Microsoft永住権停止で問われる米雇用ビザ制度の公平性
PERM停止が映す米移民政策の転換点
トランプ政権がMicrosoftなど複数の企業を、雇用ベース永住権の前提となるPERM労働認証手続きから一時的に排除しました。AP通信やReuters配信の報道によれば、政権はH-1Bなどの就労ビザと永住権申請が米国人労働者の雇用を損ねていると主張し、企業と大学への調査を広げています。
ただし、問題の核心は「外国人労働者が多いか少ないか」だけではありません。PERMは米国人労働者の機会を守る制度である一方、すでに米国で働き、家族を築き、地域社会に根を下ろした移民労働者の生活設計にも直結します。摘発の正当性、企業側の反論、留学生や研究者への波及を分けて見る必要があります。
Microsoft名指しの根拠と制度構造
PERMとH-1Bの役割の違い
今回の停止対象になったのは、一般に「グリーンカード・プログラム」と呼ばれる雇用ベース永住権の入口です。中心にあるのは労働省のPERM労働認証で、企業は米国内で適格な労働者を採用できないこと、外国人雇用が賃金や労働条件を悪化させないことを示す必要があります。労働省のFLAGサイトも、PERMを雇用主主導の恒久雇用向け認証制度として説明しています。
H-1Bはこれとは別に、専門職向けの一時就労ビザです。労働省の説明では、雇用主はH-1B労働者に実際賃金または prevailing wage の高い方を支払う義務があります。つまり、H-1Bは「米国で働くための一時資格」、PERMは「永住権申請に進むための労働市場テスト」という位置づけです。両者は接続していますが、同じ制度ではありません。
政権側は、この接続部分に不正の温床があると見ています。副大統領のJD・バンス氏は、Microsoftが米国人を削減しながら外国人労働者を利用していると批判しました。AP通信によると、Microsoftのほか、Adobe、Cognizant、Infosys、Tata Consultancy Servicesなども手続き停止の対象に含まれています。
ただし、行政が「不正」と表現しても、それだけで個別申請の違法性が確定するわけではありません。労働省が申請処理を止め、追加監査や証拠提出を求める段階と、裁判や行政手続きで違反が認定される段階は分けて考えるべきです。この区別を曖昧にすると、企業の問題がそのまま外国人労働者個人への疑念にすり替わります。
数字の読み方をめぐる対立
政権が強調したのは、レイオフとビザ利用の並行です。Reuters配信は、政権がMicrosoftについて米国人労働者の削減とH-1B・永住権関連申請を結びつけて批判したと報じました。Axiosも、労働省がMicrosoftなどの新規・係属中PERM申請の処理を止めたと伝えています。
一方、Microsoftは公式声明で、政権側の数字の読み方に反論しました。同社は、H-1B関連の多くは既存従業員の延長やステータス変更であり、新規に海外から大量採用したものではないと説明しています。また、米国従業員の大半は米国人で、H-1B従業員の割合は小さいと主張しています。
この対立は、移民政策で頻繁に起きる「件数」と「実態」のずれを示しています。たとえばH-1B承認件数には、新規雇用だけでなく更新、雇用主変更、勤務地変更などが含まれる場合があります。PERM申請も、採用済みの従業員の永住権手続きを進めるものが多く、直ちに新しい雇用枠を意味するわけではありません。
もちろん、企業側の説明をそのまま受け入れる必要もありません。PERMの求人広告が形式的で、米国人応募者を実質的に排除するよう設計されていれば、制度の趣旨に反します。労働省が2025年に始めた「Project Firewall」は、H-1B労働者による置き換え、不十分な求人活動、虚偽表示などを重点調査の対象に掲げています。必要なのは、政治的な名指しではなく、申請ごとの証拠に基づく検証です。
大学と留学生へ広がる監督強化
J-1調査とOPT手数料案の接点
今回の監督強化は、企業だけに向けられていません。Reuters配信やAP通信によると、政権はHarvard、MIT、Stanford、Brown、Yaleなど複数の大学にも調査を広げ、J-1交流訪問者制度の利用実態を問題視しています。J-1は国務省が所管する教育・文化交流の制度で、学生、研究者、教授、インターンなど幅広いカテゴリーを含みます。
J-1制度そのものは、低賃金労働の抜け道として設計されたものではありません。国務省の説明では、米国での教育・文化交流を目的とする制度です。BridgeUSAの公式サイトも、参加者カテゴリーとして大学生、教授、研究者、専門家などを挙げています。研究室や大学病院では、J-1研究者が実験、共同研究、教育支援を担う場面も少なくありません。
同時に、制度が広いほど悪用の余地も生まれます。研究名目で実態は単純労働に近い業務をさせる、適切な監督や賃金条件を欠く、留学生や若手研究者が身分維持の不安から声を上げにくいといった問題は起こり得ます。移民・教育格差の観点では、ここで守るべき対象は米国人労働者だけではありません。制度に依存する外国人学生や研究者も、搾取されやすい立場にあります。
さらに政権は、OPTにも大きな手数料を課す案を示しています。AP通信は、DHS案が初回OPTに7万ドル、その後の申請に3万ドルの手数料を課す内容だと報じました。連邦官報に掲載された案も、OPT関連手数料の新設を明記しています。OPTは米国の大学を卒業した留学生が実務経験を得る制度であり、とくにSTEM分野では卒業後のキャリア形成に重要な役割を果たしてきました。
研究現場と家族に及ぶ不確実性
