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米情報機関がイラン開戦前の脅威評価と矛盾を露呈

by 安藤 誠
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はじめに

2026年3月18日、米国上院情報委員会で開催された年次脅威評価公聴会が、大きな波紋を呼んでいます。国家情報長官(DNI)のトゥルシー・ガバード氏とCIA長官のジョン・ラトクリフ氏が、イランのミサイル能力について開戦前に大きな変化は確認されていなかったと証言しました。この証言は、トランプ政権がイラン攻撃の根拠として挙げていた「差し迫った脅威」という主張と真正面から矛盾するものです。

2月28日に開始された「エピック・フューリー作戦」から約3週間、政権幹部が初めて公の場で議会に対して証言した今回の公聴会は、米国の対イラン軍事行動の正当性を問う重要な転換点となっています。

情報機関の評価とホワイトハウスの主張の乖離

核濃縮プログラムに関する評価

ガバード長官は上院情報委員会に提出した書面の冒頭声明で、2025年6月の「ミッドナイト・ハンマー作戦」によってイランの核濃縮プログラムは「壊滅した」と記述しました。さらに「その後、濃縮能力を再建しようとする動きは確認されていない」と明記しています。

しかし注目すべきは、ガバード長官がテレビ中継された口頭証言では、この部分を意図的に読み飛ばしたことです。なぜ省略したのかと問われると「時間が足りなかった」とだけ回答しました。この不自然な対応は、ホワイトハウスの立場と情報機関の評価との間で板挟みになっている状況を浮き彫りにしています。

ミサイル能力に関する情報評価

国防情報局(DIA)の評価によると、イランが米国本土に到達可能な大陸間弾道ミサイル(ICBM)を保有できるのは2035年頃とされています。これは「数か月以内にも」米国を脅かすミサイルを開発中だというトランプ大統領の主張とは大きくかけ離れた見通しです。

ラトクリフCIA長官も、ミッドナイト・ハンマー作戦によりイランの核濃縮活動は停止していたと認め、「イランは60%までのウラン濃縮能力を失った」と述べました。これらの証言は総合的に、イランが開戦時に米国に対する差し迫った脅威を構成していなかった可能性を示しています。

ケント辞任とトランプ政権内の亀裂

国家テロ対策センター長の辞任

公聴会の前日である3月17日、ガバード長官の側近でもあった国家テロ対策センター(NCTC)所長のジョー・ケント氏が辞任しました。ケント氏は辞表をSNSプラットフォームXに投稿し、「イランは我が国に対する差し迫った脅威を構成していなかった。イスラエルとその強力な米国内ロビーからの圧力によってこの戦争が始まったことは明らかだ」と述べました。

ケント氏はグリーンベレー出身でイラクでの戦闘任務を11回経験した退役軍人です。妻がシリアでの任務中に自爆テロで殺害された経歴もあり、安全保障問題に対する信頼性は高いとされています。トランプ大統領はこの辞任について「彼は安全保障に弱腰だった」と一蹴しましたが、保守派コメンテーターのタッカー・カールソン氏は「ジョーは私が知る中で最も勇敢な人物だ」と擁護しました。

変遷する開戦理由

トランプ政権がイラン攻撃を正当化するために挙げた理由は、この数週間で繰り返し変化しています。上院情報委員会のマーク・ワーナー筆頭委員によると、作戦の目標は少なくとも4~5回変わったとされています。当初はイランの核能力の排除、次に弾道ミサイルの破壊、その後トランプ大統領自身の言葉では体制転換、そしてイラン艦隊の撃沈へと移り変わりました。

上院公聴会での激しい追及

オソフ議員との応酬

ジョージア州選出のジョン・オソフ上院議員(民主党)は、イランが「差し迫った核の脅威」を構成していたかどうかを繰り返しガバード長官に問いただしました。ガバード長官がこの質問に直接回答することを避けたため、オソフ議員は「あなたが直接回答しないのは、回答がホワイトハウスの声明と矛盾するからだ」と厳しく指摘しました。

一方、上院情報委員会委員長のトム・コットン議員(共和党、アーカンソー州)は、他のアナリストの推定を引用し、イランが「早ければ6か月以内に」米国を脅かすICBMを保有できた可能性があると主張しました。しかし、この見解はDIAの公式評価とは異なるものです。

年次脅威評価報告書の注目点

2026年の年次脅威評価報告書では、ロシア、中国、北朝鮮、イラン、パキスタンが核・通常弾頭を搭載した各種ミサイルシステムの研究開発を進めていると指摘しています。ただし、イランについては米国本土への差し迫った脅威としてではなく、中長期的な潜在的脅威として位置づけられています。

注意点・展望

今回の公聴会で明らかになった情報機関の評価と政権の主張との矛盾は、イラン戦争の法的正当性を根本から揺るがす可能性があります。米国法の下では、大統領が議会の承認なく軍事力を行使できるのは「差し迫った自衛」の場合に限られます。国際法上も、主権国家への攻撃には差し迫った脅威の存在が求められます。

軍備管理協会のダリル・キンボール事務局長は、イランの弾道ミサイルと核能力に関する即時的または中期的な脅威の主張は「入手可能な証拠によって裏付けられていない」と指摘しています。今後、議会での戦争権限をめぐる議論がさらに激化することが予想されます。

まとめ

米情報機関トップの証言により、イランのミサイル能力が開戦前に大きく変化していなかったことが公式に確認されました。ケント氏の辞任、変遷する開戦理由、そして書面と口頭での証言の食い違いは、トランプ政権の対イラン軍事行動の正当性に深刻な疑問を投げかけています。

この問題は単なる政治的対立を超え、民主主義国家における情報機関の独立性と、軍事力行使における法の支配という根本的な原則に関わるものです。今後の議会審議と司法判断が、米国の外交・安全保障政策の方向性を大きく左右することになるでしょう。

参考資料:

安藤 誠

南アジア・中東情勢

南アジア・中東を中心に、宗教・民族・歴史の深層から国際情勢を分析。長年の現地経験に基づく多層的な視座が持ち味。

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