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中国レアアース規制が握るトランプ対中外交の主導権争いと新焦点

by 長谷川 悠人
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米中首脳会談を縛るレアアース交渉

トランプ米大統領が2026年5月13日に北京入りし、翌14日から習近平国家主席との会談に臨む局面で、レアアースは米中交渉の中心議題に浮上しています。関税、台湾、イラン情勢、半導体規制など争点は多いものの、最も短期的に米国企業と同盟国の工場を止め得るのが中国の輸出許可です。

焦点は、中国が2025年11月に一時停止した10月発表の厳格な規制を延長するかどうかだけではありません。より重要なのは、2025年4月に導入された重希土類や磁石関連品目への許可制が残り、北京が「禁輸ではない」と説明しながら、実際には戦略分野への供給を絞れる構造です。

この記事では、米中首脳会談を単なる通商イベントではなく、サプライチェーンをめぐる外交上の主導権争いとして読み解きます。トランプ政権が短期の取引で安定を演出しても、中国が許可証の発行速度と対象範囲を握る限り、米国の防衛、航空、半導体、EV産業は政治リスクを価格に織り込み続ける必要があります。

中国が握る輸出許可という圧力装置

4月規制で残る重希土類の急所

中国の圧力装置は、全面禁輸よりも扱いにくい形で設計されています。2025年4月4日、中国商務部と税関総署は中・重希土類関連品目に輸出管理を導入しました。対象にはサマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ルテチウム、スカンジウム、イットリウム関連品目が含まれ、輸出には商務部門の許可が必要になりました。

この品目群は、量としては大きくありません。しかし、重要度は極めて高い領域に偏っています。ジスプロシウムやテルビウムは高温環境で磁力を保つ高性能磁石に使われ、イットリウムは航空機エンジン部材の耐熱コーティングなどに関わります。USTRの2026年版報告書も、中国の希土類規制が自動車、航空宇宙、医療機器、無線通信機器、先端製造に影響し、2025年に複数国で一時的な工場停止を招いたと指摘しています。

中国側は、これを国際的に通常のデュアルユース管理だと説明しています。商務部は、軍民両用属性があり、合法的な民生用途には許可を出すという立場です。外交上の含意はここにあります。許可制であれば、中国は「禁輸ではない」と言いながら、審査の遅れ、用途確認、対象企業の扱いによって圧力を調整できます。

Reutersが2026年5月13日に報じた中国税関データによると、イットリウム、ジスプロシウム、テルビウムの輸出は2025年4月の規制導入前12カ月比でなお約50%低い水準です。総量ベースのレアアース輸出が回復して見えても、戦略品目では供給の細り方が別の動きを示しています。

10月拡大策が示した域外管理の射程

2025年10月9日の規制拡大は、さらに強い政治的メッセージを持っていました。中国商務部の公告第61号は、中国原産の希土類材料を含む海外製品、中国技術を使って海外で作られた希土類関連製品、中国原産の対象品目に対し、一定の場合に中国の二用途品輸出許可を求める枠組みを示しました。価値比率0.1%以上という低い閾値も明記されています。

この仕組みは、米国が半導体分野で使ってきた域外規制に対する中国版の応答といえます。公告は、海外軍事ユーザー向け、輸出管理リストやウォッチリスト上の最終需要者向け、大量破壊兵器、テロ、軍事用途に関わる申請を原則不許可としました。さらに、14ナノメートル以下のロジック半導体、256層以上のメモリ、潜在的軍事用途を持つAIの研究開発に関わる場合は、個別審査の対象とされています。

この10月規制は、2025年11月7日の商務部公告第70号で2026年11月10日まで停止されました。米中が韓国・釜山での会談後に緊張緩和へ動いたためです。しかし、停止されたのは10月の拡大策であり、4月規制は残っています。トランプ政権が「レアアース問題は解決した」と国内向けに語っても、企業の調達担当者から見れば、許可制の不確実性は消えていません。

