NewsAngle
NewsAngle

CPAC2026で露呈したMAGA運動の内部亀裂

by 長谷川 悠人
URLをコピーしました

トランプ欠席で表面化したCPAC2026の三重の亀裂

2026年3月下旬、テキサス州グレイプバインのゲイロード・テキサン・リゾートで開催された保守政治行動会議(CPAC)2026が、例年とは異なる様相を見せています。通常、CPACは保守派の結束を示す場として機能してきましたが、今年は主催者自らが「異論の余地」を設ける異例の展開となりました。

トランプ大統領が約10年ぶりにCPACを欠席する中、イラン戦争への賛否、テキサス州上院選をめぐる党内対立、そして2028年大統領選に向けた路線闘争が一気に表面化しています。本記事では、CPAC2026の舞台上で繰り広げられた保守派内部の亀裂と、それがMAGA運動の将来に何を意味するのかを解説します。

イラン戦争をめぐる深い溝

世代間で割れる賛否

CPAC2026で最も鮮明に浮き彫りとなったのが、トランプ政権のイラン軍事作戦をめぐる保守派内部の分裂です。ピュー・リサーチ・センターの調査によれば、共和党員全体のおよそ8割がトランプ大統領のイラン対応を支持しています。しかし、若年層の共和党員や保守寄りの無党派層に限ると、支持率は大幅に低下します。

会場でも年齢による意見の分断が顕著でした。おおむね45歳を境に、若い世代は軍事介入に反対し、年配の世代は支持する傾向が見られました。ある30歳の陸軍・海兵隊退役軍人は「新たな戦争はしないと約束されていたのに裏切られた気分だ」と語っています。18歳の参加者からは「若い世代はイスラエルに対して上の世代ほど好意的ではない」という声も上がりました。

ステージ上でも飛び交う批判

CPACのメインステージでは、イラン戦争の支持者と懐疑派の双方に発言の機会が与えられました。テッド・クルーズ上院議員や元国連大使マーク・ウォレス氏らが軍事作戦への支持を表明する一方、元フロリダ州下院議員のマット・ゲイツ氏は「イランへの地上侵攻は我が国をより貧しく、より危険にする」「ガソリン価格と食料価格の上昇を招き、テロリストを殺すよりも多くのテロリストを生み出すことになりかねない」と痛烈に批判しました。

元トランプ顧問のスティーブ・バノン氏も戦争に懐疑的な立場を示し、メーガン・ケリー氏やタッカー・カールソン氏といった保守系の著名なメディアパーソナリティも、米国の国益にそぐわないとして軍事介入に反対の声を上げています。この構図は、マーク・レヴィン氏やベン・シャピロ氏ら親イスラエル強硬派との間に新たな断層線を生んでいます。

テキサス上院選に映る党内路線闘争

パクストン対コーニン:草の根vs既存勢力

CPAC2026が開催されたテキサス州では、共和党上院予備選の決選投票が迫っています。現職のジョン・コーニン上院議員に対し、テキサス州司法長官のケン・パクストン氏が挑む構図です。

CPACの会場ではパクストン氏が圧倒的な支持を集めました。パクストン氏には金曜夜の「ロナルド・レーガン・ディナー」という最重要枠の登壇機会が与えられた一方、コーニン議員はCPACに出席すらしていません。バノン氏は「ケン・パクストンは全米のMAGA運動の草の根を象徴する人物だ」と称え、コーニン氏の不在を「彼はあなたたちに話す価値がないと思っている」と揶揄しました。

トランプ不在の影響

注目すべきは、トランプ大統領がこの予備選でいずれの候補も公式には支持していない点です。ワシントンの共和党関係者の多くはコーニン支持を求めていますが、MAGA草の根層の熱狂はパクストン氏に向かっています。トランプ氏の不在が、こうした党内の路線対立を一層可視化させる結果となりました。

2028年に向けた不透明な未来

ストローポールが示す後継争い

CPAC恒例のストローポール(非公式投票)では、2028年大統領選の共和党候補としてJD・ヴァンス副大統領が2年連続で首位を獲得しました。約1,600人の回答者のうちヴァンス氏への支持は53%に達しています。2位はマルコ・ルビオ国務長官で35%でした。ルビオ氏は前年のわずか3%から急伸しており、保守派内での存在感の変化がうかがえます。

トランプ大統領自身は出席しなかったものの、支持率96%を維持しています。しかし、トランプ氏が2期目の任期を終えた後、誰がMAGA運動を率いるのかという根本的な問いには答えが出ていません。

弾劾をめぐる予想外の瞬間

CPAC議長のマット・シュラップ氏が会場に対し「弾劾公聴会を望む人は?」と問いかけた際、予期せず大きな歓声が上がるという場面がありました。シュラップ氏は首を振りながら「それは間違った答えだ」と応じ、2度目の問いかけでは賛否が入り混じる反応となりました。この一幕は、保守派の結束がもはや自明ではないことを象徴するエピソードとしてSNSで拡散されました。

