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トランプ強制送還で米建設雇用が縮む構図と住宅供給の不安リスク

by 村上 詩織
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強制送還が雇用政策を揺さぶる背景

トランプ政権の移民摘発強化は、米国の雇用政策をめぐる前提を揺さぶっています。政権側は、在留資格のない移民を職場から排除すれば、米国生まれの労働者に仕事が戻ると説明してきました。ところが、コロラド大学ボルダーの研究者がNBERで公表した分析は、逆の経路を示しています。

焦点は、移民労働者と米国生まれの労働者が本当に同じ仕事を奪い合っているのかという点です。建設、農業、製造などの現場では、低賃金で危険度の高い作業を担う移民労働者がいなくなると、企業は米国生まれの労働者を多く雇うのではなく、受注や生産そのものを縮小する場合があります。雇用は椅子取りゲームではなく、工程全体で成り立つ仕組みだという視点が重要です。

ICE摘発後に雇用が減る因果経路

比較対象となった58地域

コロラド大学ボルダーの発表によると、研究は連邦政府のCurrent Population Survey、いわゆるCPSを使っています。CPSは毎月約5万9,000世帯を対象にする雇用調査です。研究者はこれにICEの逮捕データを組み合わせ、2025年1月から10月にかけてICE摘発が急増した58地域と、そうでない地域を比較しました。

米国の公的調査は回答者の在留資格を直接尋ねません。そのため、研究は出生地、学歴、産業などから「在留資格がない可能性が高い労働者」を推計しています。この点は限界である一方、実際の移民取締データと月次雇用データを結びつけたことで、摘発強化の直後に地域労働市場がどう変わるかを追う設計になっています。

結果は、政策目的と食い違います。ICE摘発が急増した地域では、地域に残る「在留資格がない可能性が高い」移民の就業が平均4%減りました。さらに、最終学歴が高校以下の米国生まれ男性の雇用も平均1.3%減ったとされます。研究は、移民がいなくなった分を米国生まれ労働者が埋めたという証拠を見つけていません。

賃上げではなく生産縮小

雇用が置き換わるなら、企業は賃金を上げて米国生まれの労働者を呼び込むはずです。しかし研究発表では、ICE摘発後に企業が賃上げで代替労働力を集めた証拠も、米国生まれ労働者の雇用機会が増えた証拠も確認されていません。むしろ、必要な工程を担う人手が抜けることで、企業が仕事量を減らす構図が示されています。

研究者は、ある地域で調査期間中に1,200人がICEに逮捕または拘束された場合、在留資格がない可能性が高い労働者の就業が約7,574人減り、同時に高校卒以下の米国生まれ男性の雇用も約1,200人減ると推計しています。言い換えれば、男性の無許可移民労働者6人が労働市場から消えるごとに、米国生まれ男性1人の仕事も失われる計算です。

この「冷却効果」は、強制送還された人だけに限られません。摘発への恐れから通勤、買い物、通院、学校への送り迎えを控える人が増えれば、働いているはずの人も現場から離れます。地域の商店やサービス業にも需要減が及び、移民家庭の不安が周囲の雇用を押し下げる連鎖が起きます。

建設業で米国生まれに波及する理由

現場を支える移民労働の偏在

建設業で影響が強く出る理由は、移民労働が特定の工程に集中しているためです。Pew Research Centerの2025年推計では、2023年時点で米国の無許可移民は1,400万人に達し、そのうち労働力人口は970万人でした。無許可移民は米国労働力の5.6%ですが、建設業では労働力の15%を占めています。

NAHBの2026年分析は、より広い外国生まれ労働者の存在感を示しています。2024年、移民労働者は米国の建設労働力全体の26.3%に達し、建設職人では3分の1を占めました。乾式壁・天井タイル施工では57%、左官・スタッコ職では56%、屋根工では53%、塗装工でも53%が外国生まれです。

ここで重要なのは、職種のすみ分けです。移民労働者は、危険で体力負担が大きく、天候や季節に左右されやすい現場作業に多く就いています。一方、米国生まれの労働者は、電気工、配管工、現場管理、販売、事務など、別工程を担うことが少なくありません。基礎や内装の人手が不足すれば、後続工程の仕事も発生しにくくなります。

