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米造幣局の金調達に潜むコロンビア違法金鉱と米制裁網の深い盲点

by 三浦 愛子
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米造幣局調達が浮かべた制裁の矛盾

コロンビア政府が違法金採掘への金融制裁を米国に求めたと報じられたことで、米国の制裁政策と政府調達の間にある矛盾が表面化しました。問題の中心にあるのは、コロンビア最大級の犯罪組織Clan del Golfo(クラン・デル・ゴルフォ)が資金源としてきた違法金鉱と、その金が国際精錬網を経て合法的な金市場に入り得る構造です。

米国は同組織の幹部を長年制裁対象にしてきました。さらに2025年12月には、同組織を外国テロ組織および特別指定国際テロリストとして指定しました。それにもかかわらず、米造幣局の金調達では原産地確認の弱さが監査で指摘され、違法採掘由来の金が混入する余地が残っていました。これは単なる調達ミスではなく、金という資産の流動性、制裁実務、投資商品の信用が交差する金融市場の問題です。

違法金鉱がカルテル資金になる仕組み

採掘現場で発生する通行料と保護料

違法金採掘が犯罪組織にとって魅力的なのは、現金化しやすく、採掘後の足取りを消しやすいからです。麻薬取引は国境管理、密輸ルート、摘発リスクに左右されますが、金は一度溶かされ、精錬され、正規の売買書類に乗ると、見た目だけで原産地を判別することがほぼ不可能になります。

コロンビア北西部では、金鉱地帯と麻薬・人身移動の回廊が重なります。米財務省は2024年の制裁発表で、Clan del Golfoを同国最大級の麻薬組織の一つであり、ダリエン地峡を通る人の移動にも深く関与する組織だと位置づけました。2020年の発表でも、同組織を全国的な存在感を持つ集中型の犯罪企業と説明しています。

金鉱現場では、組織が直接採掘を行う場合だけでなく、零細採掘者や機械所有者から通行料、操業料、保護料を徴収する形もあります。この場合、鉱山の表面上の所有者や買い手が犯罪組織でなくても、採掘量が増えるほど組織の収入が増えます。制裁で個人や企業を凍結しても、採掘現場、仲買人、精錬所、輸出業者のどこで資金が抜かれているかを追跡できなければ、制裁の効果は限定的になります。

精錬後に薄まる原産地情報

UNODCとコロンビア政府の2022年調査では、陸上の沖積金採掘の痕跡が9万4733ヘクタールで確認され、そのうち6万9123ヘクタールが違法採掘に分類されました。全体の85%はチョコ、アンティオキア、ボリバルの3県に集中しており、101市町村のうち10市町村だけで検出面積の56%を占めました。OASも同じデータを用い、違法採掘が森林破壊、水質汚染、重機管理の欠落と結びついていると整理しています。

ここで重要なのは、違法金が必ずしも最初から国際市場に「違法」と表示されて出てくるわけではない点です。採掘現場で採れた金は、地域の買い取り業者、小規模業者、精錬所を経由します。途中で合法採掘由来の金やスクラップ金と混ざれば、最終的な金地金は金融商品として扱いやすくなります。FinCENも環境犯罪に関する通知で、違法採掘を含む環境犯罪は汚職や国際犯罪組織と結びつき、マネーロンダリング、贈収賄、偽造、麻薬取引と関連し得ると警告しています。

金市場では、ロンドン地金市場協会(LBMA)のグッド・デリバリー制度や責任ある調達ガイダンスが標準として機能しています。しかし、認証は「リスクを管理している」ことを示すものであり、すべての金粒子の由来を保証するものではありません。監査、書類、顧客確認、供給元レビューがあっても、現場での徴収構造が見えなければ、金はクリーンな地金として再登場します。

米国の国内産金ルールが機能しない理由

等量配分が生む原産地確認の限界

米国の金貨制度には、国内採掘金を使うという政策目的があります。31 U.S.C. 5112には、一部の金貨について米国または米領内の自然鉱床から採掘された金を購入する規定が置かれています。これは単に愛国的な表示の問題ではなく、米国鉱業を支える産業政策でもあります。

ところが、米財務省監察総監室(OIG)の2024年監査は、米造幣局の実務がこの理念を十分に支えていないと指摘しました。監査によると、2018会計年度に米造幣局が販売した金の約98%は、新たに採掘された米国産金を使う必要がある商品でした。しかし造幣局は、金貨用の金が実際にその条件を満たしていることを裏づける証拠を提示できませんでした。

問題の根は、精錬実務と法制度のずれにあります。精錬所では複数の鉱山、スクラップ、地域から入った金が混ざります。OIGによれば、造幣局は長年、ある精錬所が一定量の米国産金を処理していれば、その量の範囲内で造幣局が受け取る金を米国産として扱う配分方式を使ってきました。これは会計上の整理としては便利ですが、特定のバーがどの鉱山から来たかを示す追跡とは異なります。

