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トランプ政権の移民審査再開、裁判所が問う出生国行政と難民保護

by 村上 詩織
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USCIS再開表明に至った司法判断の重み

トランプ政権は2026年6月12日、停止していた庇護や移民給付の審査を再開する方針を裁判所に示しました。きっかけは、ロードアイランド連邦地裁のジョン・J・マコネル首席判事が、USCISの停止政策を違法として無効化した命令です。

今回の争点は、単に役所の処理が止まったかどうかではありません。庇護、就労許可、永住権、市民権という、生活の基盤に直結する手続を、出生国だけで一括停止できるのかが問われました。安全保障を理由にした強い行政権と、個別審査を前提にした移民法制の境界が、あらためて司法の場で可視化された形です。

39カ国停止政策が生んだ法的空白

マコネル判事の6月5日命令は、USCISが導入した4つの政策を行政手続法に反すると判断しました。対象になったのは、渡航禁止対象国の出身者に対する移民給付停止、全般的な庇護判断停止、すでに承認された申請の包括的再審査、そして国ごとの事情を否定的要素として扱う政策です。

裁判所は、これらの政策がアフリカ、アジア、中南米、中東の39カ国出身者を、個別の行動ではなく「出生国」によって法的な宙づり状態に置いたと整理しました。申請者の多くは、必要書類を出し、手数料を払い、指紋採取や面接にも応じていました。それでも最終判断が止まり、働けるか、家族と暮らせるか、米国に定着できるかを見通せなくなっていました。

4つの停止措置が示す制度横断性

第1の「給付停止政策」は、渡航禁止対象国の出身者について、永住権や就労許可など幅広い移民給付の最終判断を止めるものでした。第2の「グローバル庇護停止政策」は、出身国にかかわらず庇護や送還差し止めに関する判断を止める内容です。

第3の「包括的再審査政策」は、すでに承認された案件も再び検証の対象にしました。第4の「国別要素政策」は、申請者本人の事情だけでなく、その人の出身国の文書管理や情報共有の状況を、否定的な判断材料として使うものです。これらが組み合わさることで、入国の可否だけでなく、米国内で合法的に暮らすための手続全体に影響が広がりました。

政府側は、移民国籍法1182条f項などに基づく大統領の入国制限権限を根拠にしました。しかし裁判所は、国外からの入国を制限する権限と、すでに米国内にいる申請者の給付審査を止める権限は同じではないとみました。さらに、政策変更の理由説明、申請者の信頼利益への配慮、国家安全保障という説明の実質性にも疑義を示しました。

即時効をめぐる追加命令

6月11日の追加命令は、政府の対応の遅さに対する強い警告でした。政府は控訴と執行停止を求めるため、行政手続法上の請求について一部最終判決を出すよう求めました。一方、原告側は、すでに無効化された政策をUSCISがなお実務で使い続けているとして、命令の履行を促しました。

裁判所は、無効化された行政政策は命令が出た時点で効力を失うと明確に述べました。そのうえで、USCISに24時間以内の状況報告を命じ、職員や内部システムが停止政策を前提に申請を止めないよう、具体的な対応を求めました。ワシントン・ポストによると、USCIS幹部は裁判所への宣誓書で、国民への通知、職員への指示、内部システムの調整を行うと説明しています。

難民保護と国家安全保障の衝突点

停止政策の背景には、2025年11月26日にワシントンD.C.で起きた州兵銃撃事件があります。報道によれば、アフガニスタン出身のラフマヌラ・ラカンワル被告が、ホワイトハウス近くでウェストバージニア州兵2人を銃撃したとされ、サラ・ベックストロムさんが死亡し、アンドリュー・ウルフさんが重傷を負いました。

ラカンワル被告は2021年、アフガニスタン撤退後の「Operation Allies Welcome」を通じて米国に入り、米国側に協力した経歴が報じられています。さらに、2025年にはトランプ政権下で庇護を認められていました。事件後、政権はアフガニスタン関連の移民申請停止、全庇護判断の停止、19カ国出身のグリーンカード保有者の再審査などを相次いで打ち出しました。

一事件から一括停止へ広がる政策範囲

国家安全保障上のリスクを点検すること自体は、政府の重要な役割です。問題は、個別事件への対応が、国籍や出生国を単位とする一括停止に広がった点にあります。6月の大統領布告では12カ国に全面的な入国制限、7カ国に部分的な制限が課され、12月には対象が39カ国へ拡大しました。

