NewsAngle
NewsAngle

米国ショッピングモール復活の意外な真実

by 三浦 愛子
URLをコピーしました

2026年米国モール復活の反転劇

「ショッピングモールは死んだ」——ここ数年、こうした言説が米国の不動産業界で繰り返されてきました。Eコマースの台頭やパンデミックの影響で、多くのモールが閉鎖に追い込まれたのは事実です。しかし2026年、意外な反転が起きています。

すべてのモールが苦境にあるわけではありません。特定のタイプのショッピングモールが、不動産投資家にとって驚くほど魅力的な存在になっているのです。本記事では、米国モール復活の実態と、その背景にある構造的変化を解説します。

クラスAモールが牽引する「モール・ルネサンス」

二極化する米国モール市場

米国のショッピングモール市場では、明確な二極化が進んでいます。業界最大手のサイモン・プロパティ・グループは、2025年第3四半期にポートフォリオ全体で96.4%という高い稼働率を記録しました。一方で、低品質な物件はテナント確保に苦しみ続けています。

この二極化の鍵を握るのが「クラスA」と呼ばれる一流モールです。高所得者層を顧客基盤とし、立地やテナント構成で優位に立つこれらの物件は、純営業利益(NOI)の成長見通しが高く、投資家の関心を集めています。

取引件数が急増中

2025年には、複数の9桁(数億ドル規模)のモール取引が発表されました。同年の最初の3四半期だけで38件のモールが個別取引で売買され、年間ペースでは50件以上に達する見込みです。これは過去20年以上で3番目に多い年間取引数に相当します。

国際ショッピングセンター協議会(ICSC)の2026年予測によれば、小売不動産の取引量は、金利の緩和によって待機資本が市場に再投入されることで、さらに増加すると見られています。

体験型モデルへの転換が成功の鍵

「買い物」だけではないモールの価値

復活を遂げているモールには共通点があります。それは、従来の物販中心のテナント構成から「体験型」モデルへの転換に成功していることです。

現在の成功するモールでは、飲食・エンターテインメント・ヘルスケア・ウェルネスといった体験型テナントが収入の柱になっています。小売業はもはやアパレルなどの「ソフトグッズ」だけで成り立つ時代ではありません。コーヒーショップ、フィットネスジム、クリニック、さらにはイベントスペースといった多様なテナントが、来店動機を生み出しています。

空室率は20年ぶりの低水準

こうした転換の成果は数字にも表れています。米国のショッピングセンター全体の空室率は5.4%にまで低下し、20年ぶりの最低水準を記録しました。長年にわたる新規開発の抑制と、業績不振物件の整理が進んだ結果、生き残ったモールの競争力が大幅に向上しているのです。

Cushman & Wakefieldのレポートでは、小売不動産は「レジリエントで、関連性が高く、成長に備えた」投資分野であると評価されています。

投資家が再びモールに注目する理由

構造的な供給不足

モール復活の背景には、需給バランスの構造的な変化があります。過去10年間、米国では大型商業施設の新規開発がほぼ停止していました。一方で人口は増加し、消費需要は回復しています。この供給不足が、既存モールの賃料上昇と資産価値の向上を支えています。

ICSCの予測では、2026年も新規供給は限定的であり、賃料は引き続き上昇する見通しです。

金融環境の追い風

2026年から2029年にかけて、借り換えが必要な不動産関連の負債は総額2兆6,000億ドル規模に達すると見込まれています。金利緩和の期待が高まるなか、商業用不動産(CRE)ローンの借り換え需要が取引活動を活性化させる可能性があります。

Cohen & Steersのレポートでは、これを「リテール・ルネサンス」と称し、プライベート不動産投資における新たな機会として位置づけています。

クラスA偏重と消費不安の投資リスク

すべてのモールが恩恵を受けるわけではない

重要なのは、この復活はすべてのモールに当てはまるわけではないという点です。ブローカーの間では、クラスAのショッピングセンターへの需要は2026年も堅調に推移する一方、品質の劣る物件ではテナント離れが続くとの見方が一般的です。

投資家にとっては、立地・テナント構成・管理品質を慎重に見極めることが、モール投資の成否を分けることになります。

消費動向の不確実性

また、関税政策やインフレの動向など、マクロ経済の不確実性にも注意が必要です。消費者心理が悪化すれば、モールの回復トレンドにも影響が及ぶ可能性があります。

二極化時代の米国モール投資判断

米国のショッピングモール市場は、一律の「衰退」から「二極化」の時代に入っています。クラスAモールは高稼働率と体験型テナントの導入により、不動産投資の有力な選択肢として復活を遂げています。一方で、品質の劣るモールは依然として厳しい状況が続いています。

この二極化のトレンドは、2026年以降もさらに加速する可能性が高いです。モール投資を検討する際は、物件の質と将来性を個別に評価することが不可欠です。

参考資料:

三浦 愛子

米国経済・金融市場

米国経済の構造変化を、金融市場・財政政策・産業動向の三軸で分析。ウォール街と実体経済のギャップを見抜く。

関連記事

MetaのMuseGlimmerが開くAI開放競争と市場の行方

MetaがMuse Glimmerをオープンウェイトで公開し、AIの民主化と安全規制の対立が再燃しました。個人PCで動く小型モデル、Muse Sparkとの二層戦略、年1300億ドル超の設備投資、データセンター地域負担、米中競争が開発者市場と株式評価、収益化の現実に与える影響を投資家視点で読み解く。

AI投資の採算を問う米企業トークノミクス実利経営への大転換期

Gartnerは2026年のAI支出を2.59兆ドルと予測する一方、McKinseyでは企業全体のEBIT効果を示す回答は39%にとどまる。米企業が投資回収を測る新指標トークノミクスと、クラウド費用・人材再設計・業務統合の課題、株式市場が見る採算ライン、米国経済への波及を実務と市場の視点で読み解く。

FRB金利据え置きに3票反対、9月利上げ観測と市場心理を読む

FRBは7月FOMCで政策金利を3.5〜3.75%に据え置いた一方、ハマック、カシュカリ、ローガンの3人が0.25ポイント利上げを主張。インフレ再燃、中東情勢、米長期金利の上昇が重なるなか、9月会合の焦点と市場への波及を読み解く。債券市場で長期金利が上振れ、株式市場が揺れる局面で、投資家が確認すべき指標も整理する。

トランプ関税で進む中国回帰、東南アジア移管企業の新たな誤算の深層

トランプ政権の関税再設計で、中国から東南アジアへ移した一部生産が中国へ戻り始めた。小型家電の注文回帰、ベトナムで増えた中国系FDI、前倒し輸入と港湾混雑のデータから、米国の脱中国戦略が抱えるコスト差、供給網依存を読み解く。投資家や輸入企業が見る価格転嫁、在庫調整、ASEAN拠点の見直し指標も整理する。

ユタ州出生率急落が示す大家族神話の崩れと米国経済の長期リスク

ユタ州の2024年出生率は女性千人当たり59.9と全米平均を上回る一方、コロナ前10年平均比では20.8%減と全米最大の落ち込みです。大家族文化で知られた州で何が変わったのか。住宅価格、保育費、晩婚化、宗教文化の変化が、移民依存を強める労働力・州財政・学校運営と税収基盤に及ぼす今後の長期影響を読み解く。

最新ニュース

カナダ譲歩の限界、対米関税交渉と北米貿易体制再設計の主要焦点

米国が8月19日に発動予定の対カナダ50%関税を前に、カーニー政権はデジタル課税撤回や報復関税縮小で譲歩しつつ、CUSMA全体の包括合意を要求。自動車、乳製品、国境管理、労働者支援まで交渉の焦点を整理し、北米サプライチェーン、投資判断、生活コストに広がる影響と日本企業が押さえるべき主要論点を読み解く。

MetaのMuseGlimmerが開くAI開放競争と市場の行方

MetaがMuse Glimmerをオープンウェイトで公開し、AIの民主化と安全規制の対立が再燃しました。個人PCで動く小型モデル、Muse Sparkとの二層戦略、年1300億ドル超の設備投資、データセンター地域負担、米中競争が開発者市場と株式評価、収益化の現実に与える影響を投資家視点で読み解く。

NVIDIA5000億ドル融資が映すAI工場と米国の電力覇権

NVIDIAがApollo、BlackRock、Goldman Sachs、KKRなど6社と5000億ドル超のAI計算資源融資を組む狙いを分析。GPU購入支援を超え、データセンター、電力網、民間信用、米国の産業覇権を結ぶ資本循環の利点と、電力制約や循環金融批判が市場に残すリスクの構図全体を読み解く。

AIデータセンター反発で揺れるトランプ政権の成長戦略と有権者不安

トランプ政権はAI覇権を掲げデータセンター建設を急ぐが、ギャラップ調査では米国民の7割が地元建設に反対。電力料金の上昇、水資源の消耗、州のモラトリアム、テキサスの農村反発が2026年中間選挙に波及する構図と、DOEやIEAの需要予測が示す連邦の政策リスク、米国AI政策の盲点を具体的に丁寧に読み解く。

AIメモリ不足で激化する米国半導体陳情戦と供給網危機の主要論点

AIデータセンターのHBM需要がDRAMとNANDの供給を圧迫し、Appleや医療機器業界が米政府に支援を求めています。TrendForceは2Q26のDRAM価格58〜63%上昇を予測。CXMT調達リスク、Micron投資、CHIPS法の限界から、ワシントンで広がる半導体陳情戦の供給網危機を読み解く。