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米国留学生の就職難、H-1B新規制が変えるOPT後の採用現場

by 村上 詩織
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OPT・H-1Bが狭める留学生の就職通路

米国で学ぶ留学生にとって、卒業後の就職は学費回収の手段にとどまりません。研究で得た専門性を社会に接続し、家族が背負った費用や期待に応え、将来の居場所を選び直すための重要な通路です。その通路が、ビザ政策の厳格化と採用市場の慎重化によって狭くなっています。

2026年春の採用市場は、全体だけを見れば急落ではありません。NACEは2026年卒の新卒採用が春時点で5.6%増える見通しを示しました。しかし、留学生にはOPT、H-1B、SNS審査、入国制限、在留期限案が重なります。この記事では、制度変更が学生の努力不足では説明できない就職格差をどう広げているのかを整理します。

数字が示す米国留学の曲がり角

増えた在籍者と減った新規入学

IIEのOpen Doors 2025によると、米国の大学・大学院などに在籍する留学生は2024-25学年に117万7766人となり、前年から5%増えました。米国高等教育全体の6%を占め、OPT参加者は29万4253人、留学生全体の57%がSTEM分野を専攻しています。数字だけを見れば、米国はなお世界最大級の留学先です。

一方で、同じIIEの2025年秋スナップショットは別の変化を示します。回答した828機関では、2025年秋の留学生総数が1%減り、新規留学生は前年より17%減少しました。大学院生と非学位課程の落ち込みも目立ちます。すでに在籍している学生と、これから米国に入る学生との間で、見えている景色が分かれ始めています。

この変化は、大学経営にも地域経済にも影響します。NAFSAは2024-25学年の留学生が米国経済に429億ドルをもたらし、35万5736件の雇用を支えたと推計しました。その後の2025年秋の落ち込みについては、11億ドル超の経済損失と約2万3000件の雇用減につながる可能性を示しています。

重要なのは、入学者の減少が「米国人気の自然な低下」だけでは説明しにくい点です。入学手続きの最後にあるビザ面接、審査、渡航制限、政治的緊張が、学力や合格通知の後に立ちはだかります。教育機会へのアクセスは、合格できるかではなく、国境を越えられるかにも左右される段階に入っています。

採用市場の回復と留学生の取り残され方

採用市場は二重構造です。NACEの2026年春アップデートでは、新卒採用見通しは秋時点の1.6%増から5.6%増へ改善しました。ただし、業種ごとの差は大きく、情報、エンジニアリングサービス、建設などは増加側にある一方、コンピューター・電子機器製造、化学・医薬品製造などは減少側に挙がっています。

留学生は、この「少し改善した市場」に同じ条件で参加できません。Interstrideの2025年調査は、留学生の卒業後雇用率を44.6%、米国内学生を62.1%と示しました。留学生はキャリアサービスの利用率が高く、応募数も多い一方で、オファーは少ないとされます。努力量が成果に転化しにくい構造があるということです。

インターン経験の格差も深刻です。Interstrideは、留学生のオフキャンパス・インターン参加率を25%、米国内学生を42%としています。米国の新卒採用では、インターンから正社員へ移る経路が強く、ここでの差は卒業後の内定差に直結します。制度上の就労許可が遅れたり、雇用主が手続きを避けたりすれば、学生は早い段階で選考の土俵から外れます。

こうした格差は、教育格差の延長です。裕福な家庭の学生ほど、無給や低賃金の準備期間、弁護士相談、都市部での長い就職活動に耐えやすいからです。反対に、家族の支援を受けにくい学生ほど、OPTの失業日数、家賃、医療保険、送金義務の圧力を受けます。ビザの不確実性は、経済的に脆弱な留学生ほど早く押し戻します。

OPTからH-1Bへの細い橋

期限付き就労が生む採用側の迷い

F-1学生にとって、OPTは卒業後の米国就労を可能にする主要な制度です。通常は専攻に関係する仕事で12カ月働く道があり、STEM分野では追加24カ月の延長により、最大36カ月の実務経験を積めます。この期間は、学生にとっても雇用主にとっても、H-1Bなど長期就労資格へ進むための橋になります。

ただし、橋は十分に太くありません。H-1Bには年間上限があり、通常枠6万5000件に、米国の修士号以上を持つ人向けの2万件が加わります。需要が枠を超えるため、選ばれなければ働き続けられない可能性があります。採用側から見ると、能力評価とは別に、将来の在留資格という不確実な変数が残ります。

雇用主がこの不確実性を嫌うと、面接前の段階で「将来スポンサーが必要か」という質問が足切りになります。学生はOPTで直ちに働けるにもかかわらず、数年後のH-1B抽選リスクを理由に候補から外されることがあります。これは違法な差別と単純に断定できない場合もありますが、教育で得た専門性が制度の読み違いで使われない損失です。

