トランプ支持率が過去最低36%に、イラン戦争長期化の政治的リスク
イラン攻撃1か月と支持率36%急落
2026年2月28日に開始された米国・イスラエルによるイラン攻撃から約1か月が経過しました。当初「短期間で終わる」とされた軍事作戦は長期化の様相を見せており、トランプ大統領の支持率は急落しています。
ロイター/イプソスの世論調査(3月24日発表)によると、トランプ大統領の支持率は36%にまで低下しました。歴史的に見ると、戦争の長期化と経済の悪化は大統領にとって致命的な組み合わせです。ベトナム戦争でのジョンソン大統領、イラク戦争でのブッシュ大統領がその教訓を残しています。
本記事では、イラン戦争がトランプ政権に与える政治的影響について、世論調査データと歴史的な事例を基に解説します。
開戦1か月の現状と世論の反応
異例の「支持なき戦争」
イラン戦争は、米国の近代史において異例ともいえる特徴を持っています。通常、軍事行動の開始直後には「旗の下に結集する効果」(rally-around-the-flag effect)が生じ、大統領の支持率は一時的に上昇します。湾岸戦争では支持率が29ポイント、イラク戦争では17ポイント上昇しました。
しかし、今回のイラン戦争ではそのような効果がほとんど見られません。ピュー・リサーチ・センターの調査(3月25日発表)によると、約6割の米国民(61%)がトランプ大統領のイラン紛争への対応を「不支持」としています。キニピアック大学の調査(3月6〜8日実施)でも、53%の有権者が軍事行動に反対しており、賛成は40%にとどまりました。
準備不足が招いた支持の欠如
複数の米メディアの分析によると、トランプ大統領は開戦前に国民への説明をほとんど行いませんでした。開戦5日前の一般教書演説では約2時間の演説の中でイランに関する言及はわずか3分間だったとされています。こうした準備不足が、国民の間に「なぜこの戦争が必要なのか」という根本的な疑問を生んでいます。
CNNの分析(3月12日)では、「米国民はこの戦争の意義を見いだせていない」と指摘されており、これが低支持率の根本的な原因と考えられています。
ガソリン高騰と経済への打撃
原油市場の混乱
イラン戦争は世界のエネルギー市場に深刻な影響を与えています。3月4日にホルムズ海峡が封鎖されると、ブレント原油先物は1バレル120ドルを突破しました。米国の原油価格も開戦前の約67ドルから約95ドルへと、約42%の上昇を記録しています。
ペルシャ湾岸地域の産油国(クウェート、イラク、サウジアラビア、UAE)の原油生産量は3月12日時点で合計日量1,000万バレル以上の減少が報告されており、世界の石油市場史上最大の供給途絶とされています。
家計を直撃するガソリン価格
NPRの報道(3月16日)によると、米国のガソリン価格は開戦前の1ガロンあたり平均2.98ドルから3.58ドルへと約20%上昇しました。一部の地域では4ドルを超え、2023年後半以来の高水準に達しています。
この影響は特に低所得層に深刻です。CNBCの報道(3月17日)によると、エコノミストらはイラン戦争による原油高騰がK字型経済をさらに悪化させると警告しています。高所得世帯が比較的影響を受けにくい一方で、低所得世帯はエネルギー費用の上昇によって可処分所得が大幅に圧縮されるためです。
経済評価は過去最低の29%
CNNの分析(3月25日)によると、トランプ大統領の経済運営に対する支持率は29%にまで急落しました。これは第1期・第2期を通じた最低値であり、バイデン前大統領の経済支持率をも下回る水準とされています。戦争が始まって以来、国民は経済悪化をトランプ大統領の責任と捉える傾向が強まっています。
歴代大統領が示す「戦争の泥沼化」の教訓
ベトナム戦争とジョンソン大統領
歴史的に、戦争の長期化は大統領の政治生命を脅かしてきました。NPRの分析(3月19日)は、ジョンソン大統領のベトナム戦争の経験を引き合いに出しています。1965年3月の介入開始時に68%だった支持率は一時70%まで上昇したものの、その後は二度と65%を超えることはありませんでした。1968年に再選断念を表明した時点では36%にまで低下していました。
イラク戦争とブッシュ大統領
2003年のイラク戦争開始直後、ブッシュ大統領のイラク関連の支持率は71%に急上昇し、バグダッド陥落後には76%に達しました。しかし占領の長期化と大量破壊兵器が発見されなかったことで、支持率は着実に低下していきました。
朝鮮戦争とトルーマン大統領
