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マクドナルド新飲料が映す米国コールドドリンク戦争の新局面全貌

by 三浦 愛子
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はじめに

米マクドナルドが2026年5月から全米でRefreshersとCrafted Sodasを売り出し、年内にはエナジー飲料も加える方針を示しました。ハンバーガー大手の新商品投入として見るだけでは、この動きの意味を取りこぼします。いま米国の外食では、朝のコーヒーより、午後に飲む冷たい高付加価値飲料の争奪戦が収益の新しい主戦場になりつつあるためです。

その象徴がStarbucksです。同社は2026年2月、米国直営店で販売される飲料の約3分の2がコールドで、海外でも飲料売上の60%がコールドだと明らかにしました。DunkinはRefreshersとゼロシュガーのエナジー飲料を広げ、Dutch Brosはカスタマイズ性とドライブスルー速度で拡大を続けています。本記事では、マクドナルドの参入がなぜ重要なのか、競争相手は誰なのか、そして勝敗を分けるのが味よりも運営力である理由を整理します。

マクドナルド参入の射程

CosMc’s実験の収穫

マクドナルドの今回の動きは、突然の思いつきではありません。同社は2023年12月、飲料主導の小型業態CosMc’sをイリノイ州で立ち上げ、2025年1月時点ではイリノイ1店とテキサス6店まで広げていました。2025年1月の公式記事では、Island Pick Me Up Punch、Churro Cold Brew Frappe、Sour Energy Burstなどが人気商品で、Fruity Popping Bobaが最も人気のカスタマイズだと説明しています。つまり同社は、果実系、甘味系、エナジー系、トッピング追加という現在の売れ筋を、すでに別業態で細かく検証していたわけです。

この実験で重要だったのは、飲料そのもの以上に、どの程度までカスタマイズを受け入れられるか、どの店舗サイズが回転率に合うか、デジタル注文とドライブスルーをどうつなぐかを学べた点です。2025年1月の振り返りでは、小型店の方が顧客基盤に近い条件を試しやすいとし、大型改装店を閉じて小型店へ軸足を移す判断も示していました。飲料ビジネスは味の開発だけでなく、待ち時間と設備の設計が商品力そのものになるため、この知見は本体導入の前提でした。

その後の流れを見ると、CosMc’sの役割は独立チェーン化ではなく、研究開発拠点だったと分かります。マクドナルドは2025年5月、CosMc’sを2025年6月下旬までに閉じる一方、学んだ内容をマクドナルド本体へ移し、専門の飲料チームを置いたうえでテストを拡大すると表明しました。さらに同年7月には、ウィスコンシン州、コロラド州とその周辺の500超の店舗で、cold coffees、fruity refreshers、crafted sodas、energizing sipsをそろえた飲料テストを始めています。別ブランドを閉じたのに本体で広げた事実は、撤退ではなく実装段階への移行と見る方が自然です。

全米導入を急ぐ理由

2026年4月13日のCBS報道と業界紙NRN報道によれば、マクドナルドは翌5月からRefreshersとCrafted Sodasを全米展開し、年内にはエナジー飲料も加える計画です。マクドナルド自身も、Hi-C Orange Lavaburstの復活を求める声や「Spicy Sprite」という俗称が生まれるほど、同社の飲料には熱心なファンがいると説明しています。ここで同社が狙っているのは、単なるサイドメニュー強化ではなく、飲料だけで来店理由を作ることです。

そう判断できるのは、同社がすでに実行できる販売基盤を持っているからです。2025年通期のシステム全体売上高は1390億ドル超、ロイヤルティ売上高は約370億ドルに達し、90日以内のアクティブ会員は70市場で2億1000万人とされています。商品開発力で専門チェーンに劣っても、アプリ、クーポン、ドライブスルー、全国広告を組み合わせて一気に認知を取れるのがマクドナルドの強みです。2025年夏には、同社と加盟店が同年夏だけで最大37万5000人を採用し、2027年までに米国内で900店を新設する方針も示しました。飲料戦略は、その巨大な店舗網と人員投資に乗せるときに最も威力を発揮します。