入国制限は、国外から米国に入ろうとする人を対象にする政策です。しかし今回の裁判で中心になったのは、すでに米国内で手続を進めている人々です。庇護申請者、学生から雇用ベースに身分変更しようとする研究者、家族に基づく永住権申請者、市民権宣誓を待つ永住者まで、行政の一括停止は生活の複数の段階に及びました。

ガーディアンの解説は、庇護停止がUSCISに係属する約150万件に関係する一方、移民裁判所に残る約240万件の庇護案件には直接及ばないと整理しています。この数字は、停止政策の影響が「国境管理」だけではなく、国内で制度に従って申請している人々の生活時間に及ぶことを示しています。

家族・学校・職場へ波及する待機期間

移民手続の停止は、書類上の遅延にとどまりません。就労許可が出なければ、家賃や医療費を払う収入が断たれます。永住権の判断が止まれば、進学、奨学金、職業資格、家族呼び寄せの計画も不安定になります。市民権の宣誓直前で止められた人にとっては、投票権や公的雇用への道も先送りになります。

子どもへの影響も見落とせません。親の就労許可や在留資格が揺らぐと、転居、転校、医療保険の喪失が起きやすくなります。難民や庇護申請者の家庭では、母語支援、トラウマケア、学校との連絡調整が必要になることも多く、法的な宙づり状態は教育アクセスの不安定化に直結します。

裁判所が重視した「信頼利益」は、この現実と結びついています。移民制度は、申請者に費用、時間、身元情報の提出を求めます。その見返りとして、法に基づく個別判断があるはずです。政府が安全保障を理由に全体を止めるなら、なぜその手段が必要で、なぜより狭い方法では足りないのかを説明する責任があります。

控訴と執行停止が残す制度リスク

再開表明は申請者にとって重要な前進ですが、制度が元に戻ったと見るのは早計です。政府は控訴し、執行停止を求める意向を示しています。上級審が停止を認めれば、少なくとも一部の手続は再び滞る可能性があります。仮に今回の4政策が維持されなくても、政府が新たな理由づけや手続を整えて、別の形で審査を絞る余地も残ります。

この問題は、より広い合法移民抑制の流れの中にあります。Axiosは1月、渡航禁止対象国の旅券保有者をめぐる別訴で、数百万人ではなくとも数十万人規模の人々が法的な宙づりに置かれていると報じました。2月には国務省の75カ国向け移民ビザ停止をめぐる訴訟も起き、ガーディアンは、その政策が移民ビザ申請のほぼ半分に影響するとする原告側の主張を伝えています。

さらに、6月にはDHSに約700億ドルの追加資金を与える移民執行関連法が成立しました。内訳としてICEに380億ドル、CBPに260億ドル、DHS全般に50億ドルが振り向けられると報じられています。司法が審査再開を命じても、現場の資源配分が拘束・送還・取締りへ傾けば、合法手続の処理能力が十分に回復しない恐れがあります。

もう一つのリスクは、対象国の偏りです。ガーディアンの分析では、入国制限対象39カ国のうち22カ国が、ノートルダム大学の気候脆弱性指標で最も脆弱な4分の1に入る国でした。紛争、貧困、気候災害の影響を受ける地域ほど、保護を求める必要性が高い一方、米国への制度的アクセスが狭められている構図です。

申請者と支援団体が確認すべき焦点

今後の焦点は、USCISが実際にどの案件を再開し、どの内部指示やシステムを修正したかです。裁判所が命じた状況報告、公開される実務通知、控訴審での執行停止判断を追う必要があります。申請者側は、停止期間中の遅延、失効した就労許可、面接や宣誓式の再設定を個別に確認することが重要です。

この裁判が示したのは、合法移民の手続も政治的危機のたびに止まり得るという現実です。同時に、行政機関が安全保障を掲げる場合でも、法律の根拠、個別審査、理由説明を免れるわけではありません。再開表明の意味は、処理再開そのものに加え、出生国を理由に生活基盤を止める行政に司法が歯止めをかけた点にあります。

参考資料:

村上 詩織

移民・難民・教育格差

移民・難民・教育格差など、社会の周縁に置かれた人々の声を丁寧に取材。制度と現実のギャップを浮き彫りにする。

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