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メディケア・アドバンテージ縮小で広がる高齢者の保険再選択負担

by 三浦 愛子
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年次加入期に浮かぶ平均値の死角

米国の高齢者医療保険であるメディケア・アドバンテージは、2027年の年次加入期間を前に大きな転換点を迎えています。加入者は2026年10月15日から12月7日までに、2027年1月1日以降の補償を選び直す必要があります。

CMSは全国平均で保険料が下がり、選択肢も広いと説明しています。しかし、郡単位で見ると民間保険会社の撤退が進み、現在のプランを続けられない人が増えています。問題の核心は、月額保険料だけでは実質負担を測れないことです。薬、医師ネットワーク、自己負担上限、追加給付の変化まで含めて見ると、家計への影響はかなり複雑です。

選択肢減少を広げる郡単位の撤退

平均28件でも残る地域格差

KFFの分析によると、2027年に平均的なメディケア受給者が選べる薬剤給付付きメディケア・アドバンテージ、いわゆるMA-PDプランは28件です。2026年の32件から4件減りました。全体としてはなお多くの選択肢があるように見えますが、これは全国平均の数字です。

平均値が高く出る理由は、大都市圏や競争の厚い州で多数のプランが並ぶためです。ペンシルベニア、ミシガン、オハイオなどでは平均40件以上のMA-PDを選べる州もあります。一方で、9州とワシントンD.C.では平均10件未満にとどまります。アラスカでは2026年に続き、一般加入向けのMA-PDがありません。

この差は、単なる「選好の違い」ではありません。メディケア・アドバンテージは郡ごとに販売地域が決まるため、隣の郡では選べるプランが自分の住所では使えないことがあります。保険市場として見れば、同じ全米ブランドでも地域ごとの採算が違えば撤退や縮小が起きます。高齢者にとっては、住所が医療保険の選択肢を左右する構造です。

193郡で消える薬付きプラン

2027年には、193郡で一般加入向けのMA-PDがなくなります。KFFは、これらの郡に住むメディケア受給者を約63万8,000人と推計しています。2026年は123郡、約39万9,000人だったため、対象地域も人数も増えました。

より厳しいのは、そのうち187郡では薬剤給付付きだけでなく、薬剤給付なしの一般向けメディケア・アドバンテージも利用できない点です。特別支援プランやコストプランが残る地域はありますが、対象者が限定されるため、すべての受給者にとって代替策になるわけではありません。

大手の動きも見逃せません。KFFによると、UnitedHealth Groupは2027年に228郡から撤退し、新規参入は9郡にとどまります。Humanaも62郡から撤退し、新規参入は4郡です。Health Care Service Corporationは498郡から撤退し、Centeneも359郡から撤退します。Devoted Healthのように342郡へ広げる会社もありますが、拡大と縮小は同じ場所で起きるわけではありません。加入者にとって重要なのは、全米で選択肢が増えたかではなく、自分の郡で医師と薬が守られるかです。

保険料低下の裏側にある負担移転

ゼロ保険料と自己負担の分離

CMSは2027年のメディケア・アドバンテージについて、加重平均の月額保険料が2026年の14.37ドルから12.00ドルへ16.5%下がる見込みだと発表しました。さらに、99%超のメディケア受給者が少なくとも一つのMAプランにアクセスでき、97%が10件以上の選択肢を持つとしています。

この数字だけを見ると、危機というより安定です。しかし、加入者の実質負担は月額保険料だけで決まりません。メディケア・アドバンテージでは、医師や病院のネットワーク、専門医受診時の自己負担、入院や外来治療の負担、処方薬のフォーミュラリ、事前承認の有無が総コストを左右します。

KFFは2026年時点で、MA-PDの平均保険料は月15ドル、加入者の75%は追加保険料ゼロのプランに入っていたとしています。ゼロ保険料は魅力的ですが、受給者は標準のパートB保険料を払い続ける必要があります。加えて、必要な医師がネットワーク外になれば、低い月額保険料のメリットは簡単に消えます。

採算悪化が促す商品設計の修正

保険会社が地域を選び直している背景には、医療費の上昇、薬剤費の再配分、リスク調整モデルの変更、スター評価ボーナスの変動があります。CMSは2027年の支払い政策で、インフレ抑制法によるPart D給付再設計を反映し、MA処方薬プランと単独Part Dプランのコストを分けて扱う方針を示しました。これは支払い精度を高める政策ですが、保険会社にとっては採算計算の前提が変わることを意味します。

