NewsAngle
NewsAngle

IRS無料申告の現実Direct File後に残る選択肢と注意点

by 三浦 愛子
URLをコピーしました

Direct File終了後の2026年無料申告ルート

米国の納税者にとって、無料で確定申告を済ませられるかどうかは、単なる節約の話ではありません。税務ソフトの料金は積み重なると数十ドルから百ドル台になり、州申告や追加サポートで想定外に膨らむこともあります。2026年の申告シーズンでは、バイデン政権下で拡大していた Direct File が利用できなくなり、「では何が残るのか」がより実務的な論点になりました。

2026年4月15日が2025年分個人所得税の申告期限です。現時点でIRSが案内している無料手段は、民間ソフトを使う IRS Free File、自力記入の Fillable Forms、対面支援の VITA-TCE、軍関係者向けの MilTax が中心です。加えて、IRS経由ではない民間の無料サービスもありますが、対象条件や州申告の扱いが大きく異なります。この記事では、制度変更の背景と、いま本当に使える無料ルートを整理します。

Direct File後の無料申告インフラ

2026年の公式メニュー

まず押さえたいのは、2026年のIRS公式案内に Direct File が入っていないことです。2025年11月5日付のAP報道によれば、IRSは州当局向けメールで「Filing Season 2026ではIRS Direct Fileは利用できない」と通知しました。一方、2026年1月以降のIRS公式ページは、無料手段として IRS Free FileFree File Fillable FormsVITA-TCEMilTax を列挙しています。

政府直営の申告サービスが消え、再び「公的入り口から民間サービスへ送客する仕組み」が主軸に戻りました。IRS Free Fileは古い制度ですが、2025年の調整後総所得が8万9000ドル以下なら利用可能で、参加パートナーは8社です。IRSは3月時点で、複雑な申告にも対応可能だと案内しています。

Free Fileの強みと弱点

Free Fileの最大の利点は、連邦申告を無料で電子申告できることです。しかもIRSが明示しているように、利用者はスマートフォン、タブレット、PCから使えます。ただし、ここには見落としやすい条件があります。各社が独自に年齢、州居住、所得、軍歴などの条件を設定しており、連邦は無料でも州は有料というケースがあります。IRS自身も「無料の州申告は一部パートナーのみ」と説明しています。

さらに重要なのは、IRS Free Fileの無料条件を使うには必ず IRS.gov/freefile 経由で入る必要があることです。IRSは、提携会社の商用サイトへ直接行くと同じ無料条件が適用されないと明記しています。ここは実務上かなり大きな差です。無料で済むはずの人が、入口を間違えただけで有料プランに誘導される余地が残るからです。

条件別に見る現実的な選択肢

所得帯と申告難度で分かれる最適解

最も幅広い人に向くのは、IRS Free File Guided Tax Softwareです。2025年のAGIが8万9000ドル以下なら候補になります。2026年参加企業は1040Now、1040.com、ezTaxReturn、FileYourTaxes、On-Line Taxes、TaxAct、TaxHawk FreeTaxUSA、TaxSlayerの8社です。州申告も無料にしたい場合は、各社の条件を事前に比較する必要があります。

AGIが8万9000ドルを超える人でも、Free File Fillable Forms は使えます。これは所得制限がなく、連邦フォームをオンラインで埋めて送れる仕組みです。ただし、IRSの説明通り、州申告機能はなく、税法の案内も最小限です。自分でフォームを選び、計算や整合性をある程度理解できる人向けです。節約効果は大きい一方、初心者向きではありません。

対面支援が必要なら VITA-TCE が有力です。IRSによれば、VITAは原則として年収6万9000ドル以下、障害のある人、英語が得意でない人が対象です。TCEは60歳以上向けで、年金や退職所得に関する相談に強いのが特徴です。ソフトの無料枠に入っていても、扶養、控除、移民関連、教育費控除などで不安がある人は、むしろこちらの方がミスを防ぎやすいです。

軍関係者は別枠で考えるべきです。IRSとMilitary OneSourceの2026年案内では、MilTaxは所得制限なしで、対象となる軍人、家族、一定期間内の退役軍人などが連邦申告と最大5州分の州申告を無料で電子提出できます。PCS移動、戦闘手当、多州居住など民間ソフトで迷いやすい論点に対応しているため、対象者なら最優先候補です。

IRS外の民間無料サービス

IRS経由以外にも無料サービスはありますが、無料の意味が違います。Cash App Taxesは、公式ページ上で連邦・州とも100%無料を掲げ、1099所得や投資売買でも無料だと説明しています。対してFreeTaxUSAは「連邦は常時無料」を強く打ち出していますが、州申告は通常15.99ドルです。TurboTaxとH&R Blockの無料版は、どちらもForm 1040ベースの「シンプルな申告」が中心で、スケジュールや所得の種類が増えると有料に移りやすい構造です。

無料と書かれていても、simple return only なのか、all federal forms free なのか、州申告まで含むのかで負担は変わります。特に副業、株式売買、賃貸、不動産売却、個人事業がある人は、最初に「どこまで無料か」を見誤ると途中で乗り換えが必要になります。

州申告有料化と条件分岐の落とし穴

Direct File終了後の最大の注意点は、「無料」という言葉を一枚岩で見ないことです。2026年の無料申告は、所得制限型、条件分岐型、対面支援型、軍特化型に分かれています。しかも連邦だけ無料、州は有料という設計が多く、家族構成や所得区分が少し変わるだけで最適解も変わります。