OIGはまた、造幣局が2002年ごろから、精錬所から米国産金に関する資料を定期的に取得していなかったとする管理側の認識も示しました。さらに、日々の見積もり、確認書、会計・在庫管理で、米国産金とそれ以外の金を区別していなかったとも指摘しています。ここに、違法金問題が入り込む余地があります。制度上は国内産を求めていても、実務上は精錬所の総量証明と市場調達に依存していたからです。

OFAC制裁と造幣局購買の断絶

OFAC制裁は、個人、企業、組織の資産を凍結し、米国人との取引を禁じる強力な道具です。2023年にはClan del Golfoの最高指導者とされるJobanis de Jesus Avila Villadiegoが制裁対象となり、2024年には同組織の幹部5人も制裁対象になりました。2025年12月の連邦官報では、Clan del Golfoそのものが外国テロ組織に指定されています。

それでも、制裁リストの発想は「誰と取引するか」を中心に組み立てられています。金の問題は「何がどこから来たか」を問う必要があります。違法採掘の現場で犯罪組織が徴収した金が、仲買と精錬を経て別の企業名で流通すれば、制裁対象者との直接取引が確認されないまま市場に入る可能性があります。

米上院のロン・ワイデン議員とエリザベス・ウォーレン議員は2026年5月14日、スコット・ベッセント財務長官宛ての書簡で、造幣局の金調達が制裁対象組織や犯罪組織に資金を流していないかを問いただしました。書簡は、コロンビアの違法金採掘が犯罪組織に薬物取引を上回る収入をもたらしていると指摘し、OFACとの連携、米ドル決済の監視、OIG勧告への対応を求めています。

この照会が示すのは、財務省内でも機能が分断されている可能性です。OFACは制裁を設計し、FinCENは疑わしい取引を集め、造幣局は地金を調達します。各部門がそれぞれの制度目的を果たしていても、金のサプライチェーン全体を横断する責任者がいなければ、犯罪組織の資金化ルートを塞ぐことはできません。

制裁強化で浮上する市場と外交の副作用

違法金への制裁強化は必要ですが、設計を誤ると副作用も大きくなります。第一に、零細・家族経営の採掘者を一律に排除すれば、合法化の道が閉ざされ、かえって武装組織への依存が強まります。コロンビアの金鉱地帯には、違法組織の支配下に置かれている採掘者と、制度的な手続きを完了できていない非公式採掘者が混在します。制裁は犯罪組織の徴収網を狙うべきで、地域住民の生計そのものを地下化させるべきではありません。

第二に、米国政府調達の信用問題です。金貨は地金価格にプレミアムを乗せて流通します。そのプレミアムの一部は、発行主体である政府への信頼です。米造幣局の調達手続きが国内産表示や責任ある調達と整合しないと見られれば、投資家の信頼は価格ではなく制度に向かって揺らぎます。金そのものの価値は国際価格に連動しますが、政府発行商品の信用は説明責任に依存します。

第三に、米コロンビア関係への影響です。コロンビア側は違法採掘を安全保障問題として扱い、米国側に制裁を求めています。一方、米国側の政府機関が同じ市場から金を調達していた疑いを払拭できなければ、麻薬対策やテロ資金対策での協力に政治的な摩擦が生じます。米国が制裁を発動するだけでなく、自国の購買行動を同じ基準で点検できるかが問われています。

今後の焦点は、違法金産業全体への広い制裁ではなく、採掘地、仲買、輸出、精錬、決済を結ぶノードをどこまで特定できるかです。OECDの鉱物サプライチェーン指針は、鉱山から最終利用者までの企業が人権侵害、紛争資金、金融犯罪のリスクを特定し、軽減する責任を負うとしています。米政府自身も、この基準を民間企業に求めるだけでなく、調達者として実装する必要があります。

投資家が金商品で確認すべき統制項目

個人投資家にとって、この問題は「米国金貨を買うべきか」という単純な問いではありません。金貨や地金の流動性、品位、換金性は別の論点です。ただし、発行体や販売業者がどのように原産地リスクを説明しているかは、今後の投資判断で重要になります。

確認すべき項目は三つあります。第一に、商品説明で原産地をどう表現しているかです。国内産、北米産、リサイクル金、責任ある調達といった言葉は似ていますが、意味は異なります。第二に、精錬所や認証制度への依存だけでなく、独立監査とサプライチェーンレビューの範囲が公開されているかです。第三に、制裁対象地域や高リスク地域が判明した場合の停止・是正手続きがあるかです。

米造幣局の問題が重いのは、政府機関であっても金の原産地を自動的には保証できないことを示した点です。金はインフレや金融不安への備えとして選ばれますが、その安全資産性は市場価格だけでなく、調達統制と法令順守にも支えられています。投資家は純度や価格差だけでなく、どの制度がどこまで出所を確認しているのかを読み取る姿勢が必要です。

参考資料:

三浦 愛子

米国経済・金融市場

米国経済の構造変化を、金融市場・財政政策・産業動向の三軸で分析。ウォール街と実体経済のギャップを見抜く。

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