米イラン戦争と兵士への説明責任を問う声
2月28日開戦と兵士への説明責任
2026年2月28日、米国とイスラエルはイランに対する大規模な軍事作戦を開始しました。議会の承認を経ないまま始まったこの戦争は、開戦から1か月が経過し、地上作戦の拡大という新たな局面を迎えています。元国防長官のチャック・ヘーゲル氏やレオン・パネッタ氏といった安全保障の重鎮たちが、兵士への説明責任の欠如を厳しく批判する声を上げています。
本記事では、米軍将兵が直面しているリスクの実態、議会承認をめぐる憲法上の問題、そして「なぜ戦うのか」という根本的な問いに対する説明責任の重要性について解説します。
地上作戦の拡大と兵士が直面するリスク
急速に進む部隊展開
米国防総省は、イランでの数週間にわたる地上作戦の準備を進めています。強襲揚陸艦USSトリポリに乗艦した海兵隊員と水兵は少なくとも2,500名が中東に到着し、第82空挺師団の部隊もすでに展開されています。紛争開始以降、約7,000名の追加兵力が派遣されており、さらに最大1万名の増派が検討されているとされています。
計画されている地上作戦は、ホルムズ海峡付近の沿岸施設やハルク島への急襲作戦を含むとされ、完全な侵攻には至らないものの、特殊作戦部隊や通常歩兵部隊による襲撃が想定されています。
高まる犠牲のリスク
3月末時点で、13名の米軍兵士がイランの攻撃により死亡し、300名以上が負傷しています。さらに、西イラクでは米空中給油機の墜落により乗員6名全員が死亡する事故も発生しました。
退役したジョセフ・ボーテル元中央軍司令官は、イラン本土への進攻について「すぐに飲み込まれるだろう」と警告しています。イラン側も、地上侵攻に対して「火の雨を降らせる」と威嚇しており、奇襲の要素を失った地上作戦は、最初の4週間とは比較にならない危険を伴うと分析されています。
議会承認なき開戦と戦争権限の空洞化
1973年戦争権限決議の形骸化
米国憲法では、宣戦布告の権限は議会にあると定められています。1973年に制定された戦争権限決議は、ベトナム戦争の反省から、大統領が議会の承認なく軍隊を海外に派遣する権限を制限するために設けられました。大統領は48時間以内に議会へ報告し、60日以内に議会の承認を得なければならないとされています。
しかし、トランプ大統領はイランへの攻撃開始にあたり、議会の承認を求めませんでした。これは歴代大統領の中でも最も深刻な議会権限の無視だとする指摘が出ています。
議会の対応と限界
下院では、トランプ大統領のイラン戦争を停止し、今後の攻撃に議会承認を求める戦争権限決議案が審議されましたが、219対212の僅差で否決されました。上院でも同様の措置が党派投票で否決されています。
超党派の動きとして、民主党のティム・ケイン上院議員と共和党のランド・ポール上院議員による法案や、下院のトーマス・マッシー議員(共和党)とロー・カーナ議員(民主党)による決議案が提出されていますが、いずれも可決には至っていません。
元国防長官らが問う「説明責任」
パネッタ元長官の批判
元国防長官であり元CIA長官でもあるレオン・パネッタ氏は、トランプ政権がホルムズ海峡封鎖という「明白な結果」への対策なしに攻撃を開始したことを「計画の失敗」と厳しく批判しています。パネッタ氏は、戦争の明確な出口が見えないこと、中東での軍事行動が紛争の根本原因を解決した歴史がないことを指摘し、現政権のアプローチは国際的に弱さを示すものだと警告しています。
ヘーゲル元長官の警告
チャック・ヘーゲル元国防長官は、CNNのインタビューで「戦争は悪化の一途をたどり、深刻な結果をもたらすだろう」と語りました。さらに「戦略がなければ、どうやってこの状況から抜け出すのか」と問いかけ、出口戦略の不在に対する強い懸念を表明しています。
両元長官に共通するのは、「兵士とその家族に対して、なぜ戦争をしているのか、どのようなリスクがあるのかを正直に伝える義務がある」という主張です。戦場に送り出す以上、政府には明確な目的と戦略を示す責任があるとの立場を示しています。
世論と民主主義のねじれ
反対多数の世論
複数の世論調査が、米国民の多数がイラン戦争に反対していることを示しています。ピュー・リサーチ・センターの調査では、約6割がトランプ大統領の紛争対応を支持しないと回答しています。キニピアック大学の調査では、地上部隊の派遣に74%が反対しており、戦争が国の安全を高めるとする回答(22%)を大きく上回る40%が「長期的に安全性を低下させる」と答えています。
民意と政策の乖離
約6割の米国民が戦争に反対しているにもかかわらず、議会は戦争を止める行動を取れていません。世論調査では、54%が軍事作戦は少なくともあと6か月続くと予想し、29%は1年以上続くとみています。この民意と政策の乖離は、戦争権限をめぐる制度的な問題を浮き彫りにしています。
地上作戦拡大と原油126ドルのリスク
今後の焦点は、地上作戦が実際にどこまで拡大するかにあります。限定的な急襲作戦であっても、イランのドローン、ミサイル、地上火力、即席爆発装置にさらされるリスクは避けられません。専門家は、大規模な地上部隊なしに本土進攻を試みれば、兵力が「すぐに飲み込まれる」と警告しています。
また、ホルムズ海峡の封鎖はすでに世界のエネルギー市場に深刻な影響を与えています。ブレント原油価格は一時1バレル126ドルまで急騰し、国際エネルギー機関はこれを「世界の石油市場史上最大の供給途絶」と評しています。軍事的リスクに加え、経済的コストも急速に膨らんでいます。
議会承認なき米イラン戦争の責任
米イラン戦争は、議会承認のないまま開戦し、地上作戦の拡大局面を迎えています。元国防長官らは、兵士とその家族に対する説明責任を強く求めています。世論の過半数が反対する中で戦争が続く現状は、米国の戦争権限制度が持つ構造的な問題を改めて突きつけています。
戦場に立つ将兵の安全を確保するためにも、なぜこの戦争を戦うのか、どのようなリスクがあるのか、そしてどうやって終わらせるのかについて、政府が国民と兵士に対して誠実に向き合うことが求められています。
参考資料:
- US Ground Forces Arrive in Middle East as Iran Conflict Escalates
- From Iraq to Iran: How Congress Handed Over War Powers to the Presidency
- US House narrowly rejects resolution to end Trump’s Iran war
- Former US defence chief says more war won’t bring peace to Middle East
- ‘If you have no strategy, how do you get out of this?’ Chuck Hagel on Iran war
- Americans Broadly Disapprove of U.S. Military Action in Iran
- Using US ground troops against Iran could prove very costly, retired generals say
- What the closure of the Strait of Hormuz means for the global economy
南アジア・中東情勢
南アジア・中東を中心に、宗教・民族・歴史の深層から国際情勢を分析。長年の現地経験に基づく多層的な視座が持ち味。
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