャリア

看護の道から聖職へ

サラ・マラリー氏は1962年、イングランド・サリー州ウォーキングに生まれました。セント・トーマス病院で臨床研修を受けた後、1984年に看護学の学士号を取得しています。ロイヤル・マースデン病院やチェルシー・アンド・ウェストミンスター病院で看護師としてキャリアを積み、がん患者のケアに従事しました。

1999年、37歳の若さでイングランドの首席看護官(Chief Nursing Officer)に就任しました。当時、この職に就いた最年少の人物です。国の看護政策を統括するこの要職を2004年まで務めた後、フルタイムの聖職者の道に進む決断をしました。

ロンドン主教から大主教へ

2001年に司祭に叙階されたマラリー氏は、2018年5月に第133代ロンドン主教に就任しました。これもまた、女性として初の任命でした。ロンドン主教としての実績が評価され、2025年10月に次期カンタベリー大主教に指名されました。

2026年1月28日にセント・ポール大聖堂で選出が法的に確認され、3月25日の就任式で公的な職務を正式に開始します。

就任式——「受胎告知の祝日」に込められた象徴

儀式の概要

就任式はカンタベリー大聖堂で行われ、約2,000人のゲストが出席します。ウィリアム皇太子とキャサリン妃、キア・スターマー首相も参列予定です。式典はBBC Oneおよび英国国教会のYouTubeチャンネルで生中継されます。

儀式では、マラリー大主教がまず大聖堂の西扉を叩いて入場を求めます。子どもたちに出迎えられた後、カンタベリー教区の司教座聖堂の椅子(カテドラ)に着座し、教区主教としての就任が宣言されます。続いて聖アウグスティヌスの椅子に着座し、「全イングランドの首座主教」および聖公会における象徴的役割を担うことが示されます。

象徴的な日付の選択

就任式の日付である3月25日は「受胎告知の祝日(Feast of the Annunciation)」です。聖母マリアが神の召命に忠実に応えたことを祝うこの日は、「レディー・デー(Lady Day)」とも呼ばれ、新たな始まりを象徴します。初の女性大主教の就任式にこの日を選んだことには、深い象徴的意味が込められています。

式典ではウルドゥー語を含む多言語での祈りやアフリカの聖歌が取り入れられ、聖公会のグローバルな広がりが表現されます。

聖公会内部の深い分裂

グローバル・サウスとGAFCONの反発

マラリー氏の任命に対し、聖公会内部の保守派からは強い反発が起きています。世界聖公会未来会議(GAFCON)は「聖公会の過半数は聖書が男性のみの主教職を求めていると信じている。したがって、彼女の任命によりカンタベリー大主教がコミュニオンの一致の焦点として機能することは不可能になる」と声明を出しました。

グローバル・サウスの首座主教たちも、マラリー氏の任命を「逃した機会」と表現しています。複数の首座主教が就任式のボイコットを表明し、「コミュニオンを再設定する決意を強めた」と述べています。

同性婚の祝福をめぐる対立

分裂の根底には、同性婚の祝福をめぐる根本的な神学的対立があります。マラリー氏は英国国教会の「愛と信仰に生きる(Living in Love and Faith)」協議を主導し、同性カップルへの祝福の道を開きました。2023年2月に英国国教会の総会(General Synod)が同性婚の祝福を承認した際、マラリー氏はこれを「教会にとっての希望の瞬間」と呼びました。

保守派にとって、この立場は「修正主義的な教え」であり、伝統的な聖書解釈からの逸脱を意味します。クリスチャン・デイリー・インターナショナルによれば、GAFCONはマラリー氏の同性婚祝福への支持が「カンタベリー大主教を一致の焦点とすることを不可能にする」と明言しています。

女性の叙階をめぐる歴史

英国国教会が女性の司祭叙階を認めたのは1994年、主教叙階を認めたのは2014年のことです。聖公会全体では、女性の聖職を認めない教区や地域がいまだ多く存在します。マラリー氏の大主教就任は、この長年の議論における画期的な到達点である一方、反対派との溝をさらに深める結果にもなっています。

注意点・展望

「一致の焦点」としての課題

カンタベリー大主教はカトリックの教皇のような統治権を持たず、聖公会における「一致の焦点(focus of unity)」として象徴的な役割を果たす存在です。しかし、保守派のボイコットにより、この役割自体が揺らいでいます。

マラリー大主教にとって最大の課題は、リベラルな改革を推進しつつ、グローバル・サウスの教会との関係をいかに維持するかという点です。前任のジャスティン・ウェルビー大主教も同様の課題に苦しみ、教会内の性的虐待スキャンダルの対応をめぐって2024年に辞任しました。

英国社会への影響

英国国教会は国教として英国の公的生活に深く組み込まれています。国王の戴冠式を司る大主教が女性であるという事実は、英国社会における女性リーダーシップの象徴としても注目されています。

まとめ

サラ・マラリー氏のカンタベリー大主教就任は、英国国教会と聖公会にとって歴史的な転換点です。がん看護師から首席看護官、そしてロンドン主教を経て大主教に至るその経歴は、現代の宗教リーダーシップの新たなモデルを示しています。

一方で、女性の聖職や同性婚の祝福をめぐる聖公会内部の分裂は深刻であり、マラリー大主教は就任初日から「一致」と「改革」の間で難しい舵取りを求められます。1,400年の伝統を持つこの職が、初の女性リーダーのもとでどのように変化していくのか、世界が注目しています。

参考資料:

黒田 奈々

カルチャー・エンタメ

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