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欧州ユダヤ施設への連続攻撃とイランの関与疑惑

by 石田 真帆
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はじめに

2026年3月に入り、欧州各地でユダヤ教関連施設を標的にした攻撃が相次いでいます。ベルギーのリエージュにあるシナゴーグへの爆発物攻撃を皮切りに、オランダのロッテルダムやアムステルダム、さらにはロンドンでも事件が発生しました。これらの攻撃の背後には、イランと関連があるとされる新興テロ組織「ハラカト・アスハブ・アルヤミン・アルイスラミーヤ」の存在が浮上しています。

米国とイスラエルによるイランへの軍事作戦が始まった2026年2月末以降、欧州のユダヤ人コミュニティは深刻な脅威にさらされています。本記事では、一連の攻撃の経緯と背景、イランとの関連性、そして各国政府の対応策について詳しく解説します。

欧州各地で相次ぐユダヤ施設への攻撃

ベルギー・リエージュのシナゴーグ爆発

2026年3月9日未明、ベルギー東部の都市リエージュにある歴史的なシナゴーグで爆発が発生しました。爆発は午前4時頃に起こり、建物のファサードに大きな損傷を与え、シナゴーグの窓だけでなく、道路を挟んだ向かいの建物の窓も吹き飛ばしました。幸いにも負傷者は出ませんでしたが、ベルギー内務大臣はこの事件を「反ユダヤ的行為」として強く非難しました。

この爆発は、ベルギー当局によってテロ攻撃の可能性があるとして捜査が開始されました。事件後、ベルギー政府は即座にユダヤ施設周辺の警備を強化する方針を発表しています。

オランダでの連続攻撃

ベルギーでの事件に続き、オランダでも攻撃が相次ぎました。3月13日にはロッテルダムのシナゴーグの入口に火炎瓶が投げ込まれる放火攻撃が発生しました。さらに同日夜には、アムステルダムのユダヤ系学校でも爆発が起きています。

アムステルダムの爆発は、市内のバイテンフェルデルト地区にある学校の外壁を直撃しました。この地区はアムステルダムの現代的なユダヤ人居住区として知られ、シナゴーグやユダヤ系レストランが集中しています。アムステルダム市長はこの攻撃を「ユダヤ人コミュニティを標的にした攻撃」と明言しました。

ロンドンとアントワープへの波及

攻撃はさらに広範囲に波及しています。3月23日には、ロンドン北部でユダヤ人コミュニティ救急サービスの救急車4台が放火される事件が発生しました。英国当局はイランの関与を疑い、捜査を進めています。

ベルギーのアントワープでも、ユダヤ人が多く住む地区で自動車が放火される事件が起こりました。この事件では未成年者2人が逮捕され、反ユダヤ的動機による犯行として扱われています。アントワープは欧州最大級のユダヤ人コミュニティを擁する都市の一つです。

謎の新興テロ組織「アスハブ・アルヤミン」の正体

組織の出現と主張

一連の攻撃について犯行声明を出したのが、「ハラカト・アスハブ・アルヤミン・アルイスラミーヤ(イスラム右方の仲間運動)」と名乗る組織です。この組織は2026年3月初旬、米国・イスラエルによるイランへの軍事作戦が開始された直後に突如として姿を現しました。

組織はCBSニュースに対して、今後も「米国とイスラエルの利益を世界中で標的にする」と宣言しています。しかし、この組織の実態については多くの疑問が残されています。

イランおよびカタイブ・ヒズボラとの関連

イスラエルの離散民省は、アスハブ・アルヤミンがイランと関連するテロ組織であると警告を発しています。安全保障の専門家たちは、この組織がイランの代理勢力ネットワークの一部である可能性を指摘しています。

