ロシア拠点の米国人がネオナチテロ組織を欧州で拡大
ザ・ベース18か国拡大の全体像
米国で生まれたネオナチ組織「ザ・ベース(The Base)」が、ロシアに拠点を置く創設者リナルド・ナッツァーロの指揮のもと、欧州全域にテロ細胞を拡大させています。FBIは一時この組織の弱体化に成功したとみていましたが、2023年以降、欧州で相次ぐ逮捕劇が示すのは、組織が復活し新たな段階に入ったという現実です。
EU、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの5つの国・地域がテロ組織に指定したこの団体は、少なくとも18か国で活動が確認されています。この記事では、ザ・ベースの成り立ちから欧州での拡大、そしてロシアとの不気味なつながりまでを詳しく解説します。
ザ・ベースの成り立ちと創設者ナッツァーロ
元FBI契約者が立ち上げたテロ組織
ザ・ベースは2018年、リナルド・ナッツァーロによって設立されました。ナッツァーロは元々FBIやペンタゴンの契約業務に従事していた人物で、暗号化されたチャットルームやワシントン州のサバイバリスト向け土地を活用して組織を構築しました。
組織は「加速主義」と呼ばれる思想を掲げています。これは既存の社会秩序を暴力的に崩壊させることで、白人至上主義に基づく国家を樹立しようとする過激思想です。ザ・ベースは、アトムヴァッフェン・ディビジョンやフォイアークリークなどと並ぶ「スカルマスク運動」の一翼を担う組織として位置付けられています。
ロシアへの移住と活動の国際化
ナッツァーロは組織設立後、家族とともにロシア・サンクトペテルブルクに移住し、ロシア国籍を取得しました。以降、ロシアのデジタルインフラを活用してリクルート活動やプロパガンダの配信、テロ行為の扇動を行っています。
元メンバーらはナッツァーロがロシア情報機関の工作員であると主張しており、ロシアからの資金援助疑惑も浮上しています。ナッツァーロ自身はロシア当局との関係を否定していますが、ロシア有数の監視都市であるサンクトペテルブルクから公然とテロ組織を運営できている事実は、多くの専門家の疑念を呼んでいます。
欧州全域に広がるテロ細胞
18か国以上での活動確認
戦略的対話研究所(ISD)やジョージ・ワシントン大学の過激主義研究プログラムの調査によれば、ザ・ベースは2023年11月以降、少なくとも18か国で活動が確認されています。ベルギー、ブルガリア、クロアチア、デンマーク、フランス、ドイツ、イタリア、リトアニア、ポーランド、オランダ、ルーマニア、ロシア、セルビア、スペイン、スウェーデン、ウクライナ、英国、米国にわたります。
2023年11月には、Europolとユーロジャストの調整のもと、ベルギー、クロアチア、イタリア、リトアニア、オランダ、ルーマニアの6か国で一斉捜索が行われ、5人が逮捕されました。ベルギーでは「指導者」とみなされる人物がテロメッセージの拡散と勧誘未遂の容疑で起訴されています。
オランダ・イタリアでの逮捕
2024年8月から9月にかけて、欧州で5人の若者が逮捕されました。イタリアで2人、オランダで3人(うち1人は16歳の少年)が拘束されています。オランダの容疑者3人(16歳、18歳、26歳)は、オンラインチャットでテロ行為を煽動した疑いで逮捕されました。オンライン上での過激化が若年層に急速に広がっている実態を示す事例です。
スペインでの大規模摘発
2025年12月には、Europolとスペイン国家警察の連携による大規模作戦が実施されました。マドリードとバレンシアで3人の容疑者が逮捕され、銃器2丁、刃物・鈍器類、弾薬、軍事戦術装備、ナチス関連資料が押収されました。
スペイン当局は、この細胞がイデオロギーの宣伝段階を超え、武器の取得や訓練活動を含む「実行段階」に移行していたと強調しています。逮捕された24歳の男は、テロ組織への参加、勧誘・思想教育、準軍事訓練、違法武器所持の罪で起訴されました。
ロシアとの関係とハイブリッド戦争
