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中国国産ラグジュアリー台頭、EVと古法黄金が変える高級消費像

by 黒田 奈々
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中国高級消費が国産志向へ傾く背景

中国のラグジュアリー市場で起きている変化は、単なる節約志向では説明できません。景気減速や不動産不況で高額消費は慎重になった一方、富裕層や上位中間層の一部は、欧州ブランドのバッグや時計だけでなく、国産EV、古法黄金、美容、香水、バッグへ視線を移しています。

Bainの2026年1月発表資料では、中国本土の個人向け高級品市場は2025年に3〜5%縮小したものの、2024年の17〜19%減からは落ち込みが緩みました。重要なのは、需要が戻るかどうかではなく、どのブランドに戻るかです。中国の消費者は「高いから欲しい」よりも、「価格に見合う物語、技術、資産性があるか」を厳しく見ています。

この潮流の中心にあるのが、国潮と呼ばれる中国的な美意識の再評価です。かつての国産品は欧米ブランドの代替品として見られがちでした。いまは、伝統文様、漢方的な香り、山水の感覚、スマートカーの先端技術が、独自のプレミアムとして語られ始めています。

百万元EVが奪う欧州ブランドの象徴資本

MaextroとYangwangが開いた百万元帯

中国の国産ラグジュアリーを最もわかりやすく示す領域が高級EVです。欧州ブランドが長く握ってきた「成功者の車」という記号に、Huawei系のMaextro、BYDのYangwang、NIOなどが正面から入り込んでいます。ここで売られているのは移動手段ではなく、ソフトウェア、運転支援、車内体験、そして中国の技術力を所有する感覚です。

HuaweiとJACが関わるMaextro S800は、2026年4月に中国の70万元超セダン市場で1,142台を販売し、Mercedes-Maybach S-ClassやPorsche Panameraを上回ったと報じられました。価格帯は70万8,000元から101万8,000元で、上位グレードは日本円で見ても高級輸入車の領域です。1〜4月累計でもS800は5,465台とされ、同じ集計でMaybach S-Classの3,012台を上回っています。

BYDの高級ブランドYangwangも、象徴的な存在です。U8 Premium Editionは2023年の発表時点で109万8,000元とされ、1,200馬力、0〜100km/h加速3.6秒、緊急時の浮航機能などを前面に出しました。NIOのET9も78万8,000元からの旗艦セダンとして、フルスタック技術、アクティブサスペンション、ステアバイワイヤなどを訴求しています。

この価格帯に国産車が入る意味は大きいです。中国メーカーは、欧州車の伝統やエンジン音を模倣しているのではありません。大型スクリーン、音響、座席、スマートフォン連携、運転支援、充電速度まで含めた「デジタルなもてなし」を高級感の中心に置いています。若い富裕層にとって、これはクラシックな革張り内装よりも身近な贅沢です。

Porscheの苦戦が示す威信の組み替え

欧州勢の苦戦は、中国の需要が消えたからだけではありません。Porscheは2025年に中国で4万1,938台を引き渡し、前年比26%減となりました。同社は中国の高級車市場の厳しさと、特に電動モデルでの競争激化を理由に挙げています。世界全体では電動化比率を高めても、中国では国産EVの速度と価格説得力に押されています。

中国乗用車協会のデータを基にした報道では、2026年4月の中国NEV小売販売は84万9,000台で前年同月比6.8%減でした。それでも乗用車全体の落ち込みがさらに大きかったため、NEVの小売浸透率は61.4%に達し、初めて60%を超えました。つまり、EVはすでに新奇な選択肢ではなく、中国の自動車消費の標準になりつつあります。

標準化した市場では、ブランドの格付けも変わります。欧州車が持っていた「輸入品であること」の優位は、充電、車載OS、音声操作、都市部での運転支援体験の前では薄れます。国産高級EVは、中国の道路、中国のアプリ、中国の都市生活に最適化されたラグジュアリーとして存在感を増しています。

ただし、MaextroやYangwangがすぐに世界の高級車ブランドを置き換えるわけではありません。超高級車は販売台数だけでなく、残価、整備網、事故時対応、グローバルな名声が問われます。それでも中国国内では、所有者が自分の成功を欧州ブランドで翻訳する必要が少しずつ下がっています。これは消費文化として大きな転換です。

古法黄金と国潮が広げる文化的プレミアム

老舗黄金が示す投資性と物語性

EVが技術のラグジュアリーなら、古法黄金は文化と資産性のラグジュアリーです。古法黄金とは、伝統的な意匠や手仕事感を押し出した高純度の金製品を指し、英語圏ではヘリテージゴールドとも呼ばれます。派手なロゴではなく、金そのものの価値、中国的なモチーフ、職人性を組み合わせる点が特徴です。

代表格の老舗黄金(Laopu Gold)は2009年創業で、2024年に香港上場を果たしました。O’Melvenyの発表によれば、同社は中国で古法黄金の概念を打ち出した初の金ジュエリーブランドとされ、IPOの調達規模は約9億500万香港ドル、米ドル換算で約1億1,600万ドルでした。Frost & Sullivanの情報として、2022年と2023年に中国金ジュエリーブランドの単店売上で首位だったことも示されています。

業績の伸びも目を引きます。The Standardは、老舗黄金の2024年売上高が85億1,000万元で前年比167.5%増、純利益が14億7,000万元で253.9%増だったと報じています。2024年末時点の店舗数は15都市36店で、同店売上成長率は120.9%を超えました。さらにStockAnalysisの集計では、2025年売上高は273億元、前年比221%増とされています。

