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イラン、ホルムズ海峡支配で世界的大国へ急浮上

by 安藤 誠
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はじめに

2026年2月28日、米国とイスラエルがイランに対する共同軍事攻撃「エピック・フューリー作戦」を開始して以来、世界のエネルギー安全保障を根底から揺るがす事態が進行しています。イランは報復として、世界の石油輸送の約20%が通過するホルムズ海峡の封鎖に踏み切りました。この戦略的要衝の支配を通じて、イランはかつてないレベルの国際的影響力を獲得しつつあります。原油価格はバレル当たり126ドルまで高騰し、各国で燃料配給制が導入されるなど、1970年代のオイルショック以来最大のエネルギー危機が世界を襲っています。本記事では、ホルムズ海峡危機の全容と、イランの新たな「大国化」の実態を解説します。

ホルムズ海峡危機の発生と経緯

米イスラエルの軍事攻撃とイランの報復

2026年2月28日、米国とイスラエルは「エピック・フューリー作戦」のもとでイランへの協調空爆を開始しました。攻撃は軍事施設、核関連施設、指導部を標的とし、最高指導者アリー・ハメネイ師の死亡という衝撃的な結果をもたらしました。これに対しイランは、米軍基地、イスラエル領土、湾岸諸国に対するミサイルおよびドローン攻撃で報復しました。

最も世界に影響を与えたのは、イスラム革命防衛隊(IRGC)がホルムズ海峡の船舶通行を禁止する警告を発したことです。タンカー輸送量はまず約70%減少し、150隻以上の船舶が海峡外で投錨を余儀なくされました。その後、通行量はほぼゼロにまで落ち込みました。3月12日時点でイランは商船に対する21件の確認済み攻撃を実行しています。

ホルムズ海峡の戦略的重要性

ホルムズ海峡は世界で最も重要な海上交通の要衝の一つです。国際エネルギー機関(IEA)のデータによると、2025年時点で日量約1,500万バレルの原油(世界の原油取引量の約34%)がこの海峡を通過していました。さらに、カタールとUAEからのLNG(液化天然ガス)輸出の大部分もこの海峡を経由しており、世界のLNG輸出の約20%に相当します。

国連貿易開発会議(UNCTAD)の報告によれば、影響は石油・ガスにとどまらず、肥料をはじめとする9種類以上のコモディティに波及しています。迂回路としてサウジアラビアとUAEが保有するパイプラインがありますが、その代替輸送能力は日量350万〜550万バレルに限られており、全量をカバーすることは不可能です。

イランの新たな国際的影響力

「通行料」徴収という前例なき要求

イランの新たな影響力を象徴するのが、ホルムズ海峡の通行料徴収構想です。CNNの報道によると、イラン議会の安全保障委員会は、海峡を通過する船舶にイラン・リアル建ての通行料を課す計画を承認しました。報道によればタンカー1隻あたり200万ドルの通行料が想定されており、石油輸送だけで1日約2,000万ドル、月間約6億ドルの収入となります。LNG輸送を含めれば月間8億ドル以上に達する可能性があります。

この要求は、イランが停戦条件の一つとして掲げる「ホルムズ海峡に対する主権的役割の国際的承認」と連動しています。NPRの報道によれば、イランは停戦に向けて5つの条件を提示しており、海峡の管理権はその中核をなしています。

選択的通行許可による外交カード

イランは海峡の完全封鎖ではなく、選択的な通行許可という巧みな外交戦略を展開しています。アルジャジーラの報道によれば、2026年3月26日にイランのアラーグチー外相は、中国、ロシア、インド、イラク、パキスタンの5カ国の船舶に対してホルムズ海峡の通行を許可すると発表しました。4月5日にはイラク船舶の通行が追加で認められ、通行実績は増加傾向にあります。

この選択的許可は、イランの同盟国・友好国を優遇し、敵対国を排除するという地政学的なレバレッジとして機能しています。特にロシアの商船に対する正式な通行許可は、両国の戦略的連携の深化を反映しています。一方、西側諸国の船舶は依然として通行できない状態が続いています。

世界経済への深刻な波及

原油価格高騰と燃料危機

ホルムズ海峡の封鎖による経済的影響は甚大です。ブレント原油価格は2026年3月8日にバレル当たり100ドルを突破し(4年ぶり)、その後126ドルのピークに達しました。これは2008年7月の過去最高値147ドルに迫る水準です。米国ではガソリン価格が3月31日時点で1ガロン4ドルに達し、4月6日にはGasBuddyの記録で1ガロン5.87ドルまで上昇しました。わずか1カ月でガソリン価格が30%以上急騰したことになります。

世界経済フォーラムは、この危機を「急激な供給不足と燃料コストの上昇によるインフレ加速、スタグフレーションと景気後退のリスク増大」と警告しています。関税問題、パンデミック後の債務、インフレ圧力という既存の課題を抱える世界経済にとって、追い打ちとなっています。

各国に広がる燃料配給制

Timeの報道によると、燃料配給と需要抑制措置が世界各地で始まっています。フィリピン、タイ、ベトナム、インドネシアなどアジア諸国が省エネ推進と緊急措置を検討しています。スリランカは週間燃料配給制を再導入し、公務員と公教育従事者に対して週4日勤務制を導入しました。フィリピンのマルコス大統領は3月24日にエネルギー緊急事態を宣言しました。

日本にとっても影響は深刻です。IEAのデータによれば、日本と韓国はホルムズ海峡を通過する原油に特に依存しており、中国とインドを合わせるとこれらの輸出の44%を受け取っています。代替調達先の確保が急務となっています。

注意点・展望

停戦交渉は難航を極めています。パキスタンが提案した45日間の一時停戦案に対し、トランプ大統領は「十分ではない」と否定的な姿勢を示しています。イラン側も一時的な停戦には応じず、恒久的な戦争終結を保証する枠組みを求めています。国連安全保障理事会でも、ロシアと中国が軍事行動を正当化する決議に懸念を示し、拒否権を行使する構えを見せており、国際的な合意形成は難航しています。

英国スターマー首相が主導する40カ国連合による海峡開放の取り組みも進んでいますが、ドイツ、スペイン、イタリア、日本、韓国など主要国がトランプ大統領の要請を拒否するなど、西側陣営内の足並みも揃っていません。ホルムズ海峡危機の長期化は、世界のエネルギー秩序の根本的な再編につながる可能性があります。

まとめ

2026年のイラン戦争は、ホルムズ海峡という世界最重要の海上交通路の支配を通じて、イランに前例のない国際的影響力をもたらしています。通行料徴収構想や選択的通行許可といった戦略は、軍事的劣勢にもかかわらず地政学的レバレッジを最大化するイランの巧みな外交を示しています。原油価格の高騰と各国の燃料配給制は、この危機が単なる地域紛争ではなく、世界経済全体を揺るがすシステミック・リスクであることを物語っています。停戦交渉の行方とホルムズ海峡の管理体制がどのように決着するかは、今後数十年の国際秩序を左右する分水嶺となるでしょう。

参考資料:

安藤 誠

南アジア・中東情勢

南アジア・中東を中心に、宗教・民族・歴史の深層から国際情勢を分析。長年の現地経験に基づく多層的な視座が持ち味。

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