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イスラエルで常態化する対イラン戦争、支持と不信が同居する構図

by 安藤 誠
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はじめに

イスラエルで対イラン戦争への支持が高いこと自体は、いまや驚きではありません。むしろ注目すべきなのは、多くの市民が戦争を必要だと考えながらも、それが長期的な安全を本当に生むのかには確信を持てていない点です。支持と不安、不信と団結が同時に進んでいます。

2026年春の世論調査を並べると、イスラエル社会は単純な好戦一色ではありません。初動では圧倒的支持が集まり、軍や防空体制への信頼も高まりました。その一方で、時間がたつにつれ、戦争の終わらせ方、ネタニヤフ首相の動機、経済と精神面の負担をめぐる疑問が強くなっています。本稿では、そのねじれた空気を読み解きます。

なぜ戦争支持はなお強いのか

先制攻撃を受け入れる安全保障感覚

戦争開始直後の支持率はきわめて高水準でした。イスラエル民主主義研究所の3月10日公表調査では、開戦前の2月末時点で「米国と協調した対イラン攻撃への直接参加」を支持したユダヤ系回答者は53%でした。ところが作戦開始後は、ユダヤ系の93%が作戦支持に回っています。脅威が現実化した瞬間、慎重論の相当部分が消えた形です。

INSSの3月5日調査でも、イスラエル全体で81%が米イスラエル共同攻撃を支持しました。さらに63%は、イラン体制の崩壊まで作戦継続を支持していました。ここから見えるのは、単なるネタニヤフ支持というより、イランの核・ミサイル能力を先に削らなければならないという安全保障感覚が広く共有されていることです。

この感覚を支えているのが、防空と軍への信頼です。IDIは、開戦直後にユダヤ系の74%がネタニヤフ氏の作戦指揮を信頼し、ミサイル防衛への安心感も上がったと報告しました。3月末時点でもINSSは、政府への信頼が30%にとどまる一方、国防軍への信頼は77%と高いと示しています。市民は政権そのものより、軍事組織の実務能力を信用しているのです。

野党も巻き込む「必要な戦争」認識

戦争支持が維持されるもう一つの理由は、主要野党まで含めて「今回は必要な戦争だ」という枠組みを大きく崩していないことです。INSSの3月19日調査でも支持率は78.5%と高水準を保ちました。イラン攻撃への賛否は、国内政治の分断を一時的に上書きする力を持っています。

加えて、対イラン戦争は2025年の「Rising Lion」に続くものであり、イスラエル社会にとって例外的な出来事というより、反復される安全保障危機として受け止められています。ここに「戦争の常態化」があります。攻撃そのものへの是非より、どの程度の痛みなら社会が吸収できるかという耐久戦の感覚に議論が移っているのです。

それでも疑念と疲労が強まる理由

戦果期待の低下と停戦志向の拡大

支持率が高い一方で、戦争の出口への見方は急速に慎重になっています。INSSの3月31日調査では、作戦開始時に69%あった「イラン体制に大きな打撃を与えられる」との見方は43.5%へ低下しました。核開発への大打撃を見込む回答も62.5%から48%へ下がり、弾道ミサイル能力への大打撃予想も73%から58.5%へ落ちています。

戦争の終わらせ方でも変化が鮮明です。体制崩壊までの継戦支持は、3月初めの63%から3月半ばには54%、3月末には45.5%まで下がりました。その代わりに、イラン軍事能力へ最大限の打撃を与えたうえで停戦を求める人が30%、できるだけ早い停戦を望む人が19%に増えています。つまり、「戦争は支持するが、全面的な勝利神話は信じなくなっている」というのがいまの空気です。

この変化は、作戦の成功イメージと現実の被害の間にずれが出ていることを示します。IDIの3月末調査でも、ユダヤ系回答者の56%が「イランの持久力は作戦立案者の想定より強かった」と答えました。常態化した戦争は、支持を維持しても期待を摩耗させます。

ネタニヤフ不信と生活負担の蓄積

もう一つの論点は、ネタニヤフ氏への複雑な視線です。IDIの3月末調査では、ユダヤ系の62%が開戦判断を「戦略・安全保障上の理由」とみていますが、裏を返せば4割近くは全面的にはそう見ていません。中道では「個人的・政治的動機」と見る人が45%で、「戦略的判断」の38%を上回りました。戦争そのものへの支持と、首相への信頼は一致していません。

社会の持久力にも限界が見えます。同じ調査では、ユダヤ系の35%が「社会は1カ月までしか負担に耐えられない」と答え、1〜3カ月が20%でした。「必要な限り耐えられる」は28%にとどまります。さらに、過去3年の出来事が精神状態に悪影響を与えたと答えたユダヤ系は4割超です。教育制度の機能を高く評価した人は2割未満、補償制度を高く評価した人は14%しかいません。

経済面の摩耗も小さくありません。イスラエル財務省の推計として、戦時制限下の経済停止コストは週95億シェケル規模と報じられました。別の報道では、戦争の軍事費だけで1日あたり15億シェケルとの試算も示されています。戦争が「日常」になるほど、負担は英雄的な物語ではなく、家計、教育、雇用、精神衛生の問題として蓄積していきます。

注意点・展望

イスラエル世論を「右傾化」だけで説明すると、いま起きている変化を見誤ります。確かに開戦支持は強いですが、それは無制限の継戦委任とは違います。軍への信頼は高くても、政府への信頼は低いままですし、支持の強さも時間とともに薄れています。加えて、少数ながら反戦デモは続いており、警察との衝突も起きています。

今後の焦点は、作戦目標をどこで区切るのかにあります。核能力の大幅低下、ミサイル脅威の抑制、体制転換のいずれを優先するのかが曖昧なままなら、戦争は終わらないのに「慣れてしまう」状態へ向かいます。常態化の本当の危険は、社会が壊れることだけでなく、出口を求める政治的想像力まで弱ることです。

まとめ

いまのイスラエルでは、対イラン戦争はなお広く支持されています。しかしその支持は、全面的な楽観や首相への全面的信任を意味しません。むしろ世論は、必要性を認めつつ、成果への期待を下げ、停戦条件を探り始めています。

だからこそ、「戦争支持」と「戦争常態化への不安」は矛盾しません。両者は同時に存在できます。イスラエル社会が本当に問われているのは、どれだけ戦えるかではなく、どの時点で十分と判断し、軍事的成果を政治的安定へつなげられるかです。

参考資料:

安藤 誠

南アジア・中東情勢

南アジア・中東を中心に、宗教・民族・歴史の深層から国際情勢を分析。長年の現地経験に基づく多層的な視座が持ち味。

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