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中国燃料輸出規制再開で深まる今秋のアジアディーゼル危機と市場不安

by 安藤 誠
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中国の輸出管理再開が持つ市場シグナル

中国の石油会社が10月積みの燃料輸出を絞り始めたことで、世界のエネルギー市場は再び神経質になっています。対象は主にディーゼル、ガソリン、ジェット燃料などの精製品です。香港・マカオ向けなど一部を除き、主要製油会社には新たな輸出許可が十分に出ていないと報じられています。

この動きが重要なのは、中国が単なる一輸出国ではないからです。中国は世界最大級の精製能力を持ち、アジアの燃料市場で需給の緩衝材として機能してきました。8月には精製品輸出が601万トンまで回復し、国際市場の逼迫を和らげる役割を一時的に果たしていました。その流れが10月に細れば、価格上昇圧力はディーゼルを中心に再燃しやすくなります。

今回の焦点は、輸出枠そのものよりも、北京が月ごとに出す実際の許可です。数字の上では輸出余地が残っていても、国内在庫が足りないと判断されれば貨物は動きません。市場は中国の行政判断を、在庫、原油調達、中東情勢を映す早期警戒信号として読んでいます。

輸出枠より在庫を優先する北京の計算

月次許可で動く中国の精製品輸出

中国の燃料輸出は、通常の自由貿易とはかなり性格が異なります。製油会社には年間の輸出枠が与えられますが、実際の出荷は当局の月次判断に左右されます。2026年は年初にガソリン、ディーゼル、ジェット燃料向けとして1900万トンの第1弾枠が出され、6月には第2弾として燃料輸出枠1800万トンが配分されたと報じられています。このうちクリーン石油製品向けは1300万トン、船舶燃料向けは500万トンでした。

ただし、枠があることと、輸出が許されることは同じではありません。中国は3月、中東の戦争で原油供給リスクが高まった後、国内供給を守るため燃料輸出を抑えました。7月半ば以降はいったん緩和し、8月にはディーゼル、ガソリン、ジェット燃料などを含む精製品輸出が前年同月比12.7%増の601万トンに達しました。ジェット燃料は255万トンで月間記録、ディーゼルは133万トンと2024年3月以来の高水準でした。

9月にもガソリン、ディーゼル、ジェット燃料で400万トン超の輸出が見込まれ、製油会社は高い海外マージンを取りに行く姿勢を強めていました。ところが10月に入ると、北京は主要企業に香港・マカオ以外への輸出を認める明確な青信号を出していないと伝えられています。中国石油天然気は一部のガソリン、ジェット燃料貨物を取り消し、浙江石化も大型連休中の製品出荷予定を見送ったとされています。

国内在庫と原油調達の綱引き

北京が慎重になる理由は、国内在庫と原油調達の両面にあります。中国国家統計局によると、8月の原油処理量は5907万トンで前年同月比6.9%減でした。ロイターの換算では日量1391万バレルと前月からは回復しましたが、前年水準には届いていません。1〜8月の原油処理量も4億5612万トンで、前年同期比6.6%減です。

一方、8月の原油輸入は3793万トン、日量893万バレルに増えましたが、前年同月比では23.4%減でした。第2四半期には中国の原油輸入が日量810万バレルに落ち、前期比32%減ったとEIAは分析しています。これは2016年以来の低水準を含む落ち込みで、イランをめぐる戦争とホルムズ海峡の混乱が、中国の調達行動を大きく変えたことを示します。

つまり、中国は輸出で利益を得たい製油会社と、国内供給を優先したい政府の間で綱引きを続けています。Kplerの分析として報じられた数字では、中国の商業用軽油・ディーゼル在庫は、当局が目安にする戦争前水準を約2000万バレル下回り、ガソリンも約900万バレル不足しているとされます。こうした在庫不足がある限り、輸出は価格ではなく安全保障で判断されます。

中国国内の需要も単純ではありません。Sinopecの研究部門は、2026年の中国石油需要が日量60万バレル、3.9%減ると見込んでいます。ガソリン需要は8.7%減、ディーゼル需要は11.4%減の予測です。電動車の普及や高値による需要減は輸出余力を生みますが、原油が思うように入らず、在庫が減る局面では、その余力はすぐ政策的に封じられます。

ディーゼル危機を増幅する中東とロシア要因

ホルムズ海峡と製品輸出の目詰まり

今回の中国の判断は、中東の供給網を抜きに理解できません。IEAの9月石油市場月報は、8月の世界石油生産が前月比160万バレル減の日量1億10万バレルに落ち、湾岸地域では1000万バレル超の生産が安全保障リスクで止まったままだと指摘しています。世界の製油所処理量も8月に日量8140万バレルまで回復したものの、前年より420万バレル少ない水準でした。

特に深刻なのが中間留分、つまりディーゼルや軽油です。IEAは、ディーゼル・軽油が世界需要の約3割を占めるとし、米国では9月上旬に価格が1バレル200ドルを超え、戦争前を94%上回ったと説明しています。原油高も問題ですが、いまは原油そのものより、原油を精製し、海上輸送し、必要な場所へ届ける機能が詰まっています。