「ハイブリッド戦争のツール」としての極右テロ
スーファンセンターの2025年5月の分析レポートは、ロシアがネオナチテロ組織との関係を「ハイブリッド戦争のツールキット」の一部として活用していると指摘しています。ナッツァーロがロシアから組織を運営し続けていることは、ロシア当局が少なくとも黙認しているとの見方が有力です。
ウクライナでの暴力行為
2025年6月、ザ・ベースのウクライナ支部「ホワイト・フェニックス」がウクライナ保安庁(SBU)の上級情報将校イヴァン・ヴォロニチの暗殺を主張しました。2026年2月にはオデーサでの自動車爆弾攻撃の犯行声明も出しています。ナッツァーロはウクライナ当局者への攻撃に対して報奨金を提示しているとも報じられており、組織の暴力性は一段と増しています。
ナッツァーロ拘束難と若者過激化
FBIの捜査と法的課題
FBIデトロイト支局はナッツァーロに対する捜査が進行中であることを確認しています。しかし、ナッツァーロがロシア国籍を取得し同国に滞在しているため、身柄の確保は極めて困難です。米露間の犯罪人引渡し条約が機能していない現状では、法的手段による対処には限界があります。
「テロ組織の外国指定(FTO)」にザ・ベースを加えるべきだとする声も高まっています。米国がFTO指定を行えば、資金凍結や支援者の訴追がより容易になると専門家は指摘しています。
オンライン過激化の脅威
逮捕者の多くが10代後半から20代前半の若者であることは、オンライン空間での過激化が深刻な問題であることを示しています。暗号化通信やSNSを介したリクルート活動への対策が、今後の最重要課題の一つとなるでしょう。
Europol摘発後も残る越境テロ脅威
ザ・ベースの事例は、現代のテロリズムが国境を越え、オンラインで拡散し、地政学的対立に利用される複合的な脅威であることを如実に示しています。米国で生まれた組織がロシアから指揮され、欧州で細胞を増殖させるという構図は、従来のテロ対策の枠組みでは対処しきれない新たな課題を突きつけています。
Europolを中心とした国際連携による摘発は一定の成果を上げていますが、創設者が安全な拠点から活動を続ける限り、組織の根絶は困難です。オンライン空間での監視と国際的な法執行協力の強化が急務となっています。
参考資料:
- Europol and Spanish National Police disrupt activities of far-right terrorist group ‘The Base’ | Europol
- Russia’s Links to Neo-Nazi Terrorist Groups Demonstrates its Hybrid Warfare Toolkit | The Soufan Center
- Out of the woodwork: Examining the global aspirations of The Base | Institute for Strategic Dialogue
- The Base | Program on Extremism | George Washington University
- Rinaldo Nazzaro | Counter Extremism Project
- It’s Time to Designate The Base as an FTO | Just Security
- U.S.-founded neo-Nazi group designated as terrorist organization is busted in Spain | CBS News
国際安全保障・欧州情勢
欧州・中東の安全保障問題を中心に、軍事と外交の接点から国際秩序の変動を伝える。
関連記事
ロシア製油所攻撃で揺れる米ウクライナ関係と停戦圧力の深層分析
