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米石油業界1300億ドル利益、イラン戦争で精製収益が急増した構図

by 安藤 誠
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1300億ドル利益が映す戦時エネルギー経済

米国で石油の生産や精製を手がける主要50社の利益は、2月28日のイラン戦争開戦以降、合計1300億ドルを超えたと報じられています。原油高だけでなく、ガソリンやディーゼルを製造する際の精製マージンが急拡大したためです。

一方、この金額をすべて「戦争による超過利益」とみなすのは正確ではありません。通常の生産活動、企業買収、コスト削減、為替変動なども決算に含まれるからです。利益の集計範囲を確認しながら、ホルムズ海峡の混乱が企業収益と家計負担を同時に押し上げた構造を読み解く必要があります。

原油高と精製マージンが生んだ二重の収益源

「1300億ドル」の範囲と因果関係

英インディペンデントが紹介した集計では、米石油業界の上位50社が開戦後に計上した利益は1300億ドル超です。ただし、これは各社の会計上の利益を合算したもので、戦争がなければ得られなかった利益だけを抽出した数字ではありません。

四半期決算には、戦争前に進めていた油田開発や製油所改修の成果も反映されます。原油価格上昇による在庫評価益が生じる一方、調達価格の上昇や中東事業の減産、輸送費、保険料の増加が利益を圧迫する場合もあります。したがって、総利益、前年同期からの増益額、戦争に由来する超過利益は区別すべき指標です。

それでも、主要企業の増益幅は極めて大きくなりました。ExxonMobilの第3四半期利益は154億ドル、調整後利益は175億ドルでした。GAAPベースの年初来利益も341億ドルと、前年同期の223億ドルを大きく上回っています。

Chevronの第3四半期利益は99億ドルで、前年同期の35億ドルから約2.8倍に増えました。Valeroも68億ドルと、前年同期の11億ドルから急増しています。増益が特定の巨大企業だけに限定されていない点は重要です。

統合型メジャーと専業精製会社の収益構造

戦争が利益を押し上げた第1の経路は原油価格です。Chevronが公表した第3四半期の平均ブレント価格は1バレル97ドルで、前年同期の69ドルを28ドル上回りました。油田を保有する企業は、生産量が同じでも販売価格の上昇によって収入を増やせます。

第2の経路は、原油価格と石油製品価格の差である「クラックスプレッド」です。世界の製油所や輸送網が正常なら、原油高は精製会社の原料費も押し上げます。しかし今回は、中東とロシアの製油能力や製品輸出が同時に制約され、ディーゼルやジェット燃料の価格が原油以上に上昇しました。

EIAによると、第3四半期の米国のガソリン精製マージンは前年同期の2倍超、留出油とジェット燃料のマージンは約3倍でした。製油所の平均稼働率は95%に達し、同四半期としては2019年以来最大の原油処理量を記録しています。

この結果、ExxonMobilでは燃料を扱うエネルギー製品部門の利益が72億ドルとなり、上流部門の71億ドルを上回りました。Chevronの下流部門利益も49億ドルと前年同期の11億ドルから拡大し、うち米国内だけで36億ドルを稼ぎました。Valeroの精製部門営業利益は88億ドルで、前年同期の16億ドルの5倍超です。

第2四半期にも同じ傾向が表れています。Marathon Petroleumは51億ドルの純利益を計上し、前年同期の12億ドルから4倍超に増加しました。精製・販売部門の1バレル当たり調整後EBITDAは6.79ドルから24.84ドルへ上昇しています。原油採掘と精製の両方を持つ統合型企業に加え、精製専業企業も価格差の恩恵を受けた構図です。

家計と物価へ移転した燃料高の連鎖

ガソリンより深刻なディーゼル不足

供給障害の中心は、単純な原油不足から石油製品不足へ移っています。IEAの10月石油市場報告によると、9月のホルムズ海峡通過量は日量1090万バレルまで回復し、中東の原油輸出も開戦前の75%超に戻りました。しかし、中東からの石油製品輸出は日量190万バレルで、開戦前の470万バレルの半分にも届いていません。

ロシアやアジアの供給減少も重なり、世界のディーゼル・軽油供給量は第3四半期に前年同期比で日量170万バレル減りました。9月末の世界の石油在庫は開戦前より5億900万バレル少なく、陸上在庫は少なくとも2016年以来の低水準です。停戦観測で原油先物が下がっても、精製済み製品の在庫が回復しなければ小売価格は下がりにくくなります。

EIAの短期見通しでは、9月の米平均価格はガソリンが1ガロン4.35ドル、ディーゼルが6.29ドルでした。留出油在庫が低水準にとどまるため、ディーゼル価格は10月も6ドル超、2027年を通じても4ドル超で推移すると予測されています。