IEAの別分析では、ホルムズ海峡を通る流量は8月に日量760万バレルにとどまり、戦争前を1310万バレル下回りました。サウジアラビアのヤンブー港やUAEのフジャイラ港など、海峡を迂回するルートは一定の緩衝材になりましたが、紅海・バブエルマンデブ周辺の緊張も高まり、輸送距離と保険コストは上がっています。中東からアジアへ向かう原油・製品の流れは、量だけでなく時間の面でも不安定です。

中国はこの環境で、2つの役割を同時に担っています。ひとつは最大級の原油輸入国として、湾岸供給の落ち込みを吸収する需要側の存在です。もうひとつは巨大な精製能力を持つ製品供給側の存在です。中国が輸入を減らせば原油市場の上昇圧力は一部和らぎますが、精製品輸出を絞ればディーゼルやジェット燃料の市場は逆に締まります。この二面性が、今回の難しさです。

ロシア製油所攻撃と欧米の備蓄カード

中東だけでなく、ロシアの精製機能もディーゼル市場を揺らしています。ウクライナによるロシア石油インフラへの長距離攻撃が続き、ロシア国内では燃料配給や輸出制限が生じています。APは、ロシアが7月にディーゼル輸出を禁止し、すでに逼迫していた世界市場から供給が消えたと伝えています。ロイター系の報道では、ロシアのディーゼル輸出禁止は10月末まで延長されたとされています。

IEAは、湾岸諸国とロシアを合わせたディーゼル・軽油の純輸出が8月に2月比で日量160万バレル減ったと分析しています。2月時点でこの2地域は世界の海上ディーゼル取引の45%近くを占めていました。そこに中国の10月輸出抑制が重なるため、市場は「最後の余剰精製能力の一部が閉じる」リスクとして反応しています。

欧米の政策対応も慌ただしくなっています。米国ではディーゼル価格高騰を受け、輸出規制論が農業州や議会の一部から出ています。さらに米政権は、フランスとドイツに緊急ディーゼル在庫の放出を求め、応じなければ米国の輸出禁止を検討する可能性があると報じられました。その後、G7は石油・燃料製品を1億バレル放出する方針を示し、最初の20日間にディーゼルを前倒しで供給すると発表しています。

しかし、備蓄放出は時間を買う政策です。根本的な解決には、ホルムズ海峡、紅海、ロシア精製施設という3つの詰まりが緩む必要があります。中国の輸出規制は、この構造的逼迫の上に置かれた追加の重しです。北京が国内在庫を優先するほど、欧米は備蓄や輸出規制に頼り、政策が市場をさらに分断する悪循環に入りやすくなります。

アジア輸入国と日本企業に及ぶ波紋

アジアでは、中国の精製品輸出が減ると、シンガポール、フィリピン、オーストラリア、マレーシアなどの調達環境に影響が出ます。EIAの中国分析では、2024年の中国石油製品輸出の構成はガソリン・混合基材が38%、ディーゼル・軽油が29%、ジェット燃料・灯油が25%でした。中国からの貨物は、アジア太平洋地域の価格形成にとって無視できない規模です。

日本は中国からの燃料輸入に全面依存しているわけではありません。それでも、アジアのスポット価格が上がれば、海運、航空、トラック輸送、建設機械、農業資材のコストに波及します。特にディーゼルは物流の基礎燃料です。輸入企業や商社にとっては、原油価格だけを見るのではなく、シンガポール軽油マージン、海上運賃、アジア各国の在庫水準を合わせて確認する必要があります。

注意すべきは、中国の規制が恒久的な禁輸とは限らない点です。国慶節連休後に在庫や原油到着の見通しが改善すれば、11月以降に輸出許可が再び広がる可能性はあります。逆に、ホルムズ海峡や紅海で追加の軍事リスクが出れば、輸出再開はさらに遅れます。中国の判断は、外交声明よりも在庫統計と港湾物流に正直に表れます。

読者が確認すべき三つの先行指標

今後の焦点は三つです。第一に、中国の10月後半から11月積み燃料輸出許可です。特にディーゼルとジェット燃料の数量が、9月の400万トン超水準に戻るかが重要です。第二に、中国の原油輸入と製油所処理量です。輸入が日量900万バレル台からどこまで回復するかで、輸出余力の有無が見えてきます。

第三に、G7備蓄放出と米国の輸出規制論の行方です。備蓄放出が価格を落ち着かせれば、中国への圧力も弱まりますが、米国が輸出制限に傾けば欧州とアジアの奪い合いは激しくなります。中東の海峡、ロシアの製油所、中国の在庫という離れた点が、今は一本の燃料価格でつながっています。読者は原油価格だけでなく、精製品の流れそのものを追う局面に入っています。

参考資料:

安
安藤 誠

南アジア・中東情勢

南アジア・中東を中心に、宗教・民族・歴史の深層から国際情勢を分析。長年の現地経験に基づく多層的な視座が持ち味。

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