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NY州議員の有権者登録が無断変更、選挙不正疑惑が浮上

by 長谷川 悠人
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はじめに

ニューヨーク州議会のアンドリュー・ヘベシ(Andrew Hevesi)議員が、自身の有権者登録(党籍登録)が本人の知らぬ間に変更されていたことを公表し、大きな波紋を呼んでいます。クイーンズ選出の民主党議員として長年活動してきたヘベシ氏は、この変更について心当たりがあると述べており、意図的な操作の可能性を示唆しています。ニューヨーク州は予備選挙(プライマリー)が閉鎖式であるため、党籍登録の変更は投票権に直結する深刻な問題です。全米で有権者データをめぐる緊張が高まる中、この事件は選挙の公正性に対する新たな懸念を浮き彫りにしています。

アンドリュー・ヘベシ議員と有権者登録変更問題

ヘベシ議員の経歴と政治的背景

アンドリュー・D・ヘベシ氏は1973年11月19日生まれで、ニューヨーク州議会第28選挙区(フォレストヒルズ、レゴパーク、リッチモンドヒル、グレンデール、キューガーデンズ、リッジウッド、ミドルヴィレッジを含む)を代表する民主党議員です。父親は元ニューヨーク州会計監査官のアラン・ヘベシ氏、兄弟には元ニューヨーク州上院議員のダニエル・ヘベシ氏がおり、政治家一家として知られています。

ヘベシ氏はクイーンズ・カレッジで政治学の学士号を取得し、クイーンズ地区検察局やパブリック・アドボケイト(市民権利擁護官)ベッツィー・ゴットバウムの下でコミュニティ担当ディレクターを務めた後、2005年5月の補欠選挙で初当選しました。以来20年以上にわたり、同選挙区の代表として活動してきた筋金入りの民主党員です。

無断で変更された党籍登録

そのヘベシ議員の有権者登録が、本人の同意なく変更されていたことが判明しました。ヘベシ氏は生涯を通じて民主党員として登録してきたにもかかわらず、登録情報が書き換えられていたのです。ヘベシ氏自身は犯人に心当たりがあると述べており、この問題が単なる事務的ミスではなく、意図的な操作である可能性を示唆しています。

ニューヨーク州では、有権者登録の党籍変更には本人による新たな登録フォームの提出が必要です。ニューヨーク州選挙法に基づき、有権者登録ポータルまたは紙のフォームで申請を行う必要がありますが、オンラインシステムのセキュリティ上の脆弱性や、紙のフォームの偽造・不正提出による悪用の可能性が指摘されています。

ニューヨーク州の閉鎖式予備選挙と党籍変更の重大性

閉鎖式予備選挙の仕組み

ニューヨーク州では閉鎖式予備選挙(クローズド・プライマリー)制度を採用しており、特定の政党の予備選挙に投票するためには、その政党に登録していなければなりません。2026年の予備選挙は6月23日に予定されており、党籍変更の締め切りは2026年2月14日でした。この締め切りを過ぎた変更は、予備選挙の1週間後である6月30日まで有効になりません。

つまり、誰かの党籍登録を無断で変更することは、その人物の予備選挙での投票権を事実上奪うことを意味します。ニューヨーク州のように民主党が圧倒的に優勢な地域では、予備選挙の結果が事実上の当選を決定づけるケースが多く、党籍の無断変更は民主主義の根幹を揺るがす行為といえます。

過去の有権者登録問題との類似性

ニューヨーク市では過去にも深刻な有権者登録問題が発生しています。2016年の大統領予備選挙では、ブルックリンで約12万6,000人の有権者が選挙人名簿から削除される事態が起きました。PBSの報道によると、2014年3月から2015年7月の間に11万7,600人以上の有権者登録が一方的に抹消されていました。

さらに、ニューヨーク市会計監査官事務所に600件以上の苦情が寄せられ、そのうち55人が党籍が正しく登録されていなかったと報告しました。有権者連合はニューヨーク市選挙管理委員会に対し、有権者の同意なく党籍が変更されたとして訴訟を起こしています。この問題では、削除された有権者の64.1%が民主党員であり、ヒスパニック系やアジア系の有権者が不均衡に影響を受けたことも明らかになりました。

全米で広がる有権者データをめぐる緊張

連邦政府による有権者データ収集の動き

ヘベシ議員の事件は、全米で有権者登録をめぐる緊張が高まる中で起きました。2025年5月以降、連邦司法省は少なくとも48州とワシントンD.C.の選挙管理当局に対し、編集されていない完全な有権者名簿の提出を要求しています。NPRの報道によると、2026年3月時点で司法省は29州とワシントンD.C.を相手に訴訟を起こし、情報の提出を強制しようとしています。

この有権者データには社会保障番号、運転免許証番号、生年月日、住所などの個人情報が含まれます。さらに、司法省がこのデータを国土安全保障省(DHS)と共有する計画があることが明らかになり、批判が強まっています。一方で、カリフォルニア州、ミシガン州、オレゴン州の裁判所では、司法省の訴えが棄却される判決が出ています。

有権者登録の脆弱性と保護策

現在の状況は、有権者登録システムのセキュリティに対する根本的な疑問を投げかけています。ニューヨーク州選挙法(ELN § 17-132)では、有権者登録に関する不正行為は犯罪として処罰対象となり、賄賂に関連する場合は最大7年の禁固刑(第三級)、利益が1万ドルを超える場合は最大15年の禁固刑(第二級)が科されます。連邦法でも、有権者登録フォームでの虚偽申告は最大1年の禁固刑と罰金の対象です。

ニューヨーク州選挙管理委員会の選挙法執行部(DELE)は、選挙法違反に関するさまざまな苦情を受け付けており、選挙関係者への脅迫に関してはFBI選挙犯罪コーディネーターへの直接報告を推奨しています。

注意点・展望

ヘベシ議員の事件は、個別の不正事案にとどまらず、アメリカの選挙制度全体の信頼性に関わる問題を提起しています。2026年は中間選挙の年であり、各州で予備選挙が実施される重要な時期です。ニューヨーク州では6月23日の予備選挙に向けて、有権者登録の正確性がこれまで以上に重要になっています。

有権者は自身の登録状況をニューヨーク市選挙管理委員会のオンラインポータル(e-register.vote.nyc)で確認できます。登録情報に不審な変更がある場合は、速やかに選挙管理委員会に連絡し、是正手続きを行うことが推奨されます。連邦レベルでの有権者データの取り扱いについても、各州の対応と裁判所の判断を注視していく必要があります。

まとめ

ニューヨーク州議会のアンドリュー・ヘベシ議員が、自身の有権者登録(党籍)が本人の知らぬ間に変更されていた問題は、アメリカの有権者登録制度の脆弱性を改めて浮き彫りにしました。ニューヨーク州の閉鎖式予備選挙制度のもとでは、党籍の無断変更は投票権の侵害に直結します。2016年のブルックリンでの大規模な有権者名簿削除問題を経験したニューヨーク市において、同様の問題が再び発生したことは深刻です。全米で有権者データの管理をめぐる議論が活発化する中、選挙の公正性を守るためのシステムの改善と監視の強化が急務となっています。

参考資料:

長谷川 悠人

米国政治・外交

米国政治の内幕を、ホワイトハウスから議会まで多角的に分析。政策決定のプロセスと日本への影響を鋭く読み解く。

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