米国ホームレス人口が過去最大減、トランプ政権の成果を徹底検証
69万8,425人が示す過去最大減の実像
米住宅都市開発省(HUD)は2026年11月6日、同年1月の一晩にホームレス状態だった人が69万8,425人となり、前年から6.3%減少したと発表しました。減少数は4万7,227人で、比較可能な全国統計が整った2007年以降では最大です。
「2025年に過去最大減」という表現は、2025年1月から2026年1月までの変化を指します。2025年調査も前年の過去最多から3.3%減っており、今回は2年連続の改善です。ただし、2016年の底だった54万9,928人をなお約27%上回ります。記録的減少の要因を見極めるには、政権の説明だけでなく、移民流入、自治体政策、住宅支援の時間差を分けて考える必要があります。
全国減少を生んだ移民収容縮小と地域政策
2年連続減少を支えたシェルター人口の反転
PIT(Point-in-Time)調査は、各地のContinuum of Careと呼ばれる地域組織が、1月の一晩にシェルターや路上、車内などで暮らす人を数える仕組みです。シェルター利用者は行政データ、屋外生活者は職員やボランティアの巡回を中心に把握します。
HUDの今回の発表は全国総数だけで、シェルター利用者、屋外生活者、家族、退役軍人などの内訳をまだ示していません。しかし、自治体の公表値を集計したCommunity Solutionsの独立分析は、公式発表に近い動きを事前に捉えていました。
同団体は、2025年の全国人数の74%を占める182地域を分析し、2026年の全国人数を約69万9,700人と推計しました。実際のHUD発表との差は約1,300人です。182地域のうち103地域で人数が減った一方、79地域では増えており、全国一律の改善ではありません。
同分析では、シェルター内のホームレス状態が7.4%減り、屋外生活者は4.8%減ったと推計されています。両方を比較できる165地域のうち61地域では、屋外生活者が減る一方、シェルター利用者は横ばいか増加しました。これは路上から屋内への移動が進んだ地域があることを示しますが、恒久住宅への転居まで確認した数字ではありません。
全米ホームレス問題終結同盟の独立推計も、全体で6.7%、シェルター利用者で7.9%、屋外生活者で4.9%の減少を見込みます。その一方、長期化と障害を条件とする慢性ホームレスは1.0%増えたと推計しており、人数の減少と深刻層の改善は同義ではありません。
地域差から浮かぶ単一原因論の限界
今回の減少を理解する鍵は、2022年から2024年に急増した移民向け緊急シェルターの反動です。2025年調査では、ニューヨーク州とイリノイ州だけで前年より約2万3,800人減り、その規模は全国の減少幅の9割を超えました。
NBERの研究は、ニューヨーク、シカゴ、マサチューセッツ、デンバーで増えた亡命希望者が、2022年から2024年に生じた全米のシェルター人口増加の約59~62%を説明すると推計しています。したがって、その流入が落ち着けば全国総数が大きく下がる構造でした。
ニューヨーク市では、2025年1月から2026年1月までに亡命希望者の平均シェルター人口が1万8,664人、38%減少しました。これに対し、亡命希望者以外の減少は1,097人、約2%です。国境通過者の減少は重要ですが、緊急施設の閉鎖や退所、他地域への移動も数字を動かします。
地域別の濃淡も無視できません。Community Solutionsの集計では大都市、郊外、地方の全類型で減少したものの、ロサンゼルス、シアトル・キング郡、ラスベガス・クラーク郡では屋外生活者の増加が他地域の改善を一部相殺しました。全国平均だけでは、住宅費や支援能力が異なる都市の実情を説明できません。
Housing Firstを巡る因果関係の攻防
政権が掲げる国境管理とTreatment First
HUDは減少について、トランプ政権の国境管理、治安対策、路上キャンプ規制が成果を上げたと説明しています。2025年7月の大統領令は、野営禁止や違法薬物規制を執行する自治体への補助金優先、民事収容の活用、治療参加を住宅支援の条件にする方向性を打ち出しました。
一方、自治体が公共空間での野営を規制できるとした連邦最高裁のGrants Pass判決は2024年6月で、トランプ氏の再就任前です。判決は規制を合憲としたものであり、野営撤去が恒久住宅への移行や全国人数の減少を生んだと証明したわけではありません。
政策効果を判断するうえでは実施時期も重要です。今回のPIT調査は2026年1月に行われましたが、Treatment Firstを明確に優遇する2026年度の主要なContinuum of Care補助金公募は同年6月に発表されました。治療・回復サービスや参加義務を採点で優遇する新制度が、半年近く前の調査結果を生んだとは考えられません。
国境管理の強化は2025年中のシェルター流入を抑えた可能性がありますが、HUDは因果分析を公表していません。しかも、全国人数は第2次トランプ政権が発足した2025年1月の調査ですでに減少へ転じていました。今回の記録を一つの政権施策だけに帰属させるには、時間軸の整合性が不足しています。
住宅安定に強い一方で残る治療効果の課題