Duke Universityの雇用者向け整理は、2026年の採用担当者に対し、F-1学生の多くは米国内でF-1からH-1Bへステータス変更する場合、10万ドル手数料の対象ではないと説明しています。にもかかわらず、報道や社内通達で「H-1Bは高すぎる」という印象だけが広がれば、採用現場の判断は慎重化します。制度の実態と認識の差が、内定機会を削ります。

賃金加重抽選と10万ドル手数料の心理的影響

H-1Bをめぐる最大の制度変更は、2026年2月27日に発効した賃金加重の選抜方式です。連邦官報に掲載された最終規則では、従来の無作為抽選に代えて、提示賃金の水準が高い登録ほど選抜プールに多く入る仕組みが導入されました。賃金レベルIVは4回、IIIは3回、IIは2回、Iは1回という考え方です。

政策側は、高技能・高賃金の人材を優先し、制度の乱用を抑える狙いを掲げています。ただ、卒業直後の留学生は多くがエントリーレベルの職に応募します。初任給が低いから能力が低いとは限らず、研究助手、公共部門、非営利、スタートアップ、地方医療などでは賃金水準が都市部大手企業より低く出やすい現実があります。

そのため、賃金加重は「高賃金職に就ける学生ほど米国に残りやすい」という選別を強めます。資金力のある企業、賃金水準の高い都市、AIや金融など高収益分野に進む学生は相対的に有利です。一方、教育、福祉、地域医療、基礎研究の一部では、社会的必要性が高くても抽選上の重みが小さくなります。

10万ドル手数料の影響は、法的な対象範囲だけでは測れません。国務省は2025年9月の大統領布告に基づき、一定のH-1B入国について10万ドル支払いが必要になると案内しました。対象は主に米国外からの新規入国に関わるケースと整理されていますが、企業の人事担当者が細部を理解していなければ、留学生採用全体が高コストだと受け止められます。

この「心理的コスト」は小さくありません。大企業には移民法務チームがありますが、中小企業や非営利組織にはありません。担当者が不確かな制度を嫌って米国市民・永住者に候補を絞れば、採用市場は表向き開かれていても、実際には留学生が入りにくくなります。制度変更は、紙のルールだけでなく、現場の回避行動として効きます。

厳格化する審査と学生生活への波及

SNS審査・入国制限・在留期限案の重なり

学生の不安は就職時だけに始まるものではありません。国務省は2025年12月、H-1BとH-4申請者にもオンライン上の存在確認を拡大すると発表し、F、M、Jの学生・交流訪問者についてはすでにオンライン審査の対象だと説明しました。申請者にはSNSプロフィールを公開設定にするよう求めています。

SNS審査は、安全保障上の確認として位置づけられています。しかし、学生側から見ると、過去の発言、政治的意見、母国語での投稿、友人とのやり取りがどのように評価されるか分かりにくい制度です。判断基準の透明性が低いほど、学生は発言を控え、研究テーマやキャンパス活動の選択にも慎重になります。

入国制限も重なります。国務省は2025年6月、19カ国の国民に対する入国・ビザ発給の全面または部分的停止を案内しました。この措置は2026年1月に別の布告で修正されていますが、対象国出身の学生にとっては、合格通知よりも国籍が進路を左右する現実を突きつけます。難民・紛争経験を持つ学生ほど、移動の自由を失いやすい構造です。

さらにDHSは2025年8月、F、J、Iビザ保有者の「duration of status」を固定された在留期限に置き換える規則案を示しました。現行では、学生は資格を維持する限りプログラム期間に連動して滞在できます。提案では、原則として最長4年などの固定期限を設け、延長にはUSCISへの申請が必要になります。

この案が最終規則になるかは別として、長期の博士課程、研究遅延、病気、指導教員の変更、経済的事情を抱える学生にとっては大きな不安材料です。研究や学びは予定通り進まないことがあります。制度が柔軟性を失うほど、余裕のない学生は学業継続と在留資格の両方で追い込まれます。

司法判断が残した委縮効果

留学生の間では、ビザ取り消しや退去手続きのニュースも大きな意味を持ちます。トルコ国籍のタフツ大学院生ルメイサ・オズトゥルク氏をめぐる事件では、2026年2月に移民裁判所が退去手続きを終結させたと弁護側が明らかにしました。彼女は2025年に拘束され、言論やデュープロセスをめぐる議論の象徴になりました。

個別事件を一般化しすぎるべきではありません。ただ、学生コミュニティに残る影響は、法的勝敗だけでは測れません。ビザが学業、発言、雇用、居住のすべてに結びついている以上、拘束や取り消しの事例は「目立たない方が安全」という行動を生みます。これは大学が本来守るべき自由な学びの環境を弱めます。

雇用の場でも同じです。採用担当者が政治的に敏感な大学や国籍、ビザ種別を避けるようになれば、学生は見えない線引きに直面します。明文化されない排除ほど、本人には理由が分かりません。履歴書を直し、面接練習を重ねても、制度不安という要因が説明されないまま残ります。