ディーゼル高は給油所を利用する運転者だけの問題ではありません。トラック輸送、農業機械、建設機械、船舶、非常用発電、北東部の暖房などに波及します。企業が燃料費を一時的に吸収しても、長期化すれば運賃や商品価格、燃油特別付加運賃への転嫁が避けにくくなります。

米労働統計局によると、9月のガソリン価格指数は前月比9.1%、前年同月比34.2%上昇しました。エネルギー全体も前年同月比20.4%上がり、総合消費者物価指数の上昇率は3.7%です。燃料高が航空運賃や物流費に広がれば、エネルギーを除く基調的な物価にも時間差で影響します。

備蓄放出と金融政策に残る限界

ブラウン大学のエネルギー費用追跡調査は、実際の燃料価格と「戦争がなかった場合」の推計価格との差に消費量を掛け、追加負担を算出しています。10月末の累計負担はガソリンとディーゼルを合わせて約1450億ドル規模、1世帯当たりでは1100ドルを超える水準です。

ただし、この数字も反実仮想モデルによる推計です。季節要因、製油所の停止、ロシア・ウクライナ戦争、需要変動など、イラン戦争以外の要素を完全には分離できません。それでも、企業利益と消費者負担がほぼ同じ桁に達したことは、価格ショックが社会のどこからどこへ所得を移したかを考える手掛かりになります。

各国は備蓄放出で対応しています。IEAによると、3月以降に約3億2500万バレルが市場へ放出され、残る約1億バレルの放出も加速する方針です。加盟国は約11億バレルの公的緊急在庫を保有し、このうち2億バレル超がディーゼルです。

備蓄は混乱時の橋渡しにはなりますが、有限であり、製油所そのものを増やす政策ではありません。需要の大きいディーゼルを優先すれば家計と物流を支えられる一方、次の危機に備える在庫は減ります。危機終息後に備蓄を買い戻す需要も、原油価格を下支えする可能性があります。

金融政策にも難題が残ります。CBOは、エネルギー高によって2027年第1四半期のPCEインフレ率が従来予測より0.5ポイント、コアPCEも0.3ポイント高くなると推計しました。FRBは10月会合で政策金利を3.75~4%に据え置きましたが、物価上昇が続けば家計は燃料費と高金利の両方を負担することになります。

停戦後にも残る市場正常化の三つの難所

第1の難所は外交と海上輸送です。ホルムズ海峡の通航量が戻っても、船舶保険、タンカー運賃、機雷や攻撃の危険が解消されなければ、平時の物流費には戻りません。紅海やサウジアラビアの東西パイプラインへの攻撃も、ホルムズ海峡を迂回する能力を制約します。

第2は製品在庫の再構築です。IEAは、ディーゼル市場の供給不足が2027年後半まで解消しにくいとみています。製油所が高稼働を続けても、保守停止を永遠に先送りすることはできません。設備故障や大型ハリケーンが重なれば、米国が原油産出国であってもガソリンやディーゼルは再び急騰します。

第3は超過利潤をめぐる政治です。米上院民主党側では、危機時の大手石油会社の利益を回収して消費者へ還元する超過利潤税が提案されています。家計支援になる一方、何を通常利益と定義するか、将来の製油所投資を損なわないかという設計上の問題があります。

また、利益急増だけを根拠に価格操作があったと断定することもできません。現在の高収益には、世界的な供給不足と米製油所の高稼働が同時に作用しています。必要なのは、価格形成や在庫、輸出、設備停止に関する透明性を高め、便乗値上げの監視と供給投資の確保を両立させる制度です。

読者が注視すべき価格と在庫と外交交渉

今後は原油価格だけでなく、ディーゼルのクラックスプレッド、米東海岸の留出油在庫、ホルムズ海峡の通航量を併せて確認する必要があります。原油先物が下落しても、製品在庫が増えなければ給油所価格や物流費はすぐには下がりません。

投資家は現在の利益を恒常的な収益力とみなさず、設備投資、株主還元、製油所の保守計画を比較すべきです。家計や事業者にとっては、停戦合意の有無だけでなく、輸送保険の正常化と中東・ロシアの精製能力回復が実質的な転換点になります。

1300億ドルという利益は、戦争が生んだ供給制約を米石油業界が収益へ変えた規模を示します。同時に、エネルギー安全保障が原油の確保だけでは成立せず、精製設備、製品在庫、海上交通路まで含む問題であることを浮き彫りにしています。

参考資料:

安
安藤 誠

南アジア・中東情勢

南アジア・中東を中心に、宗教・民族・歴史の深層から国際情勢を分析。長年の現地経験に基づく多層的な視座が持ち味。

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