MAGA世代間断絶と2026年中間選挙への波及懸念

MAGA運動は分裂するのか

今回のCPACで見られた亀裂は、必ずしもMAGA運動の崩壊を意味するものではありません。イラン戦争への賛否は政策上の意見の相違であり、トランプ大統領個人への支持率は依然として高水準にあります。しかし、トランプ氏なきCPACで路線対立が表面化したことは、ポスト・トランプ時代の保守運動が一枚岩ではいられない可能性を示唆しています。

特に注視すべきは世代間ギャップです。ある参加者によれば会場の年齢中央値は55歳以上とされ、CPACが若い保守層の支持を失いつつあるとの指摘もあります。2024年選挙でトランプ氏が獲得した若年層や無党派層の支持が、イラン戦争を機に離反する兆候は、2026年中間選挙に向けた懸念材料です。

中間選挙への影響

テキサス上院選のパクストン対コーニンの構図は、全米各地で再現されうる「MAGA草の根vs党エスタブリッシュメント」の縮図です。11月の中間選挙に向け、共和党が内部対立を抱えたまま戦うことになれば、民主党に有利に働く可能性もあります。

ポスト・トランプ時代を占うMAGA運動三つの断層線

CPAC2026は、トランプ大統領が作り変えた共和党の内部に走る複数の亀裂を浮き彫りにしました。イラン戦争をめぐる世代間の断絶、テキサス上院選に象徴される草の根と既存勢力の対立、そして2028年の後継者問題――いずれもトランプ氏個人のカリスマによって覆い隠されてきた構造的な問題です。

トランプ大統領が不在のCPACで露呈したこれらの分裂は、ポスト・トランプ時代の保守運動がどのような形を取るのか、その先行指標として注視する価値があります。2026年中間選挙、そして2028年大統領選に向け、MAGA運動の一体性が試される局面が続くことになりそうです。

参考資料:

長谷川 悠人

米国政治・外交

米国政治の内幕を、ホワイトハウスから議会まで多角的に分析。政策決定のプロセスと日本への影響を鋭く読み解く。

関連記事

ミレイ規制緩和旋風が世界の右派に問う覚悟

アルゼンチンのミレイ大統領が「チェーンソー」改革で省庁を半減し、インフレ率を300%から30%台へ急落させた。トランプ政権との200億ドル通貨スワップや中間選挙大勝を追い風に、2026年は90本の構造改革法案を議会に投入。一方で暗号資産スキャンダルや支持率低下、格差拡大という暗部も露呈する。MAGA運動と共鳴する「国家解体」実験の光と影を多角的に読み解く。

最新ニュース

AI半導体ブームで高まる台湾・韓国勢の供給網支配力と地政学リスク

NVIDIAの四半期売上は816億ドル、TSMCのHPC比率は61%、SK hynixはHBM増産へEUVを大量発注。AIデータセンター投資が台湾・韓国企業へ価値を押し出す構造と、先端プロセス、パッケージング、電力、地政学、メモリ不足が供給網にもたらすリスク、投資家と経営者が見るべき論点を読み解く。

日銀1%利上げで31年ぶり高金利、日本の円安と戦時インフレの焦点

日銀が無担保コール翌日物を1.0%へ引き上げ、31年ぶりの高金利局面に入った。中東情勢による原油高、160円前後の円安、国債買い入れ縮小が家計・企業・市場に及ぼす影響を、米国金融とエネルギー価格の連動、政府の物価対策、今後の追加利上げ余地から読み解く。住宅ローン、輸入コスト、株高が同居する日本経済の分岐点を解説。

中国消費失速が映す輸出依存と家計防衛、長引く不動産不況の深い影

中国の5月小売売上高は前年比0.6%減とコロナ後初のマイナス。固定資産投資4.1%減、住宅投資16.2%減、輸出19.4%増という分断を軸に、EVや家電の下取り策の反動、PPIとCPIの乖離、EUの対中赤字拡大、雇用不安が家計防衛と政策対応の限界、人民元と株式相場、世界経済と金融市場へ及ぼす影響を読み解く。

朝型か夜型かを知る睡眠クロノタイプ診断と健康影響の最新科学解説

朝型・夜型を分けるクロノタイプは、遺伝、光、年齢、社会的時差が重なる生体時計の表れです。NIHやCDC、Natureの研究を基に、MEQやMCTQの診断法、夜型が抱えやすい睡眠不足と生活習慣リスク、朝の光や週末の寝だめを調整する実践策、仕事や学校の開始時刻と体内時計のずれをどう見直すかまで、睡眠科学の視点で読み解く。

ウクライナAI迎撃ドローンが変える低コスト対ロ防空戦の新焦点

ロシアのシャヘド型無人機攻撃に対し、ウクライナはAI支援型を含むStingやP1-Sunなどの迎撃ドローンを量産し、電子戦下の防空を低コスト化している。CSISが指摘する飽和攻撃の費用構造、月6500機超の発射記録、無人システム軍の制度化、人間の関与をめぐる課題から、NATO各国と欧州安全保障への波及を読み解く。