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台湾国防予算4兆円超の攻防と米中の思惑

by 石田 真帆
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NT$1.25兆国防予算をめぐる立法院攻防

台湾の立法院(国会に相当)で、過去最大規模の特別国防予算をめぐる激しい議論が繰り広げられています。頼清徳(ライ・チントー)総統が提案した8年間で約400億米ドル(NT$1.25兆、約4兆円超)の国防予算案に対し、野党の中国国民党(KMT)と台湾民衆党(TPP)は大幅に縮小した対案を提出しています。

中国の軍事的圧力が増大し、米国が台湾に防衛費増額を求める中、台湾の政治はどの方向に舵を切るのでしょうか。この記事では、3つの予算案の内容、与野党の対立構造、そして米中双方の思惑について詳しく解説します。

3つの特別国防予算案の比較

行政院案:NT$1.25兆(約400億米ドル)

行政院(内閣に相当)が提出した案は、2026年から2033年の8年間でNT$1.25兆(約400億米ドル)を投じる最も大規模な計画です。この予算は、すでに承認されている8件の米国製兵器システムの調達だけでなく、将来の米国からの武器購入、さらに国産ドローンやT-Dome多層防空システムの調達も含んでいます。

顧立雄(クー・リーシュン)国防部長はこの案について、国民党案や民衆党案と比較して最も包括的であると主張しています。行政院は、中国の軍事的脅威の増大に対応するには、長期的かつ大規模な投資が不可欠であるという立場です。

国民党案:NT$3800億(約120億米ドル)

最大野党である国民党が3月5日に提出した案は、予算上限をNT$3800億(約120億米ドル)に設定しています。これは行政院案の約3分の1にすぎません。国民党案では、追加の米国製武器が必要になった場合には「第2期特別法」を提案できるとしていますが、当面の予算規模は大幅に抑制されています。

国民党の院内幹事は、頼総統が「状況を把握しないまま白紙委任を求めている」と批判し、行政院案の不透明さを指摘しています。

民衆党案:NT$4000億(約126億米ドル)

台湾民衆党は予算上限をNT$4000億(約126億米ドル)とする案を提出しました。国民党案よりやや大きいものの、行政院案との開きは依然として大きいです。民衆党は、米国が新たな武器パッケージを承認することを条件に、特別国防予算の可決に応じる姿勢も示しています。

与野党対立の構造

「ねじれ」状態の立法院

台湾の政治は現在、深刻な「ねじれ」状態にあります。行政権を握る頼清徳総統は民主進歩党(DPP)所属ですが、立法院113議席のうちDPPは51議席にとどまります。一方、国民党とTPPの合計は60議席で過半数を占めており、野党連合が立法院を実質的にコントロールしています。

この構図のもと、野党は繰り返し国防予算案を阻止してきました。2月1日には、行政院案の大幅縮小版として127億米ドルに上限を抑えた代替補正予算案が立法院を通過しました。

中国との距離感の違い

与野党の対立は単なる予算規模の問題にとどまりません。根底にあるのは、中国との関係をどう位置づけるかという根本的な路線の違いです。DPPは台湾の主体性を重視し、中国の脅威に対して軍事的備えを強化する立場です。一方、国民党は中国との対話や融和を重視する傾向があり、過度な軍備増強は地域の緊張を高めるとの見方を示しています。

米中双方からの圧力

米国の懸念と要求

米国はトランプ大統領のもと、台湾に対して防衛費の増額を強く求めています。共和党のロジャー・ウィッカー上院議員と民主党のルーベン・ガレゴ上院議員は超党派で、台湾の野党が国防予算を削減していることへの「失望」を表明しました。米議会では、台湾の国防予算の停滞が「火遊び」であるとの批判も出ています。

台湾は過去最大規模の米国製武器購入を提示しており、高機動ロケット砲システム(HIMARS)の追加調達により保有数は57基に達しています。また、国産初の潜水艦「海鯤(ハイクン)」を進水させ、2020年代後半までに8隻の新型潜水艦を配備する計画を進めています。

中国の軍事的圧力の実態

中国は台湾周辺での軍事活動を活発化させています。台湾国防部の報告によると、中国軍の航空機89機、海軍艦艇14隻、海警局の船舶14隻が台湾周辺で活動しており、西太平洋の遠方にもさらに多くの軍艦が確認されています。

特に注目されるのは、中国が台湾の主要な深水港の封鎖演習に力を入れている点です。全面的な侵攻ではなく、海上封鎖というオプションを精緻化しているとの分析があります。ただし、専門家の間では中国指導部が「少なくとも今後2年間は侵攻の選択肢を事実上棚上げしている」との見方も出ています。

3月23日審議入り後の妥協点と国民党内対立

3月23日から立法院の外交国防委員会と財政委員会の合同審議が始まっており、3つの予算案の本格的な審議が進行中です。世論調査では3分の2が行政院の国防予算案を支持していますが、立法院での議席数では野党が優勢です。

今後の焦点は、与野党間でどのような妥協点が見出されるかです。国民党内部でも路線対立が表面化する可能性があり、中国に対して比較的強硬な姿勢の鄭麗文(チェン・リーウェン)氏と、より融和的な盧秀燕(ルー・シュウイェン)氏の間の主導権争いも注目されます。最終的な予算規模は、台湾の今後の安全保障態勢を大きく左右することになります。

米中圧力下の台湾防衛戦略と予算3倍差

台湾の特別国防予算をめぐる攻防は、単なる財政問題ではなく、台湾が米中関係の狭間でどのような立ち位置を取るかという戦略的選択の問題です。行政院のNT$1.25兆案と野党のNT$3800〜4000億案の間には約3倍の開きがあり、妥協への道のりは容易ではありません。

中国の軍事的圧力が増大し、米国が防衛費増額を求める中、台湾の国防予算の行方は東アジアの安全保障環境に直接影響を与えます。立法院での審議の行方を注視するとともに、台湾の防衛戦略が今後どのように形作られていくか、引き続き注目が必要です。

参考資料:

石田 真帆

国際安全保障・欧州情勢

欧州・中東の安全保障問題を中心に、軍事と外交の接点から国際秩序の変動を伝える。

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