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DEI縮小で女性の職場環境が悪化、米国企業に広がる逆行の波

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はじめに

米国の職場における女性の地位が、かつてない危機に直面しています。トランプ政権が2025年1月の就任初日にDEI(多様性・公平性・包摂性)プログラムの廃止を命じる大統領令を発令して以来、連邦政府だけでなく民間企業にもDEI縮小の波が広がっています。400人以上の女性を対象とした調査では、79%がDEIプログラムの撤廃によって女性のキャリア機会に悪影響が及ぶと回答しました。さらに深刻なのは、2025年2月から5月のわずか3か月間で約30万人の黒人女性が米国の労働力から姿を消したという報告です。DEIの後退は単なる制度変更にとどまらず、職場における女性の「不可視化」を加速させるリスクをはらんでいます。

トランプ政権のDEI廃止と連鎖反応

大統領令による連邦政府のDEI解体

トランプ大統領は2025年1月20日、就任初日に2本のDEI関連大統領令に署名しました。ハーバード大学のコーポレートガバナンスフォーラムの分析によると、これらの大統領令は連邦政府内のすべてのDEI関連の部署・役職・プログラムの廃止を命じるとともに、公平性に関連する助成金や契約の終了を指示するものでした。翌21日にはさらに、連邦契約企業や民間企業のDEI活動を標的とした大統領令が追加されました。

人事管理局(OPM)は1月22日の朝にメモを発出し、連邦政府内のすべてのDEIA(多様性・公平性・包摂性・アクセシビリティ)オフィスの即時閉鎖を命じました。DEI関連の役職にある全連邦職員は、同日午後5時までに有給の行政休暇に入るよう指示されました。さらに、大統領令14173号は連邦契約企業に対するアファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)の要件を撤廃しました。

企業のDEI撤退の連鎖

連邦政府の方針転換は、民間企業のDEI縮小を加速させました。HR Diveの報道によると、Boeing、Ford Motor、Harley-Davidson、Lowe’s、Walmartなど米国を代表する大企業が次々とDEIプログラムの縮小や廃止を発表しています。iMochaの統計によれば、DEIプログラムを廃止した企業の47%で従業員の士気が急落し、36%で人材定着率が低下、24%で女性のリーダーシップ昇進が減少したと報告されています。

ジェンダー多様性を高い優先事項と位置づける企業の割合は、2019年の87%から2024年には78%に低下しており、DEIへの企業のコミットメント自体がトランプ政権以前から後退傾向にありました。政権の方針がこの流れを決定的に加速させた形です。

女性のキャリアへの具体的影響

調査が示す深刻な懸念

HR Diveが報じた400人超の女性を対象とした調査結果は、DEI後退の影響の深さを物語っています。回答者の89%が給与公平性や給与透明性への悪影響を懸念し、84%がバイアスやハラスメントからの保護への影響を心配しています。さらに83%がリーダーシップ機会の減少を危惧しています。

実際の行動にも変化が表れています。52%の女性が連邦政府の不安定さから雇用の安定性や新たな就職機会に不安を感じており、半数の女性が現在の変化に対する不安から自身のキャリアプランを変更したと回答しています。具体的には、転職に慎重になる、キャリアアップよりも雇用の安定を優先する、DEIにコミットしている企業を選好する、といった変化が見られます。

数字に表れる後退

LeanInとマッキンゼーの「Women in the Workplace」レポートによると、女性は入社レベルのポジションでは48%を占めるものの、Cスイート(最高幹部層)に達するまでにその割合は29%まで低下します。管理職への昇進においては、男性100人が昇進するごとに、白人女性は89人、黒人女性は58人しか昇進できないという格差が存在します。

賃金格差も依然として大きく、大学卒業1年目でさえ、同じ学歴・資格を持つ男性が1ドル稼ぐのに対して女性は約82セントしか得られていません。STEM分野では年間約15,000ドルの賃金格差があり、男性の平均年収85,000ドルに対し女性は60,828ドルにとどまっています。Fortune Global 500企業では、取締役会の席の28.9%を女性が占めるに至りましたが、経営幹部職では21.1%にとどまり、Cスイートの約80%は依然として男性が占めています。

黒人女性への不均衡な打撃

労働力からの大量離脱

DEI後退の影響は、特に黒人女性に集中しています。Essenceの報道によると、2025年2月から5月のわずか3か月で約30万人の黒人女性が米国の労働市場から姿を消しました。4月だけで106,000人以上の雇用が失われています。Head2Toe Magazineは、これを「設計による消去(Erased by Design)」と表現し、DEI後退に伴う組織再編の名のもとに、黒人女性がCスイートや上級管理職から「静かに、迅速に」排除されていったと指摘しています。

Fortuneの報道によれば、有色人種の女性の採用は37%減少し、白人女性の採用も13%減少しています。DEIチームの縮小に伴い、多くの企業がAIを活用した採用ツールに依存するようになっていますが、これらのツールには意図しないバイアスが含まれるリスクがあり、適切な監視と調整がなければ多様な候補者を不利にする可能性があると人事リーダーは警告しています。

EEOCの方針転換

雇用差別を監視する連邦機関であるEEOC(雇用機会均等委員会)も、方針転換を余儀なくされています。HR Diveの報道では、EEOCは2026年に「逆差別」に焦点を当てる方針を示しており、白人男性からの差別申し立てに優先的に対応する姿勢を見せています。NBCニュースによると、EEOC委員長は白人男性に差別の報告を呼びかけるなど、これまでとは異なる方向性を打ち出しています。この優先順位の変更により、女性やマイノリティからの差別申し立ての対応が遅れるリスクが指摘されています。

注意点・展望

LeanInとマッキンゼーの分析では、現在のペースでは女性が米国企業で男性と同等の地位に達するまでおよそ50年かかると試算されています。DEI後退がこの期間をさらに延長させる懸念は強く、全米市民権・人権リーダーシップ会議も、DEIリーダーが直面する「新たな現実」に警鐘を鳴らしています。

一方で、すべての企業がDEIから撤退しているわけではありません。Diversity Resourcesの分析では、2026年に向けてインクルージョン(包摂)を形成する5つのトレンドが指摘されており、一部の企業は名称や手法を変えつつも多様性への取り組みを継続しています。しかし、連邦政府の方針と企業の追随が生み出す構造的な圧力は、職場における女性の権利と機会を確実に後退させつつあります。

問題の本質は、DEIプログラムの廃止によって女性に対する不正義が「見えなくなる」ことにあります。データ収集や報告義務が縮小されれば、賃金格差や昇進格差、ハラスメントの実態が把握しにくくなり、問題そのものが「存在しない」かのように扱われるリスクがあります。

まとめ

トランプ政権のDEI廃止大統領令を契機に、米国の連邦政府と民間企業でDEIプログラムの急速な縮小が進んでいます。その影響は特に女性のキャリア機会、賃金公平性、リーダーシップへの昇進に深刻な打撃を与えており、黒人女性への影響は不均衡に大きいものとなっています。企業の約半数でDEI廃止後に従業員士気が低下し、女性の昇進率も悪化しています。女性が職場の物語から「消去」されることで、彼女たちに対する不正義が見過ごされるという悪循環が生まれつつあります。職場における真の公平性を実現するためには、政治的潮流に左右されない制度的保障の構築が急務です。

参考資料:

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