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トランプ大統領がDHS全職員への給与支払いを指示

by 長谷川 悠人
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DHS閉鎖50日と給与支払い覚書

トランプ大統領は2026年4月3日、国土安全保障省(DHS)の全職員に対し給与を支払うよう指示する大統領覚書に署名しました。DHS の予算失効は2月14日に始まり、すでに約50日が経過しています。3月29日には2025年の政府閉鎖記録を抜き、米国史上最長の政府閉鎖となりました。

沿岸警備隊、連邦緊急事態管理庁(FEMA)、サイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁(CISA)などの職員が約2か月間にわたり無給で勤務を続けてきた状況に対し、大統領が議会を経ずに直接介入した形です。本記事では、この覚書の内容と法的根拠、影響を受けてきた職員の実態、そして浮上する憲法上の論点について解説します。

大統領覚書の内容と財源

覚書が指示した具体的措置

トランプ大統領が署名した覚書は、国土安全保障長官マークウェイン・マリン氏と行政管理予算局(OMB)局長ラッセル・ボート氏に対し、「DHSの機能と合理的かつ論理的な関連性を持つ資金」を使用して全職員への給与支払いを行うよう指示しています。

対象となるのは、閉鎖期間中に給与を受け取れなかった約3万5,000人以上の職員です。DHSの全職員約27万2,000人のうち約92%が閉鎖中も業務を継続していましたが、沿岸警備隊の文民職員、FEMA職員、CISAのサイバーセキュリティ専門家などは無給での勤務を強いられてきました。

財源としての「一つの大きな美しい法案」

OMB当局者は、財源の合法性について司法省の見解を引用し、各省庁には「包括的な歳出の適切な使用に関して相当な裁量権がある」と説明しています。具体的には、2025年7月に成立した予算調整法「一つの大きな美しい法案(One Big Beautiful Bill Act、OBBBA)」による資金が活用されます。

OBBBAはDHSとその傘下機関に対し約1,906億ドルの予算を計上しています。この法律により、移民・関税執行局(ICE)は拘留施設向けに約450億ドル、業務運営に約300億ドルを確保しており、税関・国境警備局(CBP)も約120億ドルの人員・装備費を得ています。これらの機関は予算失効の影響をほぼ受けていませんでしたが、今回の覚書はこの財源を他のDHS機関の職員給与にも拡大して適用する形となります。

TSA向け先行措置との関係

トランプ大統領は3月28日にも同様の手法で、運輸保安庁(TSA)職員への給与支払いを指示する大統領令に署名していました。春休みシーズンの空港運営への影響が深刻化していたことが背景にあります。今回の覚書はその対象をDHSの全機関に拡大したものです。

閉鎖が各機関にもたらした影響

CISAのサイバーセキュリティ業務への打撃

CISAでは全職員の約40%にあたる約800人が「例外扱い」として無給で業務を継続してきました。しかし閉鎖の影響は深刻で、重要インフラ所有者向けの物理的・サイバーセキュリティ評価、シミュレーション演習、関係者向け研修、国際的な連携活動などが中止に追い込まれました。

CISAのマドゥ・ゴットゥムッカラ長官代行は、「閉鎖により多くの最前線のセキュリティ専門家や脅威ハンターが無給での勤務を強いられている。一方で、国家レベルの攻撃者や犯罪組織は、米国民が依存する重要システムの脆弱性を突く活動を強化している」と警鐘を鳴らしています。閉鎖が長引くほどリスクが蓄積し、敵対者に付け入る隙を与えるとの懸念が高まっています。

沿岸警備隊と FEMAへの影響

沿岸警備隊では、商船員や商業船舶向けの資格証明書・文書の発行が停止しています。長期化すれば米国の海運業務に影響が及ぶ可能性があります。また、閉鎖中は新規採用や着任手続きができないため、業務再開後にさらなる人員不足が生じるおそれがあります。沿岸警備隊セキュリティセンターの職員が一時帰休となっているため、文民および請負業者のセキュリティクリアランス手続きにも遅延が発生しています。

FEMAについては、災害救援基金を通じて一部職員への給与が支払われていたものの、正規の常勤職員は歳出が失効すると無給となります。災害対応の即応態勢への影響が懸念されてきました。

憲法上の論点と政治的対立

議会の歳出権限との摩擦

米国憲法は連邦支出に関する権限を議会に付与しています。今回のトランプ大統領の措置は、議会が予算を承認していない状態で行政府が独自に支出を行うものであり、憲法上の「財布の紐」をめぐる権限問題が浮上しています。

下院歳出委員会のローザ・デラウロ筆頭委員は、どのような資金が使用されているのか説明を求めています。大統領が議会の歳出プロセスを迂回して連邦職員に給与を支払う前例は、今後の行政権の拡大につながりかねないとの指摘もあります。

閉鎖の政治的背景

今回の部分的政府閉鎖は、移民執行政策をめぐる与野党の対立が原因です。民主党は、連邦移民執行官がミネアポリスで米国市民2人を殺害した事件を受け、執行官のマスク着用禁止、裁判官発行の令状義務化、執行官の身元明示、人種プロファイリングの禁止、ボディカメラの常時使用といった改革を要求しています。

一方、トランプ大統領と共和党は閉鎖の責任を民主党に帰しています。共和党議会指導部はDHS予算の正式な承認に向けた道筋を示していますが、下院と上院の間で法案内容に関する調整が続いており、完全な解決には至っていません。

DHS歳出法案とOBBBA流用の法的リスク

今回の大統領覚書は職員への給与支払いという人道的側面では歓迎されていますが、恒久的な解決策ではありません。覚書はあくまで既存資金の流用を指示するものであり、議会がDHSの正式な歳出法案を可決しない限り、根本的な問題は解消されません。

議会では共和党指導部が閉鎖終結に向けた「二段階アプローチ」を提案しています。上院はDHS予算案を可決していますが、下院共和党がICEへの追加資金を求めて独自の法案を推進しており、両院の調整が課題となっています。

また、OBBBAの資金を本来の目的外に転用することの合法性については、今後法的な争いに発展する可能性もあります。行政府の裁量権の範囲と議会の歳出権限のバランスは、米国の統治構造に関わる重要な論点です。

3万5,000人救済とDHS予算承認の必要性

トランプ大統領がDHS全職員への給与支払いを指示した大統領覚書は、史上最長となった部分的政府閉鎖の中で、約3万5,000人の無給職員に対する即座の救済策として発出されました。財源にはOBBBAの資金が活用されますが、議会の歳出権限との関係で憲法上の論点が残ります。

CISAのサイバーセキュリティ業務や沿岸警備隊の海事業務への影響はすでに深刻で、閉鎖の長期化がもたらすリスクは国家安全保障にも及んでいます。職員への給与支払いは重要な一歩ですが、DHS予算の正式な承認と移民執行改革をめぐる政治的妥結が、真の解決には不可欠です。

参考資料:

長谷川 悠人

米国政治・外交

米国政治の内幕を、ホワイトハウスから議会まで多角的に分析。政策決定のプロセスと日本への影響を鋭く読み解く。

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