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米軍レサリティ論が映すHegseth流改革の実像と危うさとは何か

by 長谷川 悠人
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米軍lethality拡大とHegseth改革

米軍の公式発信を追っていると、多く現れる単語があります。それが lethality です。日本語では通常「殺傷力」や「致死性」と訳されますが、米軍での使われ方はそれよりはるかに広く、兵器性能、訓練、組織改編、人事、文化まで包み込んでいます。この言葉は軍事技術用語ではなく、国防行政の優先順位を示す言語になっています。

特にPete Hegseth国防長官の下では、lethality は「戦える軍に戻す」というスローガンの中核に置かれています。ただし、その便利さの裏で、言葉の定義は曖昧です。米陸軍大学の2025年論文は、米軍でこの概念が多用される一方、統一的な定義が欠けていると指摘しました。本稿では、lethality がどこから来て何を意味し、なぜ世界観に近い言葉になったのかを整理します。

レサリティはもともと何を指していたのか

Mattis時代は「近代化と即応性」の合言葉でした

この言葉が米軍全体の旗印として強く広がったのは、第1次トランプ政権期のJames Mattis国防長官時代です。2018年8月28日の国防総省発信では、Mattis氏は国家防衛戦略の三つの柱として「レサリティの向上」「同盟・提携の強化」「国防省業務の改革」を並べました。ここでの lethality は、武器の威力だけでなく、予算、装備更新、展開即応性を束ねる政策用語でした。

同時期に進んだのが近接戦闘部隊の見直しです。Close Combat Lethality Task Forceは、歩兵分隊が潜在的敵を確実に上回る overmatch を実現することを任務に掲げました。2018年9月の国防総省説明では、課題は装備だけでなく、人員、訓練、教義まで含めて検討されるとされました。当初の lethality は、前線部隊をどう強くし、どう生き残らせるかという近代化論でした。

陸軍も同じ文脈で、2017年10月にSoldier Lethality Cross-Functional Teamを始動させました。2018年9月のArmy.mil記事によれば、この組織は暗視装置、次世代小銃、兵士装備の統合アーキテクチャーを通じて、近接戦闘兵の能力差を埋めることを狙っていました。ここでの lethality は、兵士を一つの戦闘システムとして最適化する用語でした。

それでも定義は最初から曖昧でした

重要なのは、ここまで米軍が多用してきたのに、lethality の定義は驚くほど不統一だという点です。米陸軍大学の2025年論文は、国防総省の用語辞典に明確な定義がなく、各軍種がばらばらに使っていると指摘しています。

この曖昧さは欠点でもあり、便利さでもあります。言葉の輪郭が広いほど、予算増や装備更新を一つの旗印で正当化しやすいからです。

Hegseth政権でなぜ「世界観」になったのか

今のレサリティは装備以上に文化と人事を含んでいます

Hegseth長官の下で lethality はさらに拡張されました。2025年4月30日付メモを受けた5月2日の国防総省記事では、陸軍に対し「よりスリムで、よりレサルな部隊」への転換を求め、長射程精密打撃、防空・ミサイル防衛、サイバー、電子戦、AI主導の指揮統制を優先するとしています。特徴はここに「warrior ethos」の復活が強く結びついていることです。

国防総省の2025年総括ページやQuanticoでのHegseth氏の発言では、lethalitymeritocracyaccountabilitystandardsreadiness と並ぶ標語として提示されています。昇進や定着は割当てではなく能力主義で決めるべきだとされ、lethality は組織文化の純化と結びつけられました。ここでの意味は「敵を倒す能力」だけではなく、何が軍の本務かを線引きする政治的ラベルです。

優先順位の裏返しとして切られるものが見えてきました

この変化は、何を切るかを見るとさらに鮮明です。ワシントン・ポストは2025年3月4日、国防総省が文民被害を減らすためのCivilian Harm Mitigation and Response体制を縮小し、指揮官が攻撃時に lethality をより重視できるようにする方向へ動いていると報じました。

ここで見えるのは、lethality が中立的な能力向上の言葉ではなく、トレードオフを伴う選別基準になっていることです。Biden政権期の2022年行動計画と2023年のDoD Instructionは、文民被害の軽減と対応を恒久的政策として制度化しました。これに対しHegseth政権では、その種の制度が「戦う力を削ぐ官僚的付随物」とみなされやすい。lethality は、法的・倫理的・官僚的制約を後景に退ける言葉としても機能し始めています。

Hegseth流lethalityの二面性と文民保護

lethality という言葉をそのまま「強い軍」だと受け止めるのは危険です。米陸軍大学の論文が指摘する通り、現代戦で重要なのは敵を破壊する能力だけではありません。学習、適応、再生、持久力、部隊の活力をどう維持するかも含めて初めて戦場で勝ち続ける力になります。ウクライナ戦争で示されたのも、ドローンの火力だけではなく、産業基盤、電子戦、現場改修、ソフト更新、人員の補充能力が戦局を左右するという現実でした。

その意味で、Hegseth流の lethality には二つの可能性があります。AI指揮統制や無人機統合を通じて現代戦に即した改革を進める側面と、曖昧な美名の下で監督や文民保護を切り捨てる側面です。後者が強くなりすぎると、長期的には学習能力と正統性を傷つけます。

今後は、レサリティ強化が本当に装備更新と訓練改善につながるのか、その名の下で文民被害軽減や監督機能がどこまで削られるのかを見る必要があります。

MattisからHegsethへ広がるlethalityの実像

米軍でいう lethality は、単純な殺傷力ではありません。Mattis時代には、近接戦闘部隊の装備更新や即応性向上を束ねる政策用語として広がりました。Hegseth政権ではそこに、人事、規律、能力主義、官僚機構の整理、文民保護の後退まで重なり、一種の世界観に変わっています。

この言葉が便利なのは、強さや規律、改革を一語で肯定できるからです。しかし曖昧だからこそ、何を優先し何を犠牲にするのかを見落としやすくなります。ニュースで lethality が出てきたら、「どの能力の話なのか」「何とのトレードオフなのか」を確認すると実像が見えます。

参考資料:

長谷川 悠人

米国政治・外交

米国政治の内幕を、ホワイトハウスから議会まで多角的に分析。政策決定のプロセスと日本への影響を鋭く読み解く。

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