中国がこのカードを有効に使える理由は、量ではなく工程の支配にあります。IEAは2026年4月の分析で、中国が磁石用レアアースの採掘で世界の約60%、精製で90%超、永久磁石生産でほぼ95%を占めると示しました。レアアースは鉱石があれば足りる素材ではなく、分離、精製、金属化、合金化、磁石製造、品質認証までの工程が一体で機能して初めて産業投入材になります。

トランプ政権を悩ませる同盟国への波及

米国単独では吸収できない供給衝撃

トランプ政権にとって難しいのは、中国の規制が米国だけでなく、日本や欧州にも同時に効く点です。Reutersは、2025年4月以降の価格動向として、中国外でジスプロシウムとテルビウムが4倍から5倍、イットリウムが約140倍に上昇したと報じています。磁石価格も規制前の1.5倍から3倍で取引される例があるとされます。

米国は鉱山を持っていますが、鉱山だけでは脆弱性を解消できません。ホワイトハウスの2026年1月の大統領措置は、米国が2024年時点で12の重要鉱物に100%純輸入依存であり、さらに29の重要鉱物で50%以上を輸入に頼っていると明記しました。米国は未加工の希土類酸化物では世界第2位の産出国とされる一方、国内処理能力が限られるため、精製や再輸入に依存しています。

この矛盾は、トランプ流の二国間ディールの限界を示しています。中国が大豆、航空機、LNG購入を約束しても、レアアースの許可審査が詰まれば、防衛産業や航空宇宙企業は製造計画を保守的に組み直します。米国大統領が首脳会談で得る政治的見栄えと、企業が調達契約に求める供給保証の間には距離があります。

さらに、米政府内の交渉目的も一枚岩ではありません。通商担当者は短期の市場安定を重視し、国防部門は軍需品の継続調達を優先し、議会は中国依存を減らす国内投資を求めます。首脳会談で「流れを確保する」と合意しても、どの企業に、どの品目を、どの期間で、どの用途まで認めるのかが曖昧なら、調達リスクは民間企業の在庫積み増しと価格転嫁として残ります。

日本と欧州が受ける第二波の圧力

同盟国への波及は、米国外交の足場にも関わります。日本は中国以外で希土類永久磁石を製造できる数少ない国で、S&P GlobalやCSISは日本の先端磁石・合金製造シェアを世界の約15%と位置づけています。米国が中国依存を下げるには、日本の技術、調達網、金融支援を取り込む必要があります。

ところが、Reutersが確認した中国税関データでは、日本は2025年4月以降、規制前12カ月に輸入していたジスプロシウムの4%しか受け取っておらず、ドイツはゼロと報じられました。これは米国向け制裁の副作用ではなく、北京が同盟国の産業基盤にも影響を及ぼせることを示すシグナルです。

欧州にとっても問題は深刻です。IEAは、10月規制が全面実施された場合、中国以外の国で年間6.5兆ドル相当の下流生産がリスクにさらされ、米国と欧州はそれぞれ1.5兆ドル超の潜在的損失に直面すると試算しました。自動車だけで3兆ドル超の直接損失リスクがあるという見立ては、欧州の産業政策に強い警告を発しています。

中国の狙いは、米国を孤立させることだけではありません。米国が同盟国と輸出管理や台湾政策で足並みをそろえようとするたびに、同盟国企業のサプライチェーン不安を高めることができます。これは軍事力を使わない抑止であり、許可証という行政手続きが外交カードになる典型例です。

脱中国を遅らせる鉱山から磁石までの壁

産業政策が埋めきれない時間差

トランプ政権は、レアアースで受け身に回っているだけではありません。商務省のCHIPSプログラムは2026年1月、USA Rare Earthに対し、2億7700万ドルの補助金案と13億ドルの融資を含む支援を発表しました。テキサス州Round Topでの採掘・処理、オクラホマ州StillwaterでのNdFeB磁石生産を結び、年1万トン規模の磁石生産能力を目指す計画です。

