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グリーンカード国外申請化で家族分断招くトランプ政権新方針の波紋

by 村上 詩織
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国外申請化が揺さぶる米永住権制度

米国市民権・移民局(USCIS)は2026年5月22日、米国内にいる一時滞在者がグリーンカードを求める場合、原則として国外の米大使館・領事館で手続きを進めるべきだとする新方針を公表しました。これまで多くの申請者に使われてきた「在米中のステータス調整」を、通常の手続きではなく「例外的救済」と位置づける内容です。

焦点は、単なる申請窓口の変更にとどまりません。配偶者や子どもと暮らす人、米国企業で働く専門職、難民・人道的保護を受けている人が、審査のためにいったん米国外へ出ることを迫られる可能性があります。本稿では、政府発表、国務省のビザ手続き資料、統計、移民法の条文を照合し、制度変更がどこまで広がり得るのかを整理します。

在米申請から領事手続きへの転換点

国内完結ルートを狭める政策判断

グリーンカード取得には、大きく分けて二つの道があります。国外にいる人が米国領事館で移民ビザを受ける「領事手続き」と、すでに米国内にいる人が永住者へ身分を切り替える「ステータス調整」です。USAGovは2026年3月時点で、非移民ビザ保持者が米国内に滞在したまま永住者になる手続きとしてステータス調整を説明していました。

今回の方針は、その理解を大きく狭めます。USCISの発表は、学生、短期労働者、観光客などの非移民は本来、許可された滞在目的が終われば出国する制度設計だと説明しました。そのうえで、米国内での滞在をグリーンカードへの第一歩にするべきではないという理屈を掲げています。

ただし、制度の実務は長く別の形で運用されてきました。AP通信は、半世紀以上にわたり、合法的に米国内にいる外国人が永住権手続きを国内で完結できたと報じています。対象には米国市民の配偶者、就労・学生ビザ保持者、難民や庇護を受けた人などが含まれてきました。

USAFactsによると、2023年度に米国で永住権を得た人は約117万人です。そのうち家族スポンサーが64.6%、雇用ベースが16.7%、難民・庇護関連が8.5%を占めました。2024年度第1〜第3四半期だけでも98万100人にグリーンカードが発給されており、制度の規模は小さくありません。

「例外的救済」化の法的な重み

政府側の核心は、ステータス調整を「裁量」による救済として扱う点です。8 U.S.C. §1255は、入国審査を受けて入国または仮入国した人が、申請、移民ビザの資格、入国可能性、ビザ番号の即時利用可能性などを満たす場合、当局の裁量で永住者に調整され得ると定めています。

この条文に「裁量」が含まれること自体は新しい話ではありません。司法省移民審査局も、ステータス調整の要件として、入国または仮入国、承認済み請願、ビザ番号の利用可能性、入国可能性に加え、裁量に値することを挙げています。争点は、裁量審査を使って、国内申請を事実上の例外扱いにできるのかという点です。

ABCニュースは、移民弁護士や米国移民弁護士協会関係者の見方として、この政策は米国市民の配偶者、合法就労者、人道的仮入国者などに広く影響し得ると報じました。移民法上、合法的に検査・入国した人には国内での調整を認める枠組みがあるため、政策メモだけで条文の実質を変えられるのかは訴訟で争われる可能性があります。

重要なのは、現時点で「全ての国内申請が直ちに無効になる」と断定できないことです。USCIS発表は、職員が全ての関連事情を個別に見るとしています。一方で、国内申請が不利な裁量要素として扱われるなら、申請者はこれまでより重い説明責任を負うことになります。制度の入口は残っていても、通過基準が急に曖昧で厳しくなる構図です。

家族分断と雇用継続に広がる影響

配偶者・子どもに及ぶ待機の負担

最も大きな影響を受けるのは、米国内で生活基盤を築いた家族です。米国市民や永住者の配偶者、子ども、親がステータス調整を使ってきた背景には、審査中も同居や介護、子育てを続けられる利点がありました。国外での領事手続きが原則になると、申請者本人だけでなく、家計や養育を担う家族全体が移動と待機を引き受けることになります。

国務省のNVC案内によると、USCISが移民請願を承認した後、案件はナショナル・ビザ・センターに送られ、手数料、申請書、財政証明、民事書類などの確認を経て面接に進みます。家族呼び寄せの一部では比較的早く進む場合がありますが、雇用ベースや優先順位付き家族カテゴリーでは、ビザ公報の優先日が重要になります。

国務省の2026年5月ビザ公報では、家族スポンサー優先カテゴリーの年間上限が22万6000、雇用ベース優先カテゴリーが少なくとも14万と示されています。国別上限は全体の7%、つまり2万5620です。こうした上限があるため、米国外へ出ればすぐ面接を受けられるわけではありません。

