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トランプ政権が直面した対外偽情報対策の空洞化とイラン戦争の逆説

by 安藤 誠
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はじめに

トランプ政権の当局者が、イラン発の偽情報や影響工作への対抗を急いでいます。ところが、ここで浮かぶのは単純な「敵の情報戦」だけではありません。政権自身が、外国の偽情報に対抗するために作られてきた制度や放送網を2025年に相次いで縮小・停止しており、その後になってイラン戦争のさなかに対外宣伝への備え不足に直面しているからです。

このテーマが重要なのは、偽情報対策が単なるファクトチェック業務ではないためです。各国語での発信、現地事情を踏まえた分析、サイバー防御、司法執行まで含めた総合能力が問われます。本稿では、イランの情報工作の実態と、米政府がなぜ「必要性は認めるが手足は削ってきた」という矛盾に陥ったのかを検証します。

イラン発の情報戦と米側の脆弱化

AI偽画像だけではないイランの影響工作

2026年春のイラン戦争では、AI生成画像や古い映像の再利用が大量に拡散しました。PolitiFactは、イランが国営・親政府系チャネルを通じてAI生成画像を流し、非本物アカウントを使って有利な物語を広げていると整理しています。特に、攻撃被害や軍事的成功を誇張する画像、米軍艦への打撃を装う映像、国外向けの「もっともらしい」ニュースサイトが組み合わされる点が特徴です。

ただし、ここで注意すべきなのは、イランの手法は単純な「フェイク画像投稿」にとどまらないことです。同じPolitiFact記事では、専門家が、イランは偽ニュースサイト、非本物アカウント、代理メディア網を組み合わせる「隠密な宣伝」を国家安全保障の中核手段としてきたと説明しています。2024年には、米国のニュース媒体を装う4つの偽サイトが確認され、正規報道をAIで言い換えて流した例もありました。さらに、2008年から2020年にかけてイラン関連の影響工作に結びつく930万件超の投稿が分析され、主要対象は米国よりアラブ圏だったとされています。つまり、イランの情報戦は米世論だけを狙う単発工作ではなく、地域横断で長期に構築されたインフラです。

実害の面でも、脅威はオンライン言論空間だけに閉じません。司法省は2026年3月19日、イラン情報省が関与した4ドメインの差し押さえを公表し、ハッキング、漏えい、脅迫を組み合わせた「サイバー起点の心理工作」を摘発したと説明しました。ここから見えるのは、対イラン情報戦が、SNS投稿の真偽判定だけではなく、諜報・司法・サイバー防御を束ねる領域になっていることです。

それでも米側の制度は先に削られた構図

ところが、米政府はその脅威に対抗する制度を2025年に自ら細らせました。まず、議会調査局によれば、国務省グローバル・エンゲージメント・センター(GEC)の法的権限は2024年12月23日に失効しました。GECは外国の偽情報や宣伝に対抗する中核組織でしたが、共和党内で「検閲的だ」との批判を浴び、延長立法が通りませんでした。

さらに2025年4月16日、ルビオ国務長官は、その後継と位置づけられたR-FIMIを閉鎖しました。Reutersによれば、ルビオ氏はこの組織を「検閲」と「税金の無駄遣い」と批判し、閉鎖を正当化しました。ここで重要なのは、GEC終了後も代替組織で機能維持する道があったのに、それすら自ら畳んだ点です。結果として、外国の情報操作を継続監視する専門部署は国務省内で一段と痩せ細りました。

打撃は放送・メディア部門にも及びました。USAGMは2025年3月15日、トランプ大統領の連邦官僚縮小令に従い、Voice of America、Cuba Broadcasting、各グランティーを含む組織縮小を開始し、多くの職員を行政休職に置くと公表しました。Reutersはその翌日、VOAの1300人超が休職となり、約50言語での発信が麻痺したと報じています。USAGMの公式ページでは、VOAは49言語で週3億6100万人超に届く媒体とされており、その空洞化は単なる人員削減以上の意味を持ちます。米政府が「自由で信頼できる情報」の供給能力を自ら削ったからです。

