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イラン戦争が暴く再エネ移行の中間地帯と新たな脆弱性の実像

by 坂本 亮
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イラン戦争が示す再エネ移行の中間地帯

2026年のイラン戦争は、中東情勢の緊迫化だけでなく、世界のエネルギー転換がどこまで進み、どこでまだ止まっているのかを浮き彫りにしました。再生可能エネルギーの拡大は続いているものの、輸送、化学、発電のバックアップ、鉱物精錬、海上輸送の多くは依然として化石燃料と地政学的な海上ルートに強く依存しています。

このため、戦争が起きると「再エネの時代なのになぜ原油高で世界が揺れるのか」という疑問が生まれます。答えは、移行が未完了だからです。この記事では、ホルムズ海峡の重要性、IEAが進めた緊急備蓄放出、再エネ拡大の実態、そして重要鉱物の集中という四つの要素から、エネルギー転換の「中間地帯」を読み解きます。

化石燃料ショックがなお世界を揺らす構造

ホルムズ海峡に残る巨大な依存

米エネルギー情報局 EIA によると、ホルムズ海峡を通過した石油は2024年平均で日量2,000万バレルに達し、世界の石油液体消費の約20%に相当しました。LNG でも依存は大きく、2024年には世界の LNG 取引の約20%がこの海峡を通過しています。とくにカタールの LNG はアジア向け比率が高く、日本や韓国、インド、中国にとって海峡の安定は直接的なエネルギー安全保障の問題です。

今回の戦争では、この一点集中の弱さが一気に表面化しました。ロイターは3月中旬、戦争によってエネルギー価格が押し上げられ、重要原材料や物流網にも広い混乱が出ていると報じました。原油や LNG は代替ルートが限られ、海峡閉塞や保険料上昇、寄港地変更が重なると、現物不足が起きなくても価格は先に跳ねます。再エネが増えても、輸送燃料や石油化学、産業熱、バックアップ電源の多くがなお化石燃料に依存している以上、経済全体のショック吸収力はまだ十分ではありません。

IEA の緊急備蓄放出が示した現実

国際エネルギー機関 IEA は3月11日の共同対応で、加盟国が計4億バレルの石油を市場へ供給可能にする方針を決め、15日には地域別の実施計画を公表しました。これは、供給途絶に対する国際協調の機能がまだ石油を中心に組み立てられていることを意味します。電力の脱炭素が進んでも、危機対応の主役はなお戦略備蓄原油です。

この点は象徴的です。世界は再エネ拡大で前進している一方、有事の安全弁は依然として化石燃料で支えています。移行が進んでいるのではなく、古い仕組みと新しい仕組みが長く併存しているのが実態です。

再エネ拡大と重要鉱物集中のねじれ

再エネは拡大しているが系統と産業構造は追いつかず

IEA の「Renewables 2025」によると、世界の再生可能電源容量は2030年までに4,600GW増え、ほぼ倍増する見通しです。増加分の約8割は太陽光が占めます。これは、戦争や産油国リスクを減らす方向としては明確な前進です。太陽光や風力は一度設備が動けば、燃料そのものを海峡経由で運ぶ必要がありません。

ただし、ここに誤解があります。発電設備が増えても、送電網、蓄電、需要調整、予備力、電化投資が同時に進まなければ、石油とガスの価格変動から経済全体を切り離すことはできません。再エネ拡大は必要条件ですが、十分条件ではありません。今回の戦争で市場が最初に反応したのが原油と LNG だったのは、世界経済がなお「燃料価格の経済」であることを示しています。

脱炭素の先にある重要鉱物の集中

もう一つの難しさは、再エネや蓄電池が化石燃料依存を減らす一方で、重要鉱物への依存を高めることです。IEA の「Global Critical Minerals Outlook 2025」では、2040年までに STEPS シナリオでリチウム需要が5倍、黒鉛とニッケル需要が2倍、銅需要が3割増になる見通しが示されました。しかも精錬は一段と集中しており、2024年時点で主要な重要鉱物の上位3カ国の精錬シェア平均は86%に達しています。

つまり、化石燃料の海上チョークポイントを減らしても、今度は鉱物の採掘・精錬・加工の集中が新たな安全保障問題になります。IEA は、主要供給国に障害が起きた場合、電池金属の持続的な供給ショックで電池パック価格が40〜50%上昇し得ると分析しています。これは、クリーンエネルギーの導入コストや製造競争力が、別のボトルネックに縛られる可能性を意味します。

石油・LNG依存と分散化の課題

再エネか化石燃料かという二項対立の限界

今回の危機でありがちな誤解は、「やはり化石燃料は必要だ」と「だから再エネへ急げ」のどちらか一方で全て説明しようとすることです。実際には両方とも半分だけ正しい見方です。短期には、現実の経済を回すために石油と LNG の安定供給が欠かせません。同時に、中長期には、その依存を減らさなければ同じショックを繰り返します。

したがって重要なのは、再エネ導入量だけで政策を測らないことです。送電網、蓄電池、需要側の電化、産業熱の転換、鉱物調達の分散、リサイクル、戦略備蓄まで含めて見なければ、移行の安全保障は評価できません。

次の焦点は分散と冗長性

今後の論点は、供給源をどれだけ分散できるかに移ります。石油と LNG では航路や備蓄、鉱物では精錬能力の多極化、電力では系統増強と蓄電の普及が鍵です。戦争は再エネ移行を止める材料ではなく、むしろ「導入量の拡大だけでは足りない」と教える材料になっています。

系統・蓄電・鉱物供給網の全体設計

イラン戦争が示したのは、再エネ移行の失敗ではありません。移行が進んでいる一方で、世界経済の基盤がなお化石燃料と海上チョークポイントに強く結び付いているという未完了の現実です。有事に IEA が石油備蓄を放出し、原油と LNG の価格が世界の株式や物価を揺らす構図は、その象徴です。

同時に、再エネの拡大は確実に進んでいます。だからこそ次の課題は、発電量を増やすことより、系統・蓄電・鉱物供給網を含む全体設計へ移ることです。エネルギー転換の本当の勝負は、発電の脱炭素と安全保障の分散化を同時に達成できるかどうかにあります。

参考資料:

坂
坂本 亮

テクノロジー・サイエンス

宇宙開発・AI・バイオテクノロジーなど最先端の科学技術を、社会的インパクトの視点から読み解く。技術と倫理の交差点を追い続ける。

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