採用現場で起きる「避けられる落選」

スポンサー可否の曖昧さ

留学生の就職活動で最も避けたいのは、選考の終盤でスポンサー不可を知らされることです。学生は数週間から数カ月を費やし、他社の機会を失います。企業側も候補者評価に時間を使った後で、法務や予算の壁に気づきます。これは制度の複雑さから生まれる、かなりの部分が避けられる落選です。

まず必要なのは、求人票にスポンサー方針を明記することです。「現在または将来の就労許可スポンサーが必要な候補者を検討するか」「OPT期間のみの採用は可能か」「STEM OPT延長のE-Verifyに対応できるか」「H-1B変更申請を検討するか」を分けて示すだけで、学生の無駄な応募は減ります。

学生側も、面接の早い段階で確認すべき項目があります。自分がいつ卒業し、いつOPTを開始でき、STEM OPT対象か、失業日数の上限はいつ問題になるかを整理することです。H-1Bだけを最初から求めるのではなく、OPTで働ける期間と、企業に必要な手続きを具体的に説明できる準備が重要です。

ただし、この責任を学生だけに押しつけるのは適切ではありません。留学生は移民法の専門家ではなく、英語を第二言語として、学業・生活費・家族の期待を同時に抱えています。大学のキャリアセンターは、一般的な履歴書指導だけでなく、ビザに関する雇用主向け資料や説明会を増やす必要があります。

大学と企業が担う説明責任

大学は留学生を募集する時点で、卒業後の現実を過度に楽観視させない責任があります。米国で学べば自動的にキャリアが開ける、という単純な語りは危ういものです。OPTやH-1Bは重要な制度ですが、抽選、審査、企業方針、政治環境に左右されます。入学前から透明な情報提供が必要です。

特に大学院では、学生が研究室や学部の資金事情を支える存在でもあります。授業料を払い、研究を担い、地域経済に貢献する一方で、卒業後の雇用ルートだけは個人責任にされがちです。これは制度と現実のずれです。採用支援は、単なる学生サービスではなく、大学が国際化を掲げるなら負うべき基盤です。

企業にも利害があります。留学生採用を一律に避ける企業は、短期的には手続き負担を減らせます。しかし、STEM、医療、教育、データ分析、地域産業では、米国内で学んだ人材を活用できないことが競争力の低下につながります。制度を理解したうえで採用可否を決めることは、リスク管理であると同時に人材戦略です。

また、H-1Bの対象外となる雇用先もあります。大学や非営利研究機関など、一定の雇用主はH-1B上限の外で採用できる場合があります。すべての道が同じ抽選に閉ざされているわけではありません。学生には、民間大手だけでなく、研究機関、病院、公共性の高い組織、母国や第三国での職務も含めた複線的な進路設計が求められます。

10万ドル誤解とOPT後の複線進路

よくある誤解は、「10万ドル手数料があるから留学生は全員採用不能」という見方です。実際には、米国内にいるF-1学生がH-1Bへステータス変更する場合など、対象外と整理されるケースがあります。問題は、対象外のケースが存在するにもかかわらず、企業側の理解不足で採用が止まることです。

もう一つの誤解は、「採用市場が改善すれば留学生問題も解決する」という見方です。全体の求人が増えても、スポンサー不可、抽選不利、SNS審査、入国制限、在留期限案が残れば、留学生の不利は解消しません。雇用統計の改善と、移民制度上のアクセス改善は別の課題です。

今後の焦点は三つあります。第一に、H-1B賃金加重抽選がエントリーレベル職に与える実際の影響です。第二に、OPTを制限または廃止しようとする議会提案がどこまで進むかです。第三に、大学が留学生募集を続けながら、卒業後の不確実性をどこまで正直に説明するかです。

学生にとっては、米国残留だけを唯一の成功と考えないことも重要です。帰国や第三国就職を「失敗」と見なすと、制度変更のたびに選択肢が狭まります。米国で得た学位、研究、実務経験を複数の労働市場に接続する準備が、ビザ不確実性への現実的な防御になります。

H-1B不安下で問われる大学・企業の責任

米国留学生の就職難は、個人の英語力や努力不足だけでは説明できません。OPTからH-1Bへ進む細い橋に、賃金加重抽選、10万ドル手数料への誤解、SNS審査、入国制限、在留期限案が重なり、採用側の回避行動を生んでいます。

必要なのは、学生に「もっと頑張れ」と言うことではありません。企業はスポンサー方針を明確にし、大学は募集段階から卒業後の現実を示し、学生は早期にビザ条件と複線的な進路を整理することです。留学生を受け入れる国の責任は、入学許可で終わらず、教育で育てた人材が尊厳をもって次の場所を選べる環境を整えることにあります。

参考資料:

村上 詩織

移民・難民・教育格差

移民・難民・教育格差など、社会の周縁に置かれた人々の声を丁寧に取材。制度と現実のギャップを浮き彫りにする。

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