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コルレス銀行が制裁回避を許す国際決済網とロシア資金監視の死角

by 石田 真帆
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制裁網を抜ける国際送金の焦点

ロシアへの金融制裁は、単に制裁対象者の口座を凍結する段階から、国際決済の経路そのものを監視する段階へ移っています。焦点にあるのが、銀行同士が海外送金を処理するために使うコルレス銀行です。

コルレス銀行は、貿易や送金を支える国際金融の基礎インフラです。一方で、制裁対象者が第三国企業、偽装請求書、現地銀行を組み合わせると、資金の本当の依頼人が決済電文から見えにくくなります。ウクライナ戦争が長期化するなか、これは金融犯罪だけでなく、ロシアの戦争継続能力を左右する安全保障上の問題になっています。

コルレス銀行が抱える構造的な死角

代理口座で成り立つドル決済

コルレス銀行とは、ある銀行が別の銀行に口座を開き、その口座を通じて外貨送金や貿易決済を行う仕組みです。地方銀行や新興国の銀行が米ドル決済を扱う場合、自行だけで米国の清算網に直接入ることはできません。そのため、ニューヨークなどに口座を持つ大手銀行を介して、国境を越えた支払いを処理します。

この仕組みは、国際貿易を低コストで動かすために不可欠です。輸入業者が中国の部品メーカーへ代金を支払う、援助団体が紛争地へ資金を送る、移民が母国へ送金する、といった取引は、しばしば複数の銀行をまたいで処理されます。BISやFATFが示すように、コルレス銀行は現金管理、国際送金、貿易金融、外為取引など広いサービスを含みます。

問題は、コルレス銀行が直接知っている相手が、通常は「相手銀行」までに限られる点です。最終的な送金依頼人、受取人、輸出品目、実質的支配者をすべて自前で確認することは現実的ではありません。FATFも、コルレス銀行に対して相手銀行のすべての顧客を顧客確認する義務までは想定していません。ここに、制裁回避者が入り込む余地があります。

「顧客の顧客」を見抜く難しさ

制裁回避の典型は、制裁対象者が表に出ない形で第三国企業を使う手口です。たとえば、ロシア企業が直接支払うのではなく、UAE、香港、キルギス、トルコなどの会社が請求書上の買い手や支払人になります。銀行の画面上では、一般商社が電子部品や機械を買う普通の貿易決済に見えます。

しかし実際には、その会社がロシアの軍需関連企業に代わって代金を支払っている可能性があります。品目名を一般化し、最終需要者を隠し、複数の小口送金に分ければ、制裁スクリーニングはさらに難しくなります。OFACは、支払電文から顧客名を削除したり、真の取引目的を隠したりする行為を、外国金融機関の制裁リスクとして明示しています。

米国の強さは、ドル決済と米国コルレス口座へのアクセスにあります。OFACのロシア関連CAPTA指令では、対象となった外国金融機関について、米国金融機関がコルレス口座やペイアブルスルー口座を維持すること、また取引を処理することが禁じられます。これは「米国市場か、ロシア関連リスクか」という選択を外国銀行に迫る仕組みです。

A7ネットワークが示した偽装決済の実務

サブエージェントと偽装貿易

米財務省とFinCENが2026年10月に示したA7ネットワークの分析は、コルレス銀行の死角がどのように制度化されるかを示しています。FinCENによれば、A7はロシアに関係するシャドーバンキング網で、制裁対象のPromsvyazbankとモルドバのイラン・ショル氏に関係する企業群を中核にしています。

A7の特徴は、制裁対象者が国際送金の表面に出ないよう、第三国の「サブエージェント」を大量に使う点です。FinCENは、2026年6月時点でA7が数百のサブエージェントを作成または取得し、少なくとも83カ国、約435の金融機関に口座を持っていたと説明しています。これらの企業は、香港、インドネシア、キルギス、セーシェル、トルコ、UAEなどに置かれたとされます。

取引の流れは単純ではありません。ロシア側の顧客はA7内部で支払い義務を満たし、国外のサブエージェントが請求書や売買契約上の支払人になります。外部の銀行から見れば、非ロシア企業による通常の商取引です。FinCENは、この構造を偽装貿易に基づくマネーロンダリングと位置づけ、偽造請求書、虚偽の輸出入記録、誤解を招く品目説明が使われたと指摘しています。

規模も無視できません。A7側は2026年1月時点で、1日2,000件超の取引、累計7.5兆ルーブル超、米ドル換算で915億ドル相当を処理したと主張していました。FinCENはまた、A7サブエージェントが2025年1月から2026年6月までに、ドル建てで170億ドル超の取引を処理したと分析しています。数字の性質には当局評価とネットワーク側主張の違いがありますが、少なくとも制裁回避が小規模な抜け道ではなく、産業化したサービスになっていることは明確です。