この構図から逆算すると、CosMc’sを別会社として増やすより、マクドナルド本体に飲料を載せた方が収益化は早いはずです。利用者にとっても、専用店を探すより、いつものマクドナルドで試せる方が障壁は低くなります。各社の発表をつなげて読むと、マクドナルドは「新しい飲料チェーンを作る競争」ではなく、「既存の巨大チェーンが飲料需要を吸い上げる競争」に勝負を切り替えたとみられます。

競争軸の転換

コーヒー市場から午後需要へ

マクドナルド参入の背景を理解するうえで最も重要なのは、飲料競争の時間帯が変わったことです。Starbucksは2026年2月の公式解説で、米国直営店の飲料販売の約3分の2がコールドになり、国際市場でも飲料売上の60%がコールドだと明らかにしました。さらに2025年6月の投資家向け説明では、同社が目指す成長機会の一つとして「afternoon reset」を掲げ、Refreshers、Energy Refreshers、カスタマイズ、たんぱく質訴求商品などで午後需要を取り込む考えを示しています。朝の定番コーヒーだけでは、成長余地が限られるという認識が透けて見えます。

この動きはStarbucksだけではありません。Dunkinは2026年春メニューでBerry Acai RefresherとBanana Daydream Refresherを加え、同時にDunkin Zeroというゼロシュガーのエナジー飲料を6フレーバーで導入しました。Peopleの紹介記事によれば、これは中サイズで20カロリー、糖質ゼロの設計です。つまり大手各社は、甘いご褒美系だけでなく、軽さや機能性を打ち出した飲料も同時に広げています。競争の焦点は「コーヒーを何杯売るか」から、「午後や移動中に何を飲ませるか」へ移っています。

ここでマクドナルドが意味を持つのは、価格感と接触頻度です。StarbucksやDutch Brosは高い体験価値を作れますが、日常的に立ち寄る頻度ではマクドナルドに分があります。もしマクドナルドが専門チェーンほど複雑でなくても満足度の高いRefreshersやCrafted Sodasを成立させれば、冷たい高付加価値飲料は一段と大衆化します。この点は各社の出店規模と戦略から導ける推論ですが、競争相手にとっては無視できない圧力です。

Refreshersとdirty sodaの主流化

いまの米国飲料市場で、もう一つ見逃せないのがdirty sodaの主流化です。PepsiCoは2026年4月、Dirty Mountain Dewを全米発売し、20オンスの単品ボトルと12缶パックを展開しました。さらに同社は、Yelp Trend Trackerを根拠に、dirty soda関連検索が前年比で600%超伸びたと説明しています。これは地域限定の流行が、量販店と全国広告に載る段階へ進んだことを示します。

専門チェーン側の伸びも続いています。Dutch Brosは2025年末時点で25州1136拠点に達し、自社を「高品質な手作り飲料を、スピードとサービスで提供するドライブスルー業態」と位置づけています。コーヒーが中核でありながら、冷たいカスタム飲料の幅広さが成長の土台になっている構図です。こうした状況で、マクドナルドのCrafted SodasやRefreshersが全米へ入る意味は大きいです。新しい需要を作るというより、すでに伸びている市場を巨大チェーンが取りに来たと理解した方が実態に近いでしょう。

Refreshersとdirty sodaに共通するのは、炭酸飲料、ジュース、エナジー飲料、デザート感覚の間にある曖昧さです。この曖昧さが強みになります。食事に添えてもよく、単独で買ってもよく、写真映えするためSNSとも相性がよいからです。マクドナルドがこのカテゴリへ入ることで、これまで専門店や若年層中心だった飲料文化が、家族客やクーポン利用者を含む広い層へ広がる可能性があります。

勝敗を分ける運営力

客単価と来店頻度の両立

外食各社が飲料競争を強める理由は、話題性だけではありません。SpotOnは2026年3月、米国でアルコール消費が弱まるなか、2025年の非アルコール飲料売上は26%増え、独立系レストランが2026年1月に追加した非アルコール飲料メニューは前年同月比で47%多かったと紹介しました。記事の主眼は独立店向けですが、示している方向性は大手にも共通します。料理より安く、単なる炭酸飲料より高く売れる中間価格帯の商品が、いま最も伸びやすいということです。

