「パックスアメリカーナ」の終焉と米国の転換
イラン攻撃で揺らぐパックスアメリカーナ
「パックスアメリカーナ(アメリカによる平和)」——第二次世界大戦後、米国の圧倒的な軍事力と経済力のもとで維持されてきた国際秩序を指す言葉です。しかし2026年、この概念そのものが根本から揺らいでいます。
2月末のイラン攻撃では同盟国への事前協議なしに軍事行動を開始し、EUは「これは欧州の戦争ではない」と距離を置きました。ベネズエラへの軍事介入、国際機関からの大量離脱——トランプ政権の「アメリカ・ファースト」政策は、米国の国際的信頼を急速に損なっています。いま世界秩序に何が起きているのかを分析します。
イラン攻撃が露呈した同盟の亀裂
事前協議なき軍事行動
2026年2月28日、米国とイスラエルはイランに対して大規模な奇襲空爆を実施しました。この攻撃は最高指導者ハメネイ師を含む複数のイラン高官を殺害する結果となりましたが、NATO同盟国や欧州諸国との事前協議は行われませんでした。
英ハウス・オブ・コモンズ図書館の報告書によると、この攻撃はサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子がトランプ大統領に直接働きかけたことが一因とされています。米上院議員のリンゼー・グラム氏もイラン攻撃を強く推進したと報じられています。
同盟国の拒否反応
EUの外交安全保障上級代表カヤ・カラス氏は「これは欧州の戦争ではない。我々は戦争を始めていないし、相談も受けていない」と明確に距離を取りました。英国のスターマー首相も「英国はより広い戦争に引きずり込まれることはない」とし、国際法の裏付けと「きちんと練られた計画」が必要だと述べています。
さらにトランプ大統領がホルムズ海峡の警備を同盟国に要請した際、NATOの同盟国だけでなく中国も協力を拒否しました。PBSニュースは「トランプの同盟国への圧力が効果を失いつつある」と分析しています。
加速する米国の国際的孤立
ベネズエラ侵攻と国際機関離脱
イラン攻撃に先立ち、トランプ政権は2025年末からベネズエラへの軍事介入を開始しました。さらに、グリーンランドの米国領土編入を公然と主張するなど、国際法を軽視する姿勢を鮮明にしています。
ブルッキングス研究所の分析によると、トランプ政権は66の国際機関から米国を離脱させました。これは単独主義を超え、第二次世界大戦後に米国自身が構築した国際秩序の根幹を否定する行動です。
ドルの信頼低下
米国センター・フォー・アメリカン・プログレスの報告によると、トランプ政権の「解放の日」関税が発効した後、外国投資家は米国債やドル建て資産を大量に売却しました。各国中央銀行の準備通貨に占めるドルのシェアは20年ぶりの低水準にまで低下しています。経済面でも「パックスアメリカーナ」を支えてきた米ドルの覇権が揺らいでいます。
「ポスト・アメリカ」時代の国際秩序
新たな勢力均衡の模索
フォーリン・ポリシー誌は「ポスト・トランプの世界」について3つのシナリオを提示しています。冷戦型の勢力圏分割、多極化した協調体制、そして秩序なき混沌です。いずれのシナリオでも、米国が唯一の超大国として振る舞う時代は終わりを告げています。
オーストラリアのザ・カンバセーション誌は「パックスアメリカーナの終焉と”ポスト・アメリカ”時代の始まりは、必ずしも世界がより危険になることを意味しない」と論じています。欧州やアジアの中堅国がより大きな安全保障上の役割を担う可能性を指摘しています。
ドイツの転換が象徴するもの
特に象徴的なのはドイツの動きです。ドイツは歴史的な防衛費増額を決定し、自主防衛力の強化に舵を切りました。ドイツ首相自身が「パックスアメリカーナは終わった」との認識を示したことは、冷戦後の欧州安全保障の枠組みが根本的に変化していることを物語っています。
トランプ2.0と米国の役割撤退の限界
注意すべきは、「米国のリーダーシップの喪失」と「米国の衰退」は必ずしも同義ではないということです。米国は依然として世界最大の経済力と軍事力を保持しています。変化しているのは、米国がその力を国際秩序の維持のために使う意思を失いつつあることです。
シカゴ・グローバル評議会の分析では、「トランプ2.0は2026年に入り本格始動した」とし、今後さらに一国主義的な政策が強化される可能性を指摘しています。一方で、イラン戦争の長期化やホルムズ海峡の安全保障問題は、米国が完全に国際的な役割から撤退することの困難さも示しています。
2026年の秩序変容と同盟国の戦略転換
2026年の国際情勢は、「パックスアメリカーナ」の終焉を多くの識者が認める段階に入りました。イラン攻撃における同盟国との断絶、国際機関からの大量離脱、ドルの信頼低下——これらは個別の事象ではなく、米国主導の国際秩序が構造的に変容していることを示しています。
日本を含む同盟国にとって、これは安全保障と経済政策の根本的な見直しを迫る事態です。米国一辺倒の外交から多角的な安全保障体制の構築へ、いま各国が戦略の転換を求められています。
参考資料:
- Three Scenarios for a Post-Trump World - Foreign Policy
- The end of ‘Pax Americana’ and start of a ‘post-American’ era - The Conversation
- Trump’s failed strong-arming of allies on Iran - PBS News
- NATO allies, China so far rebuff Trump’s demand to police Hormuz - NPR
- How Trump’s Unilateral Foreign Policy Has Eroded American Power - Center for American Progress
- US-Israel strikes on Iran - House of Commons Library
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