トランプ氏がウクライナのロシア製油所攻撃を批判し、ゼレンスキー氏は相互停止を条件に応じる姿勢を示した。冬を前にした電力網攻撃、ディーゼル高騰、対ロ制裁の緩和論が重なる中、米ウクライナ関係の亀裂、ロシア戦費への打撃、欧州安全保障への波及、米中間選挙前の国内政治、今後の停戦協議と実効性の焦点を読み解く。
トランプのロシア軽油輸入発言、制裁転換が映す米国物価危機の深層
トランプ氏がプーチン氏との協議後にロシア産軽油輸入を表明した。30万トン超の追加供給は米国の需要に比べ小さく、価格下押し効果は限定的です。制裁緩和、ウクライナ戦争、11月中間選挙前の物価対策が交差する政策転換の含意を、米国内政と同盟外交、エネルギー安全保障、日本の市場リスクの視点から深層まで読み解く。
燃料不足が促すロシアの中国EV購入と精油所攻撃が映す戦争長期化
ウクライナの精油所攻撃でロシア各地に燃料不足と行列が広がり、中国EVとプラグインハイブリッドへの関心が急伸しています。IEAやReuters、ロシア市場データを基に、戦争が自動車購入、精製能力、対中依存、充電インフラ、国内統治の負担、市民生活への波及、エネルギー安全保障をどう変えているのかを読み解く。
インドを挟むロシア原油とトランプ関税、米印均衡の危うい限界線
米国がロシア制裁法で最大100%関税の権限を広げ、インドは安価なロシア原油と対米輸出の間で再び板挟みに。輸入依存85%、8月のロシア産原油160万バレル規模、中東供給不安、米国産エネルギー購入計画が交錯するなか、モディ政権の選択肢と米印関係の亀裂、関税リスクが通商交渉と安全保障協力をどう揺らすかを読み解く。
米国ディーゼル価格最高値目前、物流と農業を襲う供給不安の連鎖
米国のディーゼル価格は8月24日時点で1ガロン5.652ドルに上昇し、2022年の最高値に迫った。イラン戦争によるホルムズ海峡の混乱、ロシア製油所への攻撃、留出油在庫の14%不足が重なり、物流、農業、家計、石油会社収益へ広がる影響を分析。製油能力、輸出規制、インフレ指標、今後の政策対応の限界を読み解く。
最新ニュース
住宅保険料高騰が米中間選挙を揺らす新たな家計争点の行方と気候危機
米国で住宅保険料の上昇と加入難が家計を直撃し、フロリダ、カリフォルニア、カンザスの選挙争点に浮上しています。気候災害、再保険、州規制、候補者の処方箋を公的統計と市場データで照合し、住宅ローン、住宅価格、地域財政、災害復興への波及、保険料が税や家賃に転嫁される仕組みと有権者が問うべき論点を詳しく解説。
中東戦争で広がる世界経済格差、低所得国を直撃するIMF警告の核心
IMFは2026年の世界成長率を3.1%としながら、中東戦争によるエネルギー・食料高とAI投資の偏りが低所得国を置き去りにすると警告した。ホルムズ海峡の混乱、肥料高、債務負担、食料安全保障、教育や雇用への波及をたどり、豊かな国と脆弱な国の格差がなぜ広がるのかと、今後の各国政策の選択肢までを読み解く。
仮想通貨富豪の巨額献金が変える英国政治資金と選挙民主主義の行方
Reform UKに仮想通貨富豪2人から計7200万ポンドの献金が集まり、英国政治は小口寄付中心の物語からメガドナー依存へ傾いた。献金額に上限がない制度、暗号資産の追跡難、海外有権者規制、選挙支出上限の抜け道を整理し、米国型政治資金モデルが欧州の民主主義と政党競争の公平性に及ぼす影響をいま読み解く。
サウジ・フーシ派応酬、アラムコ攻撃警告が揺らす紅海石油網の行方
サウジ主導連合がサヌアのアルサバハ中央ステーション退避を求め、フーシ派はアラムコ施設を標的と警告。リヤド空港攻撃の死者13人超、バブ・アルマンデブ油流通量半減、アラムコ供給信頼性99.9%を手がかりに、防空の限界、紅海航路、OPECプラス政策、サウジ外交の難路が絡む中東危機と原油市場の連鎖を読み解く。
米国債利回り上昇を招く期間プレミアム変調と財政不安の連鎖構図
米10年債利回りは10月9日に5.24%、30年債は5.60%へ上昇。FRBの高金利観測だけでなく、2兆ドル赤字、40兆ドル超の債務、海外投資家の需要変化が期間プレミアムを押し上げる構図を検証し、住宅ローンや株式、財政運営へ波及する新たな金利リスクを解説。