さらに、領事館ごとの面接待機には大きな地域差があります。国務省の移民ビザ面接待機ツールでは、東京は多くの区分で2026年3〜4月に文書完備となった案件を扱う一方、マニラでは一部区分で2022〜2023年の案件が表示されています。家族がどの国で面接を受けるかによって、分離期間は数カ月から数年規模へ広がり得ます。

企業と人道保護を直撃する不確実性

雇用面でも、影響は深刻です。Pew Research Centerは、2023年に約120万人がグリーンカードを受け、うち約19万7000人が雇用ベースだったと整理しています。専門職や研究者、医療従事者、技術者の中には、H-1Bなどの一時就労資格から永住権へ移る過程で、ステータス調整を前提に生活設計を組んできた人が少なくありません。

国内申請が難しくなれば、企業は従業員を一定期間失うリスクを織り込む必要があります。領事館面接の時期、追加審査、行政処理の長期化、入国制限の対象国かどうかなど、雇用主が管理できない変数が増えます。特にビザ公報で優先日が後退する「レトログレッション」が起きれば、国外に出た従業員が戻れない期間が読みにくくなります。

人道保護の文脈では、さらに重い問題があります。AP通信は、旅行禁止やビザ処理停止の対象国の人が帰国を求められれば、再入国できない危険があると指摘しました。国務省は2026年1月1日から、大統領布告10998に基づき39カ国の国民とパレスチナ自治政府発行文書の利用者に入国・ビザ発給の停止または制限を課しています。

この布告では、以前の例外だった米国市民の近親者向け移民ビザ、養子縁組関連ビザ、アフガン特別移民ビザの一部例外が削られました。NAFSAの整理では、19カ国とパレスチナ自治政府文書の利用者が全面的制限、20カ国が部分的制限の対象です。国内にいる人へ国外申請を求める政策は、こうした入国制限と重なることで、単なる手続き変更を超えた帰国不能リスクを生みます。

難民や庇護を受けた人、戦争や政治的迫害から逃れてきた人にとって、「母国で申請してください」という指示は現実的でない場合があります。帰国先で安全が確保できない人、米国協力者として標的になり得る人、子どもの医療や教育を米国で受けている家庭ほど、出国の負担は重くなります。制度の形式だけを見れば一時的な移動でも、生活の現場では家族の分断や保護の空白につながります。

領事館待機と訴訟が生む制度リスク

この政策には、少なくとも三つのリスクがあります。第一に、領事館処理能力の問題です。NVCは、必要書類の確認後、面接枠は大使館・領事館の空き状況に左右されると説明しています。面接能力、現地事情、人員、審査期間、ビザ公報の変化が待機時間を左右するため、国内で働きながら待つ制度から、国外で見通しなく待つ制度へ変わる恐れがあります。

第二に、法的安定性の問題です。条文上、ステータス調整は裁量を伴う一方、一定の要件を満たす人が申請できる制度として組み込まれています。政権が政策メモで「例外的救済」と再定義した場合、裁量の範囲と議会が定めた制度の範囲の境界が争点になります。早期に差し止め訴訟が起きれば、申請者は方針の有効性すら不確かなまま判断を迫られます。

第三に、行政の説明不足です。AP通信は、既に申請中の人に新方針がどう及ぶのか、国外で審査を待つ期間の扱いがどうなるのかが明確ではないと伝えています。既存のI-485申請、労働許可、渡航許可、家族の派生申請がどの時点で影響を受けるのかが見えなければ、弁護士や支援団体も助言を統一しにくくなります。

申請者と支援者が確認すべき論点

当面、申請者が最初に確認すべきなのは、自分の申請類型、現在の在留資格、入国方法、優先日、出身国・国籍が入国制限やビザ処理停止に関係するかどうかです。特に、出国後に再入国できない可能性がある人は、安易に国外へ出る判断を避け、移民法に詳しい専門家へ個別事情を示して相談する必要があります。

支援者や雇用主は、制度変更を「合法移民だけの事務手続き」と見ないことが重要です。家族の同居、子どもの教育、職場の人員計画、難民保護の継続が同じ一本の手続きに結びついています。今後の焦点は、USCISが「例外的状況」をどう定義するか、既存申請に遡って適用するか、裁判所が政策メモの効力をどう判断するかです。

グリーンカード制度は、米国で暮らす人の生活を不安定にしないための調整弁でもありました。今回の方針は、その調整弁を国外の領事館へ移す試みです。制度の公平性を論じるなら、不正対策だけでなく、家族分断を避ける仕組み、領事館の処理能力、帰国できない人への保護例外を同時に検証することが欠かせません。

参考資料:

村上 詩織

移民・難民・教育格差

移民・難民・教育格差など、社会の周縁に置かれた人々の声を丁寧に取材。制度と現実のギャップを浮き彫りにする。

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