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米下院がDHS予算案で上院と対立、政府閉鎖が長期化

by 長谷川 悠人
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はじめに

米国の国土安全保障省(DHS)をめぐる予算問題が、深刻な政治的膠着状態に陥っています。2026年2月14日に始まったDHSの部分的な政府閉鎖は、すでに40日以上が経過し、米国史上最長の部分的政府閉鎖となりました。3月27日、下院共和党は上院が可決したDHS予算案を拒否し、独自の対案を可決。これにより上下両院の対立が決定的となり、閉鎖の早期解決は一層遠のいています。

本記事では、下院と上院の予算案の違い、政治的対立の背景、そして空港をはじめとする市民生活への影響を解説します。

上下両院が異なる予算案を可決した経緯

上院の超党派合意案

上院は3月27日未明、DHSの大部分に資金を充当する予算案を可決しました。ただし、この法案には移民税関捜査局(ICE)と税関・国境警備局(CBP)の一部への資金が含まれていませんでした。上院の狙いは、TSA(運輸保安局)をはじめとする空港関連業務や沿岸警備隊、FEMA(連邦緊急事態管理局)などへの資金を早急に手当てし、閉鎖の影響を最小限に抑えることにありました。

下院共和党の反発と対案可決

しかし、下院共和党はこの上院案を受け入れませんでした。特に保守強硬派の「フリーダム・コーカス」が強く反発し、ICEとCBPへの資金を含まない法案には賛成できないと主張しました。フリーダム・コーカスはさらに、連邦レベルでの有権者身分証明(Voter ID)義務化の条項を予算案に盛り込むよう要求しています。

マイク・ジョンソン下院議長はフリーダム・コーカスとの協議を経て、上院案とは異なる独自の法案を下院本会議に提出。この法案はDHSの全機関(ICE・CBPを含む)に8週間分の資金を充当する「つなぎ予算」で、213対203の賛成多数で可決されました。民主党からは3名が賛成に回りました。

対立の核心にある移民政策問題

ICE・CBP資金をめぐる攻防

今回の政府閉鎖の根本的な原因は、移民政策をめぐる与野党間の深い溝です。閉鎖の発端は、2月に連邦捜査官がミネアポリスで移民取り締まりの一環として米国市民2名を射殺した事件にさかのぼります。この事件を受けて民主党はICEやDHSの改革を求め、改革なしの資金拠出を拒否する姿勢を取りました。

上院民主党のチャック・シューマー院内総務は、下院が可決した法案について「上院では門前払い(dead on arrival)だ」と明言しています。民主党側は、ICEの改革を伴わない追加資金には一貫して反対の立場を崩していません。

共和党内部の温度差

一方で、共和党内部にも意見の相違があります。一部の穏健派議員は、春休みの旅行シーズンにおけるTSAの深刻な人手不足や空港の混乱を懸念し、早期の予算成立を望んでいました。しかし、フリーダム・コーカスを中心とする保守派が移民執行資金の完全確保を譲らなかったため、ジョンソン議長は党内の結束を優先する形で上院案の拒否に踏み切りました。

空港と市民生活への深刻な影響

TSAの人員危機

DHSの閉鎖により、約6万1,000人のTSA職員が2回以上の給与を受け取れない状態が続いています。CBSニュースの報道によると、閉鎖開始以降、510人以上のTSA職員が退職しました。欠勤率も急上昇しており、ヒューストン・ホビー国際空港では3月14日に欠勤率が55%に達したと報じられています。

アトランタのハーツフィールド・ジャクソン空港では、保安検査の行列がアトリウムを超えて建物の外にまで伸びる事態が発生しています。春休みの旅行シーズンと重なり、全米各地の空港で長時間の待ち時間が常態化しています。

トランプ大統領の緊急措置

深刻化する空港の混乱を受けて、トランプ大統領はTSA職員への給与支払いを指示する大統領令に署名しました。この措置は、空港の状況が「国家の安全保障を脅かす緊急事態に該当する」との判断に基づいています。ただし、この大統領令がどこまで法的拘束力を持ち、実際に給与支払いにつながるかについては不透明な部分が残ります。

TSA以外への波及

影響はTSAにとどまりません。FEMAは災害関連以外の補助金の処理が停止しており、消防署や警察などへの資金が滞っています。沿岸警備隊はパトロールや飛行任務の縮小を余儀なくされ、シークレットサービスは進行中の改革を一時停止しています。26万人以上のDHS職員の多くが深刻な経済的困難に直面しており、食料支援を受けたり、育児サービスを失ったりするケースも報告されています。

注意点・今後の展望

協議の行方

現時点で上下両院が妥協に至る具体的な見通しは立っていません。上院が下院案を受け入れる可能性は低く、下院が上院案に歩み寄る兆しも見られません。両院の協議委員会が設置される可能性がありますが、移民政策という根本的な対立軸が解消されない限り、合意形成は困難です。

閉鎖長期化のリスク

閉鎖が長引くほど、TSA職員のさらなる離職、空港機能の一段の低下、FEMA・沿岸警備隊の任務遂行能力の劣化といったリスクが高まります。特に、春から夏にかけてはハリケーンシーズンの準備期間にあたり、FEMAの機能低下は自然災害への対応力に直結する問題です。

まとめ

DHS予算をめぐる上下両院の対立は、移民政策という根深い政治的対立を反映したものです。下院共和党が上院案を拒否し独自の8週間つなぎ予算を可決したことで、事態は振り出しに戻りました。40日以上続く閉鎖はTSA職員の大量離職や空港の混乱を引き起こしており、市民生活への影響は日増しに深刻化しています。今後の焦点は、上下両院がICE・CBPへの資金と移民政策改革をめぐってどのような妥協点を見出せるかにかかっています。

参考資料:

長谷川 悠人

米国政治・外交

米国政治の内幕を、ホワイトハウスから議会まで多角的に分析。政策決定のプロセスと日本への影響を鋭く読み解く。

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