イランの代理勢力を研究するフィリップ・スミス氏は、イラクのシーア派民兵組織「カタイブ・ヒズボラ」が攻撃の調整とSNSでの情報発信を担当しているとの「作業仮説」を示しています。同氏によれば、アスハブ・アルヤミンは実在する組織ではなく、「イランが影響力を持つ欧州各地の分散したセルのために攻撃を主張するよう作られたフロント組織」である可能性が高いとのことです。

組織のロゴには、地球を背景にライフルを持つ手が描かれており、カタイブ・ヒズボラ、レバノンのヒズボラ、イラン革命防衛隊(IRGC)のロゴと類似した特徴が見られます。

イランのテロネットワーク構築

英国のメディア「ザ・ナショナル」の報道によると、イランは欧州でのテロネットワーク構築を進めています。このネットワークには、大使館に関連する自国エージェント、革命防衛隊によって訓練されたフリーランスの工作員、そして組織犯罪を通じた契約暗殺者が含まれるとされています。

オランダでは、イランがイラク系シーア派の亡命者を欧州での「地下軍」として勧誘しているとの懸念が浮上しています。実際に逮捕者も出ており、イランの欧州でのテロ活動の広がりを示唆しています。

各国政府の安全保障対応

ベルギーの軍隊展開

ベルギー政府は5年ぶりに国内の街頭に軍隊を展開する決定を下しました。兵士たちはまずブリュッセルとアントワープに配備され、その後リエージュにも展開されています。兵士たちは警察とともにユダヤ教関連の礼拝施設や教育機関の警備にあたっています。

ベルギーの議員たちは、ユダヤ人コミュニティの安全を確保するための追加措置が必要であると強調しています。

イタリアとフランスの対応

イタリアでは、ローマの歴史的なユダヤ人居住区であるゲットー地区の警備を強化しました。兵士が大シナゴーグ周辺をパトロールしており、反ユダヤ的事件の急増に対応しています。

フランスでも、当局がユダヤ施設を標的にしたテロ計画を未然に阻止したと発表しています。各国の対テロ機関が連携を強化し、情報共有を進めている状況です。

英国の捜査体制

英国の対テロ当局も、欧州大陸の対テロ機関と連携して捜査に加わっています。アスハブ・アルヤミンの組織実態の解明と、彼らが主張する攻撃に実際に関与しているのかどうかの検証が進められています。

注意点・展望

一連の攻撃は、米国・イスラエルとイランの軍事衝突が世界各地のユダヤ人コミュニティに波及するリスクを明確に示しています。専門家たちは、攻撃が今後さらにエスカレートする可能性を警告しています。

イランの代理勢力研究者であるマグヌス・ランストープ氏は「我々はまだ始まりにすぎない」と述べ、長期化する脅威への備えが必要であると指摘しています。低コストで実行可能な放火や爆発物攻撃が主体であることから、犯罪ネットワークやメッセージングアプリを活用した攻撃の指示が行われている可能性があります。

一方で、アスハブ・アルヤミンの組織としての実態が不明確であることは注目に値します。フロント組織としての性質上、攻撃の実行者は必ずしも組織的なテロリストではなく、地元の犯罪者や過激化した個人が関与している可能性もあります。このため、従来のテロ対策とは異なるアプローチが必要になるかもしれません。

まとめ

2026年3月、欧州各地でユダヤ施設を標的にした攻撃が相次いでいます。ベルギー、オランダ、英国、さらにはその他の国々でも事件が発生し、背後にはイランと関連するとされる新興組織「アスハブ・アルヤミン」の存在が浮上しています。各国政府は軍隊の展開や警備強化で対応していますが、攻撃の手法が低コストかつ分散型であるため、完全な防止は困難です。

国際的な連携による情報共有と、各地域のユダヤ人コミュニティへの支援がこれまで以上に求められています。今後の捜査の進展と、イランの関与の全容解明が注目されます。

参考資料:

石田 真帆

国際安全保障・欧州情勢

欧州・中東の安全保障問題を中心に、軍事と外交の接点から国際秩序の変動を伝える。

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