住宅供給に残る人手不足の圧力

建設業の労働不足は、摘発強化の前から住宅供給を制約していました。NAHBが紹介したHome Builders Instituteの報告では、住宅建設分野の熟練労働者不足による年次影響は、保有コスト増が26億6,300万ドル、一戸建て住宅の供給損失が81億4,300万ドル、合計108億600万ドルと試算されています。失われる一戸建て住宅は1万9,000戸とされています。

同じ報告は、住宅建設の給与所得者が330万人いる一方、住宅建設・改修業者が過去12か月で2万6,100人の雇用を失ったとも示しています。人手不足の中で移民摘発が強まれば、企業は単に高い賃金で空席を埋めるだけでは済みません。資格、経験、安全教育、移動距離、現場の言語環境などが壁になります。

政府統計にも弱いシグナルがあります。Census BureauとHUDの2026年3月の新設住宅建設統計では、建築許可は年率換算137万2,000戸で、前月比10.8%減、前年同月比7.4%減でした。住宅着工は同150万2,000戸と増えましたが、建築許可は将来の供給を映す先行指標です。労働供給の不安定化は、金利や建材価格と並ぶ住宅供給リスクになります。

雇用統計に隠れる三つの見落とし

第一の見落としは、全国の雇用統計だけでは地域の痛みが見えにくい点です。BLSによると、2026年4月の非農業部門雇用者数は前月比11万5,000人増で、建設業は「ほぼ横ばい」でした。これは労働市場全体がすぐ崩れたことを意味しませんが、ICE摘発が集中した地域や職種の損失は全国平均に埋もれます。

第二の見落としは、摘発の規模と手法の変化です。Deportation Data Projectは、2026年3月10日までのICEデータを分析し、政権交代後にICE逮捕が4.4倍、路上などでの逮捕が11倍になったと報告しています。ICE逮捕・拘束後の国内からの送還は、2024年後半の月平均と比べ、2026年1月に5倍へ増えました。労働者本人だけでなく、家族や同僚の行動にも影響する規模です。

第三の見落としは、移民家庭を地域経済から切り離して考える危うさです。Pewは、2023年時点で無許可移民の親と暮らす18歳未満の米国生まれの子どもが約460万人いると推計しています。摘発への恐れは、労働供給だけでなく、家計の消費、通学の安定、医療アクセスにも影を落とします。雇用政策の副作用は、労働者本人の賃金表だけでは測れません。

もちろん、研究結果は万能ではありません。NBERのICE研究はワーキングペーパーであり、法的地位の推計には代理指標を使っています。住宅市場の停滞には金利、建材費、地域規制も関わります。ただし、別のNBER研究も、大規模送還で短期的に米国生まれ労働者の実質賃金がわずかに上がる可能性を認めつつ、長期的には資本蓄積の縮小により全州で実質賃金が下がると試算しています。問題は、雇用を守る政策が総需要と生産能力を同時に傷つけうる点です。

読者が注視すべき住宅と労働の指標

今後見るべき指標は、移民逮捕件数だけではありません。建築許可、住宅完成戸数、建設業の求人、職種別賃金、地域別の労働参加率を合わせて確認する必要があります。とくに建設業では、労働者数よりも「どの工程の人手が抜けたか」が供給制約を左右します。

政策論としては、取締りの是非を単純な雇用競争の話に閉じ込めないことが重要です。無許可移民の不安定な立場を放置すれば、低賃金や労働安全の問題も続きます。一方で、強制送還を急拡大すれば、米国生まれ労働者の仕事、住宅供給、地域の家計まで巻き込む損失が生まれます。読者が注視すべきなのは、誰かの仕事を誰かが奪ったという物語ではなく、現場を成り立たせる労働のつながりです。

参考資料:

村上 詩織

移民・難民・教育格差

移民・難民・教育格差など、社会の周縁に置かれた人々の声を丁寧に取材。制度と現実のギャップを浮き彫りにする。

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