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米最高裁、亡命希望者の入国制限に前向きか

by 長谷川 悠人
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はじめに

米連邦最高裁判所は2026年3月24日、トランプ政権が推進する亡命希望者の入国制限措置について口頭弁論を行いました。「Noem対Al Otro Lado」と呼ばれるこの訴訟は、国境での「メータリング(流量制限)」政策の合法性が争点です。

約80分にわたる審理の中で、多数の判事がトランプ政権側の主張に理解を示す姿勢を見せました。判決は6月末までに下される見通しですが、移民政策に大きな転換をもたらす可能性があります。本記事では、この訴訟の背景と審理の内容、そして想定される影響を解説します。

メータリング政策とは何か

政策の概要

メータリング政策とは、米国の入国地点(ポート・オブ・エントリー)で、税関・国境警備局(CBP)の職員が「処理能力の制約」を理由に亡命希望者の入国を制限する措置です。この政策の下では、亡命を求める人々は米国の領土に足を踏み入れることができず、メキシコ側で待機を余儀なくされます。

米国の領土に到達できなければ、法律上の亡命申請手続きを開始することもできません。つまり、この政策は事実上、亡命申請の機会そのものを遮断する効果があります。

政策の歴史的経緯

このメータリング政策は、もともとオバマ政権時代に導入されました。その後、トランプ第1期政権で正式に制度化され、大規模に運用されるようになりました。バイデン政権では訴訟が進行中だったこともあり、この政策は取り下げられていました。トランプ大統領の再就任後、政権は再びこの政策を復活させ、南部国境で亡命希望者の入国を全面的に制限する措置を講じています。

口頭弁論の焦点と判事の反応

「到着する」の法的解釈

審理の中心的な争点は、連邦移民法に定められた「米国に到着する(arrives in)」という文言の解釈です。現行法では、米国に「到着した」非市民は亡命を申請する権利があるとされています。

トランプ政権側は、国境のゲートに物理的にたどり着いただけでは「到着」には当たらず、CBP職員が入国手続きのために受け入れた時点で初めて「到着」と見なされると主張しています。一方、原告側の人権団体「Al Otro Lado」は、国境の入国地点に来た時点で「到着」に該当し、亡命申請の権利が生じると反論しています。

多数派の傾向

約80分に及ぶ口頭弁論の中で、多数の判事がトランプ政権側の解釈に同調する姿勢を見せました。政権側の主張は、国境管理の実務的な裁量権を広く認めるものであり、保守派判事の多くがこの論理に賛同する傾向がうかがえました。

ソトマイヨール判事の反論

一方、リベラル派のソニア・ソトマイヨール判事は政権側の解釈に強い懸念を示しました。最高裁の過去の判例「Sale事件」を引用し、「米国の亡命保護は、米国に居住する者、または国境に到着した者に適用される」と過去の判決が明確に述べていると指摘しました。また、米国が批准している国際条約上の義務との整合性についても疑問を呈しています。

判決の影響と注意点

政権側勝訴の場合

最高裁がトランプ政権側の主張を認めた場合、政府は入国地点での亡命希望者の受け入れ数を事実上自由にコントロールできるようになります。これは現在すでに行われている南部国境での全面的な入国制限に法的根拠を与えることを意味します。

人権団体や移民支援組織は、暴力や迫害から逃れてきた人々が保護を受ける機会を奪われると強く批判しています。メキシコ側での待機中に、亡命希望者が犯罪や暴力の被害に遭うケースも多数報告されています。

国際法との関係

米国は1951年の難民条約と1967年の議定書に基づき、迫害から逃れてきた人々を送り返さない義務(ノン・ルフールマン原則)を負っています。メータリング政策がこの義務に抵触する可能性があるとの指摘は、法学者や国際機関からも出ています。

判決のタイムライン

判決は最高裁の現在の開廷期が終了する2026年6月末までに下される見通しです。移民政策をめぐる政治的な議論がさらに激化する可能性があり、11月の中間選挙にも影響を及ぼす可能性があります。

まとめ

米最高裁は「Noem対Al Otro Lado」訴訟の口頭弁論で、トランプ政権のメータリング政策に理解を示す姿勢を見せました。「米国に到着する」という法的文言の解釈が争点であり、多数の判事が政権側の主張に傾いている状況です。

6月末までに下される判決は、亡命希望者の権利と国境管理の在り方に大きな影響を与えます。国際法上の義務や人道的な観点との整合性も含め、今後の議論の行方を注視する必要があります。

参考資料:

長谷川 悠人

米国政治・外交

米国政治の内幕を、ホワイトハウスから議会まで多角的に分析。政策決定のプロセスと日本への影響を鋭く読み解く。

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