MedPACは2026年、メディケアがMAプランへ平均で1人あたり年2,660ドルのリベートを支払うと推計しています。これらの資金は、自己負担軽減、歯科・視覚・聴覚などの追加給付、Part D保険料の軽減、Part B保険料の一部補助などに使われます。一方で、MedPACはMA加入者に対する支出が従来型メディケアより14%、金額で760億ドル多いとも推計しています。これは納税者と全メディケア受給者が負担する制度コストです。

つまり、メディケア・アドバンテージは加入者に追加給付をもたらす一方、その財源は公的支払いに深く依存しています。支払いの伸びが鈍る、医療利用が増える、薬剤費負担が重くなるという三つの圧力が重なると、保険会社は保険料を上げるだけでなく、給付内容を薄くする、自己負担を動かす、採算の悪い郡から撤退するという対応を取りやすくなります。

2026年にもその兆候は出ていました。KFFは、メディケア・アドバンテージの視覚、歯科、聴覚給付は広く残る一方で、市販薬手当、食事給付、遠隔アクセス技術、交通給付の提供割合が低下したと分析しています。利用頻度が高くない給付から削ることで、保険会社は表面的な保険料を抑えながら採算を守ろうとしていると考えられます。

地方と慢性疾患層に偏る再選択リスク

プラン撤退の影響は均等ではありません。JAMAに掲載された研究は、2026年にHMOまたはPPO型のメディケア・アドバンテージ加入者約2,860万人のうち、約290万人がプラン終了やサービス地域縮小によって強制的な再選択に直面したと示しました。これは約1割に相当します。

同研究では、強制的な再選択に直面する人はPPO加入者、小規模保険会社の加入者、低いスター評価のプラン加入者、地方居住者に多い傾向がありました。地方では医療機関の選択肢がそもそも少なく、ネットワーク変更の影響が大きくなります。主治医や専門医が外れると、単なる保険証の変更では済みません。通院距離、予約の取り直し、薬局の変更、介護者の付き添い負担まで波及します。

従来型メディケアへ戻る選択もあります。ただし、その場合は単独Part Dプランを選び、自己負担を補うためにメディギャップを検討する必要があります。KFFは、メディギャップの平均保険料が2023年に月200ドル超だったとしています。健康状態や州のルールによっては、いつでも無条件に安い補足保険へ入れるわけではありません。

このため、保険会社の撤退は低所得層や固定収入の退職者ほど重く響きます。追加保険料ゼロのMAプランから月200ドル超の補足保険へ移ることは、年金生活者にとって大きな支出増です。表面上は選択肢が残っていても、現実には「払える選択肢」が少なくなるケースがあります。

加入者が確認すべき三つの費用

2027年のメディケア・アドバンテージを選ぶ際は、第一に現在のプランが自分の郡で継続されるかを確認する必要があります。UnitedHealthcareは2027年1月1日付で一部サービス地域を変更し、対象者に2026年10月2日付の非更新通知を送ると案内しています。通知を受け取った人は、期限内に代替策を選ばなければ、従来型メディケアへ自動的に移る可能性があります。

第二に、月額保険料ではなく年間総額で比較することが重要です。医師、病院、薬、歯科、聴覚、視覚、自己負担上限を同じ表に並べると、ゼロ保険料プランが必ずしも安くないことがあります。第三に、来年必要になりそうな医療を前提に見ることです。慢性疾患、がん治療、リハビリ、在宅医療を使う人ほど、ネットワークと事前承認の差が家計と治療継続に直結します。

メディケア・アドバンテージ市場は、全国平均ではまだ大きく崩れていません。しかし、金融市場でいう流動性と同じく、平時の平均値は局地的な退出リスクを隠します。2027年の加入期に必要なのは、宣伝文句ではなく、自分の郡、自分の医師、自分の薬で実際に使える補償を確認する作業です。

参考資料:

三
三浦 愛子

米国経済・金融市場

米国経済の構造変化を、金融市場・財政政策・産業動向の三軸で分析。ウォール街と実体経済のギャップを見抜く。

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