人民元決済を揺らした二次制裁

ロシアは2022年以降、ドルとユーロへの依存を下げ、人民元、ルーブル、SPFS、CIPSなどを使う決済経路を広げてきました。しかし、非ドル化は制裁からの完全な自由を意味しません。取引相手の銀行が米国の金融システムと接続していれば、二次制裁のリスクは残ります。

2024年2月には、中国の浙江稠州商業銀行がロシア、ベラルーシ関連取引を停止したと報じられました。同銀行はロシア輸入業者にとって重要な決済先とされ、停止は春節前の物流にも影響し得ると伝えられました。ロシアメディアはその後、ICBC、中国建設銀行、中国銀行も、制裁対象ロシア金融機関からの支払い受け入れを停止したと報じています。

この動きの背景には、2023年12月以降に強まった米国の二次制裁権限があります。米財務省は2024年6月、ロシアの軍需産業基盤に関わる重要取引を行う外国金融機関に制裁を科し得ると警告し、300超の個人・団体を対象にしました。同年11月には、Gazprombankと50超のロシア銀行を制裁対象に加え、SPFSへの参加もリスクとして示しました。

中国の銀行が慎重になったのは、ロシアとの取引をすべて止めたいからではありません。米ドル決済、貿易金融、欧米金融機関との関係を失うコストが大きすぎるからです。コルレス銀行網は、まさにそのコストを伝える導線です。制裁はモスクワの銀行だけでなく、第三国銀行のリスク計算を変えることで効きます。

暗号資産が補う銀行網の穴

A7の事例は、銀行決済と暗号資産が別世界ではないことも示しています。FinCENは、A7A5というルーブル裏付け型トークンが、A7ネットワーク内の価値移転や帳簿調整に使われたと説明しています。2025年2月から2026年6月までに、180超の主体が少なくとも1,791億ドル相当のA7A5取引を処理したとの分析も示されました。

重要なのは、暗号資産が銀行を完全に置き換えているわけではない点です。A7の構造では、ロシア国内やネットワーク内部でトークンや手形が価値を記録し、外側ではサブエージェントがドル、人民元、ディルハム、ユーロで支払います。つまり、暗号資産はコルレス銀行網の外部に逃げる道であると同時に、銀行網へ再接続するための調整装置でもあります。

このため、銀行の制裁対応は、名前の照合だけでは足りません。新設会社が短期間に高額送金を繰り返す、品目説明と会社実態が合わない、支払い経路が不自然に遠回りする、請求書の形式が不自然に整いすぎている、といった行動パターンを見る必要があります。FinCENが示したA7の赤旗は、銀行だけでなく、輸出企業や商社の内部統制にも直結します。

規制強化が招く金融分断の副作用

コルレス銀行を締める政策には、副作用もあります。世界銀行の調査では、コルレス銀行関係の縮小は送金会社、中小銀行、中小輸出業者に強い影響を与えてきました。リスクを管理するのではなく、国や業種ごと丸ごと切る「デリスキング」が広がれば、合法的な貿易や人道支援まで遅れます。

FATFがリスクベース・アプローチを繰り返し強調するのはそのためです。制裁回避を止めるには強い監視が必要ですが、過剰な遮断は資金の流れを地下化させます。正規銀行から排除された企業や個人が、無登録送金、現金運搬、暗号資産ブローカーへ流れれば、当局の可視性はむしろ下がります。

安全保障上も、課題は単純ではありません。ロシアやイランは、制裁を「西側金融への依存リスク」と位置づけ、代替決済圏の構築を進めます。米欧が制裁執行を強めるほど、相手側は人民元決済、SPFS、暗号資産、シャドーバンキングを組み合わせます。したがって制裁政策の成否は、遮断の強さだけでなく、同盟国、金融センター、第三国規制当局との情報共有にかかっています。

銀行と企業が確認すべき三つの論点

銀行と企業がまず見るべき論点は、相手先の国籍ではなく、実質的な取引目的です。第一に、支払人、荷受人、最終需要者、実質的支配者の関係が説明できるかを確認する必要があります。第二に、品目がロシアの軍需産業基盤に転用され得るかを、HSコードや輸出管理リストと照合することが重要です。

第三に、決済経路の不自然さです。新設会社、第三国の中継口座、複数の小口送金、品目と業種の不一致は、単独では決定打にならなくても、組み合わさると強い警告になります。コルレス銀行は国際金融を支える公共財に近い存在です。だからこそ、制裁回避に使われたときの影響は大きく、金融機関だけでなく貿易に関わる企業全体の注意が必要です。

参考資料:

石
石田 真帆

国際安全保障・欧州情勢

欧州・中東の安全保障問題を中心に、軍事と外交の接点から国際秩序の変動を伝える。

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