この文脈では、RefreshersやCrafted Sodasは非常に扱いやすい商品です。ハンバーガーと一緒に売ることも、午後の単独来店で売ることもできます。朝食や昼食ほど強いメニューがない時間帯でも、限定飲料なら来店理由を作りやすくなります。Starbucksが「afternoon reset」と表現したのは、まさにこの需要の取り込みです。マクドナルドも同じ狙いで、食事中心の来店に飲料中心の来店を重ねようとしていると読めます。

さらにマクドナルドは、ロイヤルティ会員基盤が大きいため、季節限定やクーポン連動との相性がよいはずです。飲料は味の入れ替えが比較的しやすく、継続的な話題づくりに向きます。四半期ごとに看板商品を差し替えられれば、値引きだけに頼らず来店頻度を上げる手段になります。バーガー本体の値上げに敏感な局面でも、飲料は新規性で価格を正当化しやすい点が強みです。

規模の経済と現場負荷

ただし、飲料戦争はメニューを増やせば勝てる話ではありません。カスタマイズが増えるほど、注文導線、機器配置、ピーク時のオペレーション、教育コストが重くなります。Starbucksは2025年の投資家説明で、25,000席のカフェ席改装や新しい作業設計、Smart Queueの展開などを通じて体験改善を進めると示しました。専門店ですら、売れる飲料を増やすには現場再設計が必要だと認めているわけです。

マクドナルドにとって最大の論点もここです。バーガー店の厨房で、どこまでカスタマイズ飲料を速く安定的に出せるか。CosMc’sで学んだのは、味の当たり外れより、複雑さをどこまで既存オペレーションへ埋め込めるかだったはずです。もし待ち時間が伸びれば、ハンバーガーの回転率まで傷みます。逆に、カスタマイズを絞り込んで回せれば、専門チェーンより広い顧客層を一気に刈り取れる可能性があります。

もう一つの難しさは、健康志向と背徳感の両立です。Dunkin Zeroのようなゼロシュガー商品が広がる一方、dirty sodaは甘さやクリーミーさを前面に出します。PepsiCoがDirty Mountain Dewを全国販売したことは、背徳系需要の強さを示しますが、それだけでは市場全体を取り切れません。マクドナルドが継続的に勝つには、果実系、低糖系、エナジー系、ご褒美系をどう並べるかが重要になります。飲料ビジネスは味覚の勝負に見えて、実際には品ぞろえ設計の勝負です。

注意点・展望

今回のニュースで誤解しやすいのは、CosMc’s閉鎖を飲料戦略の失敗とみなすことです。実際には、2025年5月の公式発表と7月の500店超テストを見る限り、マクドナルドは飲料を本気の成長分野と位置づけています。失敗したのは独立チェーン化の効率であり、飲料需要そのものではありません。

今後の注目点は三つあります。第一に、RefreshersとCrafted Sodasが食事同伴ではなく単独来店をどこまで生むかです。第二に、年内予定のエナジー飲料が若年層取り込みに効くかです。第三に、全国展開後もサービス時間を維持できるかです。もしマクドナルドがこれを成立させれば、米国のコールド飲料市場は専門チェーン中心の競争から、巨大QSRが価格と接点で押し広げる競争へ段階を変える可能性があります。

まとめ

マクドナルドのRefreshers参入は、新商品の話に見えて、実際には米国外食の競争軸が変わったことを示す出来事です。Starbucksが冷たい飲料を成長エンジンに据え、DunkinがRefreshersと機能系飲料を増やし、Dutch Brosとdirty sodaが若年層の嗜好を押し広げた市場へ、最大級のチェーンが本格参戦しました。

勝負を決めるのは、斬新な味よりも、巨大な店舗網でどこまで速く、分かりやすく、何度も買いたくなる飲料体験を提供できるかです。マクドナルドがそれを実現すれば、冷たい高付加価値飲料は一部の専門店文化ではなく、米国の外食標準に近づきます。今回の動きは、ハンバーガー企業の新商品ではなく、外食産業の収益モデルが変わる兆候として読むべきでしょう。

参考資料:

三浦 愛子

米国経済・金融市場

米国経済の構造変化を、金融市場・財政政策・産業動向の三軸で分析。ウォール街と実体経済のギャップを見抜く。

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