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米大麻産業に歴史的転機 トランプ政権の規制緩和と税制優遇の全貌

by 長谷川 悠人
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はじめに

2026年4月、トランプ政権は米国の大麻政策において半世紀以上ぶりとなる歴史的な転換を実現しました。司法省と麻薬取締局(DEA)が、州認可の医療用大麻をスケジュールIからスケジュールIIIへと再分類する最終命令を発出したのです。これはヘロインと同じ最も厳しい規制区分に置かれてきた大麻の法的地位を、タイレノール含有コデインなどと同等の扱いに引き下げるものです。

この決定は、単なる規制上の手続き変更にとどまりません。税制面では、大麻事業者を長年苦しめてきた内国歳入法280E条項の適用が外れ、通常の事業経費控除が可能になります。研究面では、スケジュールI特有の煩雑な許認可手続きが緩和されます。そして投資面では、新たな資金流入への期待が市場を動かしています。本記事では、この政策転換の全貌と、業界・市場・政治に及ぼす影響を多角的に分析します。

スケジュールIII再分類の経緯と射程

大統領令から最終命令に至る政策プロセス

今回の再分類は、2025年12月18日にトランプ大統領が署名した大統領令「医療用大麻およびカンナビジオール研究の拡充」に端を発します。この大統領令は、司法長官に対して大麻のスケジュールIII移行に関する規則制定手続きを「可能な限り迅速に」完了するよう指示するものでした。

これを受け、トランプ政権の司法長官代行は2026年4月22日、州認可の医療用大麻をスケジュールIIIに再分類する命令に署名しました。DEAの最終命令は同年4月28日付で連邦官報に掲載され、即日発効しています。司法省はこの措置を「医療研究の強化と厳格な連邦管理の維持を両立するもの」と位置づけています。

注目すべきは、この政策決定に至るプロセスの迅速さです。通常、規制物質のスケジュール変更には数年単位の行政手続きを要しますが、大統領令による政治的後押しが手続きを大幅に加速させました。ワシントンの政策決定メカニズムにおいて、ホワイトハウスの意思が規制当局の動きをどれほど左右するかを示す典型的な事例といえます。

再分類の対象範囲と残された制約

今回のスケジュールIII移行の対象は、明確に2つのカテゴリーに限定されています。第一にFDA(食品医薬品局)が承認した大麻含有製品、第二に州の医療用大麻ライセンスに基づいて規制される大麻製品です。

一方、無許可の大麻栽培物、バルク大麻、そして州法で合法化されている娯楽用(成人向け)大麻は、依然としてスケジュールIに据え置かれます。つまり、全米24州とワシントンD.C.で合法化されている娯楽用大麻市場は、今回の恩恵の対象外です。この二重構造は、今後の政策議論における大きな論点となるでしょう。

州認可の医療用大麻事業者には、2026年6月22日までにDEAへ連邦登録書類を提出する期限が設けられています。この手続きを完了しなければ、スケジュールIII下での保護された事業運営ステータスを維持できません。

280E撤廃がもたらす税制上の転換

大麻事業者を圧迫してきた「懲罰的課税」の構造

内国歳入法280E条項は、スケジュールIまたはIIの規制物質を取り扱う事業者が通常の事業経費を連邦税申告で控除することを禁じる規定です。この条項により、大麻事業者は家賃、人件費、マーケティング費用といった標準的な経費を控除できず、売上総利益ではなく粗利益に対して課税される形となっていました。

その結果、大麻事業者の実効連邦税率は70〜80%に達するケースもあり、合法的に事業を営みながらも税制上は極めて不利な立場に置かれてきました。これは事実上の「懲罰的課税」として、業界の成長を構造的に抑制してきた要因です。

税制優遇の規模と事業者への影響

スケジュールIIIへの再分類により、州認可の医療用大麻事業者は280E条項の適用対象外となり、初めて連邦税申告において通常の事業経費控除が可能になります。業界調査会社ヴィリディアン・キャピタル・アドバイザーズの分析によれば、大手複数州事業者(MSO)上位12社だけで、年間合計7億ドル以上の連邦税負担軽減が見込まれるとされています。

ただし、この税制優遇には重要な留意点があります。スケジュールIII薬物としての新たなDEAコンプライアンス要件—医療上の主張に関する規制、製造・表示の一貫性、有害事象報告など—が課されるため、資本支出と管理コストが増大します。ブルームバーグ・タックスの報道によれば、これらのコンプライアンスコストが280E撤廃による税制上の恩恵を部分的に相殺する見通しです。

