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トランプ氏の対イラン猶予で原油反落 株安の背景を読み解く

by 三浦 愛子
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はじめに

2026年3月26日、トランプ米大統領はイランのエネルギー施設への追加攻撃を急がず、ホルムズ海峡の再開を求める期限を4月6日まで延ばす考えを示しました。これを受けて、原油は一段高の勢いがやや後退した一方、米国株は安心一色にはなりませんでした。原油が下がれば株は上がる、という単純な図式にならなかったのです。

背景には、ホルムズ海峡の通航不安、海上保険の引き受け縮小、エネルギー価格の家計への波及、そして「次に何が起きるか読めない」という政策不確実性があります。この記事では、なぜ原油が反落しても株式市場は重かったのか、エネルギーと金融市場のつながりを順を追って解説します。

原油が下がっても安心できない理由

猶予延長は「供給回復」ではなく「最悪シナリオの先送り」

AP通信によると、トランプ氏は3月26日、イランに対してホルムズ海峡の再開まで10日間の猶予を与えると説明しました。市場にとってこれは、直ちに軍事行動が拡大する確率が少し下がった、という意味を持ちます。そのため、原油先物には乗っていた「直近の戦争プレミアム」がいったん薄まりやすくなります。

ただし、ここで重要なのは、猶予延長は供給網の正常化そのものではないという点です。米エネルギー情報局(EIA)は3月の見通しで、2月27日に1バレル71ドルだったブレント原油が、軍事行動開始後の3月9日には94ドルまで上昇したと説明しました。物理的な施設被害が限定的でも、海峡が実質的に機能不全になれば価格は上がるということです。

EIAはまた、ホルムズ海峡を通る供給不安が続く限り、2026年第2四半期のブレント平均は91ドル程度にとどまりうるとみています。つまり、足元で少し値下がりしても、それは危機の解消ではなく「少し先送りされた高値圏」である可能性が高いのです。

ホルムズ海峡は一つの海峡ではなく、世界価格を決める装置

EIAによれば、ホルムズ海峡では2024年に日量2,000万バレルの石油が通過し、世界の石油液体燃料消費の約2割に相当しました。ここで止まるのは中東産原油だけではありません。世界全体の価格形成に影響する「基準点」が揺らぐため、米国が中東産原油への依存を以前より下げていても、国内ガソリン価格は無関係ではいられません。

さらに厄介なのが、海峡が法的に完全封鎖されなくても、商業上は止まることです。West of England P&I Clubが3月3日に紹介したリスク助言では、ホルムズ海峡の通航量は平時の138隻に対し24時間で28隻まで落ち、約80%減となりました。これは軍艦が海を閉じたというより、船主や保険会社が危険を織り込んで自発的に避けた結果です。

市場は、タンカーが通れない事態だけでなく、「通れるが高すぎて使えない」状態にも敏感です。保険料、警備費、迂回コスト、積み替え遅延が重なると、供給量だけでなく輸送効率そのものが落ちます。原油価格はこうした物流コストも含めて再評価されるため、値動きが不安定になります。

なぜ株式市場は売られたのか

株が嫌うのは高い原油よりも読めない政策

AP通信によれば、トランプ氏が猶予を表明した3月26日の米株式市場は、S&P500が1.7%安、ダウ工業株30種平均が469ドル安、ナスダック総合が2.4%安でした。原油が少し下がっても株が上がらなかったのは、市場が「安心」より「不透明感」を強く見たためです。

企業業績の観点では、エネルギー価格の上昇は輸送費、原材料費、電力コストの押し上げ要因になります。しかも、今回は戦況、交渉、制裁、海上警備、保険の可否が日単位で変わるため、企業が来期見通しを立てにくい状況です。株価は足元の原油の上下より、利益予想の不確実化に大きく反応します。

特にハイテク株が売られやすいのは、金利や将来利益への期待に敏感だからです。市場がインフレ再燃を警戒すると、中央銀行の利下げ余地が狭まるとの見方が広がり、成長株の評価が下がりやすくなります。原油安そのものより、戦争リスクが残る中で「インフレが長引くかもしれない」という想定が重荷になります。

家計への波及が見えると消費関連株は弱くなる

AAAは3月12日、全米平均のレギュラーガソリン価格が前週比で約35セント上がったと公表しました。さらにEIAは2026年の米小売ガソリン平均を1ガロン3.34ドルと見込んでいます。エネルギーショックは、ドライバーが払うガソリン代として早く可視化されるため、消費マインドを悪化させやすいのが特徴です。

家計がガソリンや光熱費に多く回すようになると、外食、旅行、耐久消費財、娯楽への支出は圧迫されます。株式市場はこうした二次的な需要減速を先回りして織り込むため、たとえ原油が一日単位で反落しても、小売りや輸送、消費関連に広く売りが出やすくなります。

ここで見落とされがちなのは、米国の消費者は「今いくらで給油したか」に強く反応することです。原油先物が1日で数ドル下がっても、小売価格に反映されるまでには時間差があります。投資家はそのラグを理解しているため、原油安イコール家計改善とすぐには判断しません。

注意点・展望

今回の局面でありがちな誤解は、原油が下がったなら危機は後退した、と決めつけることです。実際には、3月26日時点の値下がりは軍事行動の即時拡大が避けられたことへの反応であり、ホルムズ海峡の安全な恒常通航が戻ったわけではありません。供給不安、保険不安、報復リスクは引き続き残っています。

もう一つの注意点は、米国は産油国だから影響が小さい、という見方です。米国の原油生産量は大きいものの、価格は世界市場で決まります。EIAも、ホルムズ海峡をめぐる混乱が続けば中東の減産とリスクプレミアムがブレントを押し上げると見ています。国内需給だけで完結する話ではありません。

今後の焦点は、4月6日までに実際の通航量がどこまで回復するか、保険と船腹の供給が戻るか、そして外交交渉が市場の想定を上回る進展を示せるかです。逆に言えば、交渉が続く限り原油は乱高下しやすく、株式市場も一方向には動きにくい状態が続く公算が大きいです。

まとめ

今回の原油反落は、危機の終了ではなく、最悪シナリオの時間的後退を映したものです。一方で株安が続いたのは、ホルムズ海峡の物流障害、ガソリン高、企業収益の不透明化が同時進行しているからです。市場は「原油が少し下がった」ことより、「次の一手が読めない」ことを嫌っています。

読者として押さえたいのは、今後の相場を見る際に原油先物だけでなく、通航量、保険引き受け、ガソリン小売価格、そして交渉期限の具体的日付を同時に追うことです。2026年4月6日までは、エネルギーと株式の両市場が政治発言一つで大きく振れやすい局面だと考えるのが現実的です。

参考資料:

三浦 愛子

米国経済・金融市場

米国経済の構造変化を、金融市場・財政政策・産業動向の三軸で分析。ウォール街と実体経済のギャップを見抜く。

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