トルーマン大統領は朝鮮戦争の長期化と経済的逆風の中で、1952年2月に支持率22%という歴史的低水準を記録しました。3年以上の戦闘で3万6,000人以上の米軍兵士が犠牲となった状況での数字です。
これらの歴史的事例に共通するのは、「海外での泥沼」と「国内の物価高」が重なった時、大統領の政治的基盤は急速に崩壊するという点です。
共和党内の亀裂と議会の動向
戦争権限をめぐる攻防
議会ではイラン戦争に対する大統領の戦争権限を制限する決議案が提出されましたが、上院では53対47で否決されました。下院でも同様の決議案が僅差で否決されています。投票は概ね党派線に沿ったものでしたが、注目すべき例外がありました。
共和党のランド・ポール上院議員が決議案に賛成票を投じ、下院ではトーマス・マッシー議員とウォーレン・デイヴィッドソン議員が党の方針に反して賛成に回りました。マッシー議員はこの紛争が「アメリカ・ファースト」ではないと主張しています。
保守派の間でも広がる懸念
共和党支持者の間でもイラン戦争への評価は分かれています。ピュー・リサーチ・センターの調査では共和党員の約8割がトランプ大統領の戦争対応を支持していますが、若年層の共和党員や保守寄りの無党派層ではその支持が大幅に低下しています。
また、保守派の著名なコメンテーターであるタッカー・カールソン氏やメーガン・ケリー氏は戦争への批判を公言しており、共和党の支持基盤内での亀裂が広がりつつあります。
ホルムズ海峡再開と中間選挙リスク
ホルムズ海峡問題と長期化リスク
現在の最大の焦点は、ホルムズ海峡の再開問題です。NPRの報道(3月26日)によると、トランプ大統領はイランに対する海峡再開の期限を繰り返し延長しています。この問題が解決しない限り、原油価格の高止まりとガソリン価格の上昇は続く見通しです。
CNNの分析(3月26日)は、トランプ大統領がベトナム戦争やイラク戦争の前任者たちと同じジレンマに直面しつつあると指摘しています。戦争を終結させるために戦争を激化させるか、それとも出口戦略を模索するかという選択です。
中間選挙への影響
2026年11月の中間選挙まであと約8か月です。戦争が長期化し、ガソリン価格の高止まりが続けば、共和党にとって厳しい選挙環境となる可能性があります。歴史的に、戦争と経済悪化が重なった時期の中間選挙では、与党が大きく議席を失う傾向があります。
支持率36%と経済評価29%の政権逆風
イラン戦争開始から1か月が経過し、トランプ大統領は支持率36%、経済評価29%という厳しい数字に直面しています。「旗の下に結集する効果」が発生しなかった異例の戦争は、ガソリン価格の高騰と相まって政権への逆風を強めています。
歴史が示す教訓は明確です。ベトナム、イラク、朝鮮のいずれの戦争でも、長期化と経済的負担の増大は大統領の政治的基盤を侵食しました。今後の焦点はホルムズ海峡問題の解決と戦争の早期終結に向けた外交努力にあります。トランプ政権がこの歴史的パターンを打破できるかどうかは、戦争がどれほど長く続くかにかかっています。
参考資料:
- The longer the Iran war goes, the worse it could be for Trump. Just look at history
- Americans Broadly Disapprove of U.S. Military Action in Iran
- U.S. Military Action Against Iran - Quinnipiac University National Poll
- Trump’s approval rating hit new low amid Iran war
- Analysis: Trump is increasingly getting blamed for a flagging economy due to the Iran war
- Gasoline prices are still rising as the Iran war stretches into its third week
- Iran war, oil price surge worsen K-shaped economy
- The Lone Republican Who Voted In Support of Limiting Trump’s War Powers on Iran
米国政治・外交
米国政治の内幕を、ホワイトハウスから議会まで多角的に分析。政策決定のプロセスと日本への影響を鋭く読み解く。
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