また、娯楽用大麻事業者は引き続き280E条項の適用を受けるため、医療用と娯楽用の両事業を展開するMSOでは、事業区分ごとの税務処理が一層複雑になる可能性があります。

投資マネーの動向と市場構造の変化

株式市場の反応と主要銘柄の動き

再分類の発表を受け、大麻関連銘柄は一斉に急騰しました。米国内で複数州にまたがる事業を展開するMSO各社が特に大きな恩恵を受けるとの期待から、投資家の資金が集中しています。

業界大手のキュラリーフ・ホールディングスは年初来で約34%の上昇を記録し、トゥルリーブ・キャナビスも年初来7%超の上昇を見せています。グリーン・サム・インダストリーズの株価も再分類ニュースを受けて上昇基調にあります。一方、カナダ拠点のティルレイ・ブランズなど、米国内で大麻製品を販売していない企業は、連邦規制の変更から直接的な恩恵を受けにくい構造にあります。

機関投資家の参入障壁と銀行アクセスの壁

株価の短期的な急騰にもかかわらず、大麻セクターの本格的な再評価にはなお2つの大きな課題が残されています。第一に、機関投資家によるセクターへのアクセス拡大です。大麻が連邦レベルで完全合法化されていない現状では、多くの機関投資家がコンプライアンス上の理由から投資を見合わせています。

第二に、銀行アクセスの問題です。スケジュールIIIへの移行は、連邦預金保険の付保された銀行口座や決済処理サービスへのアクセスを自動的に保証するものではありません。銀行秘密法のマネーロンダリング防止規制の枠組みにおいて、連邦法上違法な薬物取引の収益を処理する金融機関はマネーロンダリングのリスクにさらされるためです。

この問題を解決するためのSAFE銀行法案(州法に基づく大麻事業者にサービスを提供する銀行への明示的な連邦セーフハーバーを創設する法案)は、下院を通過し上院銀行委員会も通過していますが、上院本会議での採決には至っていません。

政治的ねじれと今後の展望

共和党内の世論との乖離

興味深いのは、トランプ大統領の大麻規制緩和の動きと、共和党支持者の意識との間に生じているねじれです。ギャラップの世論調査によれば、共和党員の大麻合法化支持率は2022年の46%から2026年には40%へと低下しており、過去10年で最低水準にあります。大統領が規制緩和を進める一方で、支持基盤の保守層では慎重論が強まるという構図です。

トランプ大統領自身も大麻を「非常に複雑なテーマ」と表現しており、娯楽用大麻の全面合法化には慎重な姿勢を崩していません。今回の措置が医療用に限定されたのも、こうした政治的バランスの反映といえます。

6月DEA公聴会の行方

今後の最大の焦点は、2026年6月29日から7月15日にかけてDEAが開催する公聴会です。この公聴会では、娯楽用大麻を含むより広範な大麻のスケジュールIII移行が正式な規則制定手続きを通じて検討されます。公聴会の結果次第では、米国の大麻政策がさらに大きく動く可能性がありますが、娯楽用大麻の再分類には政治的にも法的にもなお高いハードルが存在します。

米国の合法大麻市場は2026年に約300億ドル規模に達するとの推計もあり、経済的インパクトの大きさを考えれば、この政策議論が一層の注目を集めることは確実です。

まとめ

トランプ政権による医療用大麻のスケジュールIII再分類は、50年以上にわたる連邦大麻政策の最も大きな転換点です。280E条項の適用除外による税制上の恩恵、研究障壁の緩和、そして新たな投資機会の創出は、業界に確かな追い風をもたらしています。

しかし、娯楽用大麻がスケジュールIに据え置かれたこと、銀行アクセスの本質的な問題が未解決であること、そして共和党支持者の間で合法化への支持が低下していることは、この改革の射程に明確な限界を示しています。6月のDEA公聴会が、次なる転換の起点となるのか、それとも現状の二重構造が固定化されるのか。米国大麻政策の行方は、ワシントンの政治力学と業界のロビイング活動、そして世論の動向が複雑に交差する中で決まっていくことになります。

参考資料:

長谷川 悠人

米国政治・外交

米国政治の内幕を、ホワイトハウスから議会まで多角的に分析。政策決定のプロセスと日本への影響を鋭く読み解く。

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