今後の焦点は二つあります。第一に、Free FileがDirect Fileの空白を埋めるだけの使いやすさと認知を持てるかです。第二に、州申告まで含めて本当に無償で完結できる選択肢がどこまで残るかです。2026年4月6日時点では、IRSは民間提携と支援窓口の組み合わせで無料アクセスを維持していますが、納税者側には以前よりも「自分で条件を見分ける力」が求められています。

AGI8万9000ドル別の無料申告入口

Direct Fileが使えなくなったあとも、米国の無料申告手段が消えたわけではありません。ただし、2026年の現実は「誰でも一つの政府サイトで無料完結」ではなく、所得、年齢、州、軍歴、申告の複雑さに応じて入口を選び分ける構造です。

迷ったときの実務的な順番は明確です。AGIが8万9000ドル以下ならまずIRS Free File、年収6万9000ドル以下や高齢者ならVITA-TCE、軍関係者ならMilTax、所得上限を超えても自力でできるならFillable Forms、州まで完全無料を重視するならCash App Taxesのような民間サービスを比較することです。無料で申告する鍵は、制度があるかどうかではなく、自分の条件に合う入口を外さないことです。

参考資料:

三浦 愛子

米国経済・金融市場

米国経済の構造変化を、金融市場・財政政策・産業動向の三軸で分析。ウォール街と実体経済のギャップを見抜く。

関連記事

カナダ譲歩の限界、対米関税交渉と北米貿易体制再設計の主要焦点

米国が8月19日に発動予定の対カナダ50%関税を前に、カーニー政権はデジタル課税撤回や報復関税縮小で譲歩しつつ、CUSMA全体の包括合意を要求。自動車、乳製品、国境管理、労働者支援まで交渉の焦点を整理し、北米サプライチェーン、投資判断、生活コストに広がる影響と日本企業が押さえるべき主要論点を読み解く。

ブランチ司法長官承認が映すトランプ司法省支配と制度リスクの核心

米上院はトッド・ブランチ氏を50対49で司法長官に承認した。元トランプ弁護人の就任は、IRS和解、18億ドル基金、政敵捜査をめぐる司法省独立の限界を露呈。ニクソン後の規範が大統領忠誠人事で揺らぐ構図と、上院審査が抑制力を失う理由、承認後の議会監視、同盟国と日本企業の法務リスク、米司法政治化の国際的波及まで検証。

米国はしか再拡大、ワクチン接種率低下が招く公衆衛生危機の構図

米国で2026年のはしか確認例が7月23日時点で2,318件に達し、2025年通年を上回りました。園児のMMR接種率は92.5%まで低下し、35件の新規アウトブレイクが発生。低接種地域の集積、国際流入、誤情報、排除認定を失うリスクまで、公衆衛生の弱点と今秋以降の家庭・学校に必要な確認策まで読み解く。

サイクロスポラ流行で知る症状と米国生野菜の最新食品安全対策法

米国でサイクロスポラ症が急増し、CDCは5月以降の国内感染を4,173例、入院308例と発表。FDAが追うレタス回収の経緯、長引く水様性下痢や再燃などの症状、通常検査で見落とされる理由、塩素洗浄や袋詰め野菜の限界、免疫が弱い人や子どもの注意点、家庭と外食で取るべき生野菜の食品安全策まで具体的に解説。

最新ニュース

AI破局リスク拡大で揺れるワシントン政治の規制停滞と安全保障

OpenAIのHugging Face侵害、Anthropicの減速提案、CAISI再編、州AI規制を巡る99対1の上院採決を手掛かりに、トランプ政権が競争優位を優先し、議会が安全基準を法制化できない理由を分析。生物・サイバー・自律型エージェントの破局リスクが外交と国内政治を同時に揺さぶる構図を読み解く。

超知能リスクで揺れるAI企業、安全競争は本当に減速へ向かうか

Anthropic、OpenAI、Google、Metaが掲げる超知能リスク対策を比較。第三者評価、サイバー能力、自己改善、EU規制、AISIの実測データまで整理し、AI企業の「減速論」が本当の安全競争なのか、競争優位を守る規制戦略なのかを読み解き、企業任せにできない監督の条件と読者が注視すべき論点を解説。

Anthropicが迫るAI減速論と米中安全競争の重大分岐点

Anthropicのダリオ・アモデイCEOがAI開発の減速を訴えた。OpenAIのHugging Face侵害、再帰的自己改善、第三者評価、米中協調の難題を整理し、フロンティアAI規制が企業競争と安全保障をどう変えるかを解説。安全研究の遅れ、反トラスト法、輸出管理、日本企業の実務的な備えまで読み解く。

AI制御難題、巨大テックを揺らす安全網と規制競争の危うい現在地

OpenAIとHugging Faceの侵入事案、Anthropicの脅威報告、METRやAISIの評価を手がかりに、AI企業が安全策を整えても制御に苦しむ理由を分析。自律エージェントの能力向上、サンドボックス突破、外部監査や米欧規制の限界まで、巨大テックを揺らす安全保障上の焦点を現在地から読み解く。

WeChatゼロクリック攻撃が示すAI安全保障の新局面と米中協議

米CalifがAI支援で構築したWeChatのゼロクリック実証攻撃は、14億人規模の生活基盤が数日で兵器化され得る現実を示した。Tencentの修正、Anthropic報告、米中AI安全協議の焦点に加え、中国のデジタル統治と責任ある開示の課題、利用者と企業が警戒すべき更新確認とアカウント防御まで解説。