NewsAngle
NewsAngle

トランプ氏「不正」批判の郵便投票を自ら利用

by 長谷川 悠人
URLをコピーしました

トランプ氏のフロリダ郵便投票と矛盾

「郵便投票は郵便不正を意味する(Mail-in voting means mail-in cheating)」——トランプ大統領が繰り返し主張してきた言葉です。しかし2026年3月、そのトランプ大統領自身がフロリダ州の補欠選挙で郵便投票を利用したことが明らかになり、大きな注目を集めています。

パームビーチ郡の選挙管理委員会のウェブサイトによると、トランプ大統領の郵便投票は受理・集計されています。連邦議会では郵便投票を大幅に制限する「SAVE America法案」の審議が進む中、大統領自身の行動との矛盾が鮮明になっています。

フロリダ州補選での郵便投票

投票の経緯

トランプ大統領が郵便投票を利用したのは、フロリダ州議会の議席をめぐる補欠選挙です。民主党のエミリー・グレゴリー候補と共和党のジョン・メイプルズ候補が争うこの選挙で、トランプ大統領はマール・ア・ラーゴがあるパームビーチ郡の有権者として登録されており、郵便投票で一票を投じました。

CNNの報道によると、これはトランプ大統領が郵便投票を利用した最初の例ではありません。2020年のフロリダ州大統領予備選でも郵便投票を行っています。

「不正」主張との矛盾

トランプ大統領は長年にわたり、郵便投票が大規模な不正の温床であると主張してきました。2020年の大統領選挙では、郵便投票の拡大が自身の敗北につながったとする根拠のない主張を展開し、選挙結果の正当性を否定しました。

NBCニュースは「トランプ大統領は郵便投票を”不正行為”と呼びながら、再びフロリダで郵便投票を行った」と報じ、この矛盾を指摘しています。ワシントン・ポストも「自ら”郵便不正”と呼ぶ方法で投票した」との見出しで報じました。

SAVE America法案の内容と現状

法案の概要

トランプ大統領が推進する「SAVE America法案」(正式名称:Safeguard American Voter Eligibility Act)は、連邦選挙の有権者登録時に米国市民権の書面による証明を義務付けることを柱とする選挙改革法案です。

2026年2月11日に下院を218対213で通過しました。当初の法案は有権者ID強化と市民権証明の義務化に焦点を当てていましたが、トランプ大統領は法案に郵便投票の大幅制限も盛り込むよう要求しています。

郵便投票制限の例外規定

トランプ大統領が求める郵便投票制限では、以下の場合のみ郵便投票が認められるとしています。

  • 病気や障害がある場合
  • 海外駐留中の軍人
  • 旅行中の場合

しかしVotebeatの分析によると、法案が下院を通過した時点では、トランプ大統領が求める郵便投票の全面禁止は含まれていませんでした。上院の審議段階で修正案として追加される動きがあります。

上院での見通し

上院では、共和党がフィリバスター(議事妨害)を廃止するための票数を確保できておらず、法案の成立は不透明です。ブレナン・センター・フォー・ジャスティスは「新しいSAVE法案は依然として数百万のアメリカ人を投票から排除する」と批判しています。

郵便投票をめぐる事実と誤解

不正の実態

トランプ大統領の主張に反して、大規模な郵便投票の不正は確認されていません。米国の選挙管理当局は、郵便投票には署名照合や本人確認など複数の不正防止策が組み込まれていると繰り返し説明しています。

キャンペーン・リーガル・センターは、SAVE America法案が「投票の自由を脅かす」と警告し、法案が解決しようとしている問題——非市民による不正投票——は実際にはほとんど存在しないと指摘しています。

郵便投票の歴史

米国における郵便投票の歴史は南北戦争時代にまでさかのぼります。前線の兵士が投票権を行使するために導入されたこの制度は、現在では多くの州で広く利用されています。特にコロナ禍以降、郵便投票の利用率は大幅に増加し、有権者の投票アクセスを確保する重要な手段となっています。

