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アルテミスII月面フライバイ成功――52年ぶりの有人月周回

by 坂本 亮
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52年ぶりの有人月周回――アルテミスIIフライバイの全貌

2026年4月6日、NASAの有人宇宙船「オリオン」が月面フライバイを成功させ、1972年のアポロ17号以来、実に52年ぶりとなる有人月周回飛行を実現しました。4月1日にケネディ宇宙センターから打ち上げられたアルテミスIIミッションには、4名の宇宙飛行士が搭乗しています。フライバイ前日のイースター(復活祭)には、クルーが地上に祝福のメッセージを送り、アポロ16号で月面を歩いたチャーリー・デューク氏からも激励の言葉が届くなど、歴史と未来が交差する感動的な一日となりました。地球からの最大距離25万2,756マイル(約40万6,700km)を記録し、人類の宇宙飛行距離の新記録も樹立しています。

アルテミスIIミッションの全容

10日間の月周回飛行計画

アルテミスIIは、NASAの次世代大型ロケット「スペース・ローンチ・システム(SLS)」の2回目の飛行であり、オリオン宇宙船としては初の有人ミッションです。2026年4月1日22時35分(UTC)にケネディ宇宙センターから打ち上げられ、全行程10日間の計画で進行しています。

打ち上げ後、地球周回軌道に入ったオリオンは、約6分間のエンジン噴射「月遷移噴射(TLI)バーン」を実施し、地球軌道を離脱して月への航路に入りました。50年以上ぶりにNASAの宇宙飛行士が月への軌道に乗った歴史的瞬間です。

歴史的な月面フライバイ

4月6日午前0時37分(米国東部時間)、オリオンと4名のクルーは月の重力圏に入りました。約7時間にわたるフライバイでは、クルーが月面の地質学的特徴を詳細に観察し、高解像度の写真撮影を実施しました。特筆すべきは、人類がこれまで直接目にしたことのない月の裏側の一部も観測対象に含まれていたことです。

フライバイのハイライトの一つが、宇宙からの日食観測でした。午後8時35分頃から、オリオン、月、太陽が一直線に並び、太陽が月の背後に約1時間にわたって隠れる現象を宇宙飛行士たちが目撃しました。この間、太陽コロナ(太陽の最外層大気)を月の縁から観察する貴重な科学的機会にもなっています。

人類最遠到達記録の更新

ミッション中、オリオンは地球から25万2,756マイル(約40万6,700km)の最大距離に到達し、1970年のアポロ13号が記録した人類の最遠到達距離を4,111マイル(約6,615km)上回る新記録を樹立しました。月の裏側から姿を現したオリオンが通信を回復した際には、クルーが「地球の出(アースライズ)」を目撃するという、アポロ時代を彷彿とさせる瞬間も訪れました。

4人のクルーが刻む「初めて」の歴史

多様性を体現する乗組員構成

アルテミスIIのクルーは、宇宙探査の歴史において複数の「初めて」を刻んでいます。

船長のリード・ワイズマン氏はアメリカ海軍の戦闘機パイロット・テストパイロット出身で、2014年のISS第41次長期滞在に続く2回目の宇宙飛行です。50歳にして、低軌道を超えて飛行した最年長の人物となりました。

パイロットのビクター・グローバー氏はカリフォルニア州ポモナ出身で、月を周回した初の有色人種の宇宙飛行士という歴史的な役割を担っています。2021年のスペースXクルー1ミッションでISSに滞在した経験を持ちます。

ミッションスペシャリストのクリスティーナ・コック氏は、2019年にISSで約11か月間の長期滞在を行ったベテランで、月を周回した初の女性宇宙飛行士となりました。

ジェレミー・ハンセン氏の初飛行

カナダ宇宙庁のジェレミー・ハンセン氏にとって、アルテミスIIは記念すべき初の宇宙飛行であり、カナダ人として初めて月に向かう宇宙飛行士という栄誉を担っています。カナダ空軍の戦闘機パイロット・大佐を経て、2009年にカナダ宇宙庁の宇宙飛行士に選抜されました。

フライバイ前日には、船長のワイズマン氏、グローバー氏、コック氏の3名がハンセン氏に「宇宙飛行士ウィング(翼章)」を授与するセレモニーが行われ、初飛行を祝う温かい場面が見られました。

イースターとアポロの記憶が交差した一日

深宇宙からのイースターメッセージ

月面フライバイの前日にあたる4月5日はイースター(復活祭)でした。クルーはCeeLo Greenの「Working Class Heroes」をウェイクアップコールとして朝を迎え、地球に向けてイースターのメッセージを送りました。

ハンセン氏は「信仰や宗教がどうであれ、私にとってイエスの教えは常にシンプルな真実でした。愛、普遍的な愛、自分を愛し他者を愛すること」と語り、深宇宙から届いた穏やかな言葉が地上の多くの人の心を打ちました。また、宇宙船内には隠された「イースターエッグ」が用意されていたことも明らかになり、緊張感の中にもユーモアと人間味あふれるエピソードとなっています。

チャーリー・デューク氏からの激励

この日、アポロ16号で1972年に月面を歩いたチャーリー・デューク元宇宙飛行士から、クルーに向けて録音メッセージが届きました。デューク氏は「ジョン・ヤングと私は1972年に月着陸船『オリオン』で月面に着陸しました。別の種類のオリオンが人類を月に帰還させる手助けをしているのを見られてうれしいです」と語りました。アポロ16号の月着陸船とアルテミスIIのオリオン宇宙船が同じ「オリオン」の名を共有しているという偶然が、52年の時を超えた感動的なつながりを生み出しています。

4月10日帰還とアルテミスIIIへの布石・残る課題

アルテミスIIは月面フライバイを完了し、現在は地球への帰還フェーズに入っています。4月10日午後8時7分(米国東部時間)頃にサンディエゴ沖の太平洋に着水する予定です。大気圏再突入時には宇宙船外面が約3,000度(華氏)に達し、その後パラシュートが展開されて時速約27km(17マイル)で海面に着水します。

今回のミッションの成功は、次のステップであるアルテミスIII(有人月面着陸)への重要な布石となります。アルテミスIIで得られた有人飛行の運用データ、月面観測データ、そしてオリオン宇宙船の実証結果は、今後の月面探査計画の基盤を形成します。

ただし、NASAの予算を巡る政治的議論や、スペースXのスターシップ月着陸船の開発スケジュールなど、アルテミスIIIに向けた課題も残されています。それでも、52年ぶりの有人月周回飛行という歴史的成果は、人類が再び月を目指す確かな一歩として世界中から注目を集めています。

多様な4人のクルーが刻んだ歴史的記録と感動の軌跡

アルテミスIIは、1972年以来52年ぶりとなる有人月周回飛行を成功させ、地球からの最遠到達距離の新記録を更新しました。初の有色人種の月周回飛行士ビクター・グローバー氏、初の女性月周回飛行士クリスティーナ・コック氏、初のカナダ人月飛行士ジェレミー・ハンセン氏と、多様性に富む4人のクルーが歴史を刻んでいます。イースターにはアポロ16号のチャーリー・デューク氏からの激励が届き、過去と未来をつなぐ感動的なミッションとなりました。4月10日の地球帰還まで、世界が見守り続けます。

参考資料:

坂
坂本 亮

テクノロジー・サイエンス

宇宙開発・AI・バイオテクノロジーなど最先端の科学技術を、社会的インパクトの視点から読み解く。技術と倫理の交差点を追い続ける。

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