Radio Free AsiaとRadio Free Europe-Radio Libertyも揺らぎました。Reutersによれば、RFAは2025年3月末時点で米国内職員の75%を休業扱いにし、フリーランス記者の90%以上を止め、裁判所の介入がなければ4月末に全面停止すると訴えました。RFE-RLは提訴後に打ち切り命令がいったん撤回されたものの、そこまでしなければ予算執行を維持できなかったこと自体が、対外発信の不安定さを示しています。こうした多言語の放送網は、危機時に「米国の説明を世界に届ける」実務の土台でした。

それでも対抗を急ぐ政権の逆説

外交現場への再動員

2026年3月31日には、ルビオ氏が各国の米大使館・総領事館に対し、XのコミュニティノートやAIツール、さらには国防総省の心理作戦部隊との連携を使って「反米宣伝」に対抗するよう求めたとReutersが報じました。

この動きから読み取れるのは、政権も外国の情報工作を現実の安全保障課題として認識せざるを得なくなったということです。X上のコミュニティノートや外交官の発信強化は、監視分析、各言語での継続報道、サイバー捜査といった基盤の代替にはなりません。つまり政権は、制度的な対抗能力を削った後で、より即席の手段に頼って穴埋めしようとしているように見えます。

自由な言論と対外情報戦の線引き

この論点では、「政府による検閲」と、外国政府による影響工作への対処を混同しないことが重要です。GECやR-FIMIには国内言論への関与を疑う批判がありましたが、議会調査局が整理する本来任務は外国の偽情報・宣伝への対抗でした。Reutersが伝えた3月31日の新方針でも、標的は「反米宣伝」と「外国の影響工作」です。つまり政権は、自由な言論を守る名目で対抗機関を閉じた一方、戦時には同種の脅威を正面から認めていることになります。

この自己矛盾は、政策の一貫性だけでなく、対外信頼にも響きます。VOAやRFA、RFE-RLのような放送機関は、権威主義体制下で代替情報源として機能してきました。そこを縮めたまま「Xで反撃する」と打ち出しても、受け手にとっては制度的裏付けの弱い宣伝へ見えやすいでしょう。

注意点・展望

見落としやすい誤解

ありがちな誤解は、「偽情報対策=投稿削除」だという見方です。実際には、脅威分析、現地向け説明、独立報道の支援、サイバー妨害の摘発まで含む複合領域です。また、戦時の誤情報のすべてをイラン主導だと決めつけるのも不正確だと、PolitiFactは注意を促しています。

今後の見通し

今後の焦点は、政権が即席の外交キャンペーンを超えて、どこまで恒久的な能力を再構築するかです。捜査機関が個別摘発を続けられても、国務省の分析拠点やUSAGM傘下メディアが細ったままでは、長期の情報戦で守勢に回りやすくなります。米国に必要なのは、その場しのぎのSNS運用ではなく、監視・発信・法執行を接続した持続的な制度設計です。

まとめ

トランプ政権の対外偽情報対応は、必要性を認めながら能力を縮めたという逆説の上にあります。イランの情報工作は、AI偽画像、偽ニュースサイト、ハッキング、心理工作を束ねた複合型です。それに対し、米政府はGECとR-FIMIを失い、VOAやRFA、RFE-RLも不安定化させました。

そのうえで外交官にX活用を促している現状は、脅威認識の変化を示す一方、制度の空洞化も露呈しています。問われているのは、自由な言論を守りつつ、外国の情報工作に対抗する国家能力をどう再建するかです。

参考資料:

安藤 誠

南アジア・中東情勢

南アジア・中東を中心に、宗教・民族・歴史の深層から国際情勢を分析。長年の現地経験に基づく多層的な視座が持ち味。

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