2026年中間選挙を控えたSAVE法案の行方

トランプ大統領自身が郵便投票を利用したことは、郵便投票制限の議論に複雑な影を落としています。大統領の行動と主張の矛盾は、政策の正当性に疑問を投げかけるものです。

2026年の中間選挙を控え、選挙制度改革は引き続き政治の焦点となります。SAVE America法案の上院での行方、各州での郵便投票に関する訴訟の動向、そして有権者の投票行動への影響を注視する必要があります。

米国の選挙制度は連邦制のもとで州ごとに異なるため、仮に連邦レベルで制限が導入されても、実際の運用は州によって大きく異なる可能性があります。

郵便投票批判とSAVE法案が映す投票アクセス問題

トランプ大統領が郵便投票を「不正行為」と非難しながら自ら利用したことは、米国の選挙制度をめぐる議論の矛盾を象徴しています。SAVE America法案は下院を通過したものの、上院での成立は不透明な状況です。

この問題は単なる政治的なダブルスタンダードにとどまらず、有権者の投票アクセスという民主主義の根幹に関わるテーマです。2026年中間選挙に向け、郵便投票をめぐる議論の行方は米国の民主主義の今後を占う試金石となるでしょう。

参考資料:

長谷川 悠人

米国政治・外交

米国政治の内幕を、ホワイトハウスから議会まで多角的に分析。政策決定のプロセスと日本への影響を鋭く読み解く。

関連記事

トランプ選挙改革、SAVE法案が変える米投票制度の大きな焦点

トランプ氏が求めるSAVE法案と選挙大統領令は、登録時の国籍証明、郵便投票期限、州有権者名簿の連邦照合を一体化する構想です。下院を220対208で通過した法案が上院と裁判所で止まるなか、本人確認強化が投票権、州権限、2026年中間選挙に及ぼす影響を読み解く。非市民投票という政治メッセージの効果も検証。

最新ニュース

東独AfD躍進に見る欧州極右、郷愁と失われた誇りの選挙政治化

独AfDが2025年総選挙で20.8%、仏RNが欧州議会選で31.37%を得た背景には、移民不安だけでなく郷愁と地位喪失感がある。東西格差、EU不信、主流政党への失望、社会的孤立が国民アイデンティティの政治を強める構図を、選挙結果と世論調査、学術研究から検証し、中道勢力と安全保障上の課題を読み解く。

AGIハウス問題で問われるAI共同生活と安全管理の構造的盲点

サンフランシスコ周辺でAI人材を集めるAGI Houseは、投資家・研究者・創業者を結ぶ強力な場となる一方、騒音、交通、商業利用、ハラスメント対応など住宅コミュニティの脆さも映す。生成AI投資が住宅地へ流れ込む構図と法的責任を踏まえ、ハッカーハウスの価値と規制、安全管理、信頼設計の課題を深く読み解く。

中国人民解放軍粛清、張又侠失脚が映す習近平体制の揺らぐ統制限界

2026年9月21日、中国共産党が中央軍委元副主席の張又侠と劉振立を党籍・軍籍から除名し、軍事検察へ移送した。巨額収賄だけでなく「不忠誠」「団団伙伙」が問われた点に、習近平体制が人民解放軍を統制し直す政治的狙いがにじむ。台湾有事や米中首脳外交への影響、軍の実戦能力、軍政関係の深層構造までを読み解く。

CNNら取材排除訴訟が問うトランプ政権と報道自由の深刻な危機

CNN、MS NOW、Politicoがホワイトハウス取材排除をめぐりトランプ政権を提訴。第一修正とデュープロセス、テレビプール停止、AP訴訟の先例が交錯する争点を整理し、国連総会や対中外交の可視性、政府による報道選別が米民主主義と同盟国の情報判断に及ぼす影響、日本の読者が注視すべき論点まで読み解く。

国連総会に集まるAI危機と停戦不在、次期事務総長選びの行方分析

第81会期の国連総会はガザ、ウクライナ、スーダンなどの戦争に加え、AI統治、気候危機、パンデミック対策、次期事務総長選びを同時に抱える。1億人規模の強制移動と危機下教育の数字に目を向けながら、安保理の停滞、米中対立、財政難のなかで多国間協力をどう再設計できるか、何が実務上の焦点になるのかを読み解く。