Housing Firstは、断酒や治療への参加を入居条件にせず、まず恒久的な住居を提供し、その後に医療や就労支援を提案する方式です。支援団体は、2025年まで利用された住宅バウチャー、恒久支援住宅、地域向け補助金が、時間差を伴って2026年の数字に表れたと主張しています。
2026年に公表された57研究の迅速レビューでは、Housing FirstはTreatment Firstや通常支援より住宅の安定性を一貫して改善しました。一方、薬物使用や精神状態への効果は研究によって異なり、住居の確保だけで依存症や重い精神疾患まで解決するとは限りません。
米疾病対策センターが収録する26研究の系統的レビューも、Treatment Firstとの比較で、Housing Firstがホームレス状態を減らし、住宅安定性を高めたと報告しています。ただし、個別プログラムの参加者を対象とした結果であり、全国の総人数や都市の治安をそのまま説明するものではありません。
保守系シンクタンクのCicero Instituteは、恒久住宅への偏重が一律的になり、治療、自立、事業者の成果検証を弱めたと批判してきました。同研究所の分析によれば、2026年度の新しい補助金制度は、治療・回復サービスや参加義務を採点上優遇し、従来より多くの資金を新規事業の競争に回します。
争点は「住宅か治療か」という二者択一ではありません。退去や失業で一時的に住居を失った世帯、長期の路上生活と重い障害を抱える人、移民向け緊急施設の利用者では必要な支援が異なります。住宅安定性、治療継続率、再度ホームレスになる割合を別々に測り、対象者に応じて制度を組み合わせる必要があります。
単夜調査と政策転換に潜む三つのリスク
第一のリスクは計測誤差です。PIT調査は一晩の在庫を測る統計で、1年間にホームレス状態を経験した延べ人数ではありません。友人宅を転々とする人、自費でモーテルに泊まる人、病院や刑務所などにいる人は原則として含まれず、天候や巡回人員による過少把握も生じます。
第二のリスクは、路上から見えなくなることを「解決」と誤認する点です。野営撤去後に恒久住宅へ移ったのか、別の自治体へ移動したのか、拘禁や一時収容に変わったのかで政策評価は大きく異なります。HUDの総数だけでは、この移動経路を判別できません。
第三のリスクは、連邦資金の急激な組み替えです。恒久支援住宅の家賃補助を短期間で縮小すれば、すでに入居している高齢者や障害者が再び路上へ戻る恐れがあります。反対に、Housing Firstの看板だけで治療能力や治安面の成果を検証しなければ、慢性ホームレスの増加を止められません。財政支援の変更は、翌年以降の住宅在庫と自治体の医療・警察コストに波及します。
次回統計で確認すべき三つの分岐点
今後は、HUDが公表する属性別の正式データで、シェルター利用者、屋外生活者、慢性ホームレスがそれぞれ減ったのかを確認する必要があります。次に、地域の行政データから、新規流入、恒久住宅への移行、再流入の三つを追うことが重要です。
さらに、2026年度の補助金変更が反映される2027年以降のPIT調査が政策評価の分岐点になります。住宅市場を見る際は家賃、空室率、低価格住宅の供給を、自治体財政ではシェルター、救急医療、警察の支出を併せて確認すべきです。過去最大減を持続的な転換にできるかは、人数の政治的な奪い合いではなく、安定居住と健康回復を同時に測れるかにかかっています。
参考資料:
- HUD Announces Largest Decrease in Homelessness
- HUD Releases 2025 Annual Homelessness Assessment Report to Congress
- 2026 Overall Homelessness Estimates
- 2026 National Homelessness Estimate
- Long-Awaited Federal Data Shows the First Overall Reduction in Homelessness Since 2016
- What Does HUD’s 2025 Point-in-Time Count Tell Us?
- HUD Estimates of Homelessness
- Ending Crime and Disorder on America’s Streets
- City of Grants Pass v. Johnson
- Housing-Based Support Models for Individuals Experiencing Homelessness
- Permanent Supportive Housing with Housing First
- California’s Exposure Under the FY2026 Homelessness Assistance CoC NOFO
- Asylum Seekers and the Rise in Homelessness
- New York by the Numbers―February 2026
- HUD 2025 Annual Homelessness Assessment Report Analysis
米国経済・金融市場
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