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NY州予算が期限切れ、富裕層増税と気候法が争点に

by 長谷川 悠人
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NY州2026年度予算遅延と3争点

ニューヨーク州の2026年度予算が、4月1日の期限を過ぎても成立しませんでした。キャシー・ホークル知事と民主党が多数を占める州議会の間で、富裕層への増税、気候変動法の見直し、移民保護の3つの重要課題をめぐる対立が解消されなかったためです。

予算期限の不履行はこれで7年連続となります。州議会は4月7日までの暫定予算延長法案を可決し、州政府の運営と職員への給与支払いは維持されていますが、学校区や地方自治体は州からの交付金額が確定しないまま、自らの予算編成を進めなければならない状況に追い込まれています。本記事では、予算交渉を遅らせている3つの争点について解説します。

富裕層・法人への増税をめぐる攻防

マムダニ市長の要請と州議会の提案

最大の争点は税制です。ニューヨーク市のゾーラン・マムダニ市長は、前市長時代から積み上がった財政赤字への対応として、富裕層と大企業への増税を州に強く要請しています。当初約120億ドルとされた市の財政赤字は、ホークル知事からの15億ドルの支援などにより約54億ドルまで圧縮されましたが、依然として大きな穴が残っています。

マムダニ市長は具体的に、年収100万ドル以上の個人に対する所得税率の2ポイント引き上げと、法人税率の11.5%への引き上げを提案しています。もし州レベルでの増税が実現しなければ、市独自の固定資産税を9.5%引き上げる「最後の手段」も示唆しており、州議会への圧力を強めています。

上院・下院案の違い

州議会の上院と下院はいずれも増税を支持していますが、その内容には差があります。上院案は年収500万ドル超の個人に0.5ポイント、同額以上の法人に1.75ポイントの税率引き上げを提案しています。一方、下院案は年収500万ドル超の個人に0.2ポイントの引き上げに加え、最高所得層にはさらに大きな引き上げ幅を設定し、法人については収入1,000万ドル以上を対象に2ポイントの引き上げを求めています。

ホークル知事は新たな増税には否定的な立場を取っており、法人への一時的な増税措置を2029年まで延長する案のみを提示しています。この点が予算交渉の最大のボトルネックとなっています。

気候変動法(CLCPA)の見直し問題

ホークル知事の緩和提案

2つ目の争点は、2019年に制定されたニューヨーク州の旗艦的気候法「気候リーダーシップ・コミュニティ保護法(CLCPA)」の扱いです。この法律は、2030年までに温室効果ガス排出量を40%削減し、2050年までに実質ゼロを目指すという野心的な目標を掲げています。

しかし、ホークル知事はこの目標の達成が困難であるとして、大幅な見直しを提案しています。具体的には、排出削減規制の策定期限を2030年まで7年間延長し、新たに2040年の中間目標を設定するというものです。また、排出量の計算方法を変更することで、目標達成をより容易にする意図もあるとされています。州の推計では、現在の排出削減ペースは目標に対して少なくとも7年の遅れがあるとされています。

議会側の反発

州議会の上院・下院はいずれもこの見直しに反対しています。議員たちは気候法の後退ではなく、クリーンエネルギー移行への10億ドル規模の新たな資金投入を求めています。これは前年度予算に含まれていた重要な投資枠であり、ホークル知事が今年度は予算案から除外したものです。

環境団体やNYCLU(ニューヨーク自由人権協会)なども、気候法の緩和は環境正義コミュニティに深刻な影響を与えるとして反対の声を上げており、予算プロセスを通じた法改正という手法自体にも批判が寄せられています。

移民保護法案と連邦政府との関係

ICEとの連携をめぐる対立

3つ目の争点は、移民政策です。トランプ政権下で連邦移民・関税執行局(ICE)による取り締まりが強化される中、州議会は地方警察とICEの連携を制限する法案「ニューヨーク・フォー・オール法」の成立を目指しています。

この法案をめぐる最大の争点は、特定の犯罪で有罪判決を受けた非正規移民に関する情報を、地方警察がICEと共有できるかどうかという点です。どのような犯罪を対象とするか、どのような形で情報共有を行うかという具体的な線引きが、交渉の中心となっています。

知事の慎重姿勢

推進派は連邦当局との協力をほぼ全面的に禁止することを望んでいますが、ホークル知事はより慎重な立場を取っています。知事は学校や病院といった「センシティブな場所」での取り締まりの制限や、連邦職員による財産損害・身体被害に対する訴訟権の付与は支持していますが、重大犯罪者の保護と受け取られる法律には否定的です。

知事は直接的な禁止規定ではなく、ICEと連携する地方自治体への州補助金を制限するという間接的なアプローチを提案しており、議会側との溝は依然として大きい状況です。この問題は予算交渉と並行して別トラックでも協議が続けられています。

4月7日期限と3争点の取引余地

予算の遅延は、ニューヨーク州では慢性的な問題となっています。しかし、今回の遅延が注目されるのは、争点の3つすべてが連邦政治と深く関わっている点です。富裕層課税はトランプ政権の減税政策への対抗軸として、気候法はエネルギー政策をめぐる州と連邦の路線対立として、移民政策はICEの強権的な取り締まりへの州レベルの対応として、それぞれ全米的な意味を持っています。

暫定予算延長は4月7日までとされており、イースター休暇後に交渉が本格化する見通しです。ただし、3つの争点の間にはトレードオフの関係もあり得ます。たとえば、気候法で知事に歩み寄る代わりに増税を認めさせる、あるいは移民法案の修正と引き換えに他の譲歩を引き出すといった「パッケージディール」の可能性も指摘されています。

学校区や地方自治体にとっては、予算の確定が遅れるほど自らの予算編成に支障が出るため、早期決着が求められています。

NY州合意の税制・気候・移民への波及

ニューヨーク州の2026年度予算は、富裕層増税、気候変動法の見直し、移民保護政策という3つの大きな争点により期限内に成立しませんでした。ホークル知事と民主党主導の州議会は、いずれの課題でも方向性に隔たりがあり、交渉は継続中です。

暫定予算により政府機能は維持されていますが、影響を受ける学校区や自治体のためにも迅速な合意形成が必要です。4月7日の次の期限に向けて、各争点でどのような妥協が成立するかが注目されます。ニューヨーク州の決定は、全米の税制・気候・移民政策の方向性にも影響を与える可能性があり、今後の展開を注視する必要があります。

参考資料:

長谷川 悠人

米国政治・外交

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