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NYCの54億ドル財政赤字 市長と議長の対立構図

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はじめに

ニューヨーク市が深刻な財政危機に直面しています。2026年度と2027年度にまたがる約54億ドル(約8,100億円)の予算不足をめぐり、ゾーラン・マムダニ市長とジュリー・メニン市議会議長が真っ向から対立しています。興味深いのは、この二人がマンハッタンのアッパーイーストサイドという同じ地区に住む「ご近所さん」でありながら、財政再建の手法についてまったく異なるビジョンを掲げている点です。

6月5日の予算確定期限に向け、両者の攻防はますます激しさを増しています。本記事では、この対立の背景にある政治的立場の違いや、それぞれの予算案の中身、そして市民生活への影響を詳しく解説します。

54億ドルの赤字はなぜ生まれたのか

前政権からの「負の遺産」

マムダニ市長は2026年1月の就任直後、この財政赤字を「アダムズ予算危機」と名付けました。前任のエリック・アダムズ前市長の時代に積み上がった財政上の問題が、新政権に重くのしかかっている形です。当初は2026年度と2027年度で合計約120億ドルの赤字が見込まれていましたが、各行政機関の経費削減や歳入見通しの上方修正、州からの支援を織り込んだ結果、それでもなお約54億ドルの穴が残っているとされています。

州政府からの支援と限界

キャシー・ホークル知事は約15億ドルの州支援を承認しました。しかし、それだけでは赤字を埋めるには遠く及びません。マムダニ市長は州議会に対して、富裕層への増税を認めるよう強く要請していますが、オールバニ(州都)での調整は容易ではありません。

マムダニ市長の予算案:富裕層増税か固定資産税引き上げか

民主社会主義者としての信念

マムダニ市長は、アメリカ民主社会主義者(DSA)のメンバーであり、もともとクイーンズ区アストリア選出の州議会議員でした。ウガンダ生まれで、インド系の学者である父とインド出身の映画監督である母のもとに育ち、ハウジング・カウンセラーやラッパーとしても活動した異色の経歴を持ちます。

こうした背景から、マムダニ市長は富裕層への課税を財政再建の柱に据えています。具体的には、年収100万ドル以上の市民に対する所得税の2%引き上げを提案しています。

固定資産税9.5%引き上げという「最後通牒」

マムダニ市長は予算案で二つの道筋を示しました。第一の選択肢は、州議会が富裕層・大企業への増税を承認すること。第二の選択肢は、それが実現しない場合の「最後の手段」として、固定資産税を9.5%引き上げ、市の財政安定化基金(レベニュー・スタビライゼーション・ファンド)から約10億ドルを取り崩すというものです。

総額約1,270億ドルという過去最大規模の予算案は、市政の歴史においても異例の提案となっています。

メニン議長の対案:増税なし・積立金温存の道

穏健派の重鎮としての経歴

ジュリー・メニン議長は2026年1月7日に市議会議長に選出されました。ホロコースト生存者の娘であり孫でもある彼女は、市議会初のユダヤ人議長です。コロンビア大学を優等で卒業後、ノースウエスタン大学ロースクールで法務博士号を取得。弁護士、レストラン経営者、そして消費者問題局長やメディア・エンターテインメント局長を歴任した実務家です。

アッパーイーストサイドを含む第5選挙区を2022年から代表しており、穏健派民主党員として知られています。

60億ドルの代替財源を提示

メニン議長率いる市議会は、市長案に対する予算回答を4月1日に発表しました。その骨子は、増税も積立金の取り崩しもサービス削減も行わずに、約60億ドルの代替財源を確保できるという主張です。

具体的には、市長が示した赤字額のうち約35億ドルはすでに市の歳入に含まれていると指摘しています。建築許可や延滞料からの歳入上振れとして約8,000万ドル、約1万3,000の未充足公務員ポストに計上されている人件費として約8億6,000万ドルなど、歳入の再見積もりと歳出の精査で赤字を圧縮できるとしています。さらに、市議会の優先施策に約11億ドルを追加配分する余地さえあると主張しています。

対立の本質:「誰が負担するか」という問い

市長の痛烈な批判

マムダニ市長はメニン議長の案を「非現実的」と即座に批判しました。「メニン議長の予算案では、各行政機関の予算を数十億ドル削減することになる」と述べ、「以前に確認済みの節約分の二重計上、歳入の過大見積もり、借入金利息の節減額の誇張がある」と具体的に反論しています。

この攻撃は個人的な色彩も帯びており、市長が市議会のトップ予算担当者を引き抜いた直後のタイミングでもあったことから、両者の関係はさらに緊張感を増しています。

哲学的な溝

この対立の根底にあるのは、財政再建の負担を「誰が担うべきか」という根本的な問いです。マムダニ市長は「富裕層と大企業が応分の負担をすべきだ」という立場であり、メニン議長は「住宅所有者や賃借人の負担を増やさず、行政の効率化で対応すべきだ」と主張しています。

メニン議長は「住宅所有者や賃借人の犠牲の上に市の財政を賄うことも、緊急用の積立金に手を出すことも、必要不可欠なプログラムを削減することも、良心に照らして認められない」と述べています。

注意点・展望

この予算対立を見る際に注意すべき点があります。まず、両者の数字の前提が異なっている点です。市長側は赤字を約54億ドルとする一方、市議会側はより楽観的な歳入見通しに基づいて再計算を行っています。どちらの前提が正確かによって、必要な対策の規模は大きく変わります。

6月5日の予算確定期限に向けて、マムダニ市長は近く「エグゼクティブ予算案」を発表する予定です。これが両者の交渉の叩き台となります。州議会での富裕層増税の審議結果も、市の予算編成に大きな影響を与えます。

最終的には何らかの妥協が成立する可能性が高いですが、増税の規模、積立金の扱い、各行政機関の予算配分をめぐって、激しい駆け引きが続くと見られます。就任からわずか3か月のマムダニ市長にとって、この予算交渉は最初の大きな政治的試練となります。

まとめ

ニューヨーク市の54億ドルの財政赤字をめぐる市長と市議会議長の対立は、単なる数字の争いではなく、都市財政のあり方をめぐる根本的な政策論争です。富裕層増税を求める社会主義者の市長と、行政効率化で乗り切ろうとする穏健派の議長。アッパーイーストサイドの「ご近所さん」同士の攻防は、全米の自治体が直面する財政課題の縮図とも言えます。

6月の予算確定に向けた交渉の行方は、870万人の市民生活に直結します。固定資産税が上がるのか、行政サービスが削減されるのか、あるいは富裕層増税が実現するのか。今後の動向に注目が集まります。

参考資料:

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