CSISの整理では、米政府は2025年以降、レアアースの採掘、分離、磁石製造に70億ドル超の資本を投じる姿勢を示しています。価格下支え、政府調達、備蓄構想、同盟国との共同投資が組み合わされ、かつての自由貿易型の調達政策から、国家が市場を形作る政策へ重心が移っています。

ただし、時間軸は中国に有利です。新しい鉱山や分離施設は、許認可、環境対応、資金調達、技術移転、顧客認証に年単位の時間がかかります。NISTの発表でも、USA Rare Earthの商業生産開始は2028年が見込まれています。北京が2026年11月まで停止している10月規制を再開するか、さらに条件を付けるかは、その前に訪れます。

技術と品質認証を握る供給網の現実

レアアース供給網の難しさは、採掘量だけでは説明できません。S&P Global Market Intelligenceは、中国が持つイオン吸着型粘土鉱床や重希土類の地質的優位、処理コストの低さ、下流工程との一体性を指摘しています。中国外の鉱床は硬岩に偏り、処理が複雑で費用も高い場合が多いのです。

IEAも、脱中国の課題として、資本、地質、分離技術、専門人材、インフラ、下流産業基盤の全てが必要だと説明しています。鉱山を一つ開けば代替できるわけではなく、磁石メーカーが採用できる品質で安定供給し、顧客の認証を通過する必要があります。防衛や航空用途では、材料の変更だけで安全評価が長期化します。

企業側にも制約があります。調達先を変えるには、品質監査、輸出管理の確認、保険、長期価格契約、顧客への再認証が必要です。希土類磁石は部品表の中では小さなコスト項目でも、モーター、センサー、誘導装置、航空機エンジンの性能を左右します。代替材の採用は、価格だけでなく、製品保証や安全基準の再設計を伴うため、危機が来てから数カ月で完了する作業ではありません。

この構造が、北京に交渉上の余裕を与えています。中国は完全禁輸に踏み切れば、国際的な反発と代替投資を加速させます。一方で、許可制を残し、民生用途の一部に一般許可を出し、戦略用途だけを細くする方が、相手側の不確実性を長く保てます。

OECDの2026年報告書は、重要原材料への輸出制限が2009年以降に5倍に増え、2022年から2024年にはレアアース輸出の45%が何らかの制限にさらされたと整理しています。中国だけの問題ではありませんが、中国は希土類と黒鉛で世界供給の約70%を占め、処理工程ではさらに強い地位を持つため、同じ制度変更でも影響が桁違いになります。

読者が注視すべき三つの交渉指標

今後の焦点は、首脳会談後の共同声明の美辞麗句ではなく、三つの実務指標です。第一に、2026年11月10日まで停止されている10月規制の扱いです。延長だけなら一時的な安心材料ですが、4月規制が残る限り、戦略品目の供給不安は続きます。

第二に、一般許可の範囲と期間です。中国商務部は2025年12月、欧州企業向けの長期ライセンスに関する質問に対し、一部の一般許可申請を受理・承認したと説明しました。対象企業、対象品目、有効期間が明確になるほど、市場の不確実性は下がります。逆に、個別許可中心なら中国の裁量は温存されます。

第三に、米国と同盟国の実生産量です。発表額、融資枠、覚書ではなく、何トンの分離酸化物、金属、合金、磁石が中国外で認証済み製品として流通するかが重要です。トランプ政権が習近平氏との取引で時間を買えるとしても、その時間を鉱山から磁石までの現物供給に変えられなければ、次の危機で同じ弱点が再び露出します。

レアアースは、米中対立の中で「小さな素材が大きな外交を動かす」典型になりました。投資家、企業、政策担当者が見るべきなのは、首脳同士の握手よりも、輸出許可の発行実績、同盟国向けの配分、そして中国外の処理能力です。そこに、トランプ外交が中国のカードを弱められるかどうかの答えがあります。

参考資料:

長谷川 悠人

米国政治・外交

米国政治の内幕を、ホワイトハウスから議会まで多角的に分析。政策決定のプロセスと日本への影響を鋭く読み解く。

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