手数料や調査が強まると、影響は大企業の採用部門だけにとどまりません。大学院生、ポスドク、研究補助者、配偶者、子どもまで生活設計が揺れます。ビザや永住権の審査が止まれば、転職、住宅購入、子どもの進学、介護のための一時帰国など、日常的な判断まで難しくなります。
米国の移民制度は、雇用主との結びつきが強いことが特徴です。H-1B労働者は雇用主を失うと在留資格に直結するリスクを抱えます。PERMが止まれば、同じ企業で長く働いてきた人でも永住権への道が見えにくくなります。企業の申請実務に問題があった場合でも、その不利益を最も早く受けるのは、しばしば企業ではなく労働者本人です。
大学にも似た構図があります。J-1やOPTの制約が強まるほど、資金力のある大学や大企業は法務対応で乗り切りやすくなります。一方で、地方大学、小規模研究機関、奨学金に頼る学生は選択肢を失いやすくなります。教育機会の格差は、国境を越えて再生産されます。
ここで重要なのは、不正対策と排外的な一括排除を混同しないことです。制度の悪用を防ぐ監査は必要です。しかし、すべての外国人学生や技術者を潜在的な不正利用者として扱えば、米国が長年築いてきた研究・教育の吸引力を損ないます。透明な手続き、個別審査、労働者保護を同時に設計することが不可欠です。
不正対策が生む人材競争力の副作用
トランプ政権の主張には、国内労働者を守るという政治的な説得力があります。テック業界ではレイオフが続き、高賃金職でも雇用不安が広がっています。米国人労働者が「企業は人手不足と言いながら外国人を使って賃金を抑えている」と感じる土壌は確かにあります。
一方で、制度の厳格化が必ず米国人雇用を増やすとは限りません。AI、半導体、クラウド、サイバーセキュリティなどの分野では、専門人材の国際的な争奪が続いています。米国での永住見通しが不安定になれば、優秀な学生や技術者はカナダ、英国、EU、シンガポールなどへ進路を変える可能性があります。
企業側にも改革すべき点はあります。米国人労働者の育成を怠り、ビザ労働者に依存する採用モデルを続ければ、政治的反発は強まります。求人要件を過度に細かく設定し、実質的に既存の外国人従業員だけが通るようにするPERM運用があれば、制度への信頼は崩れます。
それでも、行政による広範な停止措置には副作用があります。申請者本人が不正に関与していないのに、永住権手続きが止まるケースが生じます。企業の採用判断を正すための処分が、移民労働者の生活と研究現場を人質に取る形になれば、公正な労働市場の実現から遠ざかります。
公正な対策には三つの条件があります。第一に、どの企業のどの申請に問題があるのかを明確にすることです。第二に、違反企業への制裁と労働者本人の保護を分けることです。第三に、米国人労働者の再訓練や賃金改善を、移民規制だけに押し込めないことです。移民を減らせば雇用不安が消えるという単純な図式では、労働市場の構造問題は解けません。
読者が見極めたい三つの確認軸
今回のMicrosoftへのPERM停止は、トランプ政権の移民政策が企業・大学・個人の生活へ同時に及ぶことを示しました。読者が注視すべき点は、労働省が今後どのような証拠を示すのか、停止措置が個別審査へ移るのか、それとも広範な政治的圧力として続くのかです。
もう一つの確認軸は、企業の説明責任です。Microsoftを含む大手企業は、H-1BやPERMの利用実態、米国人採用、賃金水準、育成投資をより透明に示す必要があります。制度への信頼は、政府の監督だけでなく、雇用主の開示によっても支えられます。
最後に、移民労働者と留学生の保護です。不正対策は必要ですが、生活基盤を米国に置く人々を一括して不安定化させる政策は、社会の分断を深めます。雇用保護と高度人材の受け入れを両立させるには、政治的な名指しよりも、証拠、透明性、救済手続きに基づく制度運用が求められます。
参考資料:
- AP News: Microsoft and other companies are being suspended from a green card program
- Investing.com: US freezes Microsoft, Adobe, Infosys green-card applications over alleged fraud
- Axios: Trump’s foreign worker crackdown comes for Microsoft, Adobe and IT firms
- Microsoft On the Issues: Microsoft statement on H-1B visa program
- U.S. Department of Labor FLAG: Permanent Labor Certification
- U.S. Department of Labor: H-1B Program
- U.S. Department of Labor: Project Firewall
- U.S. Department of State: Temporary Worker Visas
- U.S. Department of State: Exchange Visitor Visa
- BridgeUSA: Participants
- AP News: International students on OPT could see new fees under DHS proposal
- Federal Register: Practical Training Reform for Certain F-1 Nonimmigrant Students
移民・難民・教育格差
移民・難民・教育格差など、社会の周縁に置かれた人々の声を丁寧に取材。制度と現実のギャップを浮き彫りにする。
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