米バンカメ、エプスタイン被害者に7250万ドル和解
バンカメとエプスタイン事件:7250万ドル和解の概要
米大手銀行Bank of America(バンク・オブ・アメリカ)が、故ジェフリー・エプスタインの性的人身売買の被害者に対して7250万ドル(約109億円)の和解金を支払うことで合意しました。この和解は、同行がエプスタインの口座を通じた不審な取引を見逃し、結果として犯罪を助長したとする集団訴訟を解決するものです。
エプスタイン事件をめぐっては、JPモルガン・チェースやドイツ銀行もすでに巨額の和解に応じており、今回のBank of Americaの和解は、金融機関の監視義務と被害者救済のあり方を改めて問うものとなっています。本記事では、和解の詳細と背景、銀行の法的責任、そして金融業界全体への影響を解説します。
訴訟の経緯と和解の詳細
集団訴訟の提起
この訴訟は2025年10月、「ジェーン・ドウ」の仮名を使用した女性によってニューヨーク連邦裁判所に提起されました。訴状では、Bank of Americaがエプスタインの口座における不審な金融取引を無視し、利益を優先して被害者の保護を怠ったと主張しています。
訴訟の中心にあるのは、ウォール街の著名投資家レオン・ブラック氏からエプスタインへの約1億7000万ドルの支払いです。この送金は2012年から2017年にかけて、Bank of Americaの口座を通じて行われ、「税務・資産管理のアドバイス料」とされていました。しかし、1000万ドルから2000万ドル単位の頻繁な送金は、通常の助言料としては異常な規模であったとされています。
和解の条件と承認手続き
2026年3月27日に公開された裁判記録によると、Bank of Americaは7250万ドルの和解金を支払うことに同意しました。ただし、同行は和解において「責任や不正行為を認めていない」としています。この和解はマンハッタン連邦地裁のジェド・ラコフ判事の承認が必要で、判事は承認の可否を検討するための審理を予定しています。
銀行の監視義務違反と規制上の問題
疑わしい取引の報告遅延
本件で特に問題視されているのは、Bank of Americaによる疑わしい活動報告(SAR)の大幅な遅延です。米国の銀行秘密法(Bank Secrecy Act)では、金融機関は不審な取引を発見してから60日以内に米財務省に報告する義務があります。
しかし、Bank of Americaがブラック氏からエプスタインへの送金に関するSARを提出したのは2020年2月で、実際の送金から数年が経過していました。さらに2件目のSARはその8カ月後に提出されており、いずれもエプスタインが2019年8月に勾留中に死亡した後のことでした。つまり、同行は顧客が死亡するまで、法律で義務付けられた報告を行わなかったことになります。
銀行秘密法の基本的な枠組み
1970年に制定された銀行秘密法は、マネーロンダリング対策の基盤となる法律です。金融機関に対して、1万ドルを超える現金取引の報告や、5000ドル以上の不審な取引に関するSARの提出を義務付けています。Bank of Americaの事例は、この法的義務が適切に履行されなかった典型的なケースとして注目されています。
他行の和解との比較と業界への影響
相次ぐ大手銀行の和解
Bank of Americaの和解は、エプスタイン事件に関連する銀行としては4件目の和解となります。これまでの和解金額は以下の通りです。
- JPモルガン・チェース: 2023年に被害者に対して2億9000万ドル、さらに米領ヴァージン諸島に7500万ドルを支払い。エプスタインは1998年から2013年まで同行の顧客でした
- ドイツ銀行: 2023年に被害者に対して7500万ドルを支払い。加えて2020年にニューヨーク州金融サービス局から1億5000万ドルの制裁金を課されており、関連費用は合計3億5000万ドル以上。エプスタインは2013年から2018年まで同行の顧客でした
- Bank of America: 今回の7250万ドル
注目すべきは、ドイツ銀行がJPモルガンとの取引関係終了後にエプスタインを顧客として受け入れたという事実です。すでに性犯罪で有罪判決を受けていた人物に対して、大手銀行が40以上の口座を開設したことは、業界全体のデューデリジェンス(適正評価)の欠陥を浮き彫りにしています。
議会による追及
上院財政委員会の有力議員であるロン・ワイデン上院議員は、Bank of Americaの和解に対する声明を発表し、「Bank of Americaがエプスタイン被害者のグループとの和解に至ったことは、正義に向けた一歩であり、ウォール街の大手銀行がいかにエプスタインの犯罪を可能にしたかを調査してきた私のスタッフの調査結果を裏付けるものだ」と述べています。
ワイデン議員はまた、Bank of Americaやその他の大手銀行がエプスタインの犯罪をどのように可能にしたかについての調査を継続する意向を示しています。2026年3月にはワイデン議員が、エプスタインの銀行記録を財務省に引き渡すことを義務付ける法案を提出しましたが、共和党議員によって阻止されています。
SAR遅延と規制未整備が残す金融業界への課題
今回の和解は被害者への一定の補償を提供するものの、根本的な問題が完全に解決されたわけではありません。いずれの銀行も刑事上の不正行為を認めておらず、内部文書やエプスタイン関連の取引記録の多くは保護命令の下に置かれたままです。
金融規制の観点では、銀行秘密法に基づくコンプライアンス体制の実効性が改めて問われています。特に、富裕層顧客に対するデューデリジェンスが形骸化していなかったか、SARの提出義務が適切に機能していたかは、今後の規制強化の議論において重要な論点となるでしょう。
バンク・オブ・ニューヨーク・メロン(BNY)に対しても同様の訴訟が進行中であり、エプスタイン事件を契機とした金融機関の責任追及はさらに拡大する可能性があります。
JPモルガン・ドイツ銀行に続く和解が示す金融機関の責任
Bank of Americaの7250万ドルの和解は、JPモルガンやドイツ銀行に続く大手銀行による被害者補償の一環であり、金融機関が犯罪の助長に果たした役割を認める流れを象徴しています。銀行秘密法に基づく監視義務の不履行、とりわけSARの大幅な報告遅延は、コンプライアンス体制の深刻な欠陥を示すものです。
この事件は、金融機関が富裕層顧客の不審な取引に対してより厳格な監視を行う必要性を改めて浮き彫りにしました。議会の調査も継続中であり、今後さらなる事実解明と規制強化が進む見通しです。
参考資料:
- Epstein victims to get $72.5M from Bank of America settlement
- Bank of America reaches $72.5 million settlement in Epstein lawsuit - CBS News
- Bank of America settles lawsuit brought on behalf of Jeffrey Epstein victims - PBS News
- Wyden Statement on Bank of America Settlement with Epstein Survivors
- Bank Of America’s Epstein Victims Lawsuit Settlement Revealed To Be $72.5 Million
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