この伸びは、中国の金ジュエリー全体が一様に好調だったことを意味しません。世界黄金協会によれば、中国の金ジュエリー需要は2025年上半期に194トンと前年同期比28%減でした。一方で、消費額は1,370億元と2024年並みに高く、金価格上昇で量は減っても価値は残りました。高額な古法黄金が上位市場で粘ったことは、富裕層の需要がより選別的になった証拠です。

バッグと美容に伸びる中国的審美

国産ラグジュアリーの広がりは、金だけではありません。Bainは2025年の中国市場で、地元ブランドが美容や一部の個人向け高級品カテゴリーで存在感を高めていると分析しています。強みは、中国的な審美、デジタルファーストの顧客接点、地元サプライチェーンを活用した価格設定です。

美容ではMao Gepingが象徴的です。同社は2024年12月に香港証券取引所へ上場し、中国の高級国産美容ブランドとして注目を集めました。公式発表では、中国の国内プレミアム美容ブランドのリーダーとして成長してきたことが強調されています。メイクアップアーティストの名前を冠したブランドである点も、単なる製品ではなく、技法と美意識を売る構造に近いです。

バッグではSongmont、Qiuzhen、Grottoなどが、欧米ブランドの入口価格帯に近い領域で伸びています。China Dailyは、2025年2月時点でTmallの1,000元超バッグ上位15ブランドのうち、7つが中国国内ブランドだったと報じました。Songmontは2024年にパリ・ファッションウィークでポップアップを行い、Dissonaは竹編みの要素をデザインに取り入れています。

ここで重要なのは、国産ブランドが「安いから買われる」段階を越えつつあることです。もちろん価格競争力はありますが、それだけでは高級品にはなれません。消費者が求めているのは、なぜこの形なのか、なぜこの素材なのか、なぜ中国文化と結びつくのかという説明です。山水、仏教的モチーフ、漢字の響き、伝統工芸が、現代的なデザインと言語化によって価値に変わっています。

世界黄金協会の小売店調査でも、自己着用目的の購入が2025年上半期に小売売上の37%を占め、2024年の27%から高まりました。若年層の売上寄与はやや低下したものの、なお3分の1を超えています。若い消費者にとって、金やバッグは結婚や贈答だけのものではなく、自分の趣味、資産感覚、文化的アイデンティティを示す道具になっています。

国産ラグジュアリーが抱える成長の歪み

国産ラグジュアリーの台頭には、いくつかの注意点があります。第一に、市場全体はまだ力強い拡大局面ではありません。Bainは2026年の中国高級品市場に緩やかな成長を見込む一方、回復はカテゴリーやブランドごとにばらつくとしています。2025年は美容が4〜7%成長した一方、革製品は8〜11%減、時計は14〜17%減とされ、消費者の選別は厳しいままです。

第二に、国産人気は景気不安と切り離せません。金が買われるのは文化的な魅力だけでなく、不動産や株式への不安を背景にした資産保全の意味もあります。世界黄金協会は、金価格高騰が若年層の購買力を圧迫し、2026年も手頃さが制約になる可能性を指摘しています。古法黄金が伸びても、金価格次第で購入点数や重量は変動します。

第三に、ラグジュアリーとしての耐久性です。欧州ブランドは数十年から百年以上かけて、修理、二次流通、顧客クラブ、国際店舗網、著名人着用の蓄積を作ってきました。新興の中国ブランドは、成長速度が速い分、品質管理、模倣品対策、店舗体験、海外での文化翻訳を急いで整える必要があります。SNSで話題になったブランドほど、流行が去った後の残り方が問われます。

二次流通の拡大も両刃です。Reuters系の報道では、Bainが2025年の中国中古ラグジュアリー市場を15〜20%成長と見ています。消費者には入口が広がる一方、新品価格の説得力が弱いブランドは、中古価格との比較にさらされます。国産ブランドもいずれ、リセール価値という冷徹な市場評価を受けることになります。

読者が追うべき中国高級消費の指標

中国の国産ラグジュアリーを見る際は、単発のヒット商品よりも三つの指標が重要です。第一は、70万元超EVや百万元SUVの販売が継続するかです。Maextro S800のような成功例が、限定的な初期需要で終わるのか、ブランド階層を本当に塗り替えるのかを見極める必要があります。

第二は、古法黄金や美容、バッグの店舗生産性です。老舗黄金のように少数店舗で高い売上を作れるブランドは、単なるEC人気とは別の強さを持ちます。第三は、国産ブランドが海外で中国的な美意識をどう翻訳するかです。国内の国潮から、アジア、欧州、米国の消費者に届く文化的プレミアムへ広がるかが次の焦点です。

欧州ブランドの時代が終わったわけではありません。ただ、中国の富裕層が自分の欲望を欧州の名前だけで表現する時代は、確実に揺らいでいます。EVの知能化、金の資産性、伝統工芸の物語が結びつくことで、中国発のラグジュアリーは「安価な代替品」から「別の価値基準」へ移り始めています。

参考資料:

黒田 奈々

カルチャー・エンタメ

エンタメ・アート・スポーツを横断的にカバー。ポップカルチャーの潮流とビジネスの交